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◆番外編◆

完璧ではないあなたの心を癒してあげたい(2)

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 七分丈のフェミニン系ワンピースを着て。
 顔を隠すために、大きめの帽子をかぶって、日傘もさして。

 レザニード兄様と、初デート。
 好きな人とのデートで、心が躍らない訳がない。

 実質……兄様と出かけるのは4年ぶりくらいじゃないかな……? ちらりっ、と隣に立つ兄様を見上げる。兄様は相変わらず穏やかな微笑を浮かべて、わたしを見つめ返してくれた。

「こうやって二人で出かけるのは、本当に久しぶりだね」
「うん」

 兄様の束縛が過激だった頃を思い出す。仄暗い笑顔を浮かべ、自分だけを見るように強要し、わたしの意思なんてお構いなしに抱きつぶされた怖い出来事から、気が付けば2年半以上も経っている。

 笑い飛ばせる……ほどわたしの心は強くないけれど、その分、こうやって兄様と楽しく過ごすことで上書き出来ている。わたしは、レザニード兄様の優しい面も怖い面も受け入れて恋人になっている。だって、どうしようもなく兄様が好きだから。

「今日はいつもよりニコニコしてるね。そんなにデートが嬉しい?」
「嬉しい。とっても嬉しい」

 わたしが笑顔を咲かすと、兄様は嬉しそうに目を細めるのだ。

「じゃあ行こうか」
「はい!」

 いつもショッピングに出かけている街よりも、さらに二つほど離れた地区。
 誰も、わたしと兄様のことを知らない。
 わたしと兄様が血の繋がった兄妹だと知らないような、そんな街で。

 わたしは、兄様との初デートを楽しんだ。

 メインはショッピングと観光、あと美味しいパフェを食べたりして。
 楽しくて楽しくて、こんな時間がずっと続けばいいのに、って思っていた。

 そんな時だった。
 
「レニーは、おじ様と何の話をしていたの?」

 狭い路地を歩いている時に、キルベリアおじ様が何をしに来たのか、聞いてみた。
 すると、兄様の態度が少し変質した。

「…………ルディは気にしなくてもいいよ」
「え、でも……おじ様って父様のお友だちですよね? ということは、おじ様は父様に会いに来たんじゃ?」
「…………」
「きっとおじ様も、父様がいなくてびっくりしたよね……。…………父様………今ごろ、どこで何をしてるんだろう……」
「────ルディ」

 声に、導かれて。
 顔をあげてみると、そこに兄様の顔があった。

 なにも感情を宿していない、硝子玉みたいな紫色の瞳が、わたしを見つめていた。

 え……?

 久しぶりに、恐怖を感じた。
 ただ、監禁されていた頃の恐怖とは少し違う。あの時は、兄様が元婚約者エーベルト様に対して激しく嫉妬し、わたしを閉じ込めようとしてきたから怖いと感じていたけれど。

 今の兄様には、怒りや悲しみがすっぽり抜け落ちて、感情が一切浮かんでいない。
 そういえば、監禁部屋から帰ってきて、兄様が父に殴られていた時も、同じ雰囲気だった気がする……。

親父あの人はもう俺達とは何の関係もない赤の他人だよ? あんな男、どこで野垂れ死のうと気にしちゃいけない」
「れ、にー……?」
「ルデイは優しくてイイ子だから気にかけてるんだろうけれど、もう二度とその愛らしい唇から『父様』って言葉を出さないでね」
「えと、気にかけてるわけじゃなくて……」

 父は、わたしの10歳の誕生日に女性を妊娠させた。
 わたしと兄様への裏切り行為だ。
 兄様によって追放された父のことは、もう気にしないようにしている。正直、父がどこで何をしようと、わたしと兄様に迷惑さえかけなければいい。勝手にしてほしい。

 わたしが心配しているのは、父じゃなくてレザニード兄様だ。

「どうしたの……?」
「どうしたって?」
「イヤな事を思い出したのなら、話を聞くよ……?」
「大丈夫だよ、もうあの人の話はしたくないし、可愛いルディに聞かせる話でもないから、気にしないで」

 にこりと笑う兄様を見て、ふと、思う。

 もしかして、兄様は……。
 わたしが想像している以上に、父のことを嫌っている……?

 ううん。
 この感じは、もっと強い感情だ……。

 たぶん兄様は、父を激しく憎んでいる。

 いったい、兄様と父の間で何があったのだろう……。

「レニー……」

 日傘を折りたたんで、兄様の体をぎゅっと抱きしめる。
 胸に顔をうずめる。

 兄様はいつもわたしを守ってくれるから、今度はわたしが兄様を守る番だ。

 きっと、わたしの知らないところで、兄様は辛い思いをしてきたのだろう。
 一人で背負い込んでしまう兄様を、癒したい。
 大好きなレザニード兄様を癒すのは、わたしの役目だ。

「わたしに、何かできることはある……?」
「うん?」
「できることがあるのなら何でもするから、言ってください」
「本当に……?」
「うん。レニーのためなら」
「じゃあルディを、ちょうだい。一週間も我慢したんだ。俺に、くれるかい?」

 兄様の指が、わたしの耳に触れる。愛情のこもった、優しい動き。その声を聞くと、下腹部がきゅんっとなる。求められて、わたしでも兄様の役に立てるって思えて、嬉しくなる。

 薄く笑みを浮かべる兄様に、満面の笑顔で応えた。

「はい。わたしも、レニーが欲しいです」

 兄様が愛おしげに目を細めて、わたしの頭を撫でてくれた。



 わたしと兄様は、歩き出す。



 お互いが離れないように、指同士を強く絡ませて──



























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次はレザニード視点です。
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