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兄様とわたし
過去回想 俺はルディの笑顔が好きなんだから
しおりを挟む体調管理も次期伯爵としての務めだと言うレザニード兄様が、一度だけ体調を崩したことがある。わたしがまだ8歳のときで、兄様が14歳のときだった。
朝起きた時から兄様の様子がおかしかった。いつもより顔が赤いし、ぼーっとする時間が多い。わたしが大丈夫?と声をかけると、兄様はにこりと笑って「大丈夫だよ」と言う。心配だったけれど、兄様が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。そう思ってしまったのがいけなかった。
夕食の時間になっても姿を見せない兄様を、家政婦のミレッタさんが呼びに行った。そしたら、ミレッタさんが悲鳴を上げて戻ってきた。兄様が高熱を出して部屋で倒れているという話だった。
家にある薬を飲み、そのあとはすぐにお医者様を呼んだから、大事には至らなかった。
ただの風邪ではない。
症状が進むと高熱が出て、ひどい頭痛と吐き気、眩暈を引き起こす。
流行り病らしかった。
気付くのが遅かったら危なかったけれど、治療法は分かっているので、薬を飲んで二、三日安静にすれば良くなるとお医者様は言っていた。
「この辺りの地域を中心に流行っているものなのですが、最近この近くに行ったことはありませんか?」
お医者様が地図を見せて、この辺り、というのを指で指し示す。
わたしは顔を真っ青にした。
何日か前に、わたしが兄様に頼んで連れて行ってもらった自然公園が、指し示したエリアのすぐ近くにあったからだ。きっと公園にいた誰かから病気を貰ったのだろう。
パニックになったわたしに、お医者様は「お嬢さんのせいじゃないよ」と言ってくれたけれど、兄様が倒れたのは間違いなくわたしのせいだ。
すぐに兄様に謝りたかったけれど、完治するまでは感染する可能性があると言われて、謝ることができたのは兄様が倒れて五日後の昼時だった。
居間で、ソファに座って果物をかじっている兄様に、わたしは泣きながら謝った。兄様は「気にし過ぎだよ」と言った。
「医者も言ってたろ? 運が悪かったって」
「でも、わたしが公園に行きたいって言わなければ……」
「俺はちゃんと生きてるんだから気にしたらダメだよ。故意じゃないんだし、そもそも病に負けた俺が悪いんだよ。出かける前の晩に根詰めて勉強して寝不足になったから、きっとそれが良くなかったんだ」
「でも……」
「ルディにうつってなくてよかったよ」
「……わがまま言わなければ、兄様が苦しまずに済んだのに」
「まだ言うのかい? 公園で見た花々はとっても綺麗だったけれど、あの景色を見ても、行かなかった方が良かったって思う?」
「それは……」
「俺はルディと公園に行けて楽しかったよ?」
「…………」
公園はとても綺麗な花が咲き誇っていて、道も綺麗に整備されていた。シンボルマークである大きな噴水を見て、大興奮したのを覚えている。
「そんな因果関係のよく分からないものまで自分のせいだって思い込んじゃダメだよ」
兄様にはそう言われたけれど、わたしはやっぱり、自分のせいだって思った。だから、危ないから登っちゃいけないと言われている屋根裏部屋に入って、一人でしょんぼりしていた。
そしたら、わたしがいないことに気付いた兄様が屋根裏部屋に入ってきて、隣に座った。
「急にいなくなったから心配したよ」
「…………」
「全く、変なところで頑固だね」
「……だって」
兄様がわたしの頬を両手で包み込む。
目尻に溜まった涙を、兄様が親指で拭ってくれた。
「そんな意地を張るくらいなら俺のために笑って。ルディの笑顔は荒んだ俺の心の、唯一の栄養なんだよ?」
「そんなのでいいの……?」
あまりにもレザニード兄様が優しすぎて、わたしが言わせてるんじゃないかって心配になる。兄様は「いいんだよ」と、頭を撫でてくれた。
「だからね、笑って。俺はルディの笑顔が好きなんだから」
少しだけ、心が軽くなる。
わたしが笑うと、兄様も満足そうに笑った。
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