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40. お墓参り②
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通常王侯貴族の旅行は自分達が乗る馬車のほかに大量の荷物と使用人を携えるものだ。
テオドールは、私が王都を離れるのが本当に全くはじめてということもあり、できるだけ屋敷にいる時と同じように生活できるよう手配しようとしてくれていた。
でも、私には前世の記憶があり、数日の宿泊ならば着替えと衛生用品だけ持って気軽に過ごしたこともある。聞けば道中はいくつかの街で休憩を取りながら進むということだったので、荷物は最低限で、使用人も連れて行かないことにした。
出発前の馬車の前で、テオドールが心配そうな顔をして、何度目か分からない質問をした。
「もう一度聞くけど本当に大丈夫か?着替えも全部自分でやらないといけないんだぞ」
「平気だよ。ちゃんと練習したから心配しないで」
「旦那様、この話何回する気です?一応私もいるんですけど。それに殿下はご自身の着替えどころか料理と水仕事と馬の手入れまでマスターしてますよ。治癒術もできるし遠征に連れて行ったら助かる存在だ」
マリアが呆れたようにため息をついた。
「でも、エリーナは王都どころか城からほとんど出たことなかっただろ。長距離移動は慣れても疲れる。途中で引き返したとしても、折り返しに往路の分は時間がかかるし、できるだけストレスがないようにするべきだろ」
「はぁ、旦那様……過保護すぎると父のように逃げられますよ。殿下は大人なんだから一人の大人として扱ってください」
「……」
テオドールが苦い顔をした。テオドールの気遣いはすごくありがたいので、改めてお礼を言ってこの話は終わらせることにした。
「あの、テオ、気遣ってくれてありがとう。着替えとかは本当に大丈夫だけど、何か困ったら助けてね」
「ああ」
「殿下も旦那様に甘いんだから……。これ、私はいない方がいいんじゃないですか?」
*
実際出発してみると、着替えや食事の準備は本当に何の問題もないのだけど、馬車に乗り続けることでどれだけ体力を消耗するか、という点がテオドールの言った通り予想以上に辛かった。1日目の移動が終わった頃には腰や背中が痛すぎて、寝台にうつ伏せになった姿勢から動けない。
私は宿の寝台に倒れていた。
「……大丈夫か?」
「あんまり」
自分の手を自分の腰に当てて、魔力を流す。腰やお尻のあたりで流れが滞り、所々何かがちぎれているような感覚がする。治癒魔法を使えるようになっていて本当によかった。
一通り治療が終わると身体はすっかり楽になった。ゆっくり起き上がって椅子に座っているテオドールに話しかける。
「はぁ……テオは大丈夫?辛いところがあったら言ってね」
「俺は移動に慣れてるから平気だよ。遠征より全然環境がいい」
「そうなの?」
「ああ。徒歩だったり、荷台に詰め込まれてたりしたし、柔らかい座席に座って揺られてるだけでいいなんて楽すぎる」
「大変だったんだね」
「遠征は旅行じゃないから仕方ないよ。予算も限られてる」
「戦争が始まる前も、あんまり王都にはいなかったんだよね?」
「ああ。開戦しなくても緊張状態だったし、あちこちでいざこざはあった。あとは人間じゃなくて魔物とか動物とかもいるし、魔法師は地形をいじれるから災害の時も駆り出されやすい。とにかく国内の平和を乱す何かがあったら何でもやるって感じだよ。本当は各地域の領主付きの騎士団で全部対応できればいいけど、そこまで手が回ってない地域もあるし、地方を任せっきりにしてて知らぬ間に侵略されてたなんて笑えないだろ。ニーフェ公領は独自の騎士団がちゃんとしてるから行ったことないけど、それ以外はほとんど何かしらで派遣されてる」
私の浅い知識では騎士団が何をしているのかよく分かっていなかったけれど、治安の維持と防衛に関することなら本当に幅広く対応しているらしい。地図の作成までやっていることを考えると文官的な役割もあって、人がたくさん必要な公的な仕事全般が担当なのかもしれない。
国の維持に欠かせない存在で、名誉のある仕事だと言われているのも納得できる。
「……テオは、どんなきっかけで入団することになったの?」
村に行くうえで、一つ気になっていたことでもある。通常王都の騎士団は貴族の子息が所属するものだ。テオドールのように小さな村の出で、王都で叙任式を済ませた騎士は他に聞いたことがない。類稀なる魔力を見込まれて、という話は聞いたけれど、普通に村で暮らしていたらその魔力に気づくことすらないのではないだろうか。
テオドールの顔が一瞬固まった。聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと思って不安になる。
「それは、明日話すよ。実際に見た方が早い」
「実際に?……あの、話したくないことは話さなくて大丈夫だよ。聞いてごめんね」
「いや、元々明日あんたに話すつもりでいたんだ。……明日も移動が長いから、今日はゆっくり休もう。おやすみ」
サイドテーブルの灯りが消えて、部屋が真っ暗になる。宿の部屋はツインベッドになっていて、いつものように近くにテオドールの気配を感じることはない。
話すつもりだったとは言われても、あまり積極的に話したがっている感じはしない。無理しないでと言いそびれてしまった。暗闇の中の背中が遠くて、これ以上話しかけることができなかった。
*
翌朝、またしばらく馬車に揺られ、途中で何度か休憩して身体を動かし、また馬車に揺られて移動した。箱の中にずっと詰め込まれていると気が滅入ってしまって、マリアのように馬に乗る練習もすればよかったと少し後悔している。
1日目はある程度補正された道路や、何度も人が通って障害物も綺麗に取り除かれている道だったけれど、テオドールの村が近づくにつれて揺れが激しくなり、たまにぬかるみにはまって一度降りなくてはならなかったり、動物が飛び出してきて急停止したり、順調とは行かない旅路になった。
「多分そろそろだと思うけど……。田舎すぎて目印がないんだ。迷子になるから降りても俺から離れるなよ」
「はい、ごめんなさい。絶対離れません」
もうすでに一度迷子になっている。
ぬかるみから馬車を出すために降りて、ほんの少しふらっと森に入っただけで帰り道がわからなくなってしまった。実際は本当に数メートルの距離で、大声を出したら迎えにきてくれたのだけど、遭難したかと思って本当に涙が出た。
「怒られた子どもみたいになってる。すぐそこにいたし、何もなかったんだ。そんなにしゅんとするなって」
「……本当に怖かった。ちゃんと迷子になったのは初めて」
物心つく前は分からないけれど、私は初めての場所に一人で行く子どもではなかった。常にお母さんが一緒にいたし、中学校や高校、大学でも、学校と塾と家を往復する以外全然新しい場所に行こうとしなかったから、周りが全て同じに見える見知らぬ森の中で、周りに人もいなくて、連絡手段もなくて、という状態の完全なる遭難は恐怖体験だった。
城の塔が見えていた王都で迷子になるのとは訳が違う。
「ちゃんと迷子って何だよ」
テオドールがふっと笑った。
「最悪、魔力を辿って見つけられるから気にしすぎるな。あんたが気を付けなくても、俺が目を離さないようにしておくからいいよ」
「……ありがとう」
テオドールが私を見つめる瞳が優しく、どきっとしてしまう。
テオドールのことをちゃんと知って、もっと喜んだり笑ったりして欲しいと思っているけれど、一緒に過ごす時間が増えても私が助けてもらうばかりだ。
「あの、テオ……」
「ん?」
「前に、欲しいものがあるって言ってたよね。あれって準備できた?準備ができたら教えてくれるって言ってた……」
テオドールは、ピシリ、と音がしそうなくらい分かりやすく固まった。また聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない。
「よく覚えてるな」
「テオのことだから覚えてるよ。また聞いちゃいけないこと聞いちゃった……?」
「いや……あれは、それ以前の問題になったから何もしてない」
「そうなの?」
「ああ」
「私に何かできることはある?それが何のことか聞かなくてもいいの。でも、テオが困ってるなら、私も助けになりたいよ」
準備ができるまで言わないと言われたから、詳細を聞くつもりはない。テオドールは小さくため息をついて、背もたれに深く座り直した。
「手」
「て?」
「到着するまで手を握っていて欲しい」
「そんなことでいいの?」
「そんなことじゃないよ。俺にはすごく意味があるんだ」
「……?」
よく分からないけれど、それで良いならば簡単なことだ。私はテオドールの手に自分の手を添えて、少し力をこめた。
王妃様達が来てから、テオドールに触れることはほとんどなくなった。一度抱きしめられてそのまま眠ったことがあるくらいで、添えるだけでなく手をしっかり握るだけでも久しぶりだと思ってしまう。
(安心する)
テオドールの手は私の手よりずっと大きい。握り返してもらうと、その力強さに安心して、何があっても大丈夫だと思える。
(大好き)
心の中で、自然とその言葉が浮かんできた。いつも後ろめたさや自虐的な気持ちが邪魔をして、自分の心の中ですら素直に自分の気持ちを吐き出すことが難しかったのに、こぼれ落ちてしまった。
大切だとか、幸せになって欲しい、笑顔をみたい、一緒にいると安心する、と色々な気持ちを抱いているけれど、一番単純な言葉にすると私はただテオドールが好きだ。そう思うと急に手を握っていることが恥ずかしく感じて、つい手を引こうとしてしまった。テオドールは離してくれなかった。
「前になんでもするって言わなかったか?離さないでくれ」
どこか必死ささえ感じる声で、テオドールが呟いた。以前私はそんなことを言って、その時はテオドールに他人に”なんでもする”は言ったらダメだと怒られた。
私は2回頷いて、手を繋いだまま座席に深く座り直した。
(本当にそう思ってるから言ったんだよ。勢いで言ったわけじゃない)
*
馬車が止まって、到着したのは全く何もない森の中だった。テオドールの故郷までは歩ける距離で、見慣れない馬車や馬がいきなり近づくと警戒されるから、認識阻害魔法を使って目立たないようにして、徒歩で訪れるようだ。
マリアは馬車と馬の見張りで残り、テオドールと二人で村まで歩くことになった。小枝や石が落ちて歩きにくい道を進み、少し行ったところで小さな木製のゲートに囲まれた集落が目に入る。村というよりは小さな集落と表現したほうが良さそうなくらいのこじんまりとした場所だ。似たような形の家々が並んでいる。
「ここ……?」
「ああ。本当に何もないだろ?人が住んでるだけの場所だ。15年も経つのにまるで変わってないな」
一応ゲートのところに人が座っている。テオドールが近づくと、退屈そうに視線を向けた。ふっと興味がなさそうに視線を外したと思ったらまたすぐ視線を戻し、それから目を丸く見開いた。
「テ、テオ……?」
「ああ。久しぶりだな。母さんの墓参りに行きたいんだけど、入っていい?」
「あ、ああ。もちろん……そっちは……」
「俺の奥さんだよ」
「第三王女のエリーナ殿下……?」
「なんだ、こんなとこまで噂が回ってんのか。そうだよ。お忍びだから人は呼ばないでくれ」
私は門番らしき彼に軽く会釈をして、木製のゲートを越えた。ふわ、と温かい感じがする。
「結界?」
「ああ。この辺は治安が良くないから、俺が出て行く前に騎士団長が簡易結界を張ってくれたんだ。一応メンテナンスしておくか。ちょっと待っててくれるか?」
「うん」
テオドールは門のところにいた男性に声をかけると、ゲートに手をかざして何か呟いた。村の上空に青白い魔法陣が展開されて、一瞬光って消えた。
「きゃあっ」
空を見上げていた村人が何人か悲鳴をあげたのが分かった。彼女達はなにか得体の知れないものを見るように私とテオドールに怯えた視線を投げている。集まってひそひそと囁きあい、逃げるように家の中に戻って行った。
この村出身の、国の英雄に向ける顔ではない。
「やべ……村長に声かけてからの方がよかったか。まあいいか、どっちでも同じ反応するし」
テオドールは戻ってくると村人が消えた方向に申し訳なさそうな顔を向けた。
「村の人にはあまり魔法には馴染みがないの?」
「ああ。ただの村に入る口実だったけど、一応墓参りしてもいいか?」
「うん」
テオドールに付いて中央の道を歩く。皆遠巻きにテオドールを見て、多分顔も名前も分かっているだろうに話しかける人はいなかった。どこか怯えさえ含んだ視線が刺さってくる。テオドールはそれを意に介さない様子でスタスタと進んで、小さな教会と、墓標が並んだ広場に出た。
「教会と墓地だよ。ただ母さんは疫病で死んだから遺体は燃やされてて、ここは名前が刻まれてるだけだ」
教会の敷地に入り、少し進んだところで平たい白い石の前で足を止めた。ヨハンナ・グレイソンという名前と、享年が刻まれている。亡くなったのは7年前のようだ。
「こっちが父親」
テオドールは隣の墓石を指さした。父親の方は、16年前に亡くなっている。
テオドールの家族について私が知っていたのは、親しい人で彼を”テオドール”と呼ぶのは母親が彼を叱る時だけだ、という情報だけだ。亡くなっていることも知らなかった。
「父さんは酔っ払って例の近くにある泉に顔を突っ込んで死んだんだよ。別に生活用水じゃないけど、子どもたちの遊び場だったのに人が死んだなんて最悪だろ?あん時は、俺も母さんも肩身が狭くなってふざけんなって思った」
「そ、そうなんだ……」
何でもないことのように言われて反応に困ってしまった。テオドールの父親の死因が原因となって、村に居づらくなってしまったことが外に出た理由なのだろうか。実際に見た方が早いと言っていたのは、この村のよそよそしい雰囲気と、お墓を見せてくれようとしたのだろうか。
寂しい理由に胸が苦しくなって、私は思わずテオドールの手を握った。
「エリーナ?」
「何でもないことみたいに言わないで」
「ごめん。あんたが悲しむことじゃないよ。もう15年以上前の話だし、もう散々墓に文句を言った後だから、どう思ってるとかでもないんだ」
テオドールは申し訳なさそうな顔をしていた。
「さて……ついでの用事も済ませたし、本題だな。近くにテシアンデラの花が咲いてるところがあって、俺が見せたいものもそこにあるんだ。まだ少し歩くけど大丈夫だよな?」
「うん」
テオドールが見せたいものはこの墓標ではなかったらしい。私は頷いて、またテオドールの後に付いて歩いた。
「テオ!」
「……?」
元来た道を戻っていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、腕に小さな子どもを抱えた女性が立っていた。
「……ミア?」
ミアと呼ばれた女性が駆け寄ってきた。
「戻って、きたの……?」
「母さんの墓参りに来たんだ。神父様に勝手に中に入ってごめんって伝えておいてくれ。足跡ついてるけど墓荒らしじゃないよ」
ミアが頷き、私に目線を向けた。私は軽い会釈を返す。
「第三王女のエリーナ殿下だ。ここにいたって言いふらさないでくれると助かるよ。さっき空が光ったのは結界のメンテナンスで強化しただけで、もう帰るから心配しないでくれ。皆に怖がらせて悪かったって伝えておいてくれるか?じゃあ」
ミアはまだテオドールと話がしたそうだったけれど、テオドールは背を向けて歩き始めてしまった。
「ま、待って!テオ、あの……ごめんね!」
ミアがテオドールの背中に向かって叫ぶ。テオドールは足を止めて、気遣うように笑った。
「ミアが謝ることじゃないだろ。……顔みせて悪かった。もうここには2度と戻ってこないから、安心してくれ。元気でな」
ミアはまだ話が終わっていないような顔をしているのに、テオドールはもう振り向くこともなくて、木製ゲートに向かって歩いて行ってしまう。結界を超えると、ヒヤリとした風が吹いた。テオドールが歩きながら早口で話す。
「ミアは俺が村を出ることになったのが自分のせいだと思ってるはずだけど、そういうわけでもないんだ。出てく前に伝えたんだけどな……これも後で話すよ」
テオドールは、早足で前に進んでいってしまう。追いかけるために小走りになると、ぴたりと足を止めた。それからゆっくりと息を吐いた。
「……悪い。平気だと思ってたけどやっぱりちょっと動揺してるな。視線が意外と堪える。今あそこに行ってもあんたに話せないかもしれない。ごめん」
「テオ……」
私はテオドールの手を握った。
「馬車に戻って休む?無理に話さなくて大丈夫だよ。また別の機会でもいいし、一生話さなくてもいいの。テオが話したいって思ったら聞くし、そうじゃないなら私には何も言わなくていいよ」
「でも……」
「テオ、ちょっとそこにしゃがんで」
乾いた地面を指差すと、テオドールはゆっくり座り込んだ。私も膝立ちで足を付き、テオドールの首元に腕を回して、抱きしめた。
「そんな辛そうな顔して欲しくない。大丈夫だよ。何も説明なんかしなくていい。村を見たかったのも、テオが入団したきっかけを聞いたのも、テオのことが知りたかっただけ。言いたくないことを無理に話して欲しかったわけじゃないの。もう王都に帰ろう?」
「……」
テオドールはゆっくり私の背中に手を添えた。
「ルビー様が……」
「うん」
「俺のことを人殺しで成り上がった人間だって言ったよな」
「うん。ひどいことを言ってたね」
「ひどくない。事実だ」
「……!」
「俺は人を殺して評価されてきた人間だ」
テオドールの声は静かだった。
「だと、しても……私は、テオの過去は、アーノルド騎士団長から聞いて、私が遊んでる間に国にずっと貢献してきたってことしか知らない。テオの一番近くにいた騎士団長がそう言ってる。ギルベルトおじさまも国を救った英雄だって言ってたし、お父様も、国民の皆がテオを祀り立ててるって言ってたから、たくさんの人を助けたってことでしょ。それが悪いことなの?王妃様もテオの功績は理解してるって言ってたよ。4対1だし……偉い人がそう言って評価してるんだから、絶対後ろめたく思う必要ない。間違ってるのはルビー様だよ」
「……こんな時に多数決か。それにひどい権威主義だ」
テオドールの声には呆れたような笑い声が混じっていた。それが泣いているように聞こえて、胸がぎゅっと握られたように苦しくなった。
「だって……他に、なんて言ったらいい?孤児院のみんなも、テオのこと英雄だって言ってるよ」
「……あんたはどう思ってる?他の人間の評価なんかどうでもいいよ。あんた、俺のこと怖がってただろ。俺は一度に千人単位で人を殺せるし、騎士団長に言われたら理由も聞かずにやるし、それでいちいち心を痛めることもない。それでも俺のそばにいられるか?いつか殺されるかもって思わないか?」
私がテオドールに触れられるのが怖かったのは、テオドール自身のことを怖がっていたからではない。私の態度のせいでずっと誤解を受けていたことが分かって、申し訳なくて胸が痛んだ。
「私……私は、」
「……ごめん。やっぱり、答えなくていい。今あんたの回答を聞いたら立ち直れなくなりそうだ」
テオドールが私の背中から手を離した。体温が離れるのが分かって、それを繋ぎ止めるために慌てて両手を握った。
「ま、待って!怖いわけないよ。わ、私が怖がってたのは、別のことで……テオの過去は関係ないの。全部私の問題なの。誤解させてごめんね。テオが過去何をしてたか私は詳しく知らないけど、私にとっては一緒に過ごした時間が全部だよ。優しくて、お人好しで、時々意地悪で、口喧嘩しても絶対勝てなくて……いつも私のことを助けてくれるテオが全部なの。いつか殺されるかもなんて思ったこと1回もないし、もし……もしテオが私のこと殺そうとしても、怖くない。テオだったらいいよ。何でもするって言ったでしょ。本当に何でもだよ。命でもいい。今殺されても恨まないよ」
テオドールは目を見開いた。それから呆れたように笑った。
「それは、言い過ぎだよ……あんたは本当に、極端だな」
「でも、本当にそう思ってるから……」
テオドールが私の手を取ったままゆっくり立ち上がった。私も一緒に立ち上がる。少し見上げる位置にある顔をじっと見つめると、テオドールは少し困ったように微笑んだ。
「ありがとう。そこまで言われたら、元気出さないとな。でも命は大事にしてくれ」
「うん。あのね、気持ちが落ち着くまで無理しなくていいよ。元気じゃなくてもいいんだよ」
「……俺が一番怖かったのは、あんたから拒絶されることだよ。それを心配しなくていいならもう大丈夫だ。このまま歩きながら話していいか?やっぱり、自分の口で話しておきたい」
「いいの?」
「ああ」
手を繋いだまま、足場の悪い道を進んでいく。時々私が小枝や小石に引っかかりそうになると、テオドールはいとも簡単に手を引いて私を助けてくれる。いつもそうだ。私が転びそうになったり辛いことがあったりすると、さっと手を貸して、安全に歩けるようにしてくれる。
(私は、テオのこと助けられてるのかな。心を軽くできた……?)
さらに進んでいくと、目の前に真っ白い空間が広がっていた。水平線でパッキリと白と青に別れた光景が、ずっと続いているように見える。
「わぁ……!」
すごく幻想的だ。
「あ、エリーナ待て。そこは足場が……」
一歩足を前に出すと、思ったような平な土地ではなくて足が沈んだ。
「きゃあっ!」
「エリーナ」
ずるっと滑り落ちて、花の上を滑り、くぼみになったところで停止した。一面が白い花だらけで、仰向けに寝転んでいると甘い香りも漂ってくる。
「大丈夫か?!」
テオドールは転ばずに上手く降りてきた。
「う、うん。すごいね、ここ。大きな穴みたいになってるんだね」
イメージとしては隕石でも落ちてきたかのように、全体が大きな穴のようになっている。そこにびっしりと白い細かい花が咲いていた。
「これがテシアンデラ?」
「そうだよ」
「どうやって蜜を吸うの?」
「こうやって花びらを1枚ずつとって、色が変わってるところを口に入れる」
言われた通りにやってみると、ほのかに甘い香りがした。
「全然お腹がいっぱいにならない気がする」
「そうだよ。甘いだけで腹の足しにはならないんだ」
「なんだかちょっと青臭いね」
「王都で菓子を食べてるとそうだな。昔は他に甘いものなんかなかったから美味しかったけど、今舐めるとわざわざやりたいことでもないな……」
初めて味わった花の蜜は、味としてはすごく良い思い出にはならなかったけど、テオドールと一緒に一面が白の美しい景色を見て、彼の故郷を知れたことは、一生忘れないだろうなと思った。
「この穴が、俺が村を出た原因だよ」
「え?」
「ここは……60人くらいの人間が埋まってる。埋まってるというか、消し飛んだというか……」
びっくりしてテオドールを見ると、テオドールは困ったように笑った。
「引くだろ。これが村の人間が俺を見て怯えてた理由だよ。この辺は、元の領主の息子兄弟が管理してる土地のちょうど境界線あたりになってるんだ。二人は賭け事が好きで、よく土地を賭けてたから、しょっちゅう領主が変わるんだ。税率も変わるし、あっちに納めたはずなのにこっちに納めてない、なんて話になって納税が2倍になったりして、村はよく苦しい状況に置かれてた。近くの村に逃げても同じだし、逃げたって知られたら大変だからさ……ここにいるしかなかった」
テオドールが、貴族の都合に振り回されたくないと言っていた理由が分かった。生まれ育った故郷がそういう状況では、権力を悪だと思うのは自然な流れだろう。
「ある時、さっきのミアがいなくなって……俺の幼馴染なんだ。村の同い年ぐらいの人間は全員幼馴染で仲が良かったのが5人いるんだけど、ミア以外の皆で探しに行った。そしたらさ、この先の隣の村の中に帝国軍がいて。その時は帝国軍なんて知らないから、よく分からない武装した人間だから山賊か何かだと思って……山賊があんなにいい身なりしてるわけないけどな。ミアをさらったのが分かったから助けに行ったんだ。もちろん何もできないまま捕まった」
テオドールは過去を思い出すように遠くを見つめている。
「兄弟のうちの弟の方が、賭けで担保にするものがなくなったからって、隣の村人を帝国軍に売ろうとしてたんだよ。名前もあるようなないような村ばっかりだし、数人減っても大丈夫だろうって……で、俺たち6人とも捕まってて、何もできないけど元気なガキだから一緒に売ろう、でも6人も一緒に消えたら流石に子爵を越えて上の伯爵に声がかかったら困るし、村を丸ごと消すか……って」
あまりにも気軽に命が扱われていてゾッとしてしまった。
「その後のことはよく覚えてない。ここは元々小さい丘だったけど、起きたらくぼみになってた。俺はアーノルド騎士団長に保護されて、弟の方は帝国軍と繋がってた罪で捕まって全部兄の領地になったから、今は村は結構安泰だ。事後処理は全部アーノルド騎士団長がやってくれたから詳しく知らないけど、俺は第三騎士団の指揮下でこの辺で好きなことをしてた帝国軍の討伐に協力したってことになってて、その功績で騎士団の所属になった」
テオドールは一気に話終えて、息を吐いた。
「アーノルド騎士団長がたまたまこの地域に遠征に出てなかったら、俺はただ魔力を暴走させて帝国軍を殺して、戦争の引き金になって終わってた。すごくラッキーだったんだ。これが俺が入団したきっかけだよ」
テオドールが自分の手を私に差し出した。
「具体的になるとどうだ?今は訓練したから、できることはこんな規模じゃない。とんでもない男と結婚したって気付いたか?」
私のことを突き放すような笑みに胸が痛くなった。私はテオドールの手を取って、それを自分の心臓の辺りに当てた。
「……!」
手のひらの温かさが伝わってくる。なんと言葉をかけていいか分からない。テオドールが自分のことを大切にしてくれないことがすごく悲しくて、視界が滲んでしまう。わざと自分を傷つけるような言葉選びを聞きたくない。
「ほんと、あんたはやることが極端だな……泣くなよ」
テオドールが親指で私の涙を拭った。そのまま少しだけ顔が近付く。私は身を任せるように目を瞑って、唇が重なることを期待した。
テオドールは私の頬を撫でるだけで、それ以上距離が縮まらない。
「テオ」
「……」
私は辛抱ならずに目を開けた。頬に触れていたテオドールの指を唇まで持ってきて、じっと目を見つめる。
テオドールは鈍感じゃない。私が見惚れたり照れたりしたらちゃんと気付く。私の意図はちゃんと伝わってるはずなのに、応えてくれてない。
腕に触れて、ぐい、と服を引くと、ようやく距離が縮まって、躊躇いがちに唇が優しく重なった。
テオドールは、私が王都を離れるのが本当に全くはじめてということもあり、できるだけ屋敷にいる時と同じように生活できるよう手配しようとしてくれていた。
でも、私には前世の記憶があり、数日の宿泊ならば着替えと衛生用品だけ持って気軽に過ごしたこともある。聞けば道中はいくつかの街で休憩を取りながら進むということだったので、荷物は最低限で、使用人も連れて行かないことにした。
出発前の馬車の前で、テオドールが心配そうな顔をして、何度目か分からない質問をした。
「もう一度聞くけど本当に大丈夫か?着替えも全部自分でやらないといけないんだぞ」
「平気だよ。ちゃんと練習したから心配しないで」
「旦那様、この話何回する気です?一応私もいるんですけど。それに殿下はご自身の着替えどころか料理と水仕事と馬の手入れまでマスターしてますよ。治癒術もできるし遠征に連れて行ったら助かる存在だ」
マリアが呆れたようにため息をついた。
「でも、エリーナは王都どころか城からほとんど出たことなかっただろ。長距離移動は慣れても疲れる。途中で引き返したとしても、折り返しに往路の分は時間がかかるし、できるだけストレスがないようにするべきだろ」
「はぁ、旦那様……過保護すぎると父のように逃げられますよ。殿下は大人なんだから一人の大人として扱ってください」
「……」
テオドールが苦い顔をした。テオドールの気遣いはすごくありがたいので、改めてお礼を言ってこの話は終わらせることにした。
「あの、テオ、気遣ってくれてありがとう。着替えとかは本当に大丈夫だけど、何か困ったら助けてね」
「ああ」
「殿下も旦那様に甘いんだから……。これ、私はいない方がいいんじゃないですか?」
*
実際出発してみると、着替えや食事の準備は本当に何の問題もないのだけど、馬車に乗り続けることでどれだけ体力を消耗するか、という点がテオドールの言った通り予想以上に辛かった。1日目の移動が終わった頃には腰や背中が痛すぎて、寝台にうつ伏せになった姿勢から動けない。
私は宿の寝台に倒れていた。
「……大丈夫か?」
「あんまり」
自分の手を自分の腰に当てて、魔力を流す。腰やお尻のあたりで流れが滞り、所々何かがちぎれているような感覚がする。治癒魔法を使えるようになっていて本当によかった。
一通り治療が終わると身体はすっかり楽になった。ゆっくり起き上がって椅子に座っているテオドールに話しかける。
「はぁ……テオは大丈夫?辛いところがあったら言ってね」
「俺は移動に慣れてるから平気だよ。遠征より全然環境がいい」
「そうなの?」
「ああ。徒歩だったり、荷台に詰め込まれてたりしたし、柔らかい座席に座って揺られてるだけでいいなんて楽すぎる」
「大変だったんだね」
「遠征は旅行じゃないから仕方ないよ。予算も限られてる」
「戦争が始まる前も、あんまり王都にはいなかったんだよね?」
「ああ。開戦しなくても緊張状態だったし、あちこちでいざこざはあった。あとは人間じゃなくて魔物とか動物とかもいるし、魔法師は地形をいじれるから災害の時も駆り出されやすい。とにかく国内の平和を乱す何かがあったら何でもやるって感じだよ。本当は各地域の領主付きの騎士団で全部対応できればいいけど、そこまで手が回ってない地域もあるし、地方を任せっきりにしてて知らぬ間に侵略されてたなんて笑えないだろ。ニーフェ公領は独自の騎士団がちゃんとしてるから行ったことないけど、それ以外はほとんど何かしらで派遣されてる」
私の浅い知識では騎士団が何をしているのかよく分かっていなかったけれど、治安の維持と防衛に関することなら本当に幅広く対応しているらしい。地図の作成までやっていることを考えると文官的な役割もあって、人がたくさん必要な公的な仕事全般が担当なのかもしれない。
国の維持に欠かせない存在で、名誉のある仕事だと言われているのも納得できる。
「……テオは、どんなきっかけで入団することになったの?」
村に行くうえで、一つ気になっていたことでもある。通常王都の騎士団は貴族の子息が所属するものだ。テオドールのように小さな村の出で、王都で叙任式を済ませた騎士は他に聞いたことがない。類稀なる魔力を見込まれて、という話は聞いたけれど、普通に村で暮らしていたらその魔力に気づくことすらないのではないだろうか。
テオドールの顔が一瞬固まった。聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと思って不安になる。
「それは、明日話すよ。実際に見た方が早い」
「実際に?……あの、話したくないことは話さなくて大丈夫だよ。聞いてごめんね」
「いや、元々明日あんたに話すつもりでいたんだ。……明日も移動が長いから、今日はゆっくり休もう。おやすみ」
サイドテーブルの灯りが消えて、部屋が真っ暗になる。宿の部屋はツインベッドになっていて、いつものように近くにテオドールの気配を感じることはない。
話すつもりだったとは言われても、あまり積極的に話したがっている感じはしない。無理しないでと言いそびれてしまった。暗闇の中の背中が遠くて、これ以上話しかけることができなかった。
*
翌朝、またしばらく馬車に揺られ、途中で何度か休憩して身体を動かし、また馬車に揺られて移動した。箱の中にずっと詰め込まれていると気が滅入ってしまって、マリアのように馬に乗る練習もすればよかったと少し後悔している。
1日目はある程度補正された道路や、何度も人が通って障害物も綺麗に取り除かれている道だったけれど、テオドールの村が近づくにつれて揺れが激しくなり、たまにぬかるみにはまって一度降りなくてはならなかったり、動物が飛び出してきて急停止したり、順調とは行かない旅路になった。
「多分そろそろだと思うけど……。田舎すぎて目印がないんだ。迷子になるから降りても俺から離れるなよ」
「はい、ごめんなさい。絶対離れません」
もうすでに一度迷子になっている。
ぬかるみから馬車を出すために降りて、ほんの少しふらっと森に入っただけで帰り道がわからなくなってしまった。実際は本当に数メートルの距離で、大声を出したら迎えにきてくれたのだけど、遭難したかと思って本当に涙が出た。
「怒られた子どもみたいになってる。すぐそこにいたし、何もなかったんだ。そんなにしゅんとするなって」
「……本当に怖かった。ちゃんと迷子になったのは初めて」
物心つく前は分からないけれど、私は初めての場所に一人で行く子どもではなかった。常にお母さんが一緒にいたし、中学校や高校、大学でも、学校と塾と家を往復する以外全然新しい場所に行こうとしなかったから、周りが全て同じに見える見知らぬ森の中で、周りに人もいなくて、連絡手段もなくて、という状態の完全なる遭難は恐怖体験だった。
城の塔が見えていた王都で迷子になるのとは訳が違う。
「ちゃんと迷子って何だよ」
テオドールがふっと笑った。
「最悪、魔力を辿って見つけられるから気にしすぎるな。あんたが気を付けなくても、俺が目を離さないようにしておくからいいよ」
「……ありがとう」
テオドールが私を見つめる瞳が優しく、どきっとしてしまう。
テオドールのことをちゃんと知って、もっと喜んだり笑ったりして欲しいと思っているけれど、一緒に過ごす時間が増えても私が助けてもらうばかりだ。
「あの、テオ……」
「ん?」
「前に、欲しいものがあるって言ってたよね。あれって準備できた?準備ができたら教えてくれるって言ってた……」
テオドールは、ピシリ、と音がしそうなくらい分かりやすく固まった。また聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない。
「よく覚えてるな」
「テオのことだから覚えてるよ。また聞いちゃいけないこと聞いちゃった……?」
「いや……あれは、それ以前の問題になったから何もしてない」
「そうなの?」
「ああ」
「私に何かできることはある?それが何のことか聞かなくてもいいの。でも、テオが困ってるなら、私も助けになりたいよ」
準備ができるまで言わないと言われたから、詳細を聞くつもりはない。テオドールは小さくため息をついて、背もたれに深く座り直した。
「手」
「て?」
「到着するまで手を握っていて欲しい」
「そんなことでいいの?」
「そんなことじゃないよ。俺にはすごく意味があるんだ」
「……?」
よく分からないけれど、それで良いならば簡単なことだ。私はテオドールの手に自分の手を添えて、少し力をこめた。
王妃様達が来てから、テオドールに触れることはほとんどなくなった。一度抱きしめられてそのまま眠ったことがあるくらいで、添えるだけでなく手をしっかり握るだけでも久しぶりだと思ってしまう。
(安心する)
テオドールの手は私の手よりずっと大きい。握り返してもらうと、その力強さに安心して、何があっても大丈夫だと思える。
(大好き)
心の中で、自然とその言葉が浮かんできた。いつも後ろめたさや自虐的な気持ちが邪魔をして、自分の心の中ですら素直に自分の気持ちを吐き出すことが難しかったのに、こぼれ落ちてしまった。
大切だとか、幸せになって欲しい、笑顔をみたい、一緒にいると安心する、と色々な気持ちを抱いているけれど、一番単純な言葉にすると私はただテオドールが好きだ。そう思うと急に手を握っていることが恥ずかしく感じて、つい手を引こうとしてしまった。テオドールは離してくれなかった。
「前になんでもするって言わなかったか?離さないでくれ」
どこか必死ささえ感じる声で、テオドールが呟いた。以前私はそんなことを言って、その時はテオドールに他人に”なんでもする”は言ったらダメだと怒られた。
私は2回頷いて、手を繋いだまま座席に深く座り直した。
(本当にそう思ってるから言ったんだよ。勢いで言ったわけじゃない)
*
馬車が止まって、到着したのは全く何もない森の中だった。テオドールの故郷までは歩ける距離で、見慣れない馬車や馬がいきなり近づくと警戒されるから、認識阻害魔法を使って目立たないようにして、徒歩で訪れるようだ。
マリアは馬車と馬の見張りで残り、テオドールと二人で村まで歩くことになった。小枝や石が落ちて歩きにくい道を進み、少し行ったところで小さな木製のゲートに囲まれた集落が目に入る。村というよりは小さな集落と表現したほうが良さそうなくらいのこじんまりとした場所だ。似たような形の家々が並んでいる。
「ここ……?」
「ああ。本当に何もないだろ?人が住んでるだけの場所だ。15年も経つのにまるで変わってないな」
一応ゲートのところに人が座っている。テオドールが近づくと、退屈そうに視線を向けた。ふっと興味がなさそうに視線を外したと思ったらまたすぐ視線を戻し、それから目を丸く見開いた。
「テ、テオ……?」
「ああ。久しぶりだな。母さんの墓参りに行きたいんだけど、入っていい?」
「あ、ああ。もちろん……そっちは……」
「俺の奥さんだよ」
「第三王女のエリーナ殿下……?」
「なんだ、こんなとこまで噂が回ってんのか。そうだよ。お忍びだから人は呼ばないでくれ」
私は門番らしき彼に軽く会釈をして、木製のゲートを越えた。ふわ、と温かい感じがする。
「結界?」
「ああ。この辺は治安が良くないから、俺が出て行く前に騎士団長が簡易結界を張ってくれたんだ。一応メンテナンスしておくか。ちょっと待っててくれるか?」
「うん」
テオドールは門のところにいた男性に声をかけると、ゲートに手をかざして何か呟いた。村の上空に青白い魔法陣が展開されて、一瞬光って消えた。
「きゃあっ」
空を見上げていた村人が何人か悲鳴をあげたのが分かった。彼女達はなにか得体の知れないものを見るように私とテオドールに怯えた視線を投げている。集まってひそひそと囁きあい、逃げるように家の中に戻って行った。
この村出身の、国の英雄に向ける顔ではない。
「やべ……村長に声かけてからの方がよかったか。まあいいか、どっちでも同じ反応するし」
テオドールは戻ってくると村人が消えた方向に申し訳なさそうな顔を向けた。
「村の人にはあまり魔法には馴染みがないの?」
「ああ。ただの村に入る口実だったけど、一応墓参りしてもいいか?」
「うん」
テオドールに付いて中央の道を歩く。皆遠巻きにテオドールを見て、多分顔も名前も分かっているだろうに話しかける人はいなかった。どこか怯えさえ含んだ視線が刺さってくる。テオドールはそれを意に介さない様子でスタスタと進んで、小さな教会と、墓標が並んだ広場に出た。
「教会と墓地だよ。ただ母さんは疫病で死んだから遺体は燃やされてて、ここは名前が刻まれてるだけだ」
教会の敷地に入り、少し進んだところで平たい白い石の前で足を止めた。ヨハンナ・グレイソンという名前と、享年が刻まれている。亡くなったのは7年前のようだ。
「こっちが父親」
テオドールは隣の墓石を指さした。父親の方は、16年前に亡くなっている。
テオドールの家族について私が知っていたのは、親しい人で彼を”テオドール”と呼ぶのは母親が彼を叱る時だけだ、という情報だけだ。亡くなっていることも知らなかった。
「父さんは酔っ払って例の近くにある泉に顔を突っ込んで死んだんだよ。別に生活用水じゃないけど、子どもたちの遊び場だったのに人が死んだなんて最悪だろ?あん時は、俺も母さんも肩身が狭くなってふざけんなって思った」
「そ、そうなんだ……」
何でもないことのように言われて反応に困ってしまった。テオドールの父親の死因が原因となって、村に居づらくなってしまったことが外に出た理由なのだろうか。実際に見た方が早いと言っていたのは、この村のよそよそしい雰囲気と、お墓を見せてくれようとしたのだろうか。
寂しい理由に胸が苦しくなって、私は思わずテオドールの手を握った。
「エリーナ?」
「何でもないことみたいに言わないで」
「ごめん。あんたが悲しむことじゃないよ。もう15年以上前の話だし、もう散々墓に文句を言った後だから、どう思ってるとかでもないんだ」
テオドールは申し訳なさそうな顔をしていた。
「さて……ついでの用事も済ませたし、本題だな。近くにテシアンデラの花が咲いてるところがあって、俺が見せたいものもそこにあるんだ。まだ少し歩くけど大丈夫だよな?」
「うん」
テオドールが見せたいものはこの墓標ではなかったらしい。私は頷いて、またテオドールの後に付いて歩いた。
「テオ!」
「……?」
元来た道を戻っていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、腕に小さな子どもを抱えた女性が立っていた。
「……ミア?」
ミアと呼ばれた女性が駆け寄ってきた。
「戻って、きたの……?」
「母さんの墓参りに来たんだ。神父様に勝手に中に入ってごめんって伝えておいてくれ。足跡ついてるけど墓荒らしじゃないよ」
ミアが頷き、私に目線を向けた。私は軽い会釈を返す。
「第三王女のエリーナ殿下だ。ここにいたって言いふらさないでくれると助かるよ。さっき空が光ったのは結界のメンテナンスで強化しただけで、もう帰るから心配しないでくれ。皆に怖がらせて悪かったって伝えておいてくれるか?じゃあ」
ミアはまだテオドールと話がしたそうだったけれど、テオドールは背を向けて歩き始めてしまった。
「ま、待って!テオ、あの……ごめんね!」
ミアがテオドールの背中に向かって叫ぶ。テオドールは足を止めて、気遣うように笑った。
「ミアが謝ることじゃないだろ。……顔みせて悪かった。もうここには2度と戻ってこないから、安心してくれ。元気でな」
ミアはまだ話が終わっていないような顔をしているのに、テオドールはもう振り向くこともなくて、木製ゲートに向かって歩いて行ってしまう。結界を超えると、ヒヤリとした風が吹いた。テオドールが歩きながら早口で話す。
「ミアは俺が村を出ることになったのが自分のせいだと思ってるはずだけど、そういうわけでもないんだ。出てく前に伝えたんだけどな……これも後で話すよ」
テオドールは、早足で前に進んでいってしまう。追いかけるために小走りになると、ぴたりと足を止めた。それからゆっくりと息を吐いた。
「……悪い。平気だと思ってたけどやっぱりちょっと動揺してるな。視線が意外と堪える。今あそこに行ってもあんたに話せないかもしれない。ごめん」
「テオ……」
私はテオドールの手を握った。
「馬車に戻って休む?無理に話さなくて大丈夫だよ。また別の機会でもいいし、一生話さなくてもいいの。テオが話したいって思ったら聞くし、そうじゃないなら私には何も言わなくていいよ」
「でも……」
「テオ、ちょっとそこにしゃがんで」
乾いた地面を指差すと、テオドールはゆっくり座り込んだ。私も膝立ちで足を付き、テオドールの首元に腕を回して、抱きしめた。
「そんな辛そうな顔して欲しくない。大丈夫だよ。何も説明なんかしなくていい。村を見たかったのも、テオが入団したきっかけを聞いたのも、テオのことが知りたかっただけ。言いたくないことを無理に話して欲しかったわけじゃないの。もう王都に帰ろう?」
「……」
テオドールはゆっくり私の背中に手を添えた。
「ルビー様が……」
「うん」
「俺のことを人殺しで成り上がった人間だって言ったよな」
「うん。ひどいことを言ってたね」
「ひどくない。事実だ」
「……!」
「俺は人を殺して評価されてきた人間だ」
テオドールの声は静かだった。
「だと、しても……私は、テオの過去は、アーノルド騎士団長から聞いて、私が遊んでる間に国にずっと貢献してきたってことしか知らない。テオの一番近くにいた騎士団長がそう言ってる。ギルベルトおじさまも国を救った英雄だって言ってたし、お父様も、国民の皆がテオを祀り立ててるって言ってたから、たくさんの人を助けたってことでしょ。それが悪いことなの?王妃様もテオの功績は理解してるって言ってたよ。4対1だし……偉い人がそう言って評価してるんだから、絶対後ろめたく思う必要ない。間違ってるのはルビー様だよ」
「……こんな時に多数決か。それにひどい権威主義だ」
テオドールの声には呆れたような笑い声が混じっていた。それが泣いているように聞こえて、胸がぎゅっと握られたように苦しくなった。
「だって……他に、なんて言ったらいい?孤児院のみんなも、テオのこと英雄だって言ってるよ」
「……あんたはどう思ってる?他の人間の評価なんかどうでもいいよ。あんた、俺のこと怖がってただろ。俺は一度に千人単位で人を殺せるし、騎士団長に言われたら理由も聞かずにやるし、それでいちいち心を痛めることもない。それでも俺のそばにいられるか?いつか殺されるかもって思わないか?」
私がテオドールに触れられるのが怖かったのは、テオドール自身のことを怖がっていたからではない。私の態度のせいでずっと誤解を受けていたことが分かって、申し訳なくて胸が痛んだ。
「私……私は、」
「……ごめん。やっぱり、答えなくていい。今あんたの回答を聞いたら立ち直れなくなりそうだ」
テオドールが私の背中から手を離した。体温が離れるのが分かって、それを繋ぎ止めるために慌てて両手を握った。
「ま、待って!怖いわけないよ。わ、私が怖がってたのは、別のことで……テオの過去は関係ないの。全部私の問題なの。誤解させてごめんね。テオが過去何をしてたか私は詳しく知らないけど、私にとっては一緒に過ごした時間が全部だよ。優しくて、お人好しで、時々意地悪で、口喧嘩しても絶対勝てなくて……いつも私のことを助けてくれるテオが全部なの。いつか殺されるかもなんて思ったこと1回もないし、もし……もしテオが私のこと殺そうとしても、怖くない。テオだったらいいよ。何でもするって言ったでしょ。本当に何でもだよ。命でもいい。今殺されても恨まないよ」
テオドールは目を見開いた。それから呆れたように笑った。
「それは、言い過ぎだよ……あんたは本当に、極端だな」
「でも、本当にそう思ってるから……」
テオドールが私の手を取ったままゆっくり立ち上がった。私も一緒に立ち上がる。少し見上げる位置にある顔をじっと見つめると、テオドールは少し困ったように微笑んだ。
「ありがとう。そこまで言われたら、元気出さないとな。でも命は大事にしてくれ」
「うん。あのね、気持ちが落ち着くまで無理しなくていいよ。元気じゃなくてもいいんだよ」
「……俺が一番怖かったのは、あんたから拒絶されることだよ。それを心配しなくていいならもう大丈夫だ。このまま歩きながら話していいか?やっぱり、自分の口で話しておきたい」
「いいの?」
「ああ」
手を繋いだまま、足場の悪い道を進んでいく。時々私が小枝や小石に引っかかりそうになると、テオドールはいとも簡単に手を引いて私を助けてくれる。いつもそうだ。私が転びそうになったり辛いことがあったりすると、さっと手を貸して、安全に歩けるようにしてくれる。
(私は、テオのこと助けられてるのかな。心を軽くできた……?)
さらに進んでいくと、目の前に真っ白い空間が広がっていた。水平線でパッキリと白と青に別れた光景が、ずっと続いているように見える。
「わぁ……!」
すごく幻想的だ。
「あ、エリーナ待て。そこは足場が……」
一歩足を前に出すと、思ったような平な土地ではなくて足が沈んだ。
「きゃあっ!」
「エリーナ」
ずるっと滑り落ちて、花の上を滑り、くぼみになったところで停止した。一面が白い花だらけで、仰向けに寝転んでいると甘い香りも漂ってくる。
「大丈夫か?!」
テオドールは転ばずに上手く降りてきた。
「う、うん。すごいね、ここ。大きな穴みたいになってるんだね」
イメージとしては隕石でも落ちてきたかのように、全体が大きな穴のようになっている。そこにびっしりと白い細かい花が咲いていた。
「これがテシアンデラ?」
「そうだよ」
「どうやって蜜を吸うの?」
「こうやって花びらを1枚ずつとって、色が変わってるところを口に入れる」
言われた通りにやってみると、ほのかに甘い香りがした。
「全然お腹がいっぱいにならない気がする」
「そうだよ。甘いだけで腹の足しにはならないんだ」
「なんだかちょっと青臭いね」
「王都で菓子を食べてるとそうだな。昔は他に甘いものなんかなかったから美味しかったけど、今舐めるとわざわざやりたいことでもないな……」
初めて味わった花の蜜は、味としてはすごく良い思い出にはならなかったけど、テオドールと一緒に一面が白の美しい景色を見て、彼の故郷を知れたことは、一生忘れないだろうなと思った。
「この穴が、俺が村を出た原因だよ」
「え?」
「ここは……60人くらいの人間が埋まってる。埋まってるというか、消し飛んだというか……」
びっくりしてテオドールを見ると、テオドールは困ったように笑った。
「引くだろ。これが村の人間が俺を見て怯えてた理由だよ。この辺は、元の領主の息子兄弟が管理してる土地のちょうど境界線あたりになってるんだ。二人は賭け事が好きで、よく土地を賭けてたから、しょっちゅう領主が変わるんだ。税率も変わるし、あっちに納めたはずなのにこっちに納めてない、なんて話になって納税が2倍になったりして、村はよく苦しい状況に置かれてた。近くの村に逃げても同じだし、逃げたって知られたら大変だからさ……ここにいるしかなかった」
テオドールが、貴族の都合に振り回されたくないと言っていた理由が分かった。生まれ育った故郷がそういう状況では、権力を悪だと思うのは自然な流れだろう。
「ある時、さっきのミアがいなくなって……俺の幼馴染なんだ。村の同い年ぐらいの人間は全員幼馴染で仲が良かったのが5人いるんだけど、ミア以外の皆で探しに行った。そしたらさ、この先の隣の村の中に帝国軍がいて。その時は帝国軍なんて知らないから、よく分からない武装した人間だから山賊か何かだと思って……山賊があんなにいい身なりしてるわけないけどな。ミアをさらったのが分かったから助けに行ったんだ。もちろん何もできないまま捕まった」
テオドールは過去を思い出すように遠くを見つめている。
「兄弟のうちの弟の方が、賭けで担保にするものがなくなったからって、隣の村人を帝国軍に売ろうとしてたんだよ。名前もあるようなないような村ばっかりだし、数人減っても大丈夫だろうって……で、俺たち6人とも捕まってて、何もできないけど元気なガキだから一緒に売ろう、でも6人も一緒に消えたら流石に子爵を越えて上の伯爵に声がかかったら困るし、村を丸ごと消すか……って」
あまりにも気軽に命が扱われていてゾッとしてしまった。
「その後のことはよく覚えてない。ここは元々小さい丘だったけど、起きたらくぼみになってた。俺はアーノルド騎士団長に保護されて、弟の方は帝国軍と繋がってた罪で捕まって全部兄の領地になったから、今は村は結構安泰だ。事後処理は全部アーノルド騎士団長がやってくれたから詳しく知らないけど、俺は第三騎士団の指揮下でこの辺で好きなことをしてた帝国軍の討伐に協力したってことになってて、その功績で騎士団の所属になった」
テオドールは一気に話終えて、息を吐いた。
「アーノルド騎士団長がたまたまこの地域に遠征に出てなかったら、俺はただ魔力を暴走させて帝国軍を殺して、戦争の引き金になって終わってた。すごくラッキーだったんだ。これが俺が入団したきっかけだよ」
テオドールが自分の手を私に差し出した。
「具体的になるとどうだ?今は訓練したから、できることはこんな規模じゃない。とんでもない男と結婚したって気付いたか?」
私のことを突き放すような笑みに胸が痛くなった。私はテオドールの手を取って、それを自分の心臓の辺りに当てた。
「……!」
手のひらの温かさが伝わってくる。なんと言葉をかけていいか分からない。テオドールが自分のことを大切にしてくれないことがすごく悲しくて、視界が滲んでしまう。わざと自分を傷つけるような言葉選びを聞きたくない。
「ほんと、あんたはやることが極端だな……泣くなよ」
テオドールが親指で私の涙を拭った。そのまま少しだけ顔が近付く。私は身を任せるように目を瞑って、唇が重なることを期待した。
テオドールは私の頬を撫でるだけで、それ以上距離が縮まらない。
「テオ」
「……」
私は辛抱ならずに目を開けた。頬に触れていたテオドールの指を唇まで持ってきて、じっと目を見つめる。
テオドールは鈍感じゃない。私が見惚れたり照れたりしたらちゃんと気付く。私の意図はちゃんと伝わってるはずなのに、応えてくれてない。
腕に触れて、ぐい、と服を引くと、ようやく距離が縮まって、躊躇いがちに唇が優しく重なった。
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