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【61】神zonって出張店舗もあったの?

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 早朝に二人は起きた。
 毒入り朝食の乗ったワゴンが来る前に、しなければならないことがある。
 しかし、ここで困った。

「……髪を切れといったが、誰が切るんだ?」

 小さなチンチラではまず無理だし、大きなチンチラのお手々でもハサミは持てても、そもそも人の髪の毛なんぞ、アルファードは切ったことはない。

「切ればいいってもんじゃないんだよなあ。“かっこよく”カットしてもらわないと」

 なにしろ“見せ場”なのだ。「私は短ければなんでもいいぞ」と度量がでか過ぎる後ろからの声を無視して、アルファードの前にシュンとあらわれたのは、透明な画面。

 そこには。



 神zon出張モップカッティング! ~カミだけに~なんちゃって! 



 とのボタンしか出てなかった。

「マジか?」

 思わず、アルファードはつぶやいていた。
 とりあえず、虚無のチンチラ顔でボタンを押した。

「ご指名ありがとうございます」

 “それ”はいつもどおりに、軽い声で現れた。

「……ボタンがひとつしかないんだから、押すしかないだろう」

 れいのでっかい机はない。立っている姿を初めて見た。意外に背は高くないか? いや、まあ存在からして伸縮自在なんだろうが。
 そして、黒いエプロンの胸には神zonのロゴ、腰には革のシーザーケースに、銀に輝くハサミが入っている。格好から入るタイプなのか? いや、自分のチンチラ服のセレクトからしてわかっていたけど。
 そして首から上の顔はもやがかかったように見えなかった。

「フリィ……」

 ダンダレイスの声はめずらしくも不安げだ。アルファードは答えた。

「あまり深く考えるな」
「うん」

 こくりとモップ頭がうなずく。
 素直なよい子だった。
 「さあ、この椅子に座って~」といつの間にやらあったのは、サロンにあるような“あの椅子”。あの椅子としかいいようがない。座ったことはあるが、名称なんぞ知るものか。

「~毛刈りしちゃうよ~カミだけに~」

 ひゅう~とアルファードの周りに寒い空気が流れるなか、両手に持ったハサミを動かしていく様は、本当に一流美容師のようだった。



 そういえば髪を濡らさなかったな。
 いわゆるドライカットって奴か? 
 それもハサミ両手に二刀流ってすごくね? 
 ほんと、なんでも出来るんだな。
 いや、出来て当たり前か。



 カミだけに……。



「…………」

 アルファードは小さな身体をぶるりと震わせた。いや、体感としては寒くない。

 心が寒いけど……。

 さて、モップ……もとい、ダンダレイスのカットが終われば、アルファードの番だ。
 『本当にいいのかい?』なんて、もう一度確認などされなかった。それは昨日、夢のなかで話している。

 後悔などしない。

 元の記憶はなくても、からっぽでも、あなたはここに生きていると……そう、いってくれたダンダレイスを見て「男前になったな」とニッと笑う。アルファードは濃紺に星屑のような黄金を散らした瞳で、首から上の姿がぼんやりとした見えない神様を見つめた。

「恩寵を使う、やってくれ!」

 そう告げたとたんに、チンチラの小さな身体は光に包まれた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 監獄塔の貴賓室にワゴンに乗った朝食が運ばれる。
 扉の前には白い軍服を着た近衛騎士が四人。外側の鉄格子の扉を開けて、さらに内側の豪奢な扉を開く。
 二人が中に入り、二人が外側で待機する。しかし、なかに入った二人が「な、な」「あなた様方は……」とあがる声に、外で待つ二人も顔を見合わせて、なにごとか! と部屋の中へと踏み入った。

 そして、ただ棒立ちになる同僚二人と同じように、硬直した。

「勇者アルツオ……」

 そう思わず一人が声を漏らしてしまったのは仕方ない。
 短く刈られた赤いくせ毛、秀でた額も露わに太く男らしい眉の下の赤銅色の瞳は、毎日、礼を捧げる肖像画の伝説の勇者にして解放王にうり二つだったのだ。
 しかも、かなりの長身だったと伝わる勇者のその横に立つ“紳士”は。
 後ろに丁寧になでつけられた銀髪。顔半分の同じ色の髭もきっちりと整えられている。そして、こちらを見る理知的な切れ長、濃紺の瞳は。

「魔法剣士ユキノジョウ」

 こちらも肖像画で見たままの穏やかな男性だ。しかし、そのまとう空気はきりりとこちらの身が引き締まるようで、彼が歴戦の戦士なのだとわかる。

「近衛の役目ご苦労。さてそろそろ外を“散歩”させてもらうぞ」

 低い美声でユキノジョウはそう宣言すると、歩き出した勇者アルツオの横に続く。
 「お、お待ちください!」と近衛騎士達は追い掛けた。





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