遊び人の王女に転生した処女の私が、無理やり結婚した英雄の旦那様と結ばれるまで

夏八木アオ

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45. 幸せ ※【最終話】

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夜中にふと意識が上がった。扉が開いて、閉じる音。それから少しして寝具が擦れる音。

「……テオ?」
「……!ごめん。起こしたか?」
「ううん……」

およそ一週間ぶりに聞くテオドールの声に安心して、そのまま夢の中に戻ってしまいそうだ。

「おか、えり……」
「ただいま。うるさくしてごめんな」

テオドールは優しく囁いた。ずっと家に戻れないほど忙しかったのに、それでも私に気を遣おうとする優しさに申し訳なくなる。
寝台が軋んで、すぐ隣に来たことを感じ、私はテオドールに手を伸ばした。

「あのね……私……話したいこと、が……」
「うん、明日聞くよ。……午後にギルベルト様が埋葬されるって聞いてるよな。一緒に来てくれるか」
「うん……」
「ありがとう。……エリーナ、まだ起きる時間じゃないよ。目を瞑って、おやすみ」

言いたいことがほとんど言えないまま、私は声に誘導されるように目を瞑って、そのまままた眠ってしまった。

朝起きるとテオドールはいなくて、セアラからは緊急で呼び出されてしまったため聖ルーカ教会の共同墓地に直接行くという伝言をもらった。

午後の葬儀に間に合うように黒いドレスに着替え、マリアと共に教会に向かう。教会の敷地は立ち入り禁止で騎士団が厳重に警備をしており、敷地を囲う柵は大勢の人々に囲まれている。あちこちで啜り泣きが聞こえる。各自が思い思いに花を持ち寄って、柵の周りには色とりどりの花束が添えられていた。
教会の中に入ると国王や王妃、ユリウスや他の王子、各騎士団の役職者に顔を見たことのない貴族と思われる人々、そして教皇とルビーもいた。

棺の中にはギルベルトが横たわっていて、眠っているように穏やかな顔をしている。ユリウスは死体がほとんど残っていなかったと言っていたけれど、顔には傷ひとつなく、胸の前で組まれた手も本人のもののように見えた。

テオドールと目が合うと、彼は私を気遣うような顔をした。

教会の関係者の話や、讃美歌をどこか遠くのもののように聞きながら、私はずっと、斜め前の遠い席にいるテオドールから視線を逸らせずにいた。言葉をかけられず、近くにいることもできない。後ろからでは表情を見ることもできなかった。

外に移動して、埋葬するために各自が別れの言葉を口にする時も、テオドールはずっと黙ってギルベルトの顔を見つめていた。私もギルベルトに何と声をかけて良いか分からない。

迷わず恨み言を言えるのは彼が子どもたちを利用して怪我をさせたという一点のみで、それすらも孤児院で誇らしげに話をする子どもたちを見ていたら、どんな感情を抱いていいのか分からなくなってしまった。

棺が土の中に埋まるのを見届け、共同墓地の柵の向こう側を見つめるテオドールに声をかけた。彼は一人、少し人と離れたところに立って、外に静かな視線を向けていた。

「テオ」

振り返った顔は申し訳なさそうなだけで、いつもと変わらないように見える。

「エリーナ。一緒に来ようと思ってたのに、呼び出されたよ。黙って出てごめんな」
「セアラに聞いたから大丈夫だよ。……ねぇ」
「ん?」
「あそこにいるのは、テオが悲しませた人たちじゃなくて、助けた人たちだよ。お父様からおじさまのこと聞いたの。……一人で、抱え込まないでね」
「……!」

私はテオドールが視線を向けていた、大勢の人々に目線を向けた。彼らにとってのギルベルトはこの国を帝国の支配下に置こうとしていた犯罪者ではなくて、国王を守って亡くなった英雄だ。

「テオは、間違ったことしてないよ」

私は昨日言えなかった言葉をはっきり告げた。テオドールは一瞬目を見開いた。

「ありがとう。……俺は、自分のしたことを間違いだと思ったことはないんだ。ギルベルト様のことも必要だったと思う。俺にもっと実力があれば他の方法はあったかもしれないけど、そんなこと考えても仕方ない」

テオドールは自分の行動を冷静に振り返った。そこには感情はなく、ただ淡々と言葉が紡がれていく。

「俺はあの人のこと、尊敬してたし慕ってた。でももうあまり心が痛んでないんだ。俺は、必要だと思ったら、大事な人でも手をかけられる。……多分騎士団長や、あんたのことも。それを当たり前だと思うことが、少し怖い」

テオドールは静かな顔で私を見つめていた。

「テオ、私は……」

何も考えないまま思わず名前を呼ぶと、言葉を続ける前に妨害が入ってしまった。

「グレイソン副騎士団長!お話し中恐れ入ります。シデラ公国のジョールト様が予定よりお早い到着です。御随伴お願いいたします」
「ああ、分かった。……エリーナ、ごめん。結局また話を聞けなかったな。また後で」
「ううん。テオ、今日は帰ってくる?この前の王都に残りたいかどうかのお話、返事をしたいの」
「……!ああ、必ず帰るよ。約束する」

テオドールは頷くと、呼びにきた騎士団の人々と共に急ぎ足で教会を後にした。



テオドールの帰宅は日付が変わる直前のことだった。私が寝台の背に寄りかかって座っていたら、白い騎士団の服を着たまま、慌ただしく寝室に入ってきた。

「ごめん、遅くなった」

私は意味もなく開いていただけの本をサイドテーブルに戻した。

「大丈夫だった?忙しいのに無理なこと言ってごめんね」

テオドールはサイドテーブルのそばにあった椅子に腰掛け、はぁ、と息を吐いて首を横に振った。

「日付け変わる頃に帰ってきて何言ってんだって思うかもしれないけど、キリがないから絶対帰るって決めてる方がいいんだ。……それで、どうする?俺もあんたも陛下や騎士団長達に恩を売りまくってる。希望を通すなら今は最高のタイミングだよ」

教会で見た静かな雰囲気は消えて、テオドールは交渉の場につく時のように自信のある笑みを見せた。私を王都に残すための交渉材料を揃えてきてくれた可能性さえ感じる。心の壁と距離を感じ、自分の希望を伝えることに少し不安を感じてしまった。
私はその不安を取り払うように首を横に振った。

(言うって決めたから、言う。今言わないとまた怖くて言えなくなっちゃう)

覚悟を決めて、テオドールに向き合うように身体の向きを変えた。

「本当に私の希望でいいんだよね?他のことは何も考慮しないからね」
「ああ」
「私はニーフェ公領に行きたい」
「えっ」

テオドールは信じられないものを見るような顔を私に向けていた。疑うような視線が刺さる。

「本当にいいのか?それがエリーナの心からの希望?俺が責任取れって言ったのも無視して良いんだぞ」
「うん、私の希望だよ」
「……そっか。分かった。じゃあ予定変更なしか……」

テオドールはどこか呆然とした様子で呟いた。これで話が終わりそうになっているけれど私が言いたいことは終わりじゃない。
発言するタイミングを失ってしまって、私はしどろもどろしながら口を開いたり閉じたりした。

「テオ、あの、えっと……私、もう一つ話が……」
「ん、どうした?」

私が口籠ってしまった時や、言いたいことがうまく言葉にできなくてじっと見つめることしかできない時、テオドールが話しやすいように『どうした?』と聞いてくれる優しい声と表情が好きだ。
それに背中を押されて、口から言葉が出てきた。

「あのね、……私、テオのことが好き」
「え?」

テオドールはぽかんと口を開けたまま私を見ていた。

「いつも優しくて、一緒にいると安心するところも好きだけど、どんなことでも仕事ならやるって思ってるテオも、両方とも好き。どっちかだけが本物なんじゃなくて、両方ともテオだと思うの。私と一緒にいる時のテオが全部じゃないし、それと同じように、第三騎士団の副団長のテオだけが全部じゃないでしょ。子どもたちのために優しい嘘を吐くところも、国のために非情になれるところも、両方ともテオの素敵なところだよ」
「……!」

テオドールのグレーグリーンの瞳が揺れた。

「テオが悲しい選択をしなくていいように、私は精一杯善く生きるって約束する。テオよりきっと長生きする。だから、この先もそばにいさせてください」

テオドールは黙ったまま私の顔をまじまじと見ていた。いつものレスポンスの速さはどこかへ消えてしまったようだ。やがて小さな声で呟いた。

「……愛の告白みたいに聞こえるな」

ちゃんと言葉を選んだつもりなのに、意図を伝えられなかったことに落胆した。テオドールやマリアみたいに上手に話せたら良いけれど、私は口下手な部類に入り、これ以上なんと言っていいか分からない。

「”みたい”じゃなくて、本当に告白のつもりなんだけど……伝わらない?」

テオドールはしばらく私の顔を見つめてから、結構な勢いでサイドテーブルに額をつけた。ゴンっと音がした。

「えっ!だ、大丈夫?!」
「……」
「テオ……?」

テオドールは下を向いたまま身体を少し起こした。自分の拳を額に当てて俯いている。長く息を吐いた。

私はテオドールに戸惑った反応をされたり、同じ気持ちを返せないことを謝られたりはしても、どこかで言葉だけは『ありがとう』と受け取ってもらえると思っていた。だからテオドールの態度は予想外で、どうしていいか分からない。

(余計なこと言わない方がよかった?)

不安な気持ちがじわじわ胸を侵食していく。一度口にして伝わらなかった時点で、一旦誤魔化した方がよかったのかもしれない。

(この気持ちのせいでニーフェ公領に一緒にいけないって言われたらどうしよう……)

テオドールがぱっと顔を上げた。苦い顔をして私を見ている。

「俺は……希望を聞くとは言ったけど、あんたが王都に残りたい理由をしらみつぶしにしてやろうと思って」
「え?」
「礼拝堂だけはどうにもならないから、新規魔法開発研究室の奴らにさっさと転移魔法を完成させろって言ってきた」
「……」
「今は生き物は転移できないし、できたとしても俺が魔力切れで死ぬくらい魔力が必要だけど、2年くらいでなんとかするってさ。いらない圧かけたな」

徹底してなんとかしようとする行動力には驚いたけれど、テオドールが私と同じように一緒にニーフェ公領に行きたいと思ってくれていると分かって嬉しい。

「王都にも大切なものはたくさんできたけど、テオと一緒にいることが私には一番大事だよ。他にはなにもなくても大丈夫」

一度自分の気持ちを言葉にしてしまえば、もう恥ずかしいとも思わなくて、私は自分の気持ちをストレートに伝えることができた。

「……あんたは真正面から気持ちを伝えてくれたのに、俺は外堀から埋めようとして情けないな」

テオドールは椅子から立ち上がって、私の頬に手を添えると、ごく自然に顔を近付けて唇に優しく触れるキスをした。本当に軽く触れるだけで、すぐに離れる。グレーグリーンの瞳が、柔らかく私を見つめている。

「俺も好きだ。愛してるよ」
「え?」

どっ、と心臓がうるさくなった。優しく見つめられることは何度もあったし、愛しているという言葉さえはじめて聞いたわけではないのに、心臓がすごくうるさくなって、顔が泣きたいくらい熱くなった。私はさっと目を逸らした。

(え?あれ……?)

私はテオドールに好きと伝えて、愛の告白だということをちゃんと説明した。そしたらテオドールがキスをして私のことを愛してると言ってくれた。それはつまり、普通に考えるとテオドールが私と同じ気持ちを持ってくれているということを示す。

(でもそんなわけない。おかしい。テオが私のこと好きになるわけないのに、変)

私が混乱したまま下を向いていると、テオドールが私の顔を無理矢理自分の方に向けさせた。

「なに目逸らしてんだ」
「んっ」

押し付けるように唇が重なって、その後テオドールは私の頬や、頬骨のところ、目の際や額に軽く唇で触れた。最後にもう一度唇を甘く噛んで、そのまま私の肩のところに額をつけた。そして長く息を吐く。

「……大丈夫?」
「ああ。……真面目な話してたのに顔がにやけそうだ。はぁ……嬉しい」
「……!」

聞き間違えではなく、テオドールは私の言葉を喜んでくれている。じわりと喜びが湧き上がるけれど、同時に戸惑いもある。

私はテオドールに気持ちを伝えたかった。テオドールが私にしてくれたように、大切に思っている人がいると伝えられたら、テオドール自身が自分を大切にできない時にも少しは心の痛みを和らげられるんじゃないかと思っていた。
その先の、テオドールが私の気持ちに同じように応えてくれる、というところは考えていなかった。

「嫌じゃないの……?私、テオのこと無理矢理結婚させたし、色んな人と、その……」

テオドールは顔をあげた。

「あんた、結婚のことまだ気にしてたのか?そんなの俺はとっくにどうでも良くなってる。他の男のことは全員消したいと思ったことはあるけど手は出してない。俺と出会う前のことまでごちゃごちゃ言うつもりはないし、あんたがこの先誰かと何かするとも思ってないよ」

テオドールは私の手を取って指を絡めると、私の手の甲に唇を落とした。そのままじっと私の目を見つめる。

「他に、心配事はあるか?」

強い視線に射抜かれて、また心臓がうるさくなってしまう。私は小さく首を横に振った。

「んっ……」

また唇が重なる。優しく閉じたところを押し広げるように舌が入り込んできて、それに応えるために自然と口が開いた。

「ぁっ……!」

キスは何度もしたことがある。気持ち良いことも知っているけれど、先ほどのテオドールの言葉と視線を思い出すと、いつもよりずっと甘く、痺れるような心地がして、あっという間に腰が抜けてしまう。

「ぁ……はっ、ん……っ!」

びくっ、と自分の身体が跳ねた。ちゅる、と唾液の混ざる音がする。舌のざらつきと、流れ入ってくる唾液の甘さで腰が震えて、強すぎる快感を逃すためにテオドールの背を強く抱きしめた。達してしまった時みたいに、自分の身体がびくびく震えているのが分かって少し恥ずかしい。

そのまま寝台に押し倒されて、全身で体重を受け止める。こうしてテオドールの重さと体温を感じるのは本当に久しぶりで、心地よく、夢の中にいるみたいにぼーっとしてしまう。
ちゅ、と音がして唇が離れた。テオドールが顔を上げて、私の目を見つめている。

「とろんとしてる。可愛いな」

今までテオドールには言われたことのないストレートな言葉に、心臓が痛くなった。テオドールは気遣うような表情をした。

「俺はこのまま抱きたい。……怖くないか?」
「……!」

私の過去の発言がずっと尾を引いていることに心が痛んだ。
私を不安にさせていたことは、私の周りの人の言葉で一つずつ解消されていた。何より、ずっとテオドールと一緒にいたいという気持ちを喜んで受け入れてもらったいま、大切な人が増えることも怖いとは思わない。

「うん。怖くないよ……わ、私も、その……」

テオドールが告げてくれたように私も自分の気持ちを言おうとして、恥ずかしくなって声が消えてしまった。テオドールがふっと笑ったのが分かる。

「無理して言葉にしなくていいよ。顔見ればだいたい分かる」
「えっ」

私が驚いてテオドールを見つめると、グレーグリーンの瞳が優しく細まった。言葉がなくても愛おしいと言われている気分になって、落ち着かない気持ちになる。

「あんたの瞳、本当は今の菫色のままのほうが好きなんだ。すごく綺麗だし似合ってる」
「なっ、え……」

こんな風に人のことを分かりやすく口説く人じゃなかったのに、急にどうしてしまったのだろうか。受け止めきれなくて顔が燃えるように熱くなった。

「照れてる?ほんと可愛いな」
「えっ、や……な、なん…テオはそんなこと言わないっ」

耐えきれずについ顔を背けてしまう。

「言うよ。俺が思ったことはっきり言うのは知ってるだろ」
「そうだけど……!」

テオドールは誰に対しても結構遠慮なく、言いたいことは言う。でもそれとこれとは話が別というか、いきなりすぎるというか、おかしい。

「でも、でも……あっ」

テオの手が、寝衣の間から入り込んで私の太ももに触れた。柔らかいところを親指ですーっと撫でられて、ぞくぞくする。

「寡黙な男の方が好きか?今更かな……俺は結構おしゃべりだもんな」
「んっ……あっ!」

ちゅっ、と触れるだけのキスをして、テオドールは私の首筋を鎖骨から耳のあたりまで舐めた。分かりやすく感じてしまい、びくびく身体が跳ねるのを止められない。

「はぁ……エリーナ、可愛い。好きだよ」

テオドールの息が、耳元をくすぐる。太ももを往復していた手が、一枚につながった寝衣をずっと上の方まで捲り上げて、お腹を通って胸の方まで上がってくる。

「あっ、待って……!ひゃんっ!」

今、こんな感じやすい状態で胸なんか触られたらどうなるか分からない。制止したのに聞いてもらえなくて、電気が走るような刺激に涙が出そうになる。
胸の先端をきゅっとつままれたり、引っ張られ、くにくに潰される。何かされるたびに身体がびくっびくっと跳ねて、下腹部がきゅんと痛くなる。

「てお……」
「ん?」
「ちょっと、ゆっくり、して……気持ちよくて変になっちゃう……あんっ!」

全然言うことをきいてくれなくて、胸をちゅうっと吸われた。舌が固くなったところをはじいて、つん、とつついたりぐりぐり押し付けられたりする。

「やっ、や……ぁんっ、ゆっくりって、言ってる、のに……!」
「ゆっくり、ね……いいのか?待てなさそうだけど」

テオドールの指が、下半身の割れ目に触れた。中を開かなくても蜜が溢れてきているのが分かる。期待でさらに中からじゅわ、と水分が滲むのが分かって、恥ずかしくてまた顔が熱くなった。
テオドールの指は入ってこずに、表面を優しく擦る。じれったい動きに思わず腰が動いた。

「腰が揺れてる。何したら気持ち良いか知ってるもんな?」
「!な、なんでそんなに意地悪なの……?」

テオドールが時々嗜虐性をのぞかせることは知っている。特に私の言動が気に入らない時だ。だけど今日はひどい。私は何もテオドールが怒るようなことはしてないのに。

「浮かれてるから」
「あっ……!」

ちゅぷ、と音がして指が沈み、身体が歓喜で震えた。同時に唇も奪われて、ちゅく、と水音が口元からも足の間からも聞こえて卑猥だ。身体の中をぐちゃぐちゃにされるのがおかしくなりそうなくらい気持ち良くて、他のことを何も考えられなくなってしまう。

「んっ、ちゅ……はっ、ぁん!」
「はぁ……エリーナ、…ん、好きだよ」
「~~~っ!」

キスの合間に聞こえた言葉に、感じ切ってると思った身体がさらに敏感になって、達してしまう。

「……いつもより感じやすくなってる?可愛いな。中がきゅうってしてる」
「も…言うの、やめて……っあ!」
「無理だな。好きだ」

達したばかりなのに全然手を緩めてくれないし、耳元で名前を呼ばれてまたぞくぞくしてしまう。こんなこと続けられたら耐えられない。私の中を乱していた指が引き抜かれた。それだけでも気持ち良い。

「あっ……!」

テオドールは膝立ちになって私を見ていた。真っ白で清廉潔白な印象の服を着ているのに、その上からでも分かるくらい布が持ち上げられているのが分かる。思わず固唾を飲んで、じっと見入ってしまった。
テオドールはその視線に気付いて微笑んだ。

「大丈夫だよ、まだしない。今日はゆっくりするんだもんな」
「えっ……」

私ではなくてテオドールに都合の良い解釈をされてしまったことに気付いて、ものすごく後悔した。

「て、撤回します」
「撤回……?そっか。じゃあ好きにさせてもらうよ」
「えっ、好きにして良いとは言ってないよ……!」

そもそも私の意見なんか全然聞いてくれないし、もう十分好きにしていると思う。

テオドールは私の足を膝立ちにして、両足を左右に開いた。

「えっ、何?!」

テオドールは服を着たままだ。膝立ちして足を開くなんて体勢は挿入の時くらいしかしないので、びっくりして顔をまじまじと見てしまった。テオドールが私の濡れたところを見ているのが分かって、とんでもなくいたたまれなくて足を閉じようとする。もちろん阻まれた。

「変なところ見ないで!」
「好きにして良いって言った」
「言ってないよ……!ゆっくりじゃなくていいって言っただけ」
「どっちでもいいよ」
「よくな……ひゃあ?!」

テオドールは私の太ももを軽く噛んだ。痛くはないけどものすごく驚いた。えっ、と思っている間に、テオドールは私の足の間に顔を入れて、柔らかくとろけたところに口をつけた。

「……?!へっ、あ、……や、やだやだ!やめて!」

返事の代わりにぢゅる、と音がして、カッと顔が熱くなる。足を閉じようにも閉じられないし、テオドールの頭に手を伸ばして妨害しようとしたのに、手を取られて失敗した。

「あっ、あんっ、ああ……待っ…ひっ」

舌が、じゅっと中に入ってくる。舌のざらつきと、呼吸の熱さとくすぐったい感触が、耐えきれない刺激になって私の身体を震わせる。ぐちゃぐちゃになったところの少し上側、敏感なところに軽く歯が当たった。

「~~~っ!」

舌先でそこを擦られて、あっという間にまた身体が昂り、訳が分からないまま何度も達してしまう。テオドールは口を離すと、臍下あたりに一回キスして、身体を起こした。

はぁはぁ短い呼吸を繰り返しながらテオドールを睨む。彼は指で口元を拭ったところだった。

髪の毛を邪魔そうにかきあげる仕草が色っぽく、怒っていたはずなのにどきっとしてしまった。テオドールは私の視線に気付いて笑った。
彼は鈍感ではなく、私が見惚れるとその視線にもその意味にもすぐ気付いてしまうから本当にいたたまれない。

テオドールは重厚な服を順番に外していく。いつも着替えの準備がすごく早いのに、わざとゆっくりしているようだと勘繰ってしまう。全部脱いで裸になると、彼のものがお腹につきそうなくらいそそり立っているのが分かった。

テオドールは身体の向きを変えて、寝台に倒れ込むように私の顔の横に手を置いた。寝台がぎしっと大きな音を立てる。テオドールの顔は目の前にあり、私のことを強い視線で見つめている。

「愛してるよ」

直球な言葉にまた心臓が痛くなる。顔が近付き、唇が重なる。いつもと違う、酸っぱいような甘いような嫌な味がして、先程された恥ずかしい行為のことを思い返してしまった。

「んっ、ちゅ…ぁ……」

唾液が混ざってくると、だんだん不快感が薄れてくる。

(テオの味だ……)

いつもより一層甘く感じて、さらに求めたくなり自分でも舌を絡める。すると口付けが激しくなって、息をするのもままならなくなり、つい腰を浮かせたところで身体を開かれる感覚がした。

「っ~~~!!」

剛直がぐっと奥まで入り込み、私の敏感なところを擦った。その余韻で身体が痙攣して、震えを止めるためにテオドールを強く抱きしめる。

「テオ…っ、あ……!」

動きがなくても、粘膜がぴたりと密着して馴染んでいるのが気持ち良くて、それだけで感じてしまう。しっとり冷たい背中を撫でる。すべすべした感触が気持ち良くて、足をテオドールの腰に擦り付けた。

「んっ…はぁ、エリーナ……中すごく熱くなってる、な。はぁ……動かなくても気持ち良い」

私は同意するために頷いた。

「惜しいな。少しこのままでいたい」
「このまま……?」
「このまま」

このまま、と言いながらテオドールはゆるい動きで私のお腹を撫でた。そのまま両手が胸の方に上がっていき、双丘に触れ、その中心をつん、とつまんだ。

「あっ……!」

びくん、と身体が跳ねて、自分がテオドールのものを締め付けたのが分かった。

「…エリーナ、締めたらだめだよ」
「だって、あ……、それ、ひぁ……っ」

動かず繋がったまま、両方の胸の先端を摘んで刺激される。抽送のような激しい動きじゃないのに、達するには十分だった。

「あっ、あん……あ、気持ち、い……あっ!」

びくびくっと身体が跳ねて、ずっと達し続けてしまう。テオドールと繋がっている感覚に満たされて、心も温かくなる。感じたらいいのか、安心したらいいのか分からない。訳がわからなくても、身体は跳ねて反応し続ける。

「あっ……テオ…っ、これ、きもちい……っ」
「動いてないのに?」
「ん」

私はこくこく頷いた。テオドールは指をくに、と擦り合わせるようにしてさらに私の身体を悦ばせる。

「ああっ!」

背中が大きくしなり、腰が浮いた。その拍子に少しだけ挿入が浅くなり、身体が戻ると深くなる。

「あん…っ」

もう、なにか起きるたびに痺れるように気持ち良くて、ぐったりしてしまう。

「はぁ、はぁ……っ」

目を閉じて、荒い呼吸を繰り返す。

「何もしてないのにほんとに気持ちよさそうだな」

何もしてないなんてとんでもないことだ。目に涙が滲んでしまって、テオドールの表情がよく見えない。

「……んぁっ!」

急に、ずんと強く穿たれて、目の前がチカチカした。それを受け止めきれないまま、テオドールが剛直をぎりぎりまで引き抜いて、また奥まで入ってくる。

「ああ……っ!」

お腹の中を擦られる感覚に、強い快感を覚えて声を抑えられない。

「あ、あっ…はぁんっ……!」
「っ……エリーナ、はぁ…好きだ。可愛い。……気持ち良いなっ」
「テオっ、ん……うん、私も好き……好き……あっ!」

腰が浮いて、浅いところから深いところまで、全部乱されて、ぐちゃぐちゃになっているのが分かる。テオドールが私と一緒に気持ち良くなってくれていることが嬉しくて、身体がもっと素直に快感を拾っていく。

「あっ、あ、あ……っ、すご…んっ、気持ちい、よ……ああ、テオ!好きっ、好き……!」

戯言みたいに好き、という言葉が口から飛び出してしまう。何も心配せずに好きと口にできることが幸せで、心も身体もすごく満たされていく。

「エリーナ……ああ、だめだ……このまま、してたい、けど……っ」
「あ、ぁんっ、私、も……もう……っ!」

腰の動きが一層激しくなって、奥まで苦しいくらいに穿たれた。びく、とテオドール自身が震えて、熱いものが私の中で弾ける。魔力が流れ込んで、私の心臓がどくどく早く脈打つたびに、全身を駆け巡るのが分かる。
テオドールは私に覆いかぶさり、しばらく動かなかった。その重さも心地よくて、幸せで目を瞑る。

「エリーナ」 
「……?」

テオドールがゆっくり身体を上げた。ずる、と引き抜かれて、冷たい空気が濡れたところに触れるのが分かった。

テオドールは私の唇に軽く唇を押し付け、鼻先を軽く噛んでから額に口付けた。驚いて鼻に指を添えテオドールの顔を見ると、テオドールは優しい顔をして、私を見つめていた。

「幸せだ」

(幸せ……)

心と身体が温かいもので満たされている。テオドールの笑顔を見ていると胸がきゅうと切なくなる。

「私も……すごく幸せだよ。ありがとう、テオ」

テオドールの首に腕を回してぎゅっと抱きしめると、それよりずっと強い力で締め付けるように抱きしめられた。その息苦しささえ、今は愛しく感じた。

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