2 / 53
第二話 効力(改編済み)
しおりを挟む
翌日、新山は研究所へやって来た。なんのためらいもなくデスクに座った。そして、ふと、あることに気付く。
「え!?」
昨日、確かにデスクに置いて帰ったはずのカプセルケースが見当たらないのだ。
「確かに昨日ここに……」
新山はデスク周辺を見渡す。様々な書類を押しのけ、埋まっていないか確かめる。ゴミ箱の中を覗き込んだりもした。しかし、どこを探しても見当たらないのだ。
「うそ? どこへやったのよ。あの薬はまだ試作品。あんなのが出回ったりしたら。いや、それより……」
新山は研究所の戸締まりをしたかどうかを思い返した。確かに研究所の戸は閉めた。では、何者かが侵入するとすればどこからだろうかと彼女は考えた。そして、声を上げる。
「実験室!」
彼女は実験室へと向かった。何の変哲もなくがらんとした実験室。相変わらずモルモットたちが騒いでいる。そして、窓の方へ向かった。すると、驚いたことに鍵が開き、全開だった。窓の大きさは簡単に人が一人入れる余裕のあるものだった。彼女は実験室のドアの鍵を強く握りしめていた。
研究所を後にし、町へとくり出した。あの後、薬のデータもごっそり盗まれていたこともわかった。そこで彼女は町で聞き込みをしようと思ったのだ。もちろん手掛かりなんてものは全くなかった。
川島は目を覚ますと、寝ぼけ眼で鏡を見た。
「何だよ。何にも変わってねーじゃねえか」
見た感じ彼の身に変化はなかった。女性の顔になることもなく、胸が大きくなることもなかった。
「騙されたか」
顔を洗い、大学へ行く準備をする。今日は民法と刑法の二限だけ。レンタルビデオ屋のバイトも入ってなく、一日ゆっくり出来る日だった。大学へ着くと、友人の拓馬と共に民法と刑法を受けた。難なく二つの授業を受け、彼は帰路につくことにした。
帰り道、秘妙堂へ文句をつけに行こうと思い、昨日と同じ道で帰ることにした。気がついてみると、秘妙堂への道は路地裏で人気がなかった。
「ねぇ、あなた名前はなんていうの?」
ふと、女性の声がして彼は後ろを振り向いた。しかし、人気のない道には人っ子一人見当たらない。空耳だと思い、また秘妙堂の方に向かって歩き出す。
「ちょっと聞いてるの?」
再び声がする。また辺りを見回す。案の定、誰もいない。鮮明に残る声。そこで冷静になって考えるとこの声の聞こえる場所が耳ではなく脳内であることに気付いた。
「誰だ!」
彼は叫んだ。
「あたしが質問してるんだから、先にあなたが答えるべきじゃない。先に答えなさいよ」
声の主である女が返答する。彼は何が何だかわからなくなり、声の主の言う通りにした。
「川島健太」
「ふーん。見た感じ大学生っぽいわね」
女はどういうわけか姿、形は見えない。
「お前は何者なんだ? どこにいる!?」
彼は再び質問した。女は一呼吸おいてから話し始めた。
「あたしは木村 真衣。年は二十歳。居場所は強いて言うならあなたの中かな」
川島は冷静さを少し取り戻し、「同い年なのか」などと思いながら声を出す。
「はぁ? 俺の中? どういう意味だ!」
彼の口調はさらに強くなる。
「あたしにもよくわからないのよね。急に感情が出て来たと思ったら、あなたの体の中だし。あなた何か思い当たる節ない?」
彼はこの木村の言葉に戸惑いながらもここ数日の出来事を冷静に振り返ってみた。
「あ!」
彼はまた大声をあげる。そう、秘妙堂で買ったあの薬。その影響かもしれなかった。急いで秘妙堂へと向かった。
「ちょっとどこへ行くの?」
木村は急に走り始めた自分の体に聞いた。
「心当たりがあんだよ」
川島はそう言ってひたすら秘妙堂へと走った。秘妙堂に着く頃には彼の息は相当上がっていた。
「いらっしゃい」
例のひげを生やしたおじいさん店主が言う。川島は店のカウンターまで行き、身を乗り出して店主に言葉をかける。
「おい! どうなってるんだ! 昨日、ここで買った薬、意味の分からない効力が出ているぞ!」
店主は不思議そうな目で彼を見て、一言言った。
「お前さん、名前は?」
「川島健太。今日これ言うの二回目だぜ」
川島は皮肉混じりで言う。店主は何やら書類を調べ始める。どうもそれは昨日、川島が書いた書類の束のようだった。
「お、あった。あった。昨日じゃな」
「ああ、昨日ここで買ったんだよ」
川島は走ってきたため、まだ呼吸が整わず、落ち着かない。
「一錠しかなかったやつじゃの。効力は確か性別が変化するとか言ったかの」
店主は記憶を呼び起こしながら話す。
「そうだよ。あの薬、性別が変わるどころか妙な女が出てきたんだよ」
川島のこの言葉に店主は不思議な表情を隠せない。そして、彼に聞いた。
「妙な女? どこにおるんじゃ?」
彼は頭を指差して二、三度叩いた。
「ここだよ。ここ」
店主は唖然としていた。それもそのはずだ。あまりにも意味の分からないことが起こっている。
「とりあえず、解毒剤はないのかよ?」
川島は状況が把握出来ていない店主に聞いた。解毒剤さえ手に入れば元に戻れるかもしれない。
「残念じゃが、解毒剤はないのう」
店主は申し訳なさそうに言った。
「なんてこった」
彼は途方に暮れた。そこで店主が声をかけてくる。
「もう少し様子を見てみたらどうじゃ? もしかしたら明日には治っとるかもしれんしの。気のせいということもあるかもしれん」
川島もこの言葉に渋々納得したような表情になる。確かに様子を見るのも一つの手だ。この木村とかいう女の声は幻聴かもしれない。
「そうだな。じゃあ一度様子を見てみるよ。邪魔して悪かったな」
彼は店主にこう言い残して、店を出た。
「え!?」
昨日、確かにデスクに置いて帰ったはずのカプセルケースが見当たらないのだ。
「確かに昨日ここに……」
新山はデスク周辺を見渡す。様々な書類を押しのけ、埋まっていないか確かめる。ゴミ箱の中を覗き込んだりもした。しかし、どこを探しても見当たらないのだ。
「うそ? どこへやったのよ。あの薬はまだ試作品。あんなのが出回ったりしたら。いや、それより……」
新山は研究所の戸締まりをしたかどうかを思い返した。確かに研究所の戸は閉めた。では、何者かが侵入するとすればどこからだろうかと彼女は考えた。そして、声を上げる。
「実験室!」
彼女は実験室へと向かった。何の変哲もなくがらんとした実験室。相変わらずモルモットたちが騒いでいる。そして、窓の方へ向かった。すると、驚いたことに鍵が開き、全開だった。窓の大きさは簡単に人が一人入れる余裕のあるものだった。彼女は実験室のドアの鍵を強く握りしめていた。
研究所を後にし、町へとくり出した。あの後、薬のデータもごっそり盗まれていたこともわかった。そこで彼女は町で聞き込みをしようと思ったのだ。もちろん手掛かりなんてものは全くなかった。
川島は目を覚ますと、寝ぼけ眼で鏡を見た。
「何だよ。何にも変わってねーじゃねえか」
見た感じ彼の身に変化はなかった。女性の顔になることもなく、胸が大きくなることもなかった。
「騙されたか」
顔を洗い、大学へ行く準備をする。今日は民法と刑法の二限だけ。レンタルビデオ屋のバイトも入ってなく、一日ゆっくり出来る日だった。大学へ着くと、友人の拓馬と共に民法と刑法を受けた。難なく二つの授業を受け、彼は帰路につくことにした。
帰り道、秘妙堂へ文句をつけに行こうと思い、昨日と同じ道で帰ることにした。気がついてみると、秘妙堂への道は路地裏で人気がなかった。
「ねぇ、あなた名前はなんていうの?」
ふと、女性の声がして彼は後ろを振り向いた。しかし、人気のない道には人っ子一人見当たらない。空耳だと思い、また秘妙堂の方に向かって歩き出す。
「ちょっと聞いてるの?」
再び声がする。また辺りを見回す。案の定、誰もいない。鮮明に残る声。そこで冷静になって考えるとこの声の聞こえる場所が耳ではなく脳内であることに気付いた。
「誰だ!」
彼は叫んだ。
「あたしが質問してるんだから、先にあなたが答えるべきじゃない。先に答えなさいよ」
声の主である女が返答する。彼は何が何だかわからなくなり、声の主の言う通りにした。
「川島健太」
「ふーん。見た感じ大学生っぽいわね」
女はどういうわけか姿、形は見えない。
「お前は何者なんだ? どこにいる!?」
彼は再び質問した。女は一呼吸おいてから話し始めた。
「あたしは木村 真衣。年は二十歳。居場所は強いて言うならあなたの中かな」
川島は冷静さを少し取り戻し、「同い年なのか」などと思いながら声を出す。
「はぁ? 俺の中? どういう意味だ!」
彼の口調はさらに強くなる。
「あたしにもよくわからないのよね。急に感情が出て来たと思ったら、あなたの体の中だし。あなた何か思い当たる節ない?」
彼はこの木村の言葉に戸惑いながらもここ数日の出来事を冷静に振り返ってみた。
「あ!」
彼はまた大声をあげる。そう、秘妙堂で買ったあの薬。その影響かもしれなかった。急いで秘妙堂へと向かった。
「ちょっとどこへ行くの?」
木村は急に走り始めた自分の体に聞いた。
「心当たりがあんだよ」
川島はそう言ってひたすら秘妙堂へと走った。秘妙堂に着く頃には彼の息は相当上がっていた。
「いらっしゃい」
例のひげを生やしたおじいさん店主が言う。川島は店のカウンターまで行き、身を乗り出して店主に言葉をかける。
「おい! どうなってるんだ! 昨日、ここで買った薬、意味の分からない効力が出ているぞ!」
店主は不思議そうな目で彼を見て、一言言った。
「お前さん、名前は?」
「川島健太。今日これ言うの二回目だぜ」
川島は皮肉混じりで言う。店主は何やら書類を調べ始める。どうもそれは昨日、川島が書いた書類の束のようだった。
「お、あった。あった。昨日じゃな」
「ああ、昨日ここで買ったんだよ」
川島は走ってきたため、まだ呼吸が整わず、落ち着かない。
「一錠しかなかったやつじゃの。効力は確か性別が変化するとか言ったかの」
店主は記憶を呼び起こしながら話す。
「そうだよ。あの薬、性別が変わるどころか妙な女が出てきたんだよ」
川島のこの言葉に店主は不思議な表情を隠せない。そして、彼に聞いた。
「妙な女? どこにおるんじゃ?」
彼は頭を指差して二、三度叩いた。
「ここだよ。ここ」
店主は唖然としていた。それもそのはずだ。あまりにも意味の分からないことが起こっている。
「とりあえず、解毒剤はないのかよ?」
川島は状況が把握出来ていない店主に聞いた。解毒剤さえ手に入れば元に戻れるかもしれない。
「残念じゃが、解毒剤はないのう」
店主は申し訳なさそうに言った。
「なんてこった」
彼は途方に暮れた。そこで店主が声をかけてくる。
「もう少し様子を見てみたらどうじゃ? もしかしたら明日には治っとるかもしれんしの。気のせいということもあるかもしれん」
川島もこの言葉に渋々納得したような表情になる。確かに様子を見るのも一つの手だ。この木村とかいう女の声は幻聴かもしれない。
「そうだな。じゃあ一度様子を見てみるよ。邪魔して悪かったな」
彼は店主にこう言い残して、店を出た。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる