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16. わがまま ※

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テオドールは両手を私の顔の横につけて、上に被さるように移動した。そのまま馬車でしたようにこめかみのあたりに一度唇を落とし、そのまま頬を降りていくように何度も口付ける。

ほっぺた同士がくっついて、すり、と甘えるようにされると、変な声が出そうになった。

「っ……!」

つい一昨日、訳が分からないまま耐えられないほど感じさせられたことを思い出して心臓がうるさい。エリーナの身体のせいだと言い訳ができたのは前回までだ。今の私はテオドールに触れられることを嫌だとは思っていなかった。戸惑い、恥ずかしさ、緊張と一緒に、どこか期待を抱いているのを無視できない。

ーーーまさかこういうのに興味ないよね?×××ちゃんはいやらしい子じゃないもんね?

お母さんの言葉を思い出してぞっとした。テレビか何かで濡れ場が流れた時、じっと見つめてしまった私に釘を刺した言葉だ。私はあの時慌てて首を振った。その時のいたたまれなさと罪悪感が湧き上がってくる。
興味を持ってしまったことは自分でも気付いていて、そのこと自体の罪と、お母さんに嘘をついたという罪で二重に苦しかった。

(ごめんなさい……っ)

せめてみっともなく声を上げ続けることはやめたいと思い、両手で口を覆った。早く終わらせて欲しい。自分がどうしようもなくいやらしいのだと実感したくない。何も感じなくて済むように、ぐっと身体に力を入れた。

耳やあごにもくすぐったい感触があり、その間に彼の指が、私の手を解いていくように甲の骨のところを撫でた。

「っ、くすぐったい……」

少し手の力が抜けると、その隙を付いて指が絡む。あっという間に腕が開かれて右手をシーツに縫い付けられてしまう。自分のものと大きさの違う手に包まれ、その温かさを感じるとほっとして身体の力が抜けた。

「あっ……!」

テオドールの舌が、私の耳を舐めた。油断していたせいで声が出てしまった。そのまま舌先が耳の形をなぞるように動いて、時々耳たぶを噛まれる。耳に直接入ってくる水音と、ざらりとした舌の感触に背中が震えた。

(む、無理、気持ちよくなっちゃう……!)

手を繋いだまま、乾いた指が甲を撫でる。ぎゅっと強く繋がれたり、少し力が抜け緩んだりする。

「ん、はぁ……」

ただ手を繋いで、耳に触れられているだけなのに、心臓がドキドキして息が上がってきてしまう。ちゅっと音がして唇が離れたのが分かった。濡れたせいで耳に当たる空気が冷たい。

少しだけ身体を起こしたテオドールと目が合った。労わるような優しい表情に、じんと胸が温かくなる。

「力抜けたか?」

力が抜けたどころか、全身ふにゃふにゃして力を入れることができないくらいだ。テオドールに与えられる快感に抵抗できない。私は返事の代わりに繋いだ手をぎゅっと握り返した。

「……っ、エリーナ、それ計算してる?」
「……?」
「何も分かってないのか。本当かよ」

テオドールはふっと笑って私の首元に口付けした。はぁ、と吐かれた息が肌をくすぐる。 少しずつ身体がのしかかるように密着していき、布越しに伝わる体温と重さが心地良い。これから起こることに緊張しているはずなのに、同時に緊張の元であるテオドールの存在に安心もしている。

(テオのにおいがする)

整髪料の香りとともに、テオドール自身のにおいが分かる。それだけ距離が詰まっている。

繋いでいない方の手が、幾重にも重なった布の上から足を撫でた。布の中を探っていくように、もぞもぞと動いて、捲し上げていく。その間に首筋を舐め上げられ、鎖骨を吸われて、その度に私はびくっと跳ねてしまう。

「っは……」

しゅるしゅる布が擦れる音がして、ドレスのパーツが紐解かれていく。固く結ばれたリボンが解かれると、身体が少しずつ解放されていく感じだ。

(テオは私がいやらしくても軽蔑しないかな。……私、何考えてるんだろ。それ以前の問題なのに)

お母さんが私の興味を気にしていたのは、母親として私のことを心配していたところもあるだろう。でもテオドールは私に結婚を強制されたせいで、私がどんな人間であろうと抱かないといけない。エリーナの身持ちの悪さは国民でさえ知っていることで、今更私一人が自分の淫乱さを自覚して恥ずかしがっていることなど、どうでもいいことだ。

(テオ、私、時々貴方に恨まれるべきだってことを忘れちゃうよ)

ドレスを解いていく手さえ優しくて、そんなに丁寧に扱われる価値もないのに勘違いしそうになる。

「これ何重になってるんだ。こんな複雑なもの初めて見た」

テオドールが感心したように呟いた。

(……複雑じゃないのなら脱がしたことあるんだ)

この前私を抱いた時も、いっぱいいっぱいだった私と違いテオドールは余裕があった。不毛な嫉妬心が湧き出たことに気付いて慌てて首を振る。これでは私が、テオドールに愛されたがっているみたいだ。

(でも、そうなのかもしれない)

身の程知らずでも、その考えはしっくりきた。
前世も含めてこんなに私に優しくしてくれた人なんていなかった。テオドールと一緒にいるとまるで自分が何か大切なものになったように錯覚しそうになる。

恋に落ちたら、もっと胸がときめいて落ち着かない気分になるのだと思っていた。少女漫画や映画に登場するヒロインたちは、恋をすると不安定になって、自分らしくない行動をしたり、突然泣き出したり、素直な気持ちを言えなくなったりする。

私は逆だ。テオドールと一緒にいる方が安心するし、より自分らしくいられる気がする。涙を止めてくれるのも、素直な気持ちを引き出してくれるのも彼だ。

エリーナがギルベルトに抱いていたような、淡くて甘酸っぱい気持ちと、私がテオドールに抱いている気持ちは少し違う気がする。エリーナの気持ちは、私がフィクションで見てきた恋の描写に似ていると思った。

(なら私の気持ちは恋じゃないのかな。何なんだろう)

恋じゃなさそうだ、と思って少し安心する。テオドールの人生をめちゃくちゃにした私が彼に恋をするなんて、もはや悪魔みたいだ。彼の隣は居心地が良く、すでに離れがたいという気持ちを抱いてしまったけれど、恋をして自分が自分じゃなくなるくらいに執着することになったら大変だ。今度こそ本当に取り返しがつかないくらいにテオドールを傷つけるかもしれない。それは嫌だ。

スカート部分の布や、美しい形を保つための補助具がはずれていき、一番外側のグリーンのドレスと薄いワンピース状の下着一枚になった。下着の薄い布を捲り上げて、テオドールの手が太ももに触れた。

「あっ……!」
「何か別のこと考えてるだろ」

不満げな声が上から降ってきて、太ももの内側をするする撫でられた。それをされると期待で下半身が重くなる。

「う……」
「これ、外側のドレスってどう脱がすんだ」

足を撫でながら、テオドールは私の目をじっと見ていた。そんなこと、私が説明しないといけないのだろうか。脱がして欲しいと言ってるみたいだ。
視線の鋭さに逃がさないと言われているような気分になって、目を逸らせなくなってしまう。答えずにいると、テオドールが追い討ちをかけてきた。

「このままがいい?」
「……う、後ろが、ボタンか、スナップになってると思う!」

セアラが着付けてくれた時のことを思い出す。パチン、パチンと小さな音がしていたから、スナップで止まっているのではないだろうか。

「ふぅん」

テオドールが私の背の下に手を入れて、ぐいっと持ち上げた。身体を起こされたので、そのまま寝台に座った。テオドールは私の後ろに移動して、一つずつスナップを外していく。一つ外れるたびに、肩が小さく跳ねてしまう。ドレスの布の山が、自重で少しずつ寝台に沈んでいく様を緊張して見つめる。

「ひぁっ……」

急に背骨を指でなぞられて、変な声が出た。

「な、何、やめて……あっ」

はむ、と肩のあたりを優しく噛まれた。テオドールは後ろから私の肩や首筋を舐めたり噛んだりして、その間に器用に私の腕を袖から抜いた。

「さっき何を考えてたのか教えてくれ」

コルセットのきわのラインをなぞるように、指がデコルテの上で線を描く。必要以上にいやらしい気がして、耐えられず首を横に振った。魔力を供給するには挿入して吐精すればいいわけで、こんなふうにくすぐったい触れ方をする必要はないはずだ。さっき考えてたことなんて言われても、指の動きが気になりすぎて頭が働かない。

「なんだよ、言えないことなのか?」

私が首を振ったのはそのことではなくて胸の上で遊んでいる手のことだ。やめて欲しい。手のひらがゆっくり下に降りていく。コルセット越しなので体温も手の感触もほとんど感じないけれど、じんわりとしたくすぐったさはある。

「エリーナ」

責めるよりは少し甘えのこもった声にどきんとする。コルセットの前側で私のお腹あたりを撫でている手が何か探しているように見えた。もどかしい。ぼーっとした頭で、早く続きをしてほしいと思う。身体が、もっと奥の方に触れて欲しがっている。そのためにはコルセットは邪魔だ。

「……テオ、あの、コルセットの紐は後ろ」
「ん?」

自分で紐を締める簡易的なタイプは編み上げが前側にあるけれど、正装の時は人に手伝ってもらう前提で後ろ側に紐がついている。テオドールがこれまで相手にしていた女性は皆前側にコルセットの紐がついていたのだろうか、とまた余計なことを考えそうになる。

「話、そらしたな。もういいよ」
「あっ!」

ちゅう、と強めに首を吸われた。シュルシュルと紐が抜けていき、緩んだコルセットが外れて寝台の上に落ちた。そして、グリーンのドレスも、上から外され端の方に投げられてしまった。

私はワンピース型の肌が透けそうなくらい薄い下着と、膝上までのストッキングをつけているというすごく情けない格好をしている。白い布を胸の先端が押し上げて、つんと存在を主張している。まだ触られてもいないのに、期待だけで固くなっているのだ。

テオドールが私を後ろから抱きしめて、髪の上から頭にキスをした。両手が私の腕を撫でて、するりと手首まで降りて手を握る。
背中から伝わってくる体温と手の温かさにどきどきする。その熱に身を委ねるように目を閉じ、繋がった手を握り返した。

「……コーネリアスは本当に応急処置で整えてくれただけみたいだな」
「……!」

ぼんやりとしていた頭に、冷水を被せられたような気持ちになる。今していることはコーネリアスの魔力が私に残っていることを屋敷の人間にバレる前に消すために行っていたのだと思い出した。
一人で勝手にそれ以上の意味を持たせていたことに気付いて、今までの比じゃないほどの羞恥心が湧き上がってきた。同時にテオドールに腹が立つ。

(手で済むなら脱がす必要ないでしょ……!)

脱ぐ必要もないし、くすぐったくいやらしい触り方をする必要もない。
目的を果たしたならこれで終わりだろう。なんだかどっと疲れてしまった。テオドールから身体を離そうとしてみじろぎすると、逃がさないとでも言わんばかりに強く抱きしめられた。

「なに逃げようとしてるんだ」
「お、終わった、から……んぁっ」

私の身体を捉えていた腕が緩んで、双丘に触れる。形が変わるくらいにむに、と揉みしだかれた。この前みたいにゆるゆるとした刺激ではなくて、最初から敏感なところを指でつままれて、容赦ない。指を擦り合わせるようにそこをこすられて、キュッと引っ張られる。

「あんっ、……や、ぁ」
「何が終わったって?」
「んっ、それ…やめ……ぐりぐりしないでっ」
「痛い?」
「違……ああっ!」

やめてと言ったことを繰り返された。電気で痺れるように身体が震えて、抑えようと思っていた声が出てしまう。

「もうやだ……っ」

テオドールだけ冷静で、余裕でずるい。私は身体がうずうずして恥ずかしくて、半分裸みたいな格好で一人だけ気持ちよくなっている。
テオドールは外から戻った時のまま、あの重厚な白いマントさえつけたままだった。息も上がっていない。
テオドールは手を止めて、また後ろから私を抱きしめた。

「ごめん、痛かったのか?気をつける」
「違う。痛くはないの」
「じゃあ俺に触られるのが嫌?」
「ち、ちが……」

腕に一層力がこもる。

「……エリーナ、俺はあんたにそんなに嫌われるようなことしたか?」

吐息混じりの弱々しい声が首元で響いて、ぞくぞくっと背筋が震えてしまう。私は腕を支え棒にして、思い切りテオドールの身体を押した。距離を取り、テオドールと正面で向き合った。

「してないっ!してないから、困ってるの。私だけすごく気持ち良くなって、恥ずかしい思いをしてるのに、テオは全然、余裕があって……私ばっかり……!」

自分でも何が言いたいのかよく分からない。テオドールに私と同じ気持ちになれというのは無理な話だ。
優しくされて気持ちが惹かれている私と、強制的に一緒にさせられているテオドールが同じ気持ちになるわけない。この行為に関しても、私にはエリーナの記憶しか頼るものがなく、テオドールは服の構造の違いに気付くほど経験がある。心の余裕に差があるのは当たり前のことだ。
そのことがどうしようもなく寂しく、つらい。

「もう優しくするのやめて。必要なことを早く済ませるだけにして」

親切心を受け取れない私の狭量さを許して欲しい。恋とは違うと思っていたのに、相手に自分と同じ気持ちを望むこの身勝手な心は、恋じゃなければなんだろう。

自分の気持ちを認めるしかない。自己嫌悪で押し潰されそうだ。アーノルドが部屋に乗り込んできて、馬鹿なことを口走る私のことを止めてくれないだろうか、と非現実的な妄想に逃げたくなる。

「エリーナ」
「……何?」
「嫌だ。そのわがままは聞かない」

答えは予想できたことだ。短い付き合いでも、テオドールがそう言うだろうことは簡単に予測できる。
テオドールにとっては、相手が誰でさえ優しくするのが当たり前なのだから、私がこれ以上心を奪われたくないという理由でそれを拒否するのはただの身勝手だ。

「そう言うと思った」
「また不満そうな顔してる。納得してないとすぐ顔に出るんだな」

テオドールはなぜか嬉しそうに笑い、身を乗り出して私の頬に触れた。少し顔を上げると、本当に自然に、優しく唇が重なった。唇が離れると同時に、私は寝台に押し倒されていた。

「俺はそんなに余裕があるように見えるか?」

私が答える前に、テオドールは私の上に跨り、マントを留めているベルトを外した。外したものを床に投げようとするので思わず制止する。

「待って、床だと汚れが……」
「汚れ?エリーナ、あんた、いつも心配事のバランスがおかしいんじゃないか」
「なっ……ん!」

唇を塞がれて、角度を変えて何度も繰り返し押し付けられる。下唇を挟まれて、時々軽く歯が立つ。
カチャン、と固い音がして、テオドールの隊服のジャケットが、寝台の上のマントに重なるように投げられたのが分かった

「んっ…、」

はむ、と唇は啄まれるだけで、舌が入ってくることはない。それが少しもどかしい。

(エリーナはどうやってしてたんだろう)

記憶を遡りながら、恐る恐る舌先を外に出してみる。乾いた薄い皮の感触にびっくりしてしまって、すぐに引っ込めた。
それを追いかけるように、少し開いた唇の隙間からテオドールの舌が入ってきて、私の舌を絡めとった。

「……んっ、ふぅ」

ぴちゃ、と音が響いて、身体がカッと熱くなる。

「んっ、ん……ぁ」

口の中を乱されて、ぞわぞわと湧き上がる刺激で身体が震えるたびに、下腹がきゅう、と痛む。

「あ、あっ…はっ……あっ!」

テオドールの下半身が、私の秘部にぐっと押し付けられた。熱を持って固くなっている。自分のそこがとっくに濡れているのはよく分かっていて、布が邪魔だと思ってしまう。

そして、またあの美しい隊服を汚してしまう可能性に気付いた。

「て、お…ん、ちゅっ……ぁ」
「ん?」
「服、汚れ……ちゃう」
「服?」
「ああっ!」

一層強く押し付けられて、その上胸の頂を指でぴんっと弾かれた。余韻でじんとする。

「ぬ、濡れてるから、白いのに……シミが…あんっ!」

ぐり、とえぐるような動きをされて、布が邪魔になっているはずなのに結構中に入っているような気がする。
テオドールは胸の頂を指で潰しながら、少しだけ身体を離した。

「本当だ。はは……糸を引いてる」

乾いた笑いにぞわ、と背中が震えた。冷たい、というか、嗜虐性を感じるような、いつもと違う笑い方だった。

「あっ…待……あああっ!」

性急な動きで、指が中に沈む。たくさん触られて、キスをされ、蕩けきった身体は一切抵抗しなかった。

テオドールの指が遠慮なく敏感なところを擦り上げ、私に聞かせるように恥ずかしい音を立てる。

「んっ、やぁ、そこだめ……!」
「気持ち良いからだめなのか?」

私はこくこくと頷いた。正直に答えたらそれでやめてくれるわけではなくて、ぐっと質量が増えたのと同時に、唇が重なった。

「……っ!!」

目の前がチカチカして、足が震える。ちゅう、と舌を吸われて、その刺激にも全身が跳ね上がった。思わず顔を逸らすと、それを咎めるように指の動きが激しくなる。ガラ空きになった首筋を甘く噛まれた。

「あっ、や、テオ……だめ、だめ……っ!待ってぇ……」

甘えて媚びた声が出て、嫌悪感で涙が出る。私の中を乱す指がさらに増え、達したばかりの身体をさらに昂らせようとする。

「はぁ、……っや……ああんっ!」

びくびくっと全身がしなって、いとも簡単にまた果ててしまった。身体全部で呼吸するように荒く短い息を吐く。胸が大きく上下していた。

テオドールは、指を引き抜いて、寝台に投げ出されていた私の手に自分の手を重ねた。ちゅ、ちゅ、と優しい口付けを繰り返す。最後に一度強くぎゅっと握ると、手は離れてしまった。
ただ触れるだけの唇を受け止めながら、カチャカチャという金属音が耳に入ってくるのをぼんやりと認識する。

ぐっと足が開かれて、あっ、と思った時には剛直が1番奥まで挿入っていた。

「ーーーっ!!!」

挿入されるだけで絶頂を迎えてしまうエリーナの身体はなんとかならないだろうか。みんな、こんなものなのだろうか。

テオドールはそのまま動かず、キスを繰り返す。ついこの前キスしないと言っていた気がするけれど、撤回したのだろうか。今はそんなことはどうでもいいかと思ってしまった。気持ち良くて、他のことはどうでもいい。
身体の欠けたところを満たされて、自分と違う体温や鼓動を受け止めるのが心地よくて、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。

「エリーナ」

テオドールが私の名前を呼んだ。少し切なげな表情が、すごく私を求めているように見えて、心臓が高鳴る。

「あっ……!」

腰が動いて、ずんと重さがかかった。

(エリーナが欲しいのはこれだったの?この時だけは、誰かに強く求められるから……)

性行為は原則一対一だ。相手の視界には自分だけが入る。そして身体の感覚にとらわれて頭がぼんやりして、他のことがどうでもよくなって相手を求めてしまう。
本当に愛していなくても、この時だけは相手に求められていると感じられる瞬間になる。

(エリーナ、確かにそうだね。すごく求められてる感じがするね……寂しいけど、分かるよ)

身体を揺さぶられて、お腹の奥の方をたくさん擦られて、気持ち良い。汗ばんでしっとりした肌の感触も、身体にのしかかる体重も、手離し難いと思う。

「あっ、あ、……テオっ」
「ン……はぁ、エリーナ」

テオドールが濡れた声で私を呼んだ。腰の動きが激しくなり、奥までぐっと穿たれる。

「はっ、ぁ……苦し、奥っ……すごい、奥まで来てるっ!」
「エリーナ、……っく」

テオドールが私を強く抱きしめた。私のお腹の中で、びゅく、と熱い飛沫が弾けるのが分かる。魔力が満ちて全身が熱くなった。はぁはぁとお互いの短い呼吸が部屋に響く。
テオドール自身のものが、ずるりと身体から抜けると、急な喪失感で少し寂しく感じる。お尻の方に生暖かい液体が垂れるのが分かって、それだけ少し不快だった。

この前のような目眩はない。ただちょっと気だるい感じがするだけだ。全身の力が抜けて、息を吐くと身体が寝台に沈み込んだ。

この状態でふかふかしたものにくるまるのが、エリーナのちょっとしたお気に入りの時間だった。私の身体はほぼ無意識にエリーナのルーティンを模倣して、手に触れた布を引っ張って身体にかけた。かちゃん、と音がした。

これは寝具ではなくてテオドールの隊服だとすぐに気付いた。

「あ、ごめ……」

なんてことをしてしまったのかと固まってテオドールの顔色を伺う。テオドールは私のことをじっと見つめていた。

「エリーナ……あんた、人をその気にさせるのが上手いな。物足りなかったか?」
「……!」

私は慌てて隊服を元あった場所に投げた。そして勢いよく首を横に振った。物足りないなんてとんでもないことだ。

「魔力も簡単に馴染んでるし……意識しなくていいとは言ったけど、さすがだ」

テオドールは唯一着ていた白いシャツを脱ぎ捨てた。熱のこもったグレーグリーンの瞳が私を射抜く。
先程役目を終えたはずのものがまた勃ち上がっているのを目に入れそうになって、慌てて目を逸らした。

「いいよ、そのわがままなら聞く」
「?!」

何も言ってない、と叫ぶ前に口を塞がれて、抗議することができなかった。
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