遊び人の王女に転生した処女の私が、無理やり結婚した英雄の旦那様と結ばれるまで

夏八木アオ

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◆番外編: 帰宅したテオドールが眼鏡をかけていた時の話 ※

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とある日、寝支度を整えていつものように寝台の上で本を読んでいると、窓の外に馬の足音が聞こえてきた。

(テオだ。窓を開けておいて良かった)

普通に過ごしていると、テオドールの帰りに気付かないし、出迎えもできない。そこで窓を開けて待つという解決策を思いついた。
集中しすぎるとそれでもチャンスを逃してしまうけれど、入り込みすぎてしまう長編の物語や小難しい報告書をやめて、絵本やちょっとした韻文、手紙を読み返す程度にしておけば気付くことができる。
寝衣の上からロングカーディガンを羽織、部屋の外に出て正面玄関まで急いだ。

私の目的は、仕事帰りのテオドールの白い役職者用の服を目に焼き付けることである。ニーフェ公領に行ってしまうと、もうあの王都の騎士団の隊服姿を見ることができない。
貸与物だから、転籍と同時に返却義務があるのだ。

見納めになることを知って私がすごくがっかりしていたので、テオドールは少しだけ拗ねた。本人よりも白い服の方が好きなんじゃないかと言われたけれどもちろんそんなことはない。ただ、それと私がテオドールの隊服姿にすごく見惚れてしまうというのはまた別の話だ。

私が階段を降りた頃にちょうど扉が開いた。

(よかった、間に合った!)

ぱたぱたと扉まで駆け寄ると、白いマントが揺れるのが見えた。テオドールが中に入ってきて、私がいるのを見て少し呆れたように笑う。私が隊服姿を目に収めるために意地でも出迎えようとしてるのを知っているからだろう。

いつもであれば『おかえりなさい』と言うところだけど、私は口を開けたまま言葉を失ってしまった。

(えっ、眼鏡?!なんで……!)

電子機器のないこの世界では、眼鏡をかけている人を全然見ない。たまに高齢の方がかけているのは見るけれど、高級品らしく、ちょっとした老眼は魔法薬学のお世話になるか、放置になるらしい。

「エリーナ?」
「……あ、ごめんなさい。おかえりなさい」
「ただいま。なんでぼーっとしてるんだ?」
「えっと、その……それ」
「?」

私はテオドールの目元を指差した。テオドールは首を傾げると、自分の目元に手をやった。

「……ああ、返すの忘れてた。邪魔だと思ったけど意外とつけっぱなしにすると忘れるもんだな」
「あ、外さないで!」
「え?」

つい叫んでしまった。白い服とメタルフレームの眼鏡という組み合わせがすごく素敵でよく見る前に外されてしまうのが惜しい。返すのを忘れていたというからにはこれも貸与物らしい。

「かっこいいからもう少し見ていたいの」

どうせ見惚れているとバレるから、素直に口に出すとテオドールはふはっと笑った。

「これが?年寄りみたいだろ。書類仕事が多くて疲れるって言ったら魔導具開発室が試作品を貸してくれたんだ。つけてみたら本当に楽になった」
「そうなんだ」

視力を矯正するためではなく、眼精疲労を取る効果があるらしい。魔導具というからにはガラスの加工で機能を出している訳ではなく、私が知らない仕組みなのだろう。

「あんたは結構権威主義だよな。この役職者用の服だけじゃなくて、年寄りみたいな魔導具にも弱いのか。式典用の勲章も全部つけたら惚れ直すか?」
「えっ?!わ、私権威主義ってわけじゃ……」

単純にデザインの問題で、権力と結びついているから見惚れているわけではない。

「テオに似合ってるから見惚れてるだけだよ」
「へぇ」

一度拗ねられた記憶があるのでちゃんと言葉でフォローする。テオドールは何か考えるような顔をして私を見ていた。

「何……?」

不穏な空気を感じて警戒すると、テオドールは愛想よく笑った。



玄関口で横抱きにされ、そのまま寝室に連れてこられた。テオドールが私を運ぼうとする時は基本的に効率の問題か担がれていることが多い気がするけれど、今日は『それっぽいから』という理由で横抱きだ。

ゆっくり寝台に横たえられて、テオドールが寝台に上がってきた。私が無言で見つめているのをどこか楽しそうに見てくる。

「なんで警戒してるんだ?」
「テオが楽しそうだから」
「なんでだよ。それで警戒されるってのは心外だ」
「楽しそうな時はちょっと意地悪になるでしょ……?」

テオドールは私に覆いかぶさるような位置に移動しようとしていたが、一瞬止まった。

「……今日はしない。あんたの好きなようにするよ。何して欲しい?」

意地悪になることには自覚があるらしい。もう既にそういう気配がしているのはわざとなのか無自覚なのか分からない。

下手なことを言うと揚げ足をとられるのが分かっているので、私は無言でテオドールの頬に触れた。親指で冷たい頬を撫で、そのまま耳の方まで手を滑らせ、少し引き寄せるようにすると意図を読んでくれて唇が重なった。眼鏡のフレームが顔に当たった。

唇が離れたところで、私は魔導具の眼鏡に手を伸ばして外した。

「いいのか?」
「うん。服も脱いで。私は洋服を好きになった訳じゃないよ」

テオドールは目を丸くして、嬉しそうに目を細めた。

「本気で拗ねてた訳じゃないよ。あんたが俺のこと好きなのは顔見れば分かる。真面目だな」
「えっ」
「脱がせて」

甘えるように鼻にキスされた。

私は言われた通りに白い服に手を伸ばした。エリーナは何度もいろんな人の隊服を脱がせたことがあるし、私もテオドールが服を脱いでいるのを見たことがあるけれど、自分でやろうとするとパーツの仕組みがよく分からない。

もたもたとマントを止めているベルトを外し、マントを横に避けて、上着のベルトを外し、首元の金属を外し、何だかよく分からない紐を外し、ボタンに手をかけていく。パーツが多くて大変だ。やっと上着のボタンを全部外すと今度は中のベストのボタンが待っていた。ベストはいつも着ている訳ではない気がする。

テオドールが私の眉間を突いた。

「難しい顔してるな。もどかしい?」
「……」

それだと私が待ちきれないすごく淫乱な女性みたいだ。早く、という気持ちがなかったわけではないから否定しなかった。

テオドールはよく『顔を見れば分かる』と言う。そんなになんでも表情に出る性格じゃないはずなのに、エリーナの表情筋は豊かなのだろうか。前世では、よく感情が読めないとか、何を考えているか分からないとか、反応が薄いと言われていた。

ベストのボタンを外していき、最後に見えたシャツにはボタンがないことに安心した。

「脱いで」

シャツは自分で頭から外してもらわないと脱げないので、お願いすると、テオドールは頷いてシャツを脱いだ。

私より先にテオドールが脱いでいるのは珍しい。いつも私だけ先に裸同然にされて恥ずかしい思いをしているけれど、テオドールは全然恥ずかしそうではなかった。

(こんなに鍛えてたら見せて恥ずかしいものじゃないか)

しっかり筋肉のついた腹部に触れると、テオドールは身を捩った。

「くすぐったいよ。触るのはいいけどもう少し遠慮なくしてくれ」

軽く触れるキスを受け止めながら、言われた通りに少し指に力をこめて、腹部から脇腹、それから背中を撫でる。
唇が離れるとテオドールは優しい顔をして私を見ていた。

言葉にしなくても、好きだと思われているのが分かる気がする。

(私もこういう顔をしてるのかな。だとしたら本当に分かりやすいかも……)

ふと気になったことがあって、聞いてみることにした。テオドールは私の頬を撫でている。それが耳の方に移動して、顔を固定するようにしてまたキスされた。

「いつから知ってたの?」
「ん?」
「私がテオのこと好きだってずっと知ってた?」
「ずっと、ってほど期間あったか?あんたが俺のこと好きじゃないとか全然知らないとか言ってから、村に行くまでそんなに時間あったかな」
「好きじゃないなんて言ったことないよ。……あっ」

テオドールが鎖骨にキスをした。ぴく、と反応するとそれを揶揄うように手のひらが胸に触れ、服の上から一番触って欲しいところを避けて動く。

「言ったよ。ユリウス殿下に会った帰り。馬車の中で……毎日するかしないかみたいな話した時」
「……!」

私がテオドールと性行為をするのが負担じゃないというのを説明するために最悪な言い訳をしてしまった時のことだ。

「ち、ちが……あれは、あの時は好き合ってないって言ったの。好きじゃないとは言ってないよ。私は、その……テオが相手だったら全然嫌じゃないし、むしろ、その、何されてもいいって言いそうになって誤魔化しただけ……!」

もう時効なので正直に話した。顔が熱くなってしまった。

「そうなのか?じゃあ好き合ってたんだ。なんだ、変に気使わないで好きだって言えば良かったな」
「え、そうなの……?」
「そうだよ。ちなみに俺はめちゃくちゃ早くあんたに絆されてて、最初に抱いた時にはもう好きになってたよ。知らなかっただろ」
「えっ……ひゃっ」

テオドールは笑って、私の寝衣の中に手を入れると足に触れた。腰の方まで撫でてから寝衣をめくって胸の中心部に触れた。剥き出しになったところを口に含まれて、痺れるような快感が走った。

「あっ、ん」

舌先で乳首を刺激されるとあっという間に硬くなってさらに敏感になる。空いた方を指でぴんっと弾かれて、背中がしなった。

「ひ、ぁ……テオ……っ」
「ん」

ちゅう、と胸を吸われて気持ちよくてくらくらしてきた。頭がぼーっとしてしまう。

「はは、気持ちよさそうだな。キスしたい。いい?」

なんで許可を取るのか分からない。こくんと頷くと唇が重なるのと同時に足の間に手が触れて、そのまま濡れたところに指が沈んだ。

「……っあ」

自分では届かないところを、ふに、と押されて腰が震えた。身体は気持ち良いことを覚えている上に、触れているのがテオドールだと思うとあっという間に蕩けきって、中から蜜が溢れ出してくるのが分かる。
もうそれを恥ずかしいとも思わず、もっと気持ちよくなりたいという思考で頭がいっぱいになる。

テオドールはキスを繰り返しながら指を増やした。唾液の混ざる音と一緒に、指の動きが早くなると、さらに卑猥な音が耳に響く。

「~~~っ!ん、ん…ふっ、……ぁっ!や、待って、一回、やめ……っだめ……イってる、から……ああっ!」

びくんっと身体が跳ねて疲労感が襲ってくる。達すると疲れてしまうのに、テオドールは挿入する前に何回も私のことを絶頂に導こうとするので手加減して欲しい。

私が浅い呼吸を繰り返している間、全く呼吸の乱れていないテオドールは使っていない左手で私の唇に触れた。

「……?」
「あの時はあんたがキスするの嫌だって言うから傷ついたよ」
「あの時……?」
「あんたが陛下に怒られて俺に抱けって言ってきた時。キスはさせてくれないのにやることやれってひどいよな。あんたも望んでた訳じゃないから色々しょうがなかったけど、もう同じ思いはしたくないよ。キスしていいよな?」

テオドールは返事を待たずにキスをした。私はそれを受け入れて、口を開いて自分から舌を絡ませた。
顔を上げたテオドールは嬉しそうに笑う。

「今ので精算された」
「……あの」
「何?」
「っあ!」

足を開かれて、突然テオドール自身が身体の中に入ってきた。突然の刺激でも全く痛くはないけれど、驚きと強い快感で大きな声が出てしまう。
ゆっくりと抽送の動きを繰り返しながら、また唇が重なった。キスしながら挿入されると身体がくっついてとても気持ち良いし安心する。

「んっ、ん……」
「はぁ……エリーナ、っん……」

普段健全な雰囲気のテオドールが、悩ましげな声をあげるのを聞けるのが自分だけだと思うと優越感が湧き上がってくる。私しか知らない顔がもっと増えたらいいのにと思う。

「テオ、あ……あっ、好き……!」

まだ言いたいことがあったのに、身体を揺さぶられるとまともに話せなくなる。

「ああっ!」
「ここ?」
「ひ、あ……やっ、ぁ!おなか…熱く、なっちゃう……!」

反応が強くなるところを執拗に攻められて、びくびく震えるしかなくなる。頭が真っ白になって、自分が何をしてるのかもよく分からない。

「……あんっ!」

挿入されたまま胸を舐められて、敏感なところを何度も舌先で弾かれた。はぁ、と息がかかることにも身体が震える。

「ん……エリーナ、愛してるよ。名前、呼んでくれ」
「ん、あ……テオッ、好き…そこ、きもちい、テオ……ぁ、~~~っ!」

激しく揺さぶられて、意識が飛ぶんじゃないかというくらいの快感と一緒に、魔力の波が私を襲う。挿入されていたものが引き抜かれる感触がした。テオドールが私のことを強く抱きしめた。

乱れた呼吸を整えながら背中に手を回すと、少しだけしっとりしていることを愛しく感じた。

「テオ」
「ん」

テオドールは身体を起こして私の頬に唇を落として、それから啄むように何度かキスを繰り返した。普通が分からないけどキスするのがすごく好きなんじゃないかと思う。
唇が離れると、テオドールのグレーグリーンの瞳が私を機嫌良さそうに見つめていた。頬に手を添えて私から唇を重ねた。

「テオ、あの時キスするのが嫌だったのは、気持ちよくなっちゃうからだよ。テオのことが嫌だったわけじゃない。ちゃんと自覚したのはお城で騎士団長に会った後くらいだけど、私、テオの優しさにずっと救われてたの。多分白い隊服姿に見惚れたのも、あの時もうテオのことが好きだったからだと思うよ」

テオドールは驚いた顔をして、真偽を確かめるように私の顔を見ていた。

「嘘吐いてないよ。本当だよ」
「あんたがそんな嘘吐けるとは思ってないけど……妄想か精神干渉魔法を受けてるんじゃないかと疑ってる」

私はテオドールの手を握って軽く魔力を流した。

「正気だよ」
「そうみたいだな。……エリーナ、もう一回したい」
「えっ……い、いいけど……明日早いって言ってなかった?」
「早いよ。あんたがもう煽らなければ大丈夫だ」
「私何もしてないよ」
「何もしてない?」
「してない……」
「へぇ、本当に?絶対間違いないって言い切れるか?絶っ対」

そこまで強調して絶対、なんて言われたら自信を持ってそうだと言い切れない。何がテオドールの琴線に触れるか知らないし、それを決めるのは私ではない。

「え、う……それは、分からないけど……」
「そうだよな。だったら責任持って付き合ってくれよ。そうだ、何して欲しいか聞くの忘れてたな。どうしたい?」
「……!」

テオドールは機嫌良さそうに笑った。嵌められたと思うし、今日は意地の悪いことをしないと宣言していたのに、それさえ撤回して私を丸め込もうとしている感じがした。
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