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第十九話 氷解(改編済み)
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次の日、川島は夕方までの講義を受けて帰宅した。
夕方から深沢に交代する日でもあったため声をかける。
「真也、今日お前の番だけど」
「夜からでいい」
川島の問いかけに彼はそっけなく即答した。
川島は最近の彼の言動からそんな答えが帰ってくるだろうと思っていた。
その場では何も言わずに夜が来るまでゆっくりとくつろいでいた。
時計が十一時をさした頃、ようやく深沢が変わって欲しいと声をかけてきた。
川島は彼に身を委ねた。この日もいつものように夜の街を散策する。
そして、一時間ほど経つと家に帰ってくる。そんな行動に二人はただただ不思議に思うばかりだったが、ここへきてようやく川島が問いただし始めた。
「おい、真也。お前この間から何をしてるんだ?」
この問いには先程のように答えがすぐには返ってこなかった。川島は再び問い詰める。
「答えろよ! 真也」
再び数秒間の沈黙が続く。そして、深沢は重い口を開いた。
「……ホストだよ」
彼のこの一言に二人とも声も出せないほど唖然として、頭の中にクエスチョンマークが並んだ。
「ホスト?」
木村がその意味を問う。
「ホストになりたいんだ」
深沢がそう言った瞬間、二人のクエスチョンマークはエクスクラメーションマークに変わった。
「ホストだと!?」
川島は今までにないくらいの驚きの声をあげる。深沢は真剣な表情と眼差しで頷いた。
確かに夜の街にはたくさんのホストたちが居て、ネオンが輝いている。そう考えると、夜な夜な街に出歩いていた彼の行動の意味も一本の線で繋がる。
しかし、川島は納得出来るわけがなかった。
「バカか、お前。仮にも俺の体だぞ! ましてや、ホストなんて……絶対に許可するもんか!」
川島は声を荒げていた。まるで嫁ぐ娘の結婚を認めないお父さんのようだ。
もちろん、その娘も引くわけにはいかない。正論を吐いて、対抗する。
「真衣は好き勝手やってるのに、どうして俺はダメなんだ!」
「真衣のモデルとお前のホストじゃワケが違う!」
断固として反対を突き通す川島に深沢も感情が高ぶり始める。
「何が違うんだ! 納得出来るように説明しろ!」
彼の理性を失ったところはこれまでみたことがなかった。
「それはだな……」
川島が言葉に詰まったのを今の彼が見逃すわけがなかった。
「ほら、ないんだろ。じゃあやってもいいだろうが」
彼の猛攻に川島もたじろぐが懸命に反論しようと言葉を探す。
「だから、その……」
「何だよ!」
「お前にホストなんて無理だよ!」
「やってみなきゃわからないだろう!」
そんな二人の一歩も譲らない口論を間に挟まって聞いていた木村も何とかしようと口を開く。
「もうやめなよ。あたしがモデル辞めればいいじゃない。そうすれば……」
「ダメだ!」
木村が全てを言い終わる前に二人の声が重なる。奇妙なことではあるが、あれだけ言い争っていた二人の意見が一致した。
「真衣がモデルを辞めたって何の解決にもならない」
川島の意見に深沢もコクリと頷いた。
「とにかく俺はホストになりたいんだ」
深沢の言葉に川島は特に反論もせず、黙ってしまった。その後、沈黙が続く。五分か十分経っただろうか。ようやくその沈黙が破られた。
「実はさ」
沈黙を破ったのは深沢だった。二人はその深沢の言葉に耳を傾ける。
「真衣がモデルになって働いているのが羨ましかった」
二人はただ黙って言葉を紡ぐ彼の話を聞いていた。
「健太だって大学へ行って、バイトもしてる。俺も何かしたいって思った」
相変わらずぶっきらぼうに話す深沢だったが、今までに溜まっていたフラストレーションを吐き出した。
「それでホストか……」
川島は一言ボソッと呟く。深沢にとっては懸命に考えて出した答えであり、色々と溜まっていたこともあり、この一言に反応せず受け流すことが出来るはずもなかった。
勢いで再び言い返そうとした。
その時、木村が川島を注意した。
「そんな言い方よくないよ」
深沢は木村の言葉を聞いて言い返すことを留まった。
「どうして、そんな言い方するの? 真也だって色々考えてたんだよ?」
木村は深沢の気持ちを冷静に代弁していく。この説教じみた言葉に川島は黙ったままだった。
数分間、再び沈黙が続いた。気まずい雰囲気が漂う。
そして、ようやく黙っていた川島が口を開く。
「母親が昔、ホストにハマってたんだ。今はそんなとこに通っていないけどな」
今度は深沢と木村が黙って聞き入る。二人は驚きを隠せなかった。先程から驚いてばかりだ。
「ホストへの貢ぎで金は無くなって、一時期は本当に食べるので精一杯だった。結局、オヤジにバレて、怒りに満ちた説得と生活難の状況からホストへ通うのをやめた。もうずいぶん前の話だけどな」
川島の苦しそうな声と話の最後で二人に気を使うような苦笑いを含めた口調が川島の人間性を表していた。
聞いていた二人も何も感じないわけにはいかなかった。
「だから、断固拒否したんだ……」
木村は一通り聞き終わってから、納得したようにトーンを落として言った。
「ああ。俺は今でも自分を苦しめた元凶でもあるホストを許せないし、そんな職に真也を就かせたくなかった」
深沢はただ黙っていることしか出来なかった。
「ごめんな、真也」
突然の川島の謝罪に深沢は少し困惑した。しかし、すぐに言葉を返す。
「いや、なにも知らなかった俺の方が悪い。こっちこそ、ごめん」
深沢は川島の過去を知らずに自分が言い過ぎたことを心から謝罪した。
またしばらく沈黙が続き、川島が沈黙を破る。
「あのさ、真也……」
川島は沈黙を破ると少し考えて言葉を続ける。
「お前、何かしたいって言ってたよな。働いたりとか」
深沢が体を使用しているため表情や行動はよくわかる。コクリと頷く。
「なら、うちのレンタルビデオ屋で働くのはどうだ?」
深沢の表情が変化する。
「え?」
川島の表情は見えないが、最初に三人の分担を決めたときのように不敵な笑みを浮かべているようだった。
「今、うちのバイト辞める人が多いだろう。バイト募集をまだかけてるはずだから。まぁ俺としては週四でバイトに行くみたいで気乗りしないけどな」
川島は再び苦笑しながら提案した。
「俺やってみたい」
喜びと期待に満ちた深沢の答えだった。
「即答って最後の言葉聞いてたか? まぁいいや。決まりだな」
川島は笑いながらようやく一段落ついたと思っていた。そして、もう寝ようと話をして長い夜を終えた。
夕方から深沢に交代する日でもあったため声をかける。
「真也、今日お前の番だけど」
「夜からでいい」
川島の問いかけに彼はそっけなく即答した。
川島は最近の彼の言動からそんな答えが帰ってくるだろうと思っていた。
その場では何も言わずに夜が来るまでゆっくりとくつろいでいた。
時計が十一時をさした頃、ようやく深沢が変わって欲しいと声をかけてきた。
川島は彼に身を委ねた。この日もいつものように夜の街を散策する。
そして、一時間ほど経つと家に帰ってくる。そんな行動に二人はただただ不思議に思うばかりだったが、ここへきてようやく川島が問いただし始めた。
「おい、真也。お前この間から何をしてるんだ?」
この問いには先程のように答えがすぐには返ってこなかった。川島は再び問い詰める。
「答えろよ! 真也」
再び数秒間の沈黙が続く。そして、深沢は重い口を開いた。
「……ホストだよ」
彼のこの一言に二人とも声も出せないほど唖然として、頭の中にクエスチョンマークが並んだ。
「ホスト?」
木村がその意味を問う。
「ホストになりたいんだ」
深沢がそう言った瞬間、二人のクエスチョンマークはエクスクラメーションマークに変わった。
「ホストだと!?」
川島は今までにないくらいの驚きの声をあげる。深沢は真剣な表情と眼差しで頷いた。
確かに夜の街にはたくさんのホストたちが居て、ネオンが輝いている。そう考えると、夜な夜な街に出歩いていた彼の行動の意味も一本の線で繋がる。
しかし、川島は納得出来るわけがなかった。
「バカか、お前。仮にも俺の体だぞ! ましてや、ホストなんて……絶対に許可するもんか!」
川島は声を荒げていた。まるで嫁ぐ娘の結婚を認めないお父さんのようだ。
もちろん、その娘も引くわけにはいかない。正論を吐いて、対抗する。
「真衣は好き勝手やってるのに、どうして俺はダメなんだ!」
「真衣のモデルとお前のホストじゃワケが違う!」
断固として反対を突き通す川島に深沢も感情が高ぶり始める。
「何が違うんだ! 納得出来るように説明しろ!」
彼の理性を失ったところはこれまでみたことがなかった。
「それはだな……」
川島が言葉に詰まったのを今の彼が見逃すわけがなかった。
「ほら、ないんだろ。じゃあやってもいいだろうが」
彼の猛攻に川島もたじろぐが懸命に反論しようと言葉を探す。
「だから、その……」
「何だよ!」
「お前にホストなんて無理だよ!」
「やってみなきゃわからないだろう!」
そんな二人の一歩も譲らない口論を間に挟まって聞いていた木村も何とかしようと口を開く。
「もうやめなよ。あたしがモデル辞めればいいじゃない。そうすれば……」
「ダメだ!」
木村が全てを言い終わる前に二人の声が重なる。奇妙なことではあるが、あれだけ言い争っていた二人の意見が一致した。
「真衣がモデルを辞めたって何の解決にもならない」
川島の意見に深沢もコクリと頷いた。
「とにかく俺はホストになりたいんだ」
深沢の言葉に川島は特に反論もせず、黙ってしまった。その後、沈黙が続く。五分か十分経っただろうか。ようやくその沈黙が破られた。
「実はさ」
沈黙を破ったのは深沢だった。二人はその深沢の言葉に耳を傾ける。
「真衣がモデルになって働いているのが羨ましかった」
二人はただ黙って言葉を紡ぐ彼の話を聞いていた。
「健太だって大学へ行って、バイトもしてる。俺も何かしたいって思った」
相変わらずぶっきらぼうに話す深沢だったが、今までに溜まっていたフラストレーションを吐き出した。
「それでホストか……」
川島は一言ボソッと呟く。深沢にとっては懸命に考えて出した答えであり、色々と溜まっていたこともあり、この一言に反応せず受け流すことが出来るはずもなかった。
勢いで再び言い返そうとした。
その時、木村が川島を注意した。
「そんな言い方よくないよ」
深沢は木村の言葉を聞いて言い返すことを留まった。
「どうして、そんな言い方するの? 真也だって色々考えてたんだよ?」
木村は深沢の気持ちを冷静に代弁していく。この説教じみた言葉に川島は黙ったままだった。
数分間、再び沈黙が続いた。気まずい雰囲気が漂う。
そして、ようやく黙っていた川島が口を開く。
「母親が昔、ホストにハマってたんだ。今はそんなとこに通っていないけどな」
今度は深沢と木村が黙って聞き入る。二人は驚きを隠せなかった。先程から驚いてばかりだ。
「ホストへの貢ぎで金は無くなって、一時期は本当に食べるので精一杯だった。結局、オヤジにバレて、怒りに満ちた説得と生活難の状況からホストへ通うのをやめた。もうずいぶん前の話だけどな」
川島の苦しそうな声と話の最後で二人に気を使うような苦笑いを含めた口調が川島の人間性を表していた。
聞いていた二人も何も感じないわけにはいかなかった。
「だから、断固拒否したんだ……」
木村は一通り聞き終わってから、納得したようにトーンを落として言った。
「ああ。俺は今でも自分を苦しめた元凶でもあるホストを許せないし、そんな職に真也を就かせたくなかった」
深沢はただ黙っていることしか出来なかった。
「ごめんな、真也」
突然の川島の謝罪に深沢は少し困惑した。しかし、すぐに言葉を返す。
「いや、なにも知らなかった俺の方が悪い。こっちこそ、ごめん」
深沢は川島の過去を知らずに自分が言い過ぎたことを心から謝罪した。
またしばらく沈黙が続き、川島が沈黙を破る。
「あのさ、真也……」
川島は沈黙を破ると少し考えて言葉を続ける。
「お前、何かしたいって言ってたよな。働いたりとか」
深沢が体を使用しているため表情や行動はよくわかる。コクリと頷く。
「なら、うちのレンタルビデオ屋で働くのはどうだ?」
深沢の表情が変化する。
「え?」
川島の表情は見えないが、最初に三人の分担を決めたときのように不敵な笑みを浮かべているようだった。
「今、うちのバイト辞める人が多いだろう。バイト募集をまだかけてるはずだから。まぁ俺としては週四でバイトに行くみたいで気乗りしないけどな」
川島は再び苦笑しながら提案した。
「俺やってみたい」
喜びと期待に満ちた深沢の答えだった。
「即答って最後の言葉聞いてたか? まぁいいや。決まりだな」
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