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死刑執行されたら、勇者として生き返って即魔王を倒してました~さらに蘇った奴の愛人になってました。なんでだ?~
第14話 魔界、人界、巨頭会議 その一
しおりを挟む円卓会議が開かれる日、もたらされた知らせは王城に驚愕をもたらした。
なんと、裏切り者の勇者が城門に現れて、許しを請いひざまずき、ここに法王様がいらっしゃられることを知り、己の今までの罪をすべて懺悔すると。どのような罰も受けると申し入れてきたというのである。
金髪碧眼のその姿はどこからどう見ても勇者である。このゴースの王宮では知らぬものなどいない。
王侯がそろっての円卓会議前でのサロンにて、その話を聞いた法王は、魔王と手を組んだ勇者の懺悔など聞けば耳もけがれる。そっこく城門にて首を刎ねろと主張したが、それを取りなしたのは意外にも、厳格冷徹で有名なカーク王と、氷の女王ともこちらも言われるリズ女王であった。
「一度は女神が選んだ勇者なのです。その話も聞かずに処刑など、まるで野蛮な魔族のようだ。この人界は、あつい信仰心と正義と法の秩序があるのではありませんか?」
「どのような罪人であっても、死せる前にその懺悔を受け入れるのが、法王様の慈愛というものではありませんか?」
西と北の大国、二人の王と女王の意見を法王も無視出来ない。それにそばにいたゴース王国書記官長のカインストが法王になにやら耳打ちする。すると法王はとたん、気色が悪いほど満面の笑みを浮かべてうなずき。
「そうだな。私も勇者の女神エアンナ様への裏切りを前に、激情からつい口走ってしまったが、どんな罪人でも、女神の前では等しくその子である。子の迷いを導くのが父たる私の役目」
そう、法王は女神を信仰するすべての信者の父とも言われている。が、今の法王が慈愛あふれる父などではなく、ただただ怒鳴りつける暴君だとは、彼を知る者は、みなうんざりとして思うことだ。
勇者は円卓会議の間へと大勢の兵士に囲まれてやってきた。円卓にはずらりと王侯が並んでいる。誰もがかつては自分達が一度は見た、勇者の忘れもしない金髪、蒼い瞳の姿に息を飲む。その瞳は初めて会ったときのごとく清んでいて、本当にこの青年がゴース国の王を殺し、魔王と手を組んだのか? と疑問に思う。
「勇者よ、いや、勇者でもないただの罪人か。お前の懺悔を聞こう」
「俺はなんの罪も犯していない」
円卓ではあるが一番奥の最上級とされている席で、ふんぞりかえる法王が尊大な態度で言う。それに勇者が真っ直ぐ顔あげて返すのに「な……」とぽかんと口を開けている。
法王としては勇者、いや罪人がひざまづき頭をたれて、俺の罪を懺悔するものを思いこんでいたのだろう。それは他の王侯も同じだ。法王のとなりに座すリリラ王女も。ただ、カーク王とリズ女王の表情だけが常と同じことには、驚愕の人々は気付くことはなかった。
「逆に罪人は誰なんだ? あんた達はこの世界の真実を知りながら、この世のすべての悪と不条理を魔王に押しつけ、勇者を希望だとまつりあげて民の目をごまかしてきた。
魔王も勇者もこのくそったれみたいな人界を維持するための世界の贄だ。王侯貴族も聖職者も腐ってる。俺達はもうあんたらの茶番劇にはつきあえない。そろそろ自分のケツの始末ぐらい、自分でしたらどうだ?」
法王も王侯も、いままで彼らが知る礼儀正しい勇者とは正反対の口調にぽかんとし、彼が自分達しか知らない勇者と魔王の密約について知っていることに青ざめ、次に彼の罵詈雑言に怒りの声をあげたのは……。
「そっこく処刑しろ! この己の罪をあらためぬ、女神エアンナ様もおそれぬ、異端者を殺せ!」
真っ赤な顔で法王が怒鳴り、それに呼応するように勇者の周りを取り囲んだ兵士達が、その槍を彼に向けた。勇者の手には魔法封じの手鎖がぐるぐるに巻かれていて、抵抗など出来ないはずであった。
が、四方八方から突き立てられた槍は途中で見えないなにかに阻まれて、勇者の白い顔の直前で止まる。
結界魔法だ。しかし、勇者の両手は魔封じの手鎖で封じられているはず、どうして? と見ていた王侯も、そして、槍を突き立てている衛兵達が驚愕の表情を浮かべるなか。
ぬうっと空中に現れたのは漆黒の大剣だった。それがぶんとふりまわされると、その風圧だけで勇者に槍を突き立てようとしてた衛兵達が、ぱらぱらと無造作に跳ね飛ばされた。床にたたきつけられ、円卓の壁に身体を打ち付けて気を失う者もいる。
「こっちの言葉を最後まで聞かずに、殺そうとするなんて、さすが人の話を聞かないって評判の狂犬だな」
「なるほど、噂通りの狂信者のようだ」
すっと自分が頭からまとった姿隠しのマントをとりはらって、その長身を露わにしたのはアスタロークだ。大剣を握りしめた片手でヴァンダリスを後ろから抱くようにしている。
このマントは魔法塔と魔導具街が協力してつくりあげた最高傑作だ。これを着ると物理的どころか、魔法探知能力がかなり高い魔道士でも見抜けないというから、とんでもない代物である。
「まったくアンタが後ろから腕を回しているせいで、歩きにくくてしようがなかったぞ」
そうなのだ。ヴァンダリスが城門に立って、王宮のこの円卓の間までくるあいだ、ずっとこの男はびったり自分の後ろにくっつくどころか、片手で抱きしめて歩くという器用なことをしていた。
「私もお前の足を踏まないように気をつけていた」なんて言いながら、ヴァンダリスの手を拘束する鎖を片手で引きちぎり、ばらばらと砕いてしまう。解放された手を軽く振っていると、今度は自分の魔法倉庫から取り出した深紅に金糸の刺繍に金の房飾りの先に大粒の水晶が光るマントを、ヴァンダリスの肩に掛ける。
「…………」
今のヴァンダリスの姿はなんの飾りもないシャツにズボン姿だ。この格好で行くと話すとアスタロークは大変不満そうだった。
「最大の敵地に乗り込むというのに、お前の身を最高に引き立たせる戦衣でなくてどうする?」
「あのな……あの狂犬じゃない。法王様に懺悔するのに、きらっきらっのぴらっぴらっの服で行ってどうするんだ?」
ヴァンダリスの言葉に不承不承うなずいたアスタロークだったが、このマントは彼の最低限のこだわりなんだろうな……と大人しく受けることにする。
その間に自分の魔法倉庫から、いまや愛刀となっている片刃の東方剣を取り出した。最初に渡されたときはアスタロークにあわせてか、黒い鞘に黒の帯剣ベルトだったのだが、今はそれはヴァンダリスに合わせたように白に金の……いや、これ派手過ぎないか? と思ったが、ドワーフのザガンに直接渡されたのだ。
「アスタロークの坊主に頼まれたんだが、奴め。自分のときは黒ければいいようなことを言っておいて、妻の持ち物となると、事細かく注文つけおって」
「愛されておるなあ」という老ドワーフに、ヴアンダリスも、いつもの嫁じゃねぇ! の言葉も言えずに受け取った。
赤いマントを肩にひっかけられ、腰には白い剣をおび、背後には黒い夜を切り取ったような長身の魔族の男。だけでなく。
アスタロークが詠唱をすると、その前に複雑な紋章の魔法陣が現れる。そこから姿を現したのは……。
「魔族だと!」
「この勇者の王城に現れるなど!」
多くの勇者を出してきたことから、このゴースは勇者の城とも呼ばれていた。しかも、その“神聖”なはずの王侯が集う円卓の間に、魔族が現れたのだ。
その数はアスタロークを入れて七人。そう、魔界の八大諸侯だ。
「前魔王であり、魔界の諸侯の代表として、ここにいる人界の代表である者達と話し合いを申し入れる。
千年前の密約を改め、勇者と魔王の制度を今回限りでおしまいとし、代わりに魔界と人界との和平条約を結びたい」
アスタロークの言葉に玉座の間がざわめく。それをひき裂くように「魔族との和平などありえぬ!」と叫んだのは、狂犬もとい、狂信者もとい、法王だ。
「魔族とはすべての悪徳をまき散らし、魔王は災厄そのものだ。その言葉はいつわりばかりの嘘つき共と、どうして和平など結べるか! こちらに背を向けた瞬間に斬りかかってくる連中が!」
「いや、鎖で手をグルグル巻きにした無抵抗の俺を殺せ殺せとわめいた、狂犬、おっと法王様のお言葉とは思えないな。だまし討ちはそちらのほうが得意じゃないか?」
ヴァンダリスのからかうような言葉に、ぐうっと法王は一度黙りこんで、横に立つゴース王国書記官長カインストに法王は低い声でブツブツと文句をいう。
「お前が円卓の間に勇者を引きだして、ここにいる王侯にも神に背いた者の慣れの果てと、見せしめに処刑すればよいと言ったではないか」
本人、小声のつもりだが、まったく隠せてない。なんでこんなのが法王に? と思うが、異端審問官としては大変優秀で、あれよあれよといういう間に出世して、どうしてあいつを法王にした? と人々が後悔したときには遅かったという。
とにかく「魔族との話などならん! この者達を追い出せ! 少しでも耳を傾けたものは破門だ!」とわめく法王に、少女の姿をした大魔導士ベローニャが「雑音には大きすぎるな。ちと少し黙っておれ」とそのネコの手の杖を振ると、口はぱくぱくうごいているのものの、法王の声は全く聞こえなくなった。風魔法の結界で雷のような大声を遮断したのだ。
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