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本編
7-2 聖女じゃない*
しおりを挟む教会まで迎えに来てくれたお兄様は、珍しく何かを考え込んでいる様子だった。
中庭に人を招いてもいいかと聞こうと思ったけれど、真剣に考え込んでいるお兄様に言い出すことが出来ない。仕方ないので、後で聞くことにした。
お兄様はいったい何を考えているのだろう。
中庭のことかと思ったけれど、荒れ果てた中庭もお兄様の尽力の甲斐あって土壌改善が進んでいる。あとは手作業で植物を植えるだけ。何をそんなに悩むことがあるのだろうと不思議に思ったけれども、その理由はすぐに判明した。
「それって……」
すっかり陽が落ちきり、暗がりの部屋でお兄様が見つめていたのは、一つの植木鉢だった。
厚みのある葉と何枚もの重なった花弁が特徴的な、とても美しい花木。
「アザレア、ですね……」
「ああ。あの殺風景な中庭に植える花は何がいいかと考えて、隣町まで足を運んで見つけた花だ。どう思う?」
「とても、いいと思います……」
「アザリアなら気に入ると思った。……ああ、安心した」
お兄様の声が、少し柔らかくなる。うっすらと口角をあげて微笑むので、アザリアはたまらない気持ちになってしまった。自然と鼓動が跳ね、呼吸が浅くなっていく。
「こっちに来なさい」
声に導かれるまま、お兄様の隣へ。
お兄様は、その花に触れた。下からすくいあげるように持ち上げ、花弁の質感を確かめるように指を這わせている。たまに花びらを指でつまんでみせる様子は、花の品定めをしているように見えた。
「この花は寒さに弱いらしいな。日当たりの悪い城では上手く咲いてくれないだろうから、魔法をかけて、アマリリスのように魔法植物に作り変えようと思った」
「それで、どうなったのですか……?」
「残念ながら出来なかった。ほとんどは魔法をかけた段階で崩壊して灰のように崩れた。かろうじて花の原型を留めているのはこの一つだけだが……この通り、葉が黄色く変色し、形も変わってしまった。……じきに枯れてしまうだろうな」
お兄様の言う通り、アザレアの葉はところどころ穴が空いていたりしている。葉に元気もない。明日には枯れてしまうような気がした。
だから、だろうか。
お兄様はアザレアの花を摘むと、自身の薄い唇に押し当てていた。蜜を吸うのだろうか。アザレアの蜜は少量ながらも毒がある。
アザリアがとっさに止めようとすれば、お見通しだと言わんばかりにお兄様が目を細めた。
「たとえ世界中のアザレアの蜜を食したところで、私には効かないよ」
お兄様が花びらを一枚ずつかじって、花を食べていく。花を食べるのは害虫のようなものだと思い込んでいたアザリアにとって、その光景は衝撃的で。
同時に、いいな、と思った。
お兄様に食べられているアザレアという花が、心の底から羨ましく思う。
「魔法植物を生み出すのは難しい。なかなかアマリリスのようにいかない。魔法植物に関する研究資料も、あの蔵書室にはほとんどなかった。どこに行けば手に入るだろうな」
「……私の両親が、魔法植物の研究をしていました」
アザリアのつぶやきに、お兄様は驚いたように薄く目を開いていた。
「魔法植物をゼロから作ったこともあって、私もその研究を間近で見ていました。……二人が生きていれば、もっと魔法植物の事を……教えてもらえたのかな、って……」
「……初めてだな、アザリアからそんな話を聞くのは」
「……言いたく、なかったので……」
今まで、アザリアは両親の話をしなかった。親という言葉を使う事すら避けてきた。両親の最期の姿が強烈に焼き付いていて、言葉にすると思い出してしまうからである。
──あの白い花のことを。
「…………。ごめんなさい、やっぱりこの話は……」
記憶を振り払うように頭を振れば、お兄様の顔が意外と近くにあって。
「私にできることはあるか?」
「え……」
「気の利いた言葉の一つでも言えればいいんだが、自分の疎さは自覚しているつもりだ。だから……本人に聞いた方が早いだろう?」
「…………」
お兄様は、お兄様なりに心配してくれているのだろう。
優しいな、とアザリアは思った。
「あの……じゃあ、お願いしても、いいですか……?」
「ああ」
「お城に……人を呼びたいんです。ほら、前に話していた花屋の息子さんです。魔法植物があるって言ったら、見てみたいって。……中庭と温室だけでいいので、見せてあげてもいいですか……?」
ニコラスはとても好感の持てる男性だと、その辺りを強調して伝えてみる。お兄様に何か要望を伝えて、許可されなかったことはない。だがもし反論されたら、今の精神状態だと太刀打ちできないだろう。そしてもう二度と、誰かを庭に招けないかもしれない。
弱弱しく要望を伝えたアザリアに、お兄様は複雑そうな表情を浮かべていた。眉根が寄り、葛藤しているような雰囲気を出している。しばらくして、お兄様は小さく息を吐いた。アザリアの髪を一房取ると、そこに口づける。
「…………いいだろう」
安堵の表情を浮かべたアザリアがお礼を言おうとした瞬間、お兄様はアザリアの首筋に牙を打ち立てた。そのまま腰を持ち、お兄様の手が太ももを撫であげる。指が下着越しにソコを撫でると、アザリアが小さな悲鳴をあげた。
「濡れている」
「……っ」
「私が花を食べていたときか……?」
問いかけとも独り言ともとれる言葉で囁かれ、下着越しにソコを指で擦られる。自然と背中が丸まり、体が前へと倒れてしまう。お兄様の上等なシャツを掴みながら、襲い来る快楽の波に耐えた。
「ニコラスという男が来るのは許可する。その男にアマリリスを見せるのも、私はあまり良い感情を抱かないが、まぁいいだろう」
「っ、ぁ、あ、ぁ……っ」
「おまえを城の外に出すようになってから、私は振り回されっぱなしだ」
下着の隙間から指をいれられ、直接入り口の浅い部分を擦られる。その間にも、首筋はお兄様によって舐められ、血を吸い出されていた。お兄様の機嫌が、また悪くなっている。お兄様が首を噛んでくる時は、感情が高ぶっている時が多いから。
その理由に、アザリアは心当たりがあった。
でも、気付かないフリをして。
「……このような髪をしているから、周りの人間から聖女だなんだと言われるんだろうな」
「っ、ぁ、わ、たし、は聖女じゃ……」
「知っている。聖女は、こんな風に首を噛まれて喜んだりしないだろう……?」
まるで仕置きをするかのように、指がさらに奥に埋まる。自由の利く親指が膨らんだ肉芽を押しつぶし、熱い膣内に埋まった中指が、お腹側に向かってぐぅうと押し上げた。いつもより乱暴な動きなのに、体はソレを快感として受け取っている。アザリアの目の奥では、何度も火花が散っていた。
「イくか?」
「っ、い、ゃ……っ」
それは──
お兄様に抱かれるようになってから、初めてアザリアが放った拒絶の意だった。
「…………」
アザリアの小さな拒否に、お兄様は無言で指の本数を増やした。
「ぃ、ぁ……っ、ぁあ……っ」
指は容赦なくアザリアの弱点をなぶり、快感を与え続ける。やがて限界を迎え、アザリアは初めて拒絶しながら絶頂を迎えた。体に力が入らなくなったアザリアを、お兄様が支える。
「上の服を脱ぎなさい」
真上から降り注いできた声に、アザリアは身体を硬直させた。
──それは、できない。
だって服を脱いでしまえば、肩を見られてしまう。
ずっと隠してきたこの気持ち悪い痣を、お兄様に見せたくない。
「いや、です……」
「…………」
「ほら、恥ずかしいって……って、言ったじゃないですか……」
「…………」
「そんなこと、言わないでください。……お兄様のこと、嫌いに、なっちゃいますよ……?」
一つの言葉を紡ぐたびに、お兄様の視線が突き刺さった。
声が震えないようにするので、精一杯で。
お兄様は何も言わなかった。
ただ静かに、アザリアの事を見下ろしていた。
アザリアはその瞬間を狙って、お兄様から逃げるように離れた。
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