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監禁編
07 初めての兄妹喧嘩*
しおりを挟むレザニード兄様が語尾を荒らげて、感情のままに声を震わせているのを見るのは、初めてだった。
「俺はルディの『兄様』だ。ずっと自分にそう言い聞かせてきた。ずっと、ずっとだよ。どれだけ好きでも、手を出したらダメだとずっと思っていたんだ」
兄様の手が、わたしの腕をぎゅうっと掴む。
「君があの男の話をするたびに、俺がどんな気分で聞いていたと思う? そのときから嫉妬で気が狂いそうだったよ? こっちは手を出さないようにと我慢しているときに、ルディは本当に楽しそうにあの男の事を話してたもんね」
いつも余裕の笑みを浮かべている兄様が、怒りのあまり息を荒くしていた。
まくし立てる言葉に、嘘は感じられない。
すべて兄様の本音だ。
「どこかで勝てないと思っていたよ。俺は兄様だったから、血が繋がってたから、同級生だというあの男に正面から張り合っても敵わないとね。自分の気持ちよりもルディの幸せを優先しようと思った」
「わたしが幸せならそれでいいって、そういう……」
「そうだよ。自分を誤魔化すための良い方便になると思った」
「けど」と、兄様は続けた。
感情を押し殺すように、声が低くなっていく。
「無理だった。土砂降りの雨が降っていたあの日、ルディがエーベルト君と一緒に家に帰って来るのを見て、ルディの異変に気付いてしまって……俺は自分が抑えられなくなった」
あの時。
自宅に帰る際に、わたしは出来るだけ身だしなみを整えた。けれど服がびっしょりと濡れていて、白色のブラウスを着ていたから下着が透けていた。エーベルト様が上着を貸してくれて、胸を隠した。
雨に打たれて肩を震わすわたしを、兄様はとても心配してくれていた。タオルを出して、わたしの頭を拭こうとしてくれていた。大丈夫かと、熱を出してないかと声をかけてくれた。
でも、わたしは。
兄様の横を通り過ぎて、兄様の言葉を無視して、何も言わずにお風呂に入った。
兄様と目を合わせられなかった。
そして、兄様の態度がおかしくなっていった。
抑えこんでいたものが出てきたかのように、兄様はわたしに詰め寄った。学校を辞めさせられ、エーベルト様からの手紙を燃やされ、行動を制限された。どこへ行くにも兄様の目が光っていて、本気で兄様の事が怖くなってしまった。
「だから! ここに閉じ込めた。俺だけしか見えないようにすれば、自分のものにできると思って」
紫の瞳が、激情を宿してギラついていた。
兄様の力が強い。
掴まれた腕が……とても痛かった。
「でもルディは、最後まで名前を呼ばなかったし拒否し続けた。よっぽど嫌われてるか、憎まれてるんだろうなって思ったよ」
「違……」
違うと言いかけて、やめた。
ここで自分の気持ちを伝えたところで、何も変わらない。
むしろ兄様の狂気が増えるだけだ。
兄様の人生にわたしは必要ない。
少し乱暴になってもいいから、突き放して、兄様には目を覚ましてもらう。
それが兄様のためだ。
「…………ッ」
わたしの無言を肯定の意と捉えたらしい兄様が、不快そうに眉をひそめた。静かに自分のシャツのボタンに手をかけている。服を脱ぎ捨て、露わになった兄様の上半身。お風呂を除いて、ベッドの上で服を脱いだことはなかった。
「兄様、なにを……?」
「言ったろ? ここまで来たら、もう止まれないって」
兄様は、ズボンの後ろポケットから小瓶を取り出した。
中には緑色の液体が入っている。
なにかの……薬……?
「惚れ薬、またの名を媚薬。速効性があって催淫効果が高い。一度飲んだら丸一日発情し続けるという劇薬級のやつ。よがり狂うとも言われているから、使うときは要注意と言われたけどね」
かぁ、と自分の顔が赤くなるのが分かった。
「どうしてそんなものを」
「最初は使うつもりなんてなかったよ。でもルディが俺を拒否し続けたから、これに頼る羽目になった。────どんなことをしてでもルディが欲しい。他の男になんて渡さないから」
強い口調で宣言する兄様。
わたしの口から、ひゅっ、と乾いた息が漏れる。
「兄妹喧嘩をしよう」
「兄妹喧嘩……?」
「ルディが、俺のを入れてほしいと懇願してくれば俺の勝ち。一生傍にいてもらう、絶対に逃がすつもりないから」
「わたしが壊れてもですか……?」
「そうだよ」
ぞっとするほど冷たい表情だった。
本気だと、わたしの本能が告げる。
「ルディも何か言いな。このまま何もしないと、俺に犯され続けて人生終わるよ」
恐怖で顔が引きつりそうになる。
この数日間の快楽漬けでも辛かったのに、それが一生だなんて。
確実に狂ってしまうだろう。
「じゃあわたしは…………兄様のソレを、…………舐めます」
顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
口を使うのは玄人がすること、普通の淑女がすることじゃない。でも喧嘩するのだから、受けてたたないと。
ピクリとも眉を動かさない兄様が、無言で続きを促してくる。
「兄様に…………精、を……出させることが出来れば、わたしの勝ちにしてください」
「勝ったらどうしたい?」
「ここから出して家に帰してください。正直この部屋は暗くて狭くて、色んな匂いも籠ってるので体調が悪くなりそうなんです」
脱出方法は見つけたけれども、兄様に見つかって連れ戻される可能性だってある。
それなら、兄様も承知の上で部屋から出ていった方がいい。
「………………なるほど。そうやって君は俺から逃げてあの男のところへ行くんだね」
「…………」
兄様の瞳に、どろっとした暗い感情に包まれる。
初めて犯されそうになったあの時よりも、激しい感情の渦が見えた。
「分かった」
兄様は緑色の液体を口に含み、飲み込む。天井を仰いだ。躊躇うような時間を何秒か挟んで、意を決したように兄様は小瓶に残ったものをすべて口に含む。
兄様がわたしの顎に手をかけた。
強引に口を開けさせられ、舌とともにどろっとした液体を流し込まれる。
「ん…………ふぅ……」
ごくん、とわたしの喉が薬を飲み下す。
なぜ。
わたしに全て飲ませればよかったのに、兄様は媚薬を飲んだ。しかもわたしより多量に摂取していた。催淫効果が高いのなら、いつもより精が出やすくなるだろう。勝負に勝ちたいのなら、飲まなければ圧倒的に有利だったのに、兄様はなぜ。
ハンデ。
いや違う、わたしだけが損をしないようにしているのだ。
劇物級の薬を妹にだけ飲ませるなんて、レザニード兄様がするわけがない。だって兄様は優しいから。わたしが怪我をすれば真っ先に駆け付けてくれて、「大丈夫だよ」と頭を撫でてくれる人だから。
優しさを捨てきれないところが、とても兄様らしい。
目頭が熱い。
涙が出てきた。
体も、沸騰したように熱を帯びている。
何もしていないのに体が疼いて仕方なかった。
奥歯を噛んでいないと、わたしも兄様と同じような事を口走りそうになる。
様子を窺おうと視線を動かしてみれば、兄様は顔を手で覆っていた。指の間から、赤らんだ顔が見える。首筋や耳まで赤く色づいていた。
わたしを抱くときでさえ余裕そうな笑みを見せていた兄様が、初めて体を火照らせている。
絶対に人に弱みを見せないレザニード兄様が、初めて表情を崩している姿を見て。
わたしの奥底が、じゅぐりと震えた。
「これは……けっこうきついな」
呻く兄様に、鎖を引きずって近づいていく。わたしの異変に気付いた兄様が、手を伸ばして「待て」と制止しようとしたけれど、その前にわたしは兄様の灰色のズボンに手をかけた。手枷と鎖のせいでうまくジッパーを下ろせなかったけれど、なんとか下げられた。
窮屈そうにしていたソレが、思いのほか勢いよく飛び出してくる。いつも気付いた時には膣内に入れられていたから、異性のソレをまじまじと見るのは初めてだ。
意外と凶悪な見た目をしていて驚いた。雄々しく屹立していて、浅黒い本体には血管が浮いている。竿はピクピク動き、先端からは期待するように無色透明な液体が溢れていた。
いまのわたしは、たぶんおかしい。
媚薬のせいだと、思うことにした。
「ルディ……ッ」
口を開けて。
兄様のソレに、舌を這わせた。
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