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兄様とわたし
20 もう抱かないって決めた
しおりを挟む「……ぅん」
身体が、とっても重い。
倦怠感がひどくて、瞼を開けるのも億劫だ。
それでも何とか目を開いて上体を起こす。
見覚えのある部屋。
自分の部屋だ。
わたしはいま、ベッドの上にいる。
頭がぼーっとしていて、考えがまとまらない。
えと…………何があったんだっけ。エーベルト様の家で誕生パーティをして、レザニード兄様が迎えに来て、エーベルト様に婚約破棄をつきつけて……それで兄様と一緒に家に帰ってきて、誕生日プレゼントを貰って、それで……それで……?
『あの男よりも気持ちよくしてあげるからね、ルディ』
そうだ。
わたし……また、兄様に……。
媚薬入りの果実ジュースを飲まされて、兄様に押し倒された。
兄様に触れられたところが全部熱くなって、怖さを感じるくらい気持ちよくなって、今までずっと我慢していたのに大きな声で喘いでしまった。
兄様自身ではなく、モノを模したよく分からない玩具を膣内に挿入された。わたしが怖いって言っても、止まってくれなかった。ザラザラの表面がナカを掻き乱す度に強烈な快楽に変わって、頭がおかしくなりそうになった。
「……っ」
自分の体を抱き締めた。
無理だ。
思い出してしまったら、やっぱり怖くなってしまう。キスされたときに流れ込んできた狂気の感情や、表情、甘い声、わたしを閉じ込めようとする兄様の手が、とてつもなく恐ろしいものに思える。兄様を思い浮かべることすら拒否してしまいそうになった。
でも。
『カラダだけでも、俺にちょうだい……?』
意識を手放す前に、レザニード兄様が放った言葉。
胸が締めつけられるような悲しい声だった。
兄様は前に、自分が抑えられない、と話していた。
だからあの時も言葉も、きっと本心からわたしが欲しいのは変わりないのだろうけれど、それと同時に、わたしに謝っていたのではないだろうか。
不出来な兄様でごめんね、と。
怖がらせてごめんね、と。
だからわたしが意識を手放したあと、兄様は。
わたしを犯すのを、やめたのではないだろうか。
なんで、そんなことが分かるかというと。
何となくだけれど、ずっと頭を撫でられていたような気がしたからだ。
それに、今のわたしは意外と元気だ。確かに三度も達したことで疲労感はあるけれど、心が壊れて廃人になってる、とかはない。
「兄様……」
兄様がおかしくなったのはわたしのせいだ。
辛くて苦しんでる姿を見たくない。
優しいレザニード兄様には幸せに生きてほしい。
でもまだ、どうすればいいか分からない。
扉がノックされた。
きっとレザニード兄様だ。
「起きてるかい」
沈痛な声。
わたしは「は、はい!」と返事をした。
声の震えは……抑えられなかった。
「……。食事を作ったのだけど、食欲はある? もうお昼過ぎてるから、そろそろお腹に何か入れないと気分が悪くなるよ」
え? そんなに寝てたの……?
「ちょっとだけなら、食べられます。……ただ体が全然動かなくて……」
「……部屋、入ってもいいかい」
「えっ」
動揺してしまった。
わたしが怖がれば兄様が悲しい思いをするのに、何やってるんだろ、わたし。
「どうぞ……」
「入るよ」
兄様が部屋の中に入って来る。
カツン、カツン、と靴音が近づいてくるたびに心臓がドカドカと音を立て、金色の髪が視界に入ってきた時に、つい視線を逸らしてしまった。
「気分悪いとかはある?」
ベットの傍にあるイスに、兄様が座る。
「ない、です……」
「体は……まぁ重いよね。水だけでも、ここで飲んでおこうか」
ベッド横のテーブルには、水差しが置かれている。
兄様が水差しを持って、渡そうとしてくる。
水差しを受け取って、飲み始めたけれど、思いのほか水の勢いが強くてむせてしまう。顎やベッドが濡れてしまった。兄様がハンカチを取り出して、わたしの顎を拭こうと手を伸ばしてくる。
「や……っ!」
そのまえに、わたしが腕でガードしてしまった。
兄様を拒絶してしまった。
そんなつもりはなかったのに、兄様の大きな手が近づいてくるのが分かって、ほぼ無意識にやってしまった。
「…………」
拭おうとする兄様の手が離れていき、かわりにわたしの手の近くにハンカチが置かれる。震える声でお礼だけ言って、ハンカチを持って濡れたところを拭いていく。
兄様はいま、どんな顔をしているのだろう。
怒っているのだろうか。
悲しんでいるのだろうか。
怖くて、顔を見ることが出来ない。
「俺ね、一つ決めたことがあるよ」
「……」
「この先、もう二度とルディを抱かないし、キスもしない」
「……っ」
見なくても、この真剣な声を聞けば分かる。
兄様は真摯的な表情で、わたしを静かに見つめているだろう。
「勘違いされたら困るから言っておくけれど、ルディを諦めたわけじゃないよ。この家には居てもらう。どれだけ俺が嫌いでも、怖くても、憎んでいても、俺の傍を離れることは絶対に許さない」
椅子から立ち上がった音がした。
「部屋に昼食を持ってくるよ」
靴音が離れていく。
わたしは…………最後の最後までレザニード兄様の顔を見ることが出来なかった。
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