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31. 母の言葉
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私は王妃、ルビーと向き合う形でマリアとともにソファに腰掛けている。ルビーは甘い香りが漂う香合に魔力を注ぎながらため息をついた。
「まさかグレイソン副団長が帰っていると思いませんでした。念のため持って来てよかった」
ルビーが香合の上を手で仰ぎながら、首を傾げる。
「あら、反応しませんね……てっきり盗聴してると思ったのに。そこまでの度胸はないのかしら」
なんだかよく分からないが、なんとなくテオドールが侮辱されていることは分かった。
王妃がため息をついた。
「ルビー、屋敷の主人を中傷するのはやめなさい。今はエリーナの夫でもあるのよ」
ルビーはむっとした顔をした。年齢の割に幼い表情をする人だ。
「王妃様、お言葉ですが騎士団では盗聴なんか日常茶飯事なんですよ?騎士団長たちはお互い腹の探り合いをしてて、各騎士団に自分の息のかかった人間を潜り込ませて情報収集までしてるんです。グレイソン副団長だって息をするように盗聴してるに決まってるじゃないですか!私の魔力じゃ彼の魔法は妨害できないからわざわざ父からこれを借りて来たくらいで、むしろ褒めていただきたい話です」
「あ、あの……!」
ルビーに声をかけると、彼女は目線を上げた。
「なんですか、殿下?」
「……さ、さっきから、テオドールのことを侮辱するのはやめて。今日の話は私が後で共有すると伝えてます。盗聴なんてしません」
ルビーは目を丸くして私を見た。それから訝しげに目を細める。
「殿下……手をお借りしてもよろしいですか?」
「……?」
ルビーが私の横に回って、両手を差し出してきた。この流れは何度か経験したことがあり、本人であることを疑われているのだと分かったので大人しく手を重ねる。
「ご本人のようですね……。舌は」
何か言われる前に口を開けると、ルビーは一瞬目を見張り、それから私の口を確認して自分の席に戻った。
「王妃様、殿下は少し雰囲気が変わったようですがご本人です。話を続けましょう。そうだわ、本題に入る前に私と貴女に術をかけないといけませんね。今日の話は口外なしでお願いします」
ルビーはマリアに視線を向けると、何か文字の書かれたリボンを取り出して、自分の手に結んだ。
「口外すると息が詰まって死にますから、お互い気をつけましょう」
マリアに向かってそのリボンを差し出す。なんでもないことのように言われて反応が遅れてしまった。
「えっ……ち、ちょっと待って。そんな危ない魔法……」
ルビーが首を傾げる。
「……?危なくないですよ。話さなければいいだけだし、主人の秘密を守れない侍女なんか殿下にふさわしくありませんから、死んだ方がいいと思います」
「えっ?!あの、マリアの命を軽く扱うのはやめて!私は彼女を信頼してるから、口止めなんか……」
ルビーと言う女性の価値観が理解できず、つい叫んでしまった。私の大切な人を二人とも傷つけて何とも思っていないことが許せなくて、もう話を聞きたくないと思ってしまう。先ほどから信じられないことを当たり前のように言われて、咄嗟の反応ができない。
マリアが私のことを制止した。
「殿下、個人的には嬉しいですが、大切な話をする時に従者に口止めするのは当たり前ですから気にしないで。ちなみにルビー様、私の父は腹の探り合いで忙しい騎士団長の一人で、その上精神干渉魔法が得意なのですが、無理やり頭を覗かれても喋ったうちに入るんですか?」
マリアはにこにこしながら質問した。ルビーが首を横に振る。
「覗けないので心配いりません。これは精神干渉魔法を防ぐためにできた魔法です。万が一成功したらどうなるのかしら……保証できないから、父君に姑息な手段で情報を引き出さないように伝えておくほうが良いでしょうね」
ルビーはマリアの腕にリボンを結ぶと、なにか耳慣れない言葉を呟いた。リボンに書かれた文字が肌に馴染み、リボンそのものは燃えるように消える。
マリアが顔を歪めて手を引っ込めた。
「……っ!」
「大丈夫?!」
「大丈夫です。ちょっと熱くて……面白い魔法ですね」
「ごめんなさいね。痕にはなりませんし、文字もすぐ消えますから安心してください。さて、やっと本題に入れます」
本題になる前に私はすっかり疲れていて、もう話を続けたくないという気分だ。ルビーが王妃に目を向けると、王妃が1通の封筒を出してテーブルに置いた。
真っ二つに裂かれた白い封筒だ。続いて、薄紫色の、同じく破れた便箋が隣に並ぶ。
「これは……」
封筒にも便箋にも見覚えがあった。私がユリウスに宛てたものだ。
テオドールは手紙を真っ二つに破られたとは言ってなかった。中身を読んでもらえたことと、直接言うようにと言うユリウスのメッセージだけを届けてくれた。その時ユリウスが手紙を破ってしまったのだろう。
(テオって、ちょっと過保護なところあるかも)
私は読まれもせず破られることを想定して本当に自己満足で書いたから、ここまで気を遣われたことに笑ってしまう。
「エリーナ」
王妃の悲しげな声に、はっと現実に戻って来た。
「この手紙に込められた意図を教えてくれる……?」
「……意図と、いうほどのものは……そのままの意味のつもりです」
何か深い意味を込めて書いたわけではない。単純に『また話をしたいです』とだけ書いた。あの日は話をちゃんと聞けなかったから、今度はユリウスの言葉を聞く機会が欲しいと思ったのだ。
王妃は深くため息をついた。
「エリーナ、なんてことを……流石に庇えないわよ……この国の王太子と、ああ……」
深刻そうな表情に、私はようやく自分が誤解を受けていることに気付いた。王妃はこの手紙を女と男の関係として受け取ったのだ。とんでもない。
「王妃殿下、その、もしかしたら誤解されてるかもしれませんが、これは妹から兄に宛てた手紙です。先日お会いした時に私はお兄様の話を全然聞かないで喧嘩してしまったので、ちゃんと家族として会話したいと思っ……」
王妃が首を振った。
「もういいわ。……なんとかするから、お願いだからもう大人しくしていて。本当に、お願い……これ以上エレノア様の名誉を傷つけるような真似をしないで」
絞り出すような悲痛な声だった。エリーナの過去の行いを考えると信じてもらえないのは仕方ないけれど、誤解されたままなのは困る。
「王妃殿下、私本当に……」
ルビーがすかさず口を挟む。
「もう結構です。殿下、ユリウス王太子が庭で貴女を押し倒しているところを見た人間が複数いるんです。私たちは裏を取りにきただけですから。……手紙を見つめる顔を見れば分かります。この件は持ち帰って対処を考えさせていただきますから……もう、貴女のせいで今度は何人辞めることになるやら!留学中でこれ以上間違いは起こらないからいいものの……本当に、もう……王妃様の御心と城の風紀をこれ以上乱さないでください!」
「あの、でも私本当に……」
「エリーナ殿下とユリウス王太子はお互いが気に入らないので取っ組み合いの喧嘩をしてただけですよ。ねぇ、殿下?」
マリアが助け舟を出してくれたので、私は勢いよく頷いた。王妃とルビーは顔を見合わせ、ルビーがため息をついた。
「サンドラ子爵夫人、貴女は男性と本気で取っ組み合いの喧嘩をしたご経験があるかもしれませんが、普通男女は勝負にならないんです。嘘をつくならもう少しマシな嘘を考えてください。王妃様の前ですよ?」
「そう言われても本当のことなので誤魔化しようがないです。殿下が勝ったんですよ。それに、何か誤解されてるみたいですが、私は取っ組み合いの喧嘩なんてしません」
マリアがきっぱり言い切ると、ルビーは疑わしげに私とマリアの顔を見つめた。私は恐る恐る頷いた。ユリウスは勝敗については抗議するかもしれないが、嘘は言ってない。
「……まぁ、いいです。どうせすぐ分かることだわ」
このまま潔白を信じてもらえないと最悪死罪だ。緊張感のある空気が流れ、どうしたら信じてもらえるのかと緊張しながら考えていると、外からのノックで妨害された。
「お茶の準備ができたのでしょう。受け取ってください」
ルビーの声かけでマリアが立ち上がり、外にいたセアラからワゴンを受け取る。
ポットカバーを外して4人分をティーカップに注ぎ入れ、テーブルに置くと甘い香りが漂ってきた。
(このお茶……!)
匂いが甘ったるくて、私はあまり好みではない。アーノルドに会うために城を訪れた時、見知らぬメイドが淹れてくれたお茶だ。マリアとルビーが同時にティーカップに手を伸ばし、それぞれ口を近づける。
「マ、マリア……!」
「……?」
マリアが手を止めた。ルビーはそのままお茶を飲み、はぁ、と息をついてソーサーに戻す。そしてそれを王妃の前に移動させた。王妃も毒見の済んだお茶に手を付ける。
お茶は同じティーポットから注がれたもので、ティーカップはこの屋敷のものだ。用意したのはセアラで、注いだのはマリア。何か混ぜると言うのが不可能に思える。
「なんでも、ない」
王妃が用意した茶葉を拒否するなんて失礼でできないし、二人が目の前で先に飲んだと言うことでひとまず信頼することにした。万が一また気絶しても、今はマリアが隣にいて、同じ屋敷にテオドールもいる。目の前にいる王妃とルビーが何か考えがあったとしても、大きなトラブルになるとは思えない。
マリアは一口口をつけ、普段と変わらない様子で私にティーカップを差し出した。
(やっぱり、なんともないんだ。ただお茶の種類が同じだけか、匂いが似てるだけ……?)
特徴的な香りだったから警戒してしまったけれど、問題なさそうだったので私もティーカップに口を付けた。熱い紅茶が舌に触れると、味は前回ほどではないけれど苦く、やっぱり気持ち悪い味だった。
(変な味。なんで王妃様とルビーはわざわざこんな変なもの飲むんだろう)
ごぐ、と嚥下した瞬間、軽い目眩がした。
「殿下!」
手をソファについて、倒れそうになった身体を支える。マリアが私の両方に手を添えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……少しだけ目眩が……大丈夫だよ」
前回とは比べ物にならないくらい軽いけれど、一瞬平衡感覚を失うような心地がした。初めてテオドールと身体を重ねて魔力がコントロールできず、波に揺られてぐるぐる回るような感覚だったものに似ている。自分の中にある他人の魔力が異物になって、暴れている感じた。身体の中の感覚に集中して落ち着くようにすると、気持ち悪い感覚はすぐになくなった。
「あら、……本当に白みたいですね。どうします、王妃様?一旦見守りましょうか」
「……?」
ルビーの発言に引っかかるものがあり、私は濃いピンク色の瞳を見つめた。
「あの……私が、以前城を訪れた時、同じお茶を飲ませたのは王妃殿下ですか?」
「……」
王妃の指が反応した。
「……ええ」
「なぜ……?」
そのせいで私はコーネリアスに迫られて怖い思いをして、城に行くのも怖くなってしまった。一人で出歩くことも警戒するようになった。その犯人がほとんど会話したこともない王妃と言うのは信じられない。
「私が回答します。このお茶は他人の魔力が身体に残っている場合、それを追い出そうとするものです。他人の魔力が強ければ強いほど反応も強力になるわ。今日はそこにユリウス王太子殿下の魔力により反応するように細工してました。それに、この薬は妊娠してると堕胎薬になるから、殿下のお身体を守るために飲ませました。この屋敷は監視が厳しくて混ぜられないし、間に合わないかと思って本当に焦りました!」
「間に合わない……?」
なんの話をしているのか分からない。私の身体を守ると言うのも意味がわからなかった。
「やりすぎですよ」
パリンと音がして、ティーカップが割れた。マリアがカップに魔力を流したようで、中に入っていた紅茶と陶器の破片は、マリアが空気中を指でなぞると消えてしまった。
「結婚している夫人の身体に勝手に堕胎薬を盛るなんていくら王妃様でも許されることじゃないでしょ。陛下が結婚を認めた夫婦に子を堕ろせって言うのはどういう了見なんです?」
マリアが王妃に凄むと、ルビーがそれを庇うように手を伸ばし、鼻で笑った。
「はっ……サンドラ子爵夫人、貴女は殿下と二月も一緒にいないでしょう。私たちは殿下が生まれた時から今までずっと殿下の行動を見守ってきました。殿下がいつどこで誰と何してたか大体把握してるんですよ」
ルビーがちら、と私に目を向けた。
「殿下は結婚二日目に夫の留守中に男妾を呼んで楽しんでらっしゃって……ちなみに先ほど間に合うか気にしていたのは、この男の子を妊娠していた場合の話です。その時グレイソン副団長に見つかって全員解雇されたのは都合が良かったですね。それから二週間以内に王弟のギルベルト様に接触しています。その後城に訪問された時には少なくとも3名の男性と密室で二人きりになり、そのうち一人とは不自然に長時間一緒にいたわ。その後は誰とも接触してないようですが……結婚前はもっとひっきりなしで……危険なものは揉み消すのにどれだけ苦労したか!貴女は殿下に幻想を抱いているようですが、エリーナ殿下は噂通りの方です。それも、私たちが止めきれなかった噂が広まっているのだから、実際はもっと大変な方なんです。分かったら黙って……いいえ、これからは貴女にも協力してもらうから、殿下の正しい姿を目に入れるようにしてください!」
「……」
接触歴については全く身に覚えがないわけではないが、中身を完全に誤解されていて気が遠くなるような思いだ。どこから訂正しようか迷って、私はとりあえずルビーを呼んだ。
「ルビー」
「なんですか殿下?見逃していたら教えてください」
「いえ……あの、私は結婚してからテオドール以外の男性と……その、そういう意味で接触したことは一度もないの。王妃殿下も誤解なさってます」
「まだそんなことを言ってるんですか?お金で男妾を呼んだ記録があります」
「それは、その……」
埒が明かないと思ったので、私は記憶喪失の設定を持ち出すことにした。
「私、結婚当日に頭を強く打って、その前後で過去の記憶が曖昧になっているところがあるんです。そこからは男の人は遠ざけてます。お金で雇っていた方は、迫られて怖くて泣いていたところをテオドールに助けてもらって、全員解雇してもらったの」
「……記憶喪失ということですか?」
「喪失までは……少しその、価値観が変わったところはあるけど……」
「確かにエリーナ殿下らしからぬ雰囲気ですが……そういえば城でもそう言う噂が立っていますね。だとしても何度か男の人に接触してるじゃないですか。それはどう説明するんですか?」
私は過去を思い出しながら話すことにした。
「おじさまは……テオドールと喧嘩して屋敷を飛び出した時に偶然会っただけで、その後は孤児院を訪問するときに紹介してもらってます。城で会ったのは……3人と言うのは?コーネリアスはお茶を飲んで倒れたところを助けてくれたらしくて、テオドールが応急処置をしただけだと確認してます」
「第三騎士団のトーマス・メイソンと、アーノルド騎士団長と、短時間ですが二人きりになりましたね」
「トーマス?トーマス……は、私を応接室に案内してくれただけですぐ出て行ったし、騎士団長はテオドールの代わりに私を応接室に迎えにきてくれて……彼の用件は、私が騎士団長不在の間にテオドールと結婚したことへの忠告でした。2度とテオドールに危害を加えないようにと釘を刺されてます。これでいい?」
「……!」
マリアが反応したのが分かった。騎士団長と話した時のことは誰にも言っていないし、言うつもりもなかったけれど、王妃とルビーを納得させるためには作り話や誤魔化しは話をややこしくするから極力省きたかった。
王妃とルビーはまた顔を見合わせた。ルビーが顔を私の方に戻す。まだ疑わしげな顔をしている。
「……その話をどこまで信じるかは今は決められないですが、少なくともユリウス王太子と行為に及んでいないことだけは確認できたので良いとします。記憶喪失と言われてもいきなりは信じられないわ。この数年、私はずっと殿下に振り回されてきたんです」
ルビーの言葉にまた引っかかるものがあった。
「あの」
「なんですか」
「どうして……どうして、そこまで色んなことを把握していて、止めてくれなかったの……?」
エリーナの周りにいた大人は、誰もエリーナに複数の男の人と関係を持つことの危険性について話してくれなかった。堕胎薬まで用意して陰ながら守るなら、直接止めてくれればいいのに、どうして王妃は私に話しかけてもくれなかったのだろうか。
「止めようとしましたよ!」
ルビーが立ち上がって叫んだ。身体の横で握られた両手の拳が震えている。
「殿下、貴女……貴女!自分が何人侍女やメイドを辞めさせたか覚えてないんですか?私が連れてきた優秀な人間を何人も追い出したじゃないですか!信頼してもらおうと思って優しくしても遠ざけるし、厳しく言う人間は家族を使って脅して黙らせるし、護衛の男性に力づくで止めてもらおうとしたら逆に彼に手を出すし……もう!後は物理的に拘束するか精神病棟に送るか、精神干渉魔法で廃人にするくらいしか思いつきませんでしたよ!殿下の馬鹿!そんなこと……そんなこと、王妃様に選択させるつもりですか?!エレノア殿下の娘の貴女にそんなひどいことしろっていうの?!」
「ルビー」
王妃がルビーを嗜めて座らせた。エリーナの記憶ではそこまで手をかけてもらった記憶が全くない。周りにいる使用人はとにかく気に入らなかったし、少し優しくしてくれた使用人には試すような行動をして、皆最後は離れて行ってしまったようだ。離れないのは、エリーナの身体を気に入ってくれた男の人だけだった。
王妃が私を見つめた。
「私が悪いの。ごめんなさい」
悲しげな瞳から涙が流れた。
「私……私は、エレノア様が貴女を身篭っている時に、陛下のお手付きになって……侍女を外れたの。ずっとそれが、……それが、エレノア様が、私を恨んでるんじゃないかって……私、エレノア様のお身体が悪くなっているのを遠くから見ているだけで……最後までおそばにいられなかった。幼い貴女の顔も……エレノア様にそっくりな貴女の顔を見るのが怖くて……ずっと話しかけられなかった。貴女の言う通り、本当は母として私が直接止めるべきだったと思うわ。……ごめんなさい」
王妃の瞳から涙が落ちて、ドレスにシミを作っていく。私はなんと言ったらいいか分からなかった。
「王妃様は悪くないですよ。国王陛下のせいです。陛下が王室に魔力の強い男子を産むことしか考えてなくて、王妃のことはそのための道具としか思ってないから。エレノア殿下だって、本当はギルベルト様と……」
「ルビー、陛下はご自身の役割を果たしているだけよ。エレノア様のことも推測でものを言うのはやめなさい。それは貴女の願望にすぎないわ」
「え……?」
私は二人の会話をどこか遠くのもののように聞いていた。
「お父様と、お母様は……愛し合っていたんじゃないの?」
幼い子どものような質問が口から出ていた。国王は、前王妃のエレノアにそっくりな娘だから、私の願いを叶えようとしてくれたのだと言っていた。ユリウスは、国王はエレノアの名前を出すだけで悲しそうな顔をすると言っていた。それは全て彼女を愛しているからではないのだろうか。
ルビーが表情のない顔でつぶやいた。
「分かりません。陛下は王太子時代に、元々はギルベルト様の婚約者だったエレノア様を娶りました。エレノア様は公爵家の娘で元々王太子妃候補だったのに、その時は見向きもしなくて、後天的に魔力が非常に強くなってから自分の妃にしたんです。私には愛しているように見えませんでした。エレノア様は……エレノア様は、誰と一緒にいても、どんな時でも、いつも笑っていたから、どなたに心を寄せていたのか私には分かりません。殿下をご出産されて亡くなる直前も、貴女の顔を見て笑ってたわ」
「……」
座っているのに、足元がぐらつくような気持ちになる。
(私……また愛し合ってない両親の元に生まれたの……?)
王妃が、手元から紺色のビロードケースと、真っ白な封筒を取り出した。
「陛下とエレノア様のお考えは、私たちには分からないわ。エレノア様の言葉はここにあるものが全てよ」
私は王妃の手元に目を向けた。
「本当は貴女の16歳の誕生日に渡すはずだったものなの」
ビロードケースを開けると、中には紫色の宝石があしらわれたペンダントとピアスが入っていた。
「エレノア様からのお手紙と、彼女がデビュタントで身につけた宝石よ。手紙は、貴女にしか開けないように魔法で保護されてる。これも、私が……貴女に拒否されるのが、怖くて……渡せなかったの。本当に、ごめんなさい」
王妃からの謝罪は、私の耳にはほとんど入っていなかった。私の目は18年以上前に書かれたにしては真っ白すぎる封筒にだけ注がれていた。
亡くなった母であるエレノアから、エリーナに宛てた手紙。
母からの言葉と言うのは、私にとって胸を温かくしてくれるものではなく、そうであって欲しいと期待していたのにいつも心を引き裂くように裏切られるものだった。
(エレノア前王妃にとって、エリーナは……私は、望まれて生まれたの?)
元婚約者の兄で、魔力を目的に自分を結婚相手に選んだ男。妊娠して体調が崩れてからは見舞いもせずに、自分の侍女に手をつけていた。それがエレノアから見た国王の姿だ。
そんな男の子どもで、自分の体調を悪化されていったエリーナに対して、エレノアがどんな気持ちで手紙を残したんだろうか。
(怖い……読みたくない)
ユリウスのように、半分に切って捨ててしまおうか。もしかしたら良いことが書いてあったかもと期待しているだけの方が幸せかもしれない。
私は机の上に置かれた手紙に、いつまでも手を伸ばせなかった。
*
王妃とルビーを見送り、私はテオドールに二人の用件がユリウスとの仲を確認することであり、潔白が証明できたことを伝えた。
先ほどの部屋にマリアと二人で戻って、ビロードケースと手紙を目に入れる。どこか呆然とした心地のまま、すとんとソファに腰掛けた。
3つになってしまったティーカップとポットは既に片付けられていて、部屋に漂っていた甘い香りも消えている。何事もなかったかのように静かになった部屋に、菫色の宝石と真っ白な手紙だけが異様な存在感を放っているように見えた。怖くて手を伸ばせないのに、目を離すこともできない。
「殿下、こちらは処分していいですよね?」
「え……?」
マリアは、ビロードケースと手紙の横にある茶葉の缶と、細かい種子のようなものが入っている瓶を指差した。
「忌まわしいですね。教会は中絶を禁止してるのに、教皇の娘のルビー様がこんなものを持ち歩いてるなんて誰も信じないだろうな」
茶葉の缶は、4人とも口にした甘い香りの紅茶だ。種子のようなものは妊娠を妨げる効果があるらしく、エリーナが城にいた時は毎日食事に混ぜていたらしい。
エリーナの異性遍歴が派手でも一度も妊娠しなかったのはそれが理由のようだった。
ルビーは『必要ないことを願っているが、万が一のことがあるので置いていく』と言い残した。私の言葉を全てそのまま鵜呑みにするにはエリーナの過去の行いの印象が強烈すぎたようで、マリアに対して、今後は自分達の代わりに私の身の安全を確保するようにと念を押していた。
王妃は最後まで青い顔で俯いていて、『貴女の幸せを願ってる。これは本当よ』と囁くように呟いて立ち去った。
「うん、そうだね。処分を……」
私はマリアに頷いた。もう他の男性と関係を持つことはないし、私は国王陛下の意向でテオドールと子どもを作る必要がある。避妊も堕胎薬も必要ない。
(国王陛下の意向で、子ども……)
そうしなければならないと思っていたから、それ以外の選択肢など考えたことがなかった。自分がとんでもないことをしようとしていたと気付いて、身体が震えた。
「殿下」
マリアが私の手を握る。
「旦那様の子を妊娠していたかもしれないのに、本当に心が痛みますよね。こんな言葉は慰めにもなりませんが、殿下のせいじゃありません。自分のことは責めないで。旦那様も絶対に殿下を責めたりしませんよ」
マリアは痛ましげな顔をしていた。
「マ、マリア……違うの……私」
「……?」
「わ、私……私、お母さんには、なれない……」
マリアは私の手を強く握った。
「大丈夫です。……いえ、もちろん精霊の父しか知らないことだし保証はできませんが、ルビー様はこの2つは長期的に服用しても害はないと確認済みだと言っていたでしょう?殿下も旦那様もまだお若いし、これが原因で母になれないなんて決めつけるのは早いはずです」
私は首を横に振った。
私が心配していたのは薬の副作用とは別のことだ。私は自分が義務だと思っていた行いの結果が誰に1番影響するのか、今日やっと気付いた。愛のない行為には犠牲者がいる。
テオドールは私にとても親切だけど、私たちは愛し合っている夫婦ではない。家族が増えることを心から望んでいるわけではなく、そうしなくていいならしないという選択をする。
今まで母親の愛情を受けたことがなくて、前世でも今世でも愛し合う両親の元に生まれなかった私は、親としてどうやって子どもに接したらいいのか分からない。
私は自分が両親の関係や、残された片親との関係でずっと傷ついて辛い思いをして来たのに、それを、テオドールの子どもに背負わせようとしている。とんでもないことだ。
(私、お父様と同じだ。王室に魔力の強い男の子を産むのが義務だからって、相手のことも、子どものことも考えないで、ただ義務を果たせばいいと思ってた)
私の知っている親は、お母さんと、国王陛下であるお父様だけだ。そのどちらとの思い出も、私の心を引き裂くものばかりで、安心も温かさもない。
お母さんのことを思い出した時、私はテオドールにヒステリックに叫んだ。
ちゃんとして。役立たず。
お母さんに何回も言われた言葉が、無意識に口から飛び出していた。
(同じことをするに決まってる……私、絶対また同じことをする!)
子どもは望まれて生まれてくるけれど、その役割は王室に関係する魔力の強い人間を増やすという一点のみだ。エリーナと同じだ。
(私、テオの子どもを、傷つけるために産もうとしてたの……?)
テオドールのことを幸せにしたいと思ったはずなのに、私がしようとしていることは真逆のことだ。自分の血を引く子どもが愛されず、国王の手札の一つとして、王位継承権の末席も末席に置かれているなんて、不幸以外の何ものでもない。
(なんで私はこんなことにも気付かないの)
テオドールの故郷の村の安全を確保するには国王の意向に沿った行動をするしかないから。私の思考はそこで止まっていた。
ここで逆らったら、国王からまた呼び出されて、なぜ国王の意向に沿った行動を取らないのかとまた詰め寄られ、怒鳴られて、それからテオドールの故郷には何が起きるのだろうか。私には分からない。私には何もできない。私は役立たずだから何もできない。
「でもできない……っ。怖い……私、きっと同じことを……」
「殿下」
マリアが私の肩にそっと手を添えてくれた。私の手もマリアみたいに暖かくて、人を安心させられる手ならいいのに、私にはそれができない。
私は自分で自分の震える身体を抱き締めるのが精一杯だ。他人の手をどうやって温めたらいいか分からない。
テーブルの上にある真っ白な封筒が目に入った。
「マリア、その手紙も……宝石も、見たくない。お母様に関係するものは何も見たくない。思い出したくないの。どこかへ捨ててきて」
「……!分かりました。大丈夫です、殿下。目に入らないようにしておきますから、何も心配しなくて大丈夫」
マリアが手紙を回収して、宥めるように私の背中を撫でる。穏やかな声を聞いていると少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
(……もう見なくていいんだ。大丈夫だよ、エリーナ。貴女はお母さんの言葉で傷つく必要はないからね)
エリーナの心は、本当は中身を見たがってる。もしかしたら愛してると書いてあるかもしれないと期待をしてる。でも私は、母親であるエレノアのことを信じられない。
母親が無償の愛をくれるなんて嘘だ。どんなに心から望んだって、いい子にしてたって、抱きしめてくれたこともない。
これからどうしたらいいかは分からない。ただ手紙が視界から消えたことでほっと肩の力を抜くことができた。
「まさかグレイソン副団長が帰っていると思いませんでした。念のため持って来てよかった」
ルビーが香合の上を手で仰ぎながら、首を傾げる。
「あら、反応しませんね……てっきり盗聴してると思ったのに。そこまでの度胸はないのかしら」
なんだかよく分からないが、なんとなくテオドールが侮辱されていることは分かった。
王妃がため息をついた。
「ルビー、屋敷の主人を中傷するのはやめなさい。今はエリーナの夫でもあるのよ」
ルビーはむっとした顔をした。年齢の割に幼い表情をする人だ。
「王妃様、お言葉ですが騎士団では盗聴なんか日常茶飯事なんですよ?騎士団長たちはお互い腹の探り合いをしてて、各騎士団に自分の息のかかった人間を潜り込ませて情報収集までしてるんです。グレイソン副団長だって息をするように盗聴してるに決まってるじゃないですか!私の魔力じゃ彼の魔法は妨害できないからわざわざ父からこれを借りて来たくらいで、むしろ褒めていただきたい話です」
「あ、あの……!」
ルビーに声をかけると、彼女は目線を上げた。
「なんですか、殿下?」
「……さ、さっきから、テオドールのことを侮辱するのはやめて。今日の話は私が後で共有すると伝えてます。盗聴なんてしません」
ルビーは目を丸くして私を見た。それから訝しげに目を細める。
「殿下……手をお借りしてもよろしいですか?」
「……?」
ルビーが私の横に回って、両手を差し出してきた。この流れは何度か経験したことがあり、本人であることを疑われているのだと分かったので大人しく手を重ねる。
「ご本人のようですね……。舌は」
何か言われる前に口を開けると、ルビーは一瞬目を見張り、それから私の口を確認して自分の席に戻った。
「王妃様、殿下は少し雰囲気が変わったようですがご本人です。話を続けましょう。そうだわ、本題に入る前に私と貴女に術をかけないといけませんね。今日の話は口外なしでお願いします」
ルビーはマリアに視線を向けると、何か文字の書かれたリボンを取り出して、自分の手に結んだ。
「口外すると息が詰まって死にますから、お互い気をつけましょう」
マリアに向かってそのリボンを差し出す。なんでもないことのように言われて反応が遅れてしまった。
「えっ……ち、ちょっと待って。そんな危ない魔法……」
ルビーが首を傾げる。
「……?危なくないですよ。話さなければいいだけだし、主人の秘密を守れない侍女なんか殿下にふさわしくありませんから、死んだ方がいいと思います」
「えっ?!あの、マリアの命を軽く扱うのはやめて!私は彼女を信頼してるから、口止めなんか……」
ルビーと言う女性の価値観が理解できず、つい叫んでしまった。私の大切な人を二人とも傷つけて何とも思っていないことが許せなくて、もう話を聞きたくないと思ってしまう。先ほどから信じられないことを当たり前のように言われて、咄嗟の反応ができない。
マリアが私のことを制止した。
「殿下、個人的には嬉しいですが、大切な話をする時に従者に口止めするのは当たり前ですから気にしないで。ちなみにルビー様、私の父は腹の探り合いで忙しい騎士団長の一人で、その上精神干渉魔法が得意なのですが、無理やり頭を覗かれても喋ったうちに入るんですか?」
マリアはにこにこしながら質問した。ルビーが首を横に振る。
「覗けないので心配いりません。これは精神干渉魔法を防ぐためにできた魔法です。万が一成功したらどうなるのかしら……保証できないから、父君に姑息な手段で情報を引き出さないように伝えておくほうが良いでしょうね」
ルビーはマリアの腕にリボンを結ぶと、なにか耳慣れない言葉を呟いた。リボンに書かれた文字が肌に馴染み、リボンそのものは燃えるように消える。
マリアが顔を歪めて手を引っ込めた。
「……っ!」
「大丈夫?!」
「大丈夫です。ちょっと熱くて……面白い魔法ですね」
「ごめんなさいね。痕にはなりませんし、文字もすぐ消えますから安心してください。さて、やっと本題に入れます」
本題になる前に私はすっかり疲れていて、もう話を続けたくないという気分だ。ルビーが王妃に目を向けると、王妃が1通の封筒を出してテーブルに置いた。
真っ二つに裂かれた白い封筒だ。続いて、薄紫色の、同じく破れた便箋が隣に並ぶ。
「これは……」
封筒にも便箋にも見覚えがあった。私がユリウスに宛てたものだ。
テオドールは手紙を真っ二つに破られたとは言ってなかった。中身を読んでもらえたことと、直接言うようにと言うユリウスのメッセージだけを届けてくれた。その時ユリウスが手紙を破ってしまったのだろう。
(テオって、ちょっと過保護なところあるかも)
私は読まれもせず破られることを想定して本当に自己満足で書いたから、ここまで気を遣われたことに笑ってしまう。
「エリーナ」
王妃の悲しげな声に、はっと現実に戻って来た。
「この手紙に込められた意図を教えてくれる……?」
「……意図と、いうほどのものは……そのままの意味のつもりです」
何か深い意味を込めて書いたわけではない。単純に『また話をしたいです』とだけ書いた。あの日は話をちゃんと聞けなかったから、今度はユリウスの言葉を聞く機会が欲しいと思ったのだ。
王妃は深くため息をついた。
「エリーナ、なんてことを……流石に庇えないわよ……この国の王太子と、ああ……」
深刻そうな表情に、私はようやく自分が誤解を受けていることに気付いた。王妃はこの手紙を女と男の関係として受け取ったのだ。とんでもない。
「王妃殿下、その、もしかしたら誤解されてるかもしれませんが、これは妹から兄に宛てた手紙です。先日お会いした時に私はお兄様の話を全然聞かないで喧嘩してしまったので、ちゃんと家族として会話したいと思っ……」
王妃が首を振った。
「もういいわ。……なんとかするから、お願いだからもう大人しくしていて。本当に、お願い……これ以上エレノア様の名誉を傷つけるような真似をしないで」
絞り出すような悲痛な声だった。エリーナの過去の行いを考えると信じてもらえないのは仕方ないけれど、誤解されたままなのは困る。
「王妃殿下、私本当に……」
ルビーがすかさず口を挟む。
「もう結構です。殿下、ユリウス王太子が庭で貴女を押し倒しているところを見た人間が複数いるんです。私たちは裏を取りにきただけですから。……手紙を見つめる顔を見れば分かります。この件は持ち帰って対処を考えさせていただきますから……もう、貴女のせいで今度は何人辞めることになるやら!留学中でこれ以上間違いは起こらないからいいものの……本当に、もう……王妃様の御心と城の風紀をこれ以上乱さないでください!」
「あの、でも私本当に……」
「エリーナ殿下とユリウス王太子はお互いが気に入らないので取っ組み合いの喧嘩をしてただけですよ。ねぇ、殿下?」
マリアが助け舟を出してくれたので、私は勢いよく頷いた。王妃とルビーは顔を見合わせ、ルビーがため息をついた。
「サンドラ子爵夫人、貴女は男性と本気で取っ組み合いの喧嘩をしたご経験があるかもしれませんが、普通男女は勝負にならないんです。嘘をつくならもう少しマシな嘘を考えてください。王妃様の前ですよ?」
「そう言われても本当のことなので誤魔化しようがないです。殿下が勝ったんですよ。それに、何か誤解されてるみたいですが、私は取っ組み合いの喧嘩なんてしません」
マリアがきっぱり言い切ると、ルビーは疑わしげに私とマリアの顔を見つめた。私は恐る恐る頷いた。ユリウスは勝敗については抗議するかもしれないが、嘘は言ってない。
「……まぁ、いいです。どうせすぐ分かることだわ」
このまま潔白を信じてもらえないと最悪死罪だ。緊張感のある空気が流れ、どうしたら信じてもらえるのかと緊張しながら考えていると、外からのノックで妨害された。
「お茶の準備ができたのでしょう。受け取ってください」
ルビーの声かけでマリアが立ち上がり、外にいたセアラからワゴンを受け取る。
ポットカバーを外して4人分をティーカップに注ぎ入れ、テーブルに置くと甘い香りが漂ってきた。
(このお茶……!)
匂いが甘ったるくて、私はあまり好みではない。アーノルドに会うために城を訪れた時、見知らぬメイドが淹れてくれたお茶だ。マリアとルビーが同時にティーカップに手を伸ばし、それぞれ口を近づける。
「マ、マリア……!」
「……?」
マリアが手を止めた。ルビーはそのままお茶を飲み、はぁ、と息をついてソーサーに戻す。そしてそれを王妃の前に移動させた。王妃も毒見の済んだお茶に手を付ける。
お茶は同じティーポットから注がれたもので、ティーカップはこの屋敷のものだ。用意したのはセアラで、注いだのはマリア。何か混ぜると言うのが不可能に思える。
「なんでも、ない」
王妃が用意した茶葉を拒否するなんて失礼でできないし、二人が目の前で先に飲んだと言うことでひとまず信頼することにした。万が一また気絶しても、今はマリアが隣にいて、同じ屋敷にテオドールもいる。目の前にいる王妃とルビーが何か考えがあったとしても、大きなトラブルになるとは思えない。
マリアは一口口をつけ、普段と変わらない様子で私にティーカップを差し出した。
(やっぱり、なんともないんだ。ただお茶の種類が同じだけか、匂いが似てるだけ……?)
特徴的な香りだったから警戒してしまったけれど、問題なさそうだったので私もティーカップに口を付けた。熱い紅茶が舌に触れると、味は前回ほどではないけれど苦く、やっぱり気持ち悪い味だった。
(変な味。なんで王妃様とルビーはわざわざこんな変なもの飲むんだろう)
ごぐ、と嚥下した瞬間、軽い目眩がした。
「殿下!」
手をソファについて、倒れそうになった身体を支える。マリアが私の両方に手を添えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……少しだけ目眩が……大丈夫だよ」
前回とは比べ物にならないくらい軽いけれど、一瞬平衡感覚を失うような心地がした。初めてテオドールと身体を重ねて魔力がコントロールできず、波に揺られてぐるぐる回るような感覚だったものに似ている。自分の中にある他人の魔力が異物になって、暴れている感じた。身体の中の感覚に集中して落ち着くようにすると、気持ち悪い感覚はすぐになくなった。
「あら、……本当に白みたいですね。どうします、王妃様?一旦見守りましょうか」
「……?」
ルビーの発言に引っかかるものがあり、私は濃いピンク色の瞳を見つめた。
「あの……私が、以前城を訪れた時、同じお茶を飲ませたのは王妃殿下ですか?」
「……」
王妃の指が反応した。
「……ええ」
「なぜ……?」
そのせいで私はコーネリアスに迫られて怖い思いをして、城に行くのも怖くなってしまった。一人で出歩くことも警戒するようになった。その犯人がほとんど会話したこともない王妃と言うのは信じられない。
「私が回答します。このお茶は他人の魔力が身体に残っている場合、それを追い出そうとするものです。他人の魔力が強ければ強いほど反応も強力になるわ。今日はそこにユリウス王太子殿下の魔力により反応するように細工してました。それに、この薬は妊娠してると堕胎薬になるから、殿下のお身体を守るために飲ませました。この屋敷は監視が厳しくて混ぜられないし、間に合わないかと思って本当に焦りました!」
「間に合わない……?」
なんの話をしているのか分からない。私の身体を守ると言うのも意味がわからなかった。
「やりすぎですよ」
パリンと音がして、ティーカップが割れた。マリアがカップに魔力を流したようで、中に入っていた紅茶と陶器の破片は、マリアが空気中を指でなぞると消えてしまった。
「結婚している夫人の身体に勝手に堕胎薬を盛るなんていくら王妃様でも許されることじゃないでしょ。陛下が結婚を認めた夫婦に子を堕ろせって言うのはどういう了見なんです?」
マリアが王妃に凄むと、ルビーがそれを庇うように手を伸ばし、鼻で笑った。
「はっ……サンドラ子爵夫人、貴女は殿下と二月も一緒にいないでしょう。私たちは殿下が生まれた時から今までずっと殿下の行動を見守ってきました。殿下がいつどこで誰と何してたか大体把握してるんですよ」
ルビーがちら、と私に目を向けた。
「殿下は結婚二日目に夫の留守中に男妾を呼んで楽しんでらっしゃって……ちなみに先ほど間に合うか気にしていたのは、この男の子を妊娠していた場合の話です。その時グレイソン副団長に見つかって全員解雇されたのは都合が良かったですね。それから二週間以内に王弟のギルベルト様に接触しています。その後城に訪問された時には少なくとも3名の男性と密室で二人きりになり、そのうち一人とは不自然に長時間一緒にいたわ。その後は誰とも接触してないようですが……結婚前はもっとひっきりなしで……危険なものは揉み消すのにどれだけ苦労したか!貴女は殿下に幻想を抱いているようですが、エリーナ殿下は噂通りの方です。それも、私たちが止めきれなかった噂が広まっているのだから、実際はもっと大変な方なんです。分かったら黙って……いいえ、これからは貴女にも協力してもらうから、殿下の正しい姿を目に入れるようにしてください!」
「……」
接触歴については全く身に覚えがないわけではないが、中身を完全に誤解されていて気が遠くなるような思いだ。どこから訂正しようか迷って、私はとりあえずルビーを呼んだ。
「ルビー」
「なんですか殿下?見逃していたら教えてください」
「いえ……あの、私は結婚してからテオドール以外の男性と……その、そういう意味で接触したことは一度もないの。王妃殿下も誤解なさってます」
「まだそんなことを言ってるんですか?お金で男妾を呼んだ記録があります」
「それは、その……」
埒が明かないと思ったので、私は記憶喪失の設定を持ち出すことにした。
「私、結婚当日に頭を強く打って、その前後で過去の記憶が曖昧になっているところがあるんです。そこからは男の人は遠ざけてます。お金で雇っていた方は、迫られて怖くて泣いていたところをテオドールに助けてもらって、全員解雇してもらったの」
「……記憶喪失ということですか?」
「喪失までは……少しその、価値観が変わったところはあるけど……」
「確かにエリーナ殿下らしからぬ雰囲気ですが……そういえば城でもそう言う噂が立っていますね。だとしても何度か男の人に接触してるじゃないですか。それはどう説明するんですか?」
私は過去を思い出しながら話すことにした。
「おじさまは……テオドールと喧嘩して屋敷を飛び出した時に偶然会っただけで、その後は孤児院を訪問するときに紹介してもらってます。城で会ったのは……3人と言うのは?コーネリアスはお茶を飲んで倒れたところを助けてくれたらしくて、テオドールが応急処置をしただけだと確認してます」
「第三騎士団のトーマス・メイソンと、アーノルド騎士団長と、短時間ですが二人きりになりましたね」
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「……!」
マリアが反応したのが分かった。騎士団長と話した時のことは誰にも言っていないし、言うつもりもなかったけれど、王妃とルビーを納得させるためには作り話や誤魔化しは話をややこしくするから極力省きたかった。
王妃とルビーはまた顔を見合わせた。ルビーが顔を私の方に戻す。まだ疑わしげな顔をしている。
「……その話をどこまで信じるかは今は決められないですが、少なくともユリウス王太子と行為に及んでいないことだけは確認できたので良いとします。記憶喪失と言われてもいきなりは信じられないわ。この数年、私はずっと殿下に振り回されてきたんです」
ルビーの言葉にまた引っかかるものがあった。
「あの」
「なんですか」
「どうして……どうして、そこまで色んなことを把握していて、止めてくれなかったの……?」
エリーナの周りにいた大人は、誰もエリーナに複数の男の人と関係を持つことの危険性について話してくれなかった。堕胎薬まで用意して陰ながら守るなら、直接止めてくれればいいのに、どうして王妃は私に話しかけてもくれなかったのだろうか。
「止めようとしましたよ!」
ルビーが立ち上がって叫んだ。身体の横で握られた両手の拳が震えている。
「殿下、貴女……貴女!自分が何人侍女やメイドを辞めさせたか覚えてないんですか?私が連れてきた優秀な人間を何人も追い出したじゃないですか!信頼してもらおうと思って優しくしても遠ざけるし、厳しく言う人間は家族を使って脅して黙らせるし、護衛の男性に力づくで止めてもらおうとしたら逆に彼に手を出すし……もう!後は物理的に拘束するか精神病棟に送るか、精神干渉魔法で廃人にするくらいしか思いつきませんでしたよ!殿下の馬鹿!そんなこと……そんなこと、王妃様に選択させるつもりですか?!エレノア殿下の娘の貴女にそんなひどいことしろっていうの?!」
「ルビー」
王妃がルビーを嗜めて座らせた。エリーナの記憶ではそこまで手をかけてもらった記憶が全くない。周りにいる使用人はとにかく気に入らなかったし、少し優しくしてくれた使用人には試すような行動をして、皆最後は離れて行ってしまったようだ。離れないのは、エリーナの身体を気に入ってくれた男の人だけだった。
王妃が私を見つめた。
「私が悪いの。ごめんなさい」
悲しげな瞳から涙が流れた。
「私……私は、エレノア様が貴女を身篭っている時に、陛下のお手付きになって……侍女を外れたの。ずっとそれが、……それが、エレノア様が、私を恨んでるんじゃないかって……私、エレノア様のお身体が悪くなっているのを遠くから見ているだけで……最後までおそばにいられなかった。幼い貴女の顔も……エレノア様にそっくりな貴女の顔を見るのが怖くて……ずっと話しかけられなかった。貴女の言う通り、本当は母として私が直接止めるべきだったと思うわ。……ごめんなさい」
王妃の瞳から涙が落ちて、ドレスにシミを作っていく。私はなんと言ったらいいか分からなかった。
「王妃様は悪くないですよ。国王陛下のせいです。陛下が王室に魔力の強い男子を産むことしか考えてなくて、王妃のことはそのための道具としか思ってないから。エレノア殿下だって、本当はギルベルト様と……」
「ルビー、陛下はご自身の役割を果たしているだけよ。エレノア様のことも推測でものを言うのはやめなさい。それは貴女の願望にすぎないわ」
「え……?」
私は二人の会話をどこか遠くのもののように聞いていた。
「お父様と、お母様は……愛し合っていたんじゃないの?」
幼い子どものような質問が口から出ていた。国王は、前王妃のエレノアにそっくりな娘だから、私の願いを叶えようとしてくれたのだと言っていた。ユリウスは、国王はエレノアの名前を出すだけで悲しそうな顔をすると言っていた。それは全て彼女を愛しているからではないのだろうか。
ルビーが表情のない顔でつぶやいた。
「分かりません。陛下は王太子時代に、元々はギルベルト様の婚約者だったエレノア様を娶りました。エレノア様は公爵家の娘で元々王太子妃候補だったのに、その時は見向きもしなくて、後天的に魔力が非常に強くなってから自分の妃にしたんです。私には愛しているように見えませんでした。エレノア様は……エレノア様は、誰と一緒にいても、どんな時でも、いつも笑っていたから、どなたに心を寄せていたのか私には分かりません。殿下をご出産されて亡くなる直前も、貴女の顔を見て笑ってたわ」
「……」
座っているのに、足元がぐらつくような気持ちになる。
(私……また愛し合ってない両親の元に生まれたの……?)
王妃が、手元から紺色のビロードケースと、真っ白な封筒を取り出した。
「陛下とエレノア様のお考えは、私たちには分からないわ。エレノア様の言葉はここにあるものが全てよ」
私は王妃の手元に目を向けた。
「本当は貴女の16歳の誕生日に渡すはずだったものなの」
ビロードケースを開けると、中には紫色の宝石があしらわれたペンダントとピアスが入っていた。
「エレノア様からのお手紙と、彼女がデビュタントで身につけた宝石よ。手紙は、貴女にしか開けないように魔法で保護されてる。これも、私が……貴女に拒否されるのが、怖くて……渡せなかったの。本当に、ごめんなさい」
王妃からの謝罪は、私の耳にはほとんど入っていなかった。私の目は18年以上前に書かれたにしては真っ白すぎる封筒にだけ注がれていた。
亡くなった母であるエレノアから、エリーナに宛てた手紙。
母からの言葉と言うのは、私にとって胸を温かくしてくれるものではなく、そうであって欲しいと期待していたのにいつも心を引き裂くように裏切られるものだった。
(エレノア前王妃にとって、エリーナは……私は、望まれて生まれたの?)
元婚約者の兄で、魔力を目的に自分を結婚相手に選んだ男。妊娠して体調が崩れてからは見舞いもせずに、自分の侍女に手をつけていた。それがエレノアから見た国王の姿だ。
そんな男の子どもで、自分の体調を悪化されていったエリーナに対して、エレノアがどんな気持ちで手紙を残したんだろうか。
(怖い……読みたくない)
ユリウスのように、半分に切って捨ててしまおうか。もしかしたら良いことが書いてあったかもと期待しているだけの方が幸せかもしれない。
私は机の上に置かれた手紙に、いつまでも手を伸ばせなかった。
*
王妃とルビーを見送り、私はテオドールに二人の用件がユリウスとの仲を確認することであり、潔白が証明できたことを伝えた。
先ほどの部屋にマリアと二人で戻って、ビロードケースと手紙を目に入れる。どこか呆然とした心地のまま、すとんとソファに腰掛けた。
3つになってしまったティーカップとポットは既に片付けられていて、部屋に漂っていた甘い香りも消えている。何事もなかったかのように静かになった部屋に、菫色の宝石と真っ白な手紙だけが異様な存在感を放っているように見えた。怖くて手を伸ばせないのに、目を離すこともできない。
「殿下、こちらは処分していいですよね?」
「え……?」
マリアは、ビロードケースと手紙の横にある茶葉の缶と、細かい種子のようなものが入っている瓶を指差した。
「忌まわしいですね。教会は中絶を禁止してるのに、教皇の娘のルビー様がこんなものを持ち歩いてるなんて誰も信じないだろうな」
茶葉の缶は、4人とも口にした甘い香りの紅茶だ。種子のようなものは妊娠を妨げる効果があるらしく、エリーナが城にいた時は毎日食事に混ぜていたらしい。
エリーナの異性遍歴が派手でも一度も妊娠しなかったのはそれが理由のようだった。
ルビーは『必要ないことを願っているが、万が一のことがあるので置いていく』と言い残した。私の言葉を全てそのまま鵜呑みにするにはエリーナの過去の行いの印象が強烈すぎたようで、マリアに対して、今後は自分達の代わりに私の身の安全を確保するようにと念を押していた。
王妃は最後まで青い顔で俯いていて、『貴女の幸せを願ってる。これは本当よ』と囁くように呟いて立ち去った。
「うん、そうだね。処分を……」
私はマリアに頷いた。もう他の男性と関係を持つことはないし、私は国王陛下の意向でテオドールと子どもを作る必要がある。避妊も堕胎薬も必要ない。
(国王陛下の意向で、子ども……)
そうしなければならないと思っていたから、それ以外の選択肢など考えたことがなかった。自分がとんでもないことをしようとしていたと気付いて、身体が震えた。
「殿下」
マリアが私の手を握る。
「旦那様の子を妊娠していたかもしれないのに、本当に心が痛みますよね。こんな言葉は慰めにもなりませんが、殿下のせいじゃありません。自分のことは責めないで。旦那様も絶対に殿下を責めたりしませんよ」
マリアは痛ましげな顔をしていた。
「マ、マリア……違うの……私」
「……?」
「わ、私……私、お母さんには、なれない……」
マリアは私の手を強く握った。
「大丈夫です。……いえ、もちろん精霊の父しか知らないことだし保証はできませんが、ルビー様はこの2つは長期的に服用しても害はないと確認済みだと言っていたでしょう?殿下も旦那様もまだお若いし、これが原因で母になれないなんて決めつけるのは早いはずです」
私は首を横に振った。
私が心配していたのは薬の副作用とは別のことだ。私は自分が義務だと思っていた行いの結果が誰に1番影響するのか、今日やっと気付いた。愛のない行為には犠牲者がいる。
テオドールは私にとても親切だけど、私たちは愛し合っている夫婦ではない。家族が増えることを心から望んでいるわけではなく、そうしなくていいならしないという選択をする。
今まで母親の愛情を受けたことがなくて、前世でも今世でも愛し合う両親の元に生まれなかった私は、親としてどうやって子どもに接したらいいのか分からない。
私は自分が両親の関係や、残された片親との関係でずっと傷ついて辛い思いをして来たのに、それを、テオドールの子どもに背負わせようとしている。とんでもないことだ。
(私、お父様と同じだ。王室に魔力の強い男の子を産むのが義務だからって、相手のことも、子どものことも考えないで、ただ義務を果たせばいいと思ってた)
私の知っている親は、お母さんと、国王陛下であるお父様だけだ。そのどちらとの思い出も、私の心を引き裂くものばかりで、安心も温かさもない。
お母さんのことを思い出した時、私はテオドールにヒステリックに叫んだ。
ちゃんとして。役立たず。
お母さんに何回も言われた言葉が、無意識に口から飛び出していた。
(同じことをするに決まってる……私、絶対また同じことをする!)
子どもは望まれて生まれてくるけれど、その役割は王室に関係する魔力の強い人間を増やすという一点のみだ。エリーナと同じだ。
(私、テオの子どもを、傷つけるために産もうとしてたの……?)
テオドールのことを幸せにしたいと思ったはずなのに、私がしようとしていることは真逆のことだ。自分の血を引く子どもが愛されず、国王の手札の一つとして、王位継承権の末席も末席に置かれているなんて、不幸以外の何ものでもない。
(なんで私はこんなことにも気付かないの)
テオドールの故郷の村の安全を確保するには国王の意向に沿った行動をするしかないから。私の思考はそこで止まっていた。
ここで逆らったら、国王からまた呼び出されて、なぜ国王の意向に沿った行動を取らないのかとまた詰め寄られ、怒鳴られて、それからテオドールの故郷には何が起きるのだろうか。私には分からない。私には何もできない。私は役立たずだから何もできない。
「でもできない……っ。怖い……私、きっと同じことを……」
「殿下」
マリアが私の肩にそっと手を添えてくれた。私の手もマリアみたいに暖かくて、人を安心させられる手ならいいのに、私にはそれができない。
私は自分で自分の震える身体を抱き締めるのが精一杯だ。他人の手をどうやって温めたらいいか分からない。
テーブルの上にある真っ白な封筒が目に入った。
「マリア、その手紙も……宝石も、見たくない。お母様に関係するものは何も見たくない。思い出したくないの。どこかへ捨ててきて」
「……!分かりました。大丈夫です、殿下。目に入らないようにしておきますから、何も心配しなくて大丈夫」
マリアが手紙を回収して、宥めるように私の背中を撫でる。穏やかな声を聞いていると少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
(……もう見なくていいんだ。大丈夫だよ、エリーナ。貴女はお母さんの言葉で傷つく必要はないからね)
エリーナの心は、本当は中身を見たがってる。もしかしたら愛してると書いてあるかもしれないと期待をしてる。でも私は、母親であるエレノアのことを信じられない。
母親が無償の愛をくれるなんて嘘だ。どんなに心から望んだって、いい子にしてたって、抱きしめてくれたこともない。
これからどうしたらいいかは分からない。ただ手紙が視界から消えたことでほっと肩の力を抜くことができた。
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