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第一章
プロローグ
しおりを挟む俺はひんぬー教の教祖をやっている者だ。
ひんぬー教の教義はたったの三つ。
一つ、ひんぬーを愛す。
二つ、ひんぬーを護る。
三つ、ひんぬーを祭る。
至極単純なその教義は、とてもよく守られている。
ただ一つ問題があるとすれば、それは――。
「ひんぬー教を認めろー!」
「我々は卑猥団体ではないぞー!」
「きょぬー教に負けるなー!」
隣にいるひんぬー教幹部の一人、至高のダブルAとともに声を張り上げる。ひんぬー教では匿名が可能で、自由に自分の名前を設定している。
ひんぬー教設立後、すぐに教徒は一〇〇人に達した。だが、その程度で止まっていてはいけないのだ。
俺が設立したひんぬー教に対抗してか知らないが、なんときょぬー教を設立した奴が現れたのだ。そんなことが許されていいわけがない。しかも、奴らは宗教団体として認められた。
そう、認められたのだ。
きょぬーは認められたのに、ひんぬーは認められない。
こんな差別があっていいのか? 否、断じてならない。そう思い、俺たちは同志を募って毎日デモを繰り返している。ごく小規模なものではあるが、デモをすることに意味があるのだと思っている。まずは、行動あるのみだ。
「くそッ。きょぬー教の勢力が収まらない……! 奴らもう一万人を突破しただと!?」
俺たちの一〇〇倍の教徒を抱えてしまっている。しかも奴らは、きょぬーは母なる乳だとして神聖視しているのだ。俺は断じて許さない。
だが、それも今日までだ。今日はひんぬー教を設立して一周年。
初めてのひんぬー愛護祭が催される。デモ行進中だというのに、俺はそのことで頭がいっぱいだ。すでに参加者はきょぬー教からも引っ張ってきており、寝返らせることも視野に入れて行動しているのだ。
「ふは、これで巻き返して見せる! ひんぬーは正義ッ!」
それが俺の今世での最後の言葉だと、思いもしなかった。
交差点に突入するデモ隊。同時に信号を無視して突っ込んでくる大型トラック――。
俺の意識は、そこで途絶えた。
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