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エピローグ 夏休み
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寄宿学校の夏休みに入り、俺は久しぶりに実家の屋敷に戻ってきた。だだっ広い屋敷は古いけれどよく手入れされていて、懐かしい匂いで帰ってきたことを実感する。
この屋敷の特徴的なところを一つ挙げるなら庭がものすごく良く手入れされていることだ。俺の大おばあさまが花が好きで、身体が元気だった時には庭師と一緒に自分でも手入れしていたらしい。
窓の外からぼんやり庭を見ていたら、その大おばあさまが杖をつきながらよたよた歩いているのが見えた。慌てて一階まで降りて、駆け寄る。
「大おばあさま!足悪いのに何してんだよ、大丈夫か?一人で出かけるなよ」
俺は大おばあさまの背中を支えた。足が悪い上に、どんくさくていつ転ぶか分からない。
「ありがとう。アーサーが戻ってきてくれて嬉しいから、大おじいさまに報告してたの」
「大おじいさま?なんで嬉しいことなのに相槌もしてくれない墓に話しかけに行くんだよ。夏の間は俺が聞いてやろうか?」
大おばあさまは菫色の瞳を見開いて、微笑んだ。
「ありがとう。アーサーだったら、テオも1番を譲ってくれるかな。じゃあお言葉に甘えて、今から少しお茶に付き合ってくれる?」
「いいよ。何かいいことがあったの?」
「うん。アーサーが、私とこうして話をしてくれることだよ」
大おばあさまは人たらしで、恥ずかしげもなくものすごくストレートに好意を口に出す。俺もくすぐったい気持ちになったけれど、悪い気はしなかった。
「分かった。じゃあついでに、大おじいさま以外の領主たちの話をしてよ。覚えられなくて困ってるんだ」
「私でいいの?」
「うん。大おばあさまの話の方が先生より分かりやすい」
「ほんと?じゃあ気合を入れてお話ししなきゃね」
「すっごく面白く話して欲しいんだ。テストで全部大おじいさまの名前書いたら怒られたし……有名な施策はどうせ同じ人間がやってるんだから、テストなんかいらないよ!」
俺が文句を言うと、大おばあさまは、ふふ、と柔らかく笑った。シワシワのばあさんなのにたまにクラスにいる女子みたいに見える時がある。
大おばあさまにしてみればもちろん俺は子どもだけれど、本当に小さい子どもみたいに優しい目線を向けられるのはちょっと不満だ。
大おばあさまに合わせてゆっくり屋敷への道を歩く。真夏なのに、春になりかけのような冷たい風が吹いて気分がよかった。
この屋敷の特徴的なところを一つ挙げるなら庭がものすごく良く手入れされていることだ。俺の大おばあさまが花が好きで、身体が元気だった時には庭師と一緒に自分でも手入れしていたらしい。
窓の外からぼんやり庭を見ていたら、その大おばあさまが杖をつきながらよたよた歩いているのが見えた。慌てて一階まで降りて、駆け寄る。
「大おばあさま!足悪いのに何してんだよ、大丈夫か?一人で出かけるなよ」
俺は大おばあさまの背中を支えた。足が悪い上に、どんくさくていつ転ぶか分からない。
「ありがとう。アーサーが戻ってきてくれて嬉しいから、大おじいさまに報告してたの」
「大おじいさま?なんで嬉しいことなのに相槌もしてくれない墓に話しかけに行くんだよ。夏の間は俺が聞いてやろうか?」
大おばあさまは菫色の瞳を見開いて、微笑んだ。
「ありがとう。アーサーだったら、テオも1番を譲ってくれるかな。じゃあお言葉に甘えて、今から少しお茶に付き合ってくれる?」
「いいよ。何かいいことがあったの?」
「うん。アーサーが、私とこうして話をしてくれることだよ」
大おばあさまは人たらしで、恥ずかしげもなくものすごくストレートに好意を口に出す。俺もくすぐったい気持ちになったけれど、悪い気はしなかった。
「分かった。じゃあついでに、大おじいさま以外の領主たちの話をしてよ。覚えられなくて困ってるんだ」
「私でいいの?」
「うん。大おばあさまの話の方が先生より分かりやすい」
「ほんと?じゃあ気合を入れてお話ししなきゃね」
「すっごく面白く話して欲しいんだ。テストで全部大おじいさまの名前書いたら怒られたし……有名な施策はどうせ同じ人間がやってるんだから、テストなんかいらないよ!」
俺が文句を言うと、大おばあさまは、ふふ、と柔らかく笑った。シワシワのばあさんなのにたまにクラスにいる女子みたいに見える時がある。
大おばあさまにしてみればもちろん俺は子どもだけれど、本当に小さい子どもみたいに優しい目線を向けられるのはちょっと不満だ。
大おばあさまに合わせてゆっくり屋敷への道を歩く。真夏なのに、春になりかけのような冷たい風が吹いて気分がよかった。
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