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第一章/第二陣 元少年、Sランクへの道!
第10話 国王
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リウドの村に戻ると、僕だけ1人の冒険者に呼ばれた。
「すまんな、こんな夜更けに。悪く思わないでくれよ? 俺はお前に配慮して、他の奴らが寝静まった頃を狙ったんだ」
この人は確か、ライズ、と自己紹介していたはずだ。
銀の髪に翡翠の瞳。170ほどはありそうな高身長で、歳はそれなりに食っているらしく、40台に見えるベテランAランク冒険者。
そして、この人は魔法を使う人である。
剣や槍、弓といった武器を使う冒険者たちは、無意識化での身体強化や視力増強、推進力増加などをして、戦いの技術を上げて行く。けれど、魔法を使う人は、意識して魔力を操作し、魔法を扱う。
そのため、上位の魔法を使う人ほど、探知魔法のようなものを扱える人が多いのだ。
「でしょうね。……それで、何の用でしょうか?」
「わかってるだろ? リステリア、君からは鉱山に、あの通路の奥に行く前までは確かに魔力が感じられた。それも、膨大な。……だが、出てきた時、今もなお、魔力は微量にしか感じられない。どういうことだ? あの奥には、何があった?」
やはり、そうだったか。
この人はAランクでもトップレベルで、他のAランク冒険者もいうことを聞くほどの実力者。
そんな人が、僕の異変に気付かないはずがなかったのだ。
ついて来ていた冒険者たちは、ライズさん以外の中にも魔法を使う人はいたものの、Bランクしかおらず、他は前衛のAランクが多かった。
「それはお答えできません。ミスティにもまだ言っていないことです。言うにしても、ミスティと相談してからとさせてください」
この場にミスティの姿はない。それを狙って、この人がきた。
それに、彼女にもまだ、何も話していない。もっと落ち着いてからの方がいいだろう、と思っての事。
幸い、鉱山からの帰り道では、魔物に襲われずに済んだから魔法を見せる機会がなかった。実際に魔法を使うとなれば、僕は、いつも通りに扱えるのかどうかすら、妖しい。
「そうか。……どうしても言えないのであれば、切り札を切らせてもらうが?」
そう言って取り出すのは、一枚の紙。
「これは国王様から、俺に向けられた命令書と、その先で何か非常事態が発生した時のため、王の名を借りて命令することが出来るものだ。俺は、ここでこの紙の王命を行使する」
取り出した紙を僕の目の前に突き出した。
その紙には、
『国王、ジーギヌス・ヴァン・ヴォイスレインの名において命令を処す。
この者、宮廷魔法師師長、ライズ・ヒルステインに王の代行者を命じる。
この者に命令された者は、速やかに行動を起こせ。又、命令を拒否、もしくは、規定の時間内に。この者、ライズ・ヒルステインが帰還しなかった場合は、王国の敵と見做す』
と書かれている。
その文章の下方には、国王のものと思われる直筆サインと、指印がされていた。
とはいうものの、これが本物かどうかなんて判別できるわけがなく、だけど、それはライズさんも承知の上だる。
その上で、この紙を出してきた。つまり、それこそが本物ということの証明に他ならない。
「……宮廷魔法師師長、ですか。冒険者ではなかったんですね」
「いや、元々冒険者だったところを拾われたんだ。たまに聞くだろう? 冒険者が特定の個人と契約することがあることを」
確かに、時々耳にすることがある。
その誰もが凄腕の冒険者で、個人契約を交わす貴族も、中級貴族以上ばかりで、中級の中でも上位の者より上しかいない。
「まぁ、俺の場合は、国と契約した感じだな。それはひとまず置いておこう。で、答えは?」
素直に答えるか否か――迷う。
もし、ここで馬鹿正直に答えた場合、僕やミスティの身に危険が迫るかもしれない。
あの鉱山が立ち入り禁止になったり、どこかで聞きつけた賊や貴族が、真似事のようなことをするかもしれない。
そうなれば、最終的には、僕たちの元へ巡ってきて、それは危機となる。それだけは、絶対に避けねばならないのだ。
ちらりとライズさんの様子を窺うと、力強く頷いた。この人は、頼りになりそうだ。まだ知り合って間もないけれど、信用・信頼したいと思える。そんな人。
「実は……」
結局、ありのまま語ることにした。けれど、最終的に五感が鋭くなったことは伏せて置く。また今度、それを封印する魔法を作っておこう。僕は、人並みでいいのだ。
他にも、あの壁をすり抜ける条件については黙っておいた。
知れば、魔力量を増やす知識も僕たちが持っていることが疑われ、全く別のことから危険が迫ってくる可能性が高くなる。
この世界において、魔力量とは先天的な魔力と、成長に伴って増えていく魔力でしか、総量は増えないということになっているのだ。
だから、意図的に増やすことが出来ている僕たちは、イレギュラーで、もしこの方法が露見すると、よくない輩が現れる。
全てを聞き終えたライズさんは、小さく嘆息した。
恐らく、僕が隠している情報があることに気付いたのだろう。けれど、追及してこない。彼も、秘密している物と理由が、薄々わかっているのかもしれない。
僕の中で、ライズさんの株が急上昇していく。
「なるほどな。……確かに、結晶はなかったことにしておいた方がいいだろう。で、あの壁をすり抜ける条件は本当にわからないんだな?」
「はい。ミスティ以上の魔力量を持っていれば壊せるでしょうけど、そもそも、ミスティ以上であれば壊す必要がありません」
これは、大きなヒントになるのだろうか。
まぁいいか。ここから先は、ライズさんが勝手に想像するだけで、僕には関係ない。ミスティの魔力総量も、この人にはわからないだろうし。
「それもそうだな。こんな夜更けに済まなかった、もういい。俺は街に着いたあと、すぐに発つことにする。達者でな」
「はい。ライズさんも、お元気で」
今生の別れではないのだ。いずれまた、どこかで出会える。
ライズさんと別れると、布団の中に潜り込んだ。
ライズさんがただの冒険者ではなく、宮廷魔法師、それも師長ということに驚いたけれど、これまでのことを思い出すと頷けることが多数あった。
彼の使う魔法は、ただのAランク冒険者が使うには、質が良すぎている。それに、魔物への対処も的確で、知識も豊富。振る舞いもまた、立派なものだった。
宮廷仕えというのも、納得できる。
今日は、あまりにも濃密な一日だった。
明日、街に戻ってゆっくりしながら、ミスティと話し合おう。
「すまんな、こんな夜更けに。悪く思わないでくれよ? 俺はお前に配慮して、他の奴らが寝静まった頃を狙ったんだ」
この人は確か、ライズ、と自己紹介していたはずだ。
銀の髪に翡翠の瞳。170ほどはありそうな高身長で、歳はそれなりに食っているらしく、40台に見えるベテランAランク冒険者。
そして、この人は魔法を使う人である。
剣や槍、弓といった武器を使う冒険者たちは、無意識化での身体強化や視力増強、推進力増加などをして、戦いの技術を上げて行く。けれど、魔法を使う人は、意識して魔力を操作し、魔法を扱う。
そのため、上位の魔法を使う人ほど、探知魔法のようなものを扱える人が多いのだ。
「でしょうね。……それで、何の用でしょうか?」
「わかってるだろ? リステリア、君からは鉱山に、あの通路の奥に行く前までは確かに魔力が感じられた。それも、膨大な。……だが、出てきた時、今もなお、魔力は微量にしか感じられない。どういうことだ? あの奥には、何があった?」
やはり、そうだったか。
この人はAランクでもトップレベルで、他のAランク冒険者もいうことを聞くほどの実力者。
そんな人が、僕の異変に気付かないはずがなかったのだ。
ついて来ていた冒険者たちは、ライズさん以外の中にも魔法を使う人はいたものの、Bランクしかおらず、他は前衛のAランクが多かった。
「それはお答えできません。ミスティにもまだ言っていないことです。言うにしても、ミスティと相談してからとさせてください」
この場にミスティの姿はない。それを狙って、この人がきた。
それに、彼女にもまだ、何も話していない。もっと落ち着いてからの方がいいだろう、と思っての事。
幸い、鉱山からの帰り道では、魔物に襲われずに済んだから魔法を見せる機会がなかった。実際に魔法を使うとなれば、僕は、いつも通りに扱えるのかどうかすら、妖しい。
「そうか。……どうしても言えないのであれば、切り札を切らせてもらうが?」
そう言って取り出すのは、一枚の紙。
「これは国王様から、俺に向けられた命令書と、その先で何か非常事態が発生した時のため、王の名を借りて命令することが出来るものだ。俺は、ここでこの紙の王命を行使する」
取り出した紙を僕の目の前に突き出した。
その紙には、
『国王、ジーギヌス・ヴァン・ヴォイスレインの名において命令を処す。
この者、宮廷魔法師師長、ライズ・ヒルステインに王の代行者を命じる。
この者に命令された者は、速やかに行動を起こせ。又、命令を拒否、もしくは、規定の時間内に。この者、ライズ・ヒルステインが帰還しなかった場合は、王国の敵と見做す』
と書かれている。
その文章の下方には、国王のものと思われる直筆サインと、指印がされていた。
とはいうものの、これが本物かどうかなんて判別できるわけがなく、だけど、それはライズさんも承知の上だる。
その上で、この紙を出してきた。つまり、それこそが本物ということの証明に他ならない。
「……宮廷魔法師師長、ですか。冒険者ではなかったんですね」
「いや、元々冒険者だったところを拾われたんだ。たまに聞くだろう? 冒険者が特定の個人と契約することがあることを」
確かに、時々耳にすることがある。
その誰もが凄腕の冒険者で、個人契約を交わす貴族も、中級貴族以上ばかりで、中級の中でも上位の者より上しかいない。
「まぁ、俺の場合は、国と契約した感じだな。それはひとまず置いておこう。で、答えは?」
素直に答えるか否か――迷う。
もし、ここで馬鹿正直に答えた場合、僕やミスティの身に危険が迫るかもしれない。
あの鉱山が立ち入り禁止になったり、どこかで聞きつけた賊や貴族が、真似事のようなことをするかもしれない。
そうなれば、最終的には、僕たちの元へ巡ってきて、それは危機となる。それだけは、絶対に避けねばならないのだ。
ちらりとライズさんの様子を窺うと、力強く頷いた。この人は、頼りになりそうだ。まだ知り合って間もないけれど、信用・信頼したいと思える。そんな人。
「実は……」
結局、ありのまま語ることにした。けれど、最終的に五感が鋭くなったことは伏せて置く。また今度、それを封印する魔法を作っておこう。僕は、人並みでいいのだ。
他にも、あの壁をすり抜ける条件については黙っておいた。
知れば、魔力量を増やす知識も僕たちが持っていることが疑われ、全く別のことから危険が迫ってくる可能性が高くなる。
この世界において、魔力量とは先天的な魔力と、成長に伴って増えていく魔力でしか、総量は増えないということになっているのだ。
だから、意図的に増やすことが出来ている僕たちは、イレギュラーで、もしこの方法が露見すると、よくない輩が現れる。
全てを聞き終えたライズさんは、小さく嘆息した。
恐らく、僕が隠している情報があることに気付いたのだろう。けれど、追及してこない。彼も、秘密している物と理由が、薄々わかっているのかもしれない。
僕の中で、ライズさんの株が急上昇していく。
「なるほどな。……確かに、結晶はなかったことにしておいた方がいいだろう。で、あの壁をすり抜ける条件は本当にわからないんだな?」
「はい。ミスティ以上の魔力量を持っていれば壊せるでしょうけど、そもそも、ミスティ以上であれば壊す必要がありません」
これは、大きなヒントになるのだろうか。
まぁいいか。ここから先は、ライズさんが勝手に想像するだけで、僕には関係ない。ミスティの魔力総量も、この人にはわからないだろうし。
「それもそうだな。こんな夜更けに済まなかった、もういい。俺は街に着いたあと、すぐに発つことにする。達者でな」
「はい。ライズさんも、お元気で」
今生の別れではないのだ。いずれまた、どこかで出会える。
ライズさんと別れると、布団の中に潜り込んだ。
ライズさんがただの冒険者ではなく、宮廷魔法師、それも師長ということに驚いたけれど、これまでのことを思い出すと頷けることが多数あった。
彼の使う魔法は、ただのAランク冒険者が使うには、質が良すぎている。それに、魔物への対処も的確で、知識も豊富。振る舞いもまた、立派なものだった。
宮廷仕えというのも、納得できる。
今日は、あまりにも濃密な一日だった。
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