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野球部

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 うちの高校の野球部は名門校で一度も選抜から落ちたことがない。

 そんな高校に僕も今年入学した、もちろん、野球部推薦枠での入学だった。

 それだけ力があると認めてくれたのだ。

 正直、この高校に入れるなんて思いもしなかった。

 野球に情熱は入れていたが、ここまで想定してなかった。


 そして、入学式迎えた。

 入学式は厳かに行われた。

 野球部の部員は、野球部員で一クラス作られていた。

 体育館で行われた入学式はちょっぴり緊張していた。



「キミ、野球初めて何年?」



 ふと隣からささやく声が聞こえた。

 これが僕と内の出会いだった。



「もうかれこれ十年近くになるよ」



 僕は少し照れながら言った。



「そうか、長いね。僕なんてまだ七年目だよ」



 それを聞いて僕はびっくりした。

 僕は五歳頃からボールを持って走り回っていたのに、内君は八歳頃から野球をし始めてこの高校に入ってきたのだ。

 しかし、どちらにせよ、一緒に戦っていく仲間がいると思うと力強い。

 内君とは教室に入っても話してた。

 他愛無い話だったけど、緊張がほどけていった。

 そして、初めての部活動が始まった。



「はーい、今日は新入部員を紹介します。皆、集まって」



 顧問の山口先生が大声で先輩方を召集した。

 新入部員だけで三十人はいるだろう。

 先輩方が集まるとその倍近くの人数になった。



「はい。皆、集まったね。それじゃあ、新入部員さんたち自己紹介していこうか」



 山口先生は優しそうな声でそう呼びかけた。



「そんなのどうでも良いから、練習させろよ」



 この一言で一気に空気が不穏になる。

 そういった本人こそが、倉本だった。



「まぁ、そういうな。初めが何事も肝心だ」



 山口先生は怒りもせず、優しい声で言った。



「俺、倉本。ポジションはピッチャー。これで良いでしょ?」



 倉本は早く練習がしたくてたまらないみたいだった。

 そう言って、ピッチングを始めようと用意をし始める。



「なんか、先生、悪いことしちゃったかな?」



 山口先生はちょっと責任を感じていた。



「いや、先生悪くないですよ。倉本が悪いんですから」



 そこで、内君がフォローを入れた。

 そして、自己紹介がひと段落して、ようやく僕たちも練習に参加できるようになった。

 僕の守備位置はセンター。

 遠投から打撃までみっちり練習する。

 内君はというと守備位置がキャッチャーということもあり、倉本君と一緒に練習しているときが多い。

 倉本君と内君は過去に面識があったらしく、仲は良いみたいだ。

 そんな折、一つのうわさが野球部員たちを覆う。



「倉本のやつ、ミリオン蹴ってこっちの高校に入ってきたらしいぜ」



 ミリオンとは野球のプロを養成する学校みたいなものだ。

 そこを蹴ってわざわざうちの高校にやってきたみたいでそれが今頃になって、うわさになったのだ。



「ちなみに内のやつもらしいぜ」



 内君にもそんなうわさが飛び交っていた。

 僕は内君に直接聞いてみることにした。



「内君ってさ」



「ん? なんだい?」



「ミリオン蹴ったって本当?」



 内君は苦虫をつぶしたような顔になって一呼吸おいた。



「その話、誰から聞いたの?」



「学校中のうわさになってるよ。倉本君も蹴ったって」



 僕は正直に言った。



「そうか、倉本のこともうわさになってるのか。僕と倉本は小学校が同じでね。その後中学校へ入って、何度も対決したことがあるんだよ。だから、ちょっと面識があってね。それから、ミリオンへの申請が迫ってきて、二人で蹴ることを決めた。そして、二人で一緒にこの高校に入ることにしたんだ」



 僕は二人の友情に驚いた。

 それに二人共すごいバッテリーになることは間違いなかった。

 これは甲子園への夢も果たせる気がしていた。



 そんな風にして、毎日の練習を欠かさず三年目の夏がやってきた。

 倉本君と内君の活躍もひかり、甲子園への切符を手に入れた。

 一回戦は五対零と倉本君と内君のバッテリーが完封勝ちを修めた。

 二回戦も難なく勝ち星を挙げて、このまま決勝までいける気がしてきた。

 汗がにじむ額。焦げ付くような日光。そんななかで、僕らは決勝戦も上りつめた。



「プレイボール!」



 けたたましいサイレンと共に試合は始まった。僕は所定の守備位置センターを守る。

 ピッチャーは倉本君、キャッチャーは内君、うちの高校のエースが投げる。

 ミリオンを蹴ってわざわざうちの高校に来た意味が今はなんとなくわかる。

 ミリオンでは味わえない甲子園の優勝、それを味わいたいがために名門のうちの高校に入ってきたんだろうな。



 そして、歓喜のときは迫る。五対四、一点リードで迎えた九回。

 この回を抑えれば優勝だ。

 まず、一球目「ストライクー!」

 二球目「ストライクー!」

 三球目「ストライクー!」


 三振にきってとると、二人目のバッターも三振にきってとった。

 倉本君もスタミナがまだあり余っているようだった。

 そして、アルプススタンドからは「あと一人」のコールが起こる。



 そして投げた一球目。



「カキン」



 バットにボールが当たる音。

 頭上を見上げると僕の方へボールが落ちてくる。


「バスッ」



 しっかりキャッチしてマウンドへ走っていく。

 あの時、何を叫んだか覚えてないくらい、狂喜乱舞していた。


 この出来事が僕の誇りになったのは、言うまでもない。

 ‐完‐
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