【R18】ヤンデレになった兄様に狂おしいほどの愛を注がれてます【本編・番外編ともに完結済】

べらる

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◆番外編◆

完璧ではないあなたの心を癒してあげたい(1)

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【前書き】
番外編です。
本編の補足的な情報を、レザニードを中心に展開していきます。時系列は最終話の続き。当然エロあり。

番外編の雰囲気としては、
・ルディ視点(どちらかというと明るい雰囲気・イチャイチャ・微コメディ・シリアス)
・レザニード視点(暗い雰囲気・ヤンデレ・シリアス)
です。

---------






















 わたしの愛する人は、血のつながりがある実の兄様だ。
 
 レザニード兄様はあらゆるものに秀でていて、絵に描いたような完璧人。

 背はすらっと高く、ほどよく筋肉がついて引き締まっている。顔はどちらかというと綺麗系に整っていて、色白。濃淡のある紺を閉じ込めた紫色の瞳は、切れ長でとっても凛々しい。いつも穏やかな微笑を浮かべていて、大人の余裕がある。

 声は聞き惚れるくらいに甘くて、耳心地が良い。

 特に兄様の囁き声は……かなり腰にくる。いつもぞわぞわしてしまう。兄様が後ろからハグしてきて、耳もとで囁かれると体に疼きが走る。わたしもスイッチが入ってしまって、料理の最中だろうと洗濯中だろうと、そのまま愛し合ってしまうくらいに、本当に声に弱い。

 声はわたしの個人的感想だけれど、優れているのはそれだけじゃない。

 ダンスも音楽も勉強も、なんでもこなしてしまう天才タイプ。小さな頃から努力を惜しまず、オルソーニ次期伯爵として、教育熱心な親からの重圧にも耐えてきた…………そんなスゴい人。

 まったく欠けているところのない、完璧で理想の王子様だと、昔はそう思っていた。

 人間っぽいところもある、ということに気付いたのは最近だ。

 兄様は、わたしが絡んでくると意外と怒りっぽくて涙もろい。かなりびっくりしたけれど、全然嫌いになんてならない。むしろ、今の兄様のほうが昔よりも好きだ。完璧ではない兄様の一面を知ることができて、兄様の深い部分を知ることが出来た気がして、より好きになった。

 ただ…………。

 兄様の『完璧主義』は、わたしの前でも変わらない。兄様は、他人に弱みを見せたがらない。わたしにも、弱音を吐かない。心の闇を吐き出さない。

 兄様はわたしのことを、一人の女性として愛してくれているけれど、たぶんどこかで、妹のような存在だと思っている。守ってあげないといけない存在だと思っている。

『レニー。おまえは兄として、しっかり妹の面倒を見るんだ。おまえは兄として、妹を導く義務がある。それがおまえの役割だ。常に正しくあれ、常に理想であれ。おまえほど優秀で完璧で完成された人間なら、それが出来るはずだ』

 兄様に対して、父が口を酸っぱくして言っていた。
『完璧な兄』という役割を与えられた兄様は、役割通りに素敵な兄様として接してくれた。わたしも当時は、そんな完璧な兄様を尊敬していた。誇りに思っていた。
 
 でも、それは理想の押し付けだ。
 人なら、誰しも触れてほしくない、心の中に抱える弱い部分がある。

 その弱い部分を支えるのが、妹であり恋人であるわたしの役目のはずなのに、兄様の弱さを支えられていない。兄様は隠したがりなので、わたしにも伝えていないことが多くあるだろう。

 一つ、兄様のことで気になっていることがある。

 あれは、まだ陽が昇っていない時間帯──
 喉が渇いたわたしは、レザニード兄様の腕の中からそっと出て、テーブルの上にある水を飲んだ。でも水差しの中にある水だけじゃ足りなくて、居間に向かった。

 水屋から定期的に買っている飲料用水の貯水タンクの蛇口をひねり、水差しの中に注いでいると、急に横から抱きしめられた。

「レニー……? どうしたの?」

 わたしの頭に、兄様の息がかかる。兄様はわたしの首筋に顔をうずめて微動だにしない。なんだか様子がおかしい。心配してもう一度声をかけても、兄様はしばらく無言だった。

「……なんでもないよ」

 にしては、とっても強い力でわたしを抱きしめている。
 それに……なんだろう。
 何かに、怯えているような気がした。

「もしかして、部屋から出たから……?」
「……。まだ暗いから戻ろう」

 わたしの体から離れて、わたしの腕を引っ張って部屋に戻ろうとする兄様。どんな表情をしていたのか、また見えなかった。いつもそうだ。兄様は、肝心な時にわたしから顔を反らす。表情を見せないようにする。……自分が余裕ではないときの表情かおを……見せたくないのかな。

 夜にわたしが兄様の腕の中から出たりすると、兄様が起きてきて、急に抱きしめられる行為は、それから何度も続いた。

 何かを言うわけじゃなくて、ただ抱きしめてくるだけ。
 この行動は、決まって夜中。
 昼間は、そんなことにはならない。


 ……今回は、本当にわたしのせいだ。


 たぶん兄様は、わたしがまたいなくなってしまうのが、とても怖いんだと思う。

 今から2年以上も前のこと。

 わたしが16歳のときに、兄様に睡眠薬を飲ませて、眠っている兄様の腕から抜け出して、家を飛び出した。それから18歳になるまで音信不通。兄様に居場所は伝えなかった。兄様はわたしをずっと探し続けてくれた。きっと……ものすごく心配したと思う。

 そのときのことを謝ると、兄様は「気にしなくていいよ」と言うけれど、夜は必ずわたしを隣で寝かせる。離れないようにぎゅっと抱きしめてくる。キスをして、触れ合って、深いところで繋がろうとしてくる。

 状況が違うだけで、監禁されたときと一緒だ。

 体を重ねて、わたしを快楽の虜にさせて、わたしが兄様以外のことを考えないように……どこか遠くへ行かないようにしている。

 もう、兄様から離れるつもりなんてないのに。
 そう言うと兄様は笑うけれど、心の奥にある“恐怖”は消えていない。定期的に起きて、わたしがいなくなったりしていないか確認しているのも、そのせいだ。
 
 少しでも、不安をぬぐってあげたい。
 深く傷ついてしまった心を癒してあげたい。

「──と言っても、普段のレニーは完璧人。誰もが認める王子様だし、悩みや不安を聞いても何も言わないどころかわたしの体の心配してくるし、すぐはぐらかしてくるし、不安をぬぐうにはどうすればいいんだろう……」

 物理的に鎖で繋いで離れられないようにするのが、たぶん兄様にとっては一番安心するのだろうけれど……それだと監禁されていた頃に逆戻りだ。兄様が安心してもこっちの身と心が持たない。あくまで、対等な恋人として向き合っていきたい。

「……はぁ」

 誰もいない家の中で、大きなため息が響く。
 兄様は、1週間前から仕事で家にいない。

『戸締りはしっかり。夜は絶対に出歩かないこと。客人が来ても居留守を使って。危ないと思ったら俺の部屋に隠れて』

 昔からわたしに過度に甘くて過保護だったけれど、恋人になった今では度を越している。わたしが甘ちゃんで危機感が足りなかったり、すぐ男の人に襲われそうになるから、それもそれで仕方ないのだけれど。

「…………寂しいな」

 オルソーニ邸宅は、一人だと広すぎる。
 兄様がいないと寂しい。
 たった7日で、もう限界になった。

 ……兄様も、あのとき……寂しかったのかな。

 わたしがいなかった約2年間、兄様はどんな思いで過ごしたのだろう。家が暗くて寒かった、とか、何もかもどうでもよくなった、とか言っていたけれど……それって、つまり寂しかった、ということなのだろうか。つらかったのだろうか。

 レザニード兄様は、絶対に弱音を吐かない人だから、本当に分からない。ムリに聞き出すのも難しいだろうし、嫌がるかも……。

 聞かないほうがいいのかな……。
 でも不安を吐き出したほうが気分がラクになるって言うし……。

「あー、分かんない。どうしたらいいのっ?」
「何か心配ごとかい?」

 わたしの真後ろにレザニード兄様が立っていた。
 土の匂い、埃の匂い。煙草の匂い。
 色んな場所に行き、色んな人に出会って、会話をしたんだろう。普段纏っている匂いとは違うものが、鼻腔をくすぐる。

「おかえりなさい」

 兄様は「ただいま」と言いながらわたしの額に軽くキスを落とす。帰ってきたって思うと、頬が緩む。声を聞くと落ち着く。ニコニコしてしまう。……わたしって超がつくほど寂しがり屋なんだろうな。あれだけどんよりしていた気分が、兄様の姿を見て霧が晴れたみたいに軽くなるなんて。

「悩み事があるのなら相談に乗るよ?」

 兄様の心を癒すにはどうしたらいいですかって、聞けるわけもないいので「大丈夫」と首を振る。
 兄様は「大丈夫ならいいけど」と言って、外套を脱ぎ始めた。

 兄様が脱いだ外套を受け取ると、ふんわりと兄様の匂いが……。7日ぶりの兄様の匂い……すっごく良い匂いがする……っ。

「そんな顔をうずめたくなるくらい、良い匂いでもするのかい?」
「ふぇ!? あ、えと、そのっ!!」
「ここに実物があるのだから、嗅ぐのならこっちにすればいいのにね」

 頭を抱き寄せられ、兄様の胸の中にわたしの体が収まる。兄様の体温……あったかい……とっても安心する…………。

「イイ子にしてた?」
「もちろんです」
「何もなかったかい?」
「もちろんです」
「寂しかった?」
「もちろんですっ」
「俺が欲しい?」
「もち──って何を言わせるんですか……っ!?」

 楽しそうに笑う兄様が、服を着替えるために部屋に戻ろうとする。
 とっさに兄様の服を掴んだ。

「あの、今日はこのあと……時間ありますか……?」
「二時間後に客人が来る」
「お客さん……ですか?」
「キルベリア小父おじさんが会いに来るんだよ。俺は会いたくないけど」

 わたしがキルベリアおじ様と会ったのは10歳とかの話だけど、シルバーヘアーのダンディな人だった気がする。父の古い友人だ。膨大な土地を保有していて、畜産業で成功を収めている。昔おじ様が持ってきてくれた牛乳、とても美味しかったんだよね……おじ様が来てくれるのなら、またお土産で持ってきてくれないかな。

 ……というか、父は兄様に追放されて家にいないんだけど、おじ様はそれを知ってるのかな?

「……ルディ」

 兄様の目が細くなる。
 
「分かってますって!」

 わたしはいつも通り、無感情で接するだけだ。

「ルディは部屋にいて。どうせキルベリア小父さんの用件は俺だろうから」
「え……牛乳…………」
「…………貰っておいてあげるから」
「やったっ!」

 胸の前でガッツポーズして喜ぶと、兄様がまた冷たく目を細めた。……墓穴掘ったかな。わたしのことが好き過ぎるレザニード兄様は、わたしが男性絡みで喜んだりすると途端に真っ黒い雰囲気オーラを放ち出すのだけれど、今回は…………うん、何とか大丈夫そう。兄様は大きめのため息をついただけだった。

「で? ルディの用件は?」
「あぁいえ。ただ、久しぶりにレニーと出掛けたいな……なんて」
 
 家出から戻ってきてから、兄様と公務以外で出かけていない。二人でお出かけできたら楽しそうだと思った。

「でもおじ様が来るならしょうがない……じゃあまた機会があったらで……」

 しょんぼりする。
 すると兄様が、いきなり片膝をついてひざまずいた。

邪魔者おじさんが帰るまで、もう少しかかるだろうけれど…………」

 わたしの手が、兄様によって恭しく掬いあげられる。
 手の甲に、柔らかい感触が……って、これってもしかして……。

「その後でもいいなら、俺とデートしてくれるかい」
 
 かしずかれて、手の甲にキスを落とされて、こんな甘い笑顔を浮かべる王子様の誘いを、断る女性などいるのだろうか。

 わたしの返事は、もちろんイエスだった。

 
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