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35. エリーナへ
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エリーナへ
16歳のお誕生日おめでとう。
素敵なデビュタントを飾ることができたかしら。
本当は、1年に1通手紙を残そうと思っていたのだけど、願掛けすることにしたの。手紙じゃなくて、毎年私が直接貴女の誕生日をお祝いできるように、願いを込めて書いているわ。
このお手紙と一緒に、私が貴女と同い年の時に身につけた宝石を受け取ってね。1年以上かけて探し抜いた本当にお気に入りのもので、貴女に絶対似合うと思う。
まだ顔も見たことないのに、自信満々でおかしい?
でも、貴女は私にそっくりに生まれてくるはず。私はすごく第六感が鋭いの。絶対当たっていると思うな。
シャルロッテには、結婚式で身につけた宝石を送ろうと思ってるの。どっちがいい、なんて喧嘩しないで。私の勘が貴女にはこっちの方が似合うって言ってる。
ねぇ、私のデビュタントの思い出を聞きたい?聞きたくなくても話しちゃうけどね。
あの日、私はドレスも宝石も全部お気に入りで、今までで一番綺麗に着飾ってもらって、すごく楽しかったわ!皆私のことを見ている気がしたし、両親もとても誇らしげだった。
その中で一人だけ、私のことをすごく睨んでる人がいたの。
せっかくお城に呼ばれて、見たこともないくらいたくさんの、同い年くらいの子がたくさんいて、本当にワクワクしてたのに、なんて顔で見てくるのかしらって思ったわ。
それが貴女のお父様。王太子って次の国王陛下になる方でしょ?皆に好かれなきゃいけないのに大丈夫かしらって心配になっちゃった。
でもね、後で分かったんだけど、お父様は私に一目惚れしてたのよ!笑っちゃうでしょ?あんな顔で睨んでたら、誰も振り向いてくれないと思うけど……本当におかしい。思い出すといつもお腹が痛くなるくらい笑っちゃうの。
もちろん貴女が生まれたんだから、誰もお父様を選ばないなんてことはなかったわ。
どうして好きになったのか知りたい?
私ね、この話をベッドで貴女とシャルロッテとこそこそ話したいの!本当に楽しみ!布団を被って囁き声で話すのってどうしてあんなに楽しいのかしら。その時まで取っておきたい気もするけれど、別に何回同じお話をしてもいいわよね。
お父様は、笑った顔がとても可愛いの。
いつもは眉間に皺を寄せているけど、すごく控えめに笑う時があって、それであっさり好きになっちゃった。私って惚れっぽいのかも。
もしお父様が貴女の前で難しい顔をしていたら、その小さな手で……16歳じゃもう小さくはないわね、貴女の指で眉間の皺をぴんって弾いてあげて。びっくりするだろうけど、きっと笑ってくれると思う。
私の前でだけ笑うところが好きだけど、シャルロッテと貴女には、特別に分けてあげる。
男の人が自分の前でしか見せない可愛い顔があるのって、すごくグッとくると思うんだけど、どう?16歳になる頃には、貴女にもそういう人がいるかな。絶対教えて。お母様と貴女だけの秘密でもいいわよ。私は身分のこととか、節度あるお付き合いとか、絶対言わない。この手紙を読んだら分かるでしょ?
エリーナ、貴女は毎日何をして過ごしてる?お部屋で過ごすのが好き?外で過ごすのが好き?一人で本を読むのと、人と話すのと、どっちがお気に入りの時間なのかしら。
貴女がどんな時に笑って、どんな時に泣くのか知りたい。心が動かされた瞬間や、怒りで涙が止まらない時、そばにいて話を聞いてあげたい。貴女にとって私やお父様より大切な存在ができるまで、一番近くにいてあげたい。
そんな簡単なことが、私にはできないかもしれない。
貴女に寂しい思いをさせていたら、本当にごめんね。でもその時は、私の代わりに、たくさんの人が周りにいてくれるはず。
貴女にとって代わりのいない存在でいたいとも思うけど、それよりも、私のことなんて思い出す暇がないくらい貴女がたくさんの愛に囲まれて過ごしていますように。大きな怪我や病気もなく、いつも笑顔で過ごせていますように。
食べ物の好き嫌いがあってもいいし、マナーなんてよく分からなくても大丈夫よ。私はスープに入っているグリーンピースが大嫌いだから絶対手をつけないの。でも困ったことなんか一度もない。
貴女自身と、貴女の周りにいる人を大切にして、できるだけ笑顔で過ごして。
時々お母様のことも思い出してくれたら嬉しいな。
貴女のお母様より 愛を込めて
追伸
実はこの手紙は、179通目なの。何回書き直しても貴女に言いたいことが全部書ききれない気がしちゃう。本当は全部私の言葉で貴女に直接伝えたい。だからこの手紙は願掛けにすることにしたの。
毎年貴女の誕生日を、皆で一緒に祝おうね。エリーナ、貴女に会うのが本当に楽しみ。
16歳のお誕生日おめでとう。
素敵なデビュタントを飾ることができたかしら。
本当は、1年に1通手紙を残そうと思っていたのだけど、願掛けすることにしたの。手紙じゃなくて、毎年私が直接貴女の誕生日をお祝いできるように、願いを込めて書いているわ。
このお手紙と一緒に、私が貴女と同い年の時に身につけた宝石を受け取ってね。1年以上かけて探し抜いた本当にお気に入りのもので、貴女に絶対似合うと思う。
まだ顔も見たことないのに、自信満々でおかしい?
でも、貴女は私にそっくりに生まれてくるはず。私はすごく第六感が鋭いの。絶対当たっていると思うな。
シャルロッテには、結婚式で身につけた宝石を送ろうと思ってるの。どっちがいい、なんて喧嘩しないで。私の勘が貴女にはこっちの方が似合うって言ってる。
ねぇ、私のデビュタントの思い出を聞きたい?聞きたくなくても話しちゃうけどね。
あの日、私はドレスも宝石も全部お気に入りで、今までで一番綺麗に着飾ってもらって、すごく楽しかったわ!皆私のことを見ている気がしたし、両親もとても誇らしげだった。
その中で一人だけ、私のことをすごく睨んでる人がいたの。
せっかくお城に呼ばれて、見たこともないくらいたくさんの、同い年くらいの子がたくさんいて、本当にワクワクしてたのに、なんて顔で見てくるのかしらって思ったわ。
それが貴女のお父様。王太子って次の国王陛下になる方でしょ?皆に好かれなきゃいけないのに大丈夫かしらって心配になっちゃった。
でもね、後で分かったんだけど、お父様は私に一目惚れしてたのよ!笑っちゃうでしょ?あんな顔で睨んでたら、誰も振り向いてくれないと思うけど……本当におかしい。思い出すといつもお腹が痛くなるくらい笑っちゃうの。
もちろん貴女が生まれたんだから、誰もお父様を選ばないなんてことはなかったわ。
どうして好きになったのか知りたい?
私ね、この話をベッドで貴女とシャルロッテとこそこそ話したいの!本当に楽しみ!布団を被って囁き声で話すのってどうしてあんなに楽しいのかしら。その時まで取っておきたい気もするけれど、別に何回同じお話をしてもいいわよね。
お父様は、笑った顔がとても可愛いの。
いつもは眉間に皺を寄せているけど、すごく控えめに笑う時があって、それであっさり好きになっちゃった。私って惚れっぽいのかも。
もしお父様が貴女の前で難しい顔をしていたら、その小さな手で……16歳じゃもう小さくはないわね、貴女の指で眉間の皺をぴんって弾いてあげて。びっくりするだろうけど、きっと笑ってくれると思う。
私の前でだけ笑うところが好きだけど、シャルロッテと貴女には、特別に分けてあげる。
男の人が自分の前でしか見せない可愛い顔があるのって、すごくグッとくると思うんだけど、どう?16歳になる頃には、貴女にもそういう人がいるかな。絶対教えて。お母様と貴女だけの秘密でもいいわよ。私は身分のこととか、節度あるお付き合いとか、絶対言わない。この手紙を読んだら分かるでしょ?
エリーナ、貴女は毎日何をして過ごしてる?お部屋で過ごすのが好き?外で過ごすのが好き?一人で本を読むのと、人と話すのと、どっちがお気に入りの時間なのかしら。
貴女がどんな時に笑って、どんな時に泣くのか知りたい。心が動かされた瞬間や、怒りで涙が止まらない時、そばにいて話を聞いてあげたい。貴女にとって私やお父様より大切な存在ができるまで、一番近くにいてあげたい。
そんな簡単なことが、私にはできないかもしれない。
貴女に寂しい思いをさせていたら、本当にごめんね。でもその時は、私の代わりに、たくさんの人が周りにいてくれるはず。
貴女にとって代わりのいない存在でいたいとも思うけど、それよりも、私のことなんて思い出す暇がないくらい貴女がたくさんの愛に囲まれて過ごしていますように。大きな怪我や病気もなく、いつも笑顔で過ごせていますように。
食べ物の好き嫌いがあってもいいし、マナーなんてよく分からなくても大丈夫よ。私はスープに入っているグリーンピースが大嫌いだから絶対手をつけないの。でも困ったことなんか一度もない。
貴女自身と、貴女の周りにいる人を大切にして、できるだけ笑顔で過ごして。
時々お母様のことも思い出してくれたら嬉しいな。
貴女のお母様より 愛を込めて
追伸
実はこの手紙は、179通目なの。何回書き直しても貴女に言いたいことが全部書ききれない気がしちゃう。本当は全部私の言葉で貴女に直接伝えたい。だからこの手紙は願掛けにすることにしたの。
毎年貴女の誕生日を、皆で一緒に祝おうね。エリーナ、貴女に会うのが本当に楽しみ。
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