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揺れ動く心
18 婚約破棄・前編*
しおりを挟むエーベルト様が部屋から出て行って、もう10分以上経過している。
まだ、帰ってこない。
「ん……っ」
熱い、吐息がこぼれる。
イく寸前で止められたようなものだ。頭がおかしくなりそうなくらい辛くて、足を擦り合わせてしまう。手が、自然と下腹部に下りた。もう下着の意味がないくらいに、そこはぬるぬるになっている。下着越しに指で上下に擦ると、ピリピリとした痺れが走った。
「ぁぅ……っ」
とめないと、いけないのに……。
頭がぼうっとしている。
欲しい……。
刺激が欲しい……。
下着の内側に指をいれて、愛液で濡れそぼっている入り口に触れる。ヒクつく蜜口は簡単にわたしの指を受け入れ、奥へと誘う。気持ちイイところを探りながら、指を動かす。ぐちゅぐちゅっ、と粘ついた水音が響いて、恥ずかしさで顔が赤くなる。
「ふ……ぁ」
でもやっぱり、自分の指じゃ足りない。
長さも太さも熱も、『愛』も、なにもかも足りない。
「………さ、ま」
────誰にも聞こえない声で、その人の名前を呼ぶ。
わたしがいま、欲しい人の名前は────
「……っ」
これ以上しても、むなしくなるだけだ。
わたしは指を抜いて、ベッドから立ち上がった。エーベルト様には部屋から出ないように言われたけれど、外の空気を吸って、火照った身体をなんとかしたい。
エーベルト様は、わたしをレザニード兄様のもとに帰すつもりはないと言っていた。ということは、兄様を追い返すのだろう。もしかしたら、わたしをマックス家に匿うつもりなのかもしれない。
婚約者同士だし、両親からの了承を得られれば大丈夫だろう。
わたしは、兄様と離れることができる。
しばらく、廊下を歩いていると。
角を曲ったところで、目の前にいきなり人が現れた。
懐かしい匂いがする。
「え……?」
腕が大きな手に掴まれて、強く抱き寄せられた。
「やっぱりいるじゃないか」
狂気に満ちた甘い声が、耳の中に入り込んでくる。
恐る恐る顔を上げると、妖しく輝く紫の瞳と目が合った。背中がぞわわっと総毛立ち、恐怖で顔が引きつりそうになるけれど、なんとか声を絞り出した。
「にい、さま……っ?」
まさか、入ってきたの……?
門の前でエーベルト様に止められて、何らかの話をしているのだと思っていた。
「エーベルト君も酷い人だね。ルディはここにはもういないって言ってきたんだよ。俺のルディを隠そうとしたんだ」
レザニード兄様が頭を撫でてくる。撫で方は昔のままなのに、その手からは、わたしを捕まえようとする意思を感じた。
「エーベルト君との別れの挨拶も済ませたよね」
「それって……どういう……意味、ですか……?」
意味が、分からない。
兄様は何の話をしているの……?
「レザニード伯!!」
エーベルト様の怒声が響いた。廊下の突き当りから現れたエーベルト様は、険しい顔のまま大股で歩いてくる。それに気付いた兄様が、わたしを背に隠してエーベルト様を見つめた。
「エーベルト君、君は嘘をついたね。ルディはいたよ。さっきも言った通り、ルディを連れて帰る」
「待ってください。その話もそうですが、それよりも僕とルディの婚約を白紙にするってどういうことですか!?」
エーベルト様との婚約を、白紙に戻す……?
「言葉通りに捉えてくれていいよ。君の父親であるフォルバ・マックス伯爵には何ヶ月も前から提言してある。つい先日、ようやくこちらの意向を尊重するという話にまとまった」
「父に……ッ?」
エーベルト様が眉間に皺を寄せた。
エーベルト様の父様──マックス伯爵は、確かいま新しい卸先を開拓するために各地を転々としているらしい。エーベルト様から聞いた話だ。
わたしとエーベルト様の婚約を白紙にするために、兄様は何か月も前から準備していた?
こちらの意向を尊重するってことは、マックス伯爵は婚約解消を受け入れるつもりってこと?
「にい、さま……」
怖い。
わたしを外界から引き離し、どこかに閉じ込めようとする手際の良さが、とてつもなく恐ろしい。
「大丈夫だよ。ルディは何も心配しなくていい。俺に任せて」
兄様が愛おしげに目を細めて、わたしの耳に髪の毛をかけた。その仄暗い表情が、かつて監禁部屋で見せていたものと完全に同じだ。背中に悪寒が走って「そうじゃ、ない……」と首を振る。
「ありえない」
そう言ったのはエーベルト様だった。
拳を握りしめ、真正面から兄様を睨んでいる。
「この婚約は、兄であるあなたが自分勝手な欲望でどうこうできるものじゃないはずだ」
すごいことだとおもう。6つも歳の離れた成人男性、しかも伯爵位を継いだレザニード兄様に意見しようとする姿勢は、本当にすごい。
「そもそも、この婚約は私の父とあなたの父との間で交わされたはずだ。爵位を継いだとしても、先代オルソーニ伯爵の同意がなければ婚約破棄なんて出来ないでしょう!?」
「確かに、うちの親は認めてないよ」
「だったら──ッ」
「内心は、だけどね」
エーベルト様が、顔を強張らせた。
兄様がどんな顔をしているのか、何となく察した。きっと柔和で完璧な笑みを浮かべている。
あの笑顔と頭のキレ、巧みな話術を使って、社交場や商談では常に自分優位な状況を作り上げ、驚くような成果をオルソーニ家に持ってかえる。大した息子だと父に褒められる場面を、わたしは何度も目にした。
「先代オルソーニ伯爵から書面上では同意を得ている。これがその証明だ」
兄様が何らかの紙を広げ、エーベルト様に見せた。
「あの人は俺に逆らえないからね」
え……?
逆らえないって、どういうこと……?
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