チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~

志麻友紀

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【43】穏やかな茶会とはならないようで

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 要塞にサロンなんて洒落たものはない。第一近衛騎士団の王宮内の敷地にある詰め所そのものが宮殿のような作りであり、第二騎士団においては風見鶏団長が準男爵に任じられてから、王都内にある駐屯所に団長専用の豪奢な応接間サルーンが作られたそうだが。
 武のモーレイ家らしく、王都郊外にある駐屯地にも、この要塞にもそのような“飾り”は一切なかった。
 王都にある公爵家のあの豪奢な邸宅は? と問われれば、あれは元々王家の離宮だったものを、三百年前に初代モーレイ公マクネアが、三代目勇者王であり兄でもあったアルツオから、公爵位とともに拝領したものだそうだ。

 ダンダレイスが案内したのは、いつもの食堂。「これはこれは一兵卒が利用する食堂とは、ずいぶん庶民的だ」と風見鶏ゴドフリーが早速イヤミを口にする。しかし、レジナルドは窓の外を見て「景色がいいね、糸杉の並ぶ並木の庭が心地よさげだ」と目を細め、聖女ヒマリも「学食みたいですね」とはしゃいだ声をあげている。ローマンも黙って従っているのに、ゴドフリーは“空気を読んで”しかめっ面で押し黙った。さすが風見鶏だ。
 窓際のいつものテーブルにダンダレイスとレジナルドが並んで座る。聖女ヒマリの横にはアルファード。卓を挟んで反対側にローマンとゴドフリーが。

 給仕の少年兵がスコーンやサンドイッチ、シードケーキやレモンケーキなどの焼き菓子が盛られた皿を並べる。「おや、こんな辺境でどんな郷土色豊かな田舎料理が出てくると思いましたが、見た目は王都のティールームで出てくるものと変わりありませんな」とゴドフリーがまた懲りずにいうが、レジナルドが「やあ、おいしそうだ」と明るくいい、さっそくサンドイッチをつまんで「王宮のキューカンバサンドと変わりない」と喜ぶのに、ぐぬぬ……とまたもや空回りで黙りこむ。

 従卒の少年兵は獣人ではなくモーレイ領出身の人間だ。ここで耳付きの給仕した食べ物など食べられるか! などと言いだしそうな“不安要素”があるのだから、そこはさすがに配慮したわけだ。
 給仕の少年はヒマリに「季節のケーキもおだしできます」と告げる「アップルパイにバニラアイスを添えたものと、蜜芋のタルトにベリーのシャーベットを添えたものがあります」とヒマリはアップルパイを選び、少年は当然のようにアルファードを見たので「蜜芋のタルトをくれ」と告げた。

「……大きくなられたんですね」

 ヒマリがおずおずとアルファードに話しかける。アルファードは「見た通りだ」と答えた。これでは会話が続かないな……とアルファードはさらに言葉を足した。同郷の少女だ。多少、気遣いぐらいはする。

「ここでの魔力の使い方にもだいぶ慣れたからな。小さすぎる身体では不便なので、少し大きくしたのだ」

 “少し”というアルファードの言葉にヒマリは「ふふ」と笑う。

「お披露目の夜会での燕尾服も素敵でしたけど、今日も素敵です」
「ありがとう」

 本日のアルファードの姿は、立て襟のシャツにクロスした赤いリボンタイ。ボルドー色のメスジャケットにふんわり黒の乗馬ズボンにブーツだった。頭の上の大きな耳の間には、チョコンとボルドーリボンの背の低いシルクハットをのせている。
 題して『秋のチンチラちゃん、ちょっと軽くフォーマルお出迎えセット! 』と前日の神zonのお勧めにでかでかと載っていた。神様よ……こちらの状況が見えているのか? 
 だったら、魔王もサクッとなんとかしてくれないかな? と思う。

「あの……魔物と何度も戦われたんですよね?」

 ヒマリは目の前のお茶に目を落としてつぶやくようにいう。「ああ」とアルファードは答えて、彼女の次の言葉を待つ。

「怖く……ありませんでしたか?」

 『怖くなかった』というのが正直な感想だ。戦いなんて経験したことのない、現代日本人としては、この感覚は異常だ。たぶんこれは、ユキノジョウから受け継いだ経験や知識のおかげだろう。
 だが、ヒマリがそのような答えを求めているとは思わない。

「怖くない……と言えば嘘になるな。誰もが戦いは恐ろしい」
「そう……ですよね」
「だが、私の横にはダンダレイス殿下がいた。それに第三騎兵隊の心強い戦士達もだ。ヒマリ殿、あなたにも、勇者としてあなたが選んだレジナルド殿下に、第一近衛団の騎士達がいるのではないかな? 
 彼らが聖女であるあなたを守ってくれる」

 アルファードが柔らかな声で告げれば、ヒマリはぱちぱちと音がしそうな瞬きを二回して、それから「はい」と微笑んだ。



「なんだと! もう一度いってみろ!」
「何度でもいってやるよ。耳付きのケダモノ野郎達と一緒の食堂なんて使えるか! お前達は外で立って食べるのがお似合いだ!」



 突然、食堂の一角から怒鳴り声が聞こえた。見れば緑の第三騎兵団の軍服を着た若い犬族の青年と、灰色の第二騎士団の制服を着た男がにらみ合っている。

 早速やらかしたか……とアルファードは内心で舌打ちした。特別な出迎えの式典もしなかったが、この食堂もまた一般兵も通常に利用出来るように解放されていた。そこには近衛だろうと、第二騎士団だろうと第三騎兵団だろうと区別はない。
 当然、獣人差別が酷い者との軋轢あつれきは予想されたが、初日の、しかも、食堂の一角で団長達がそろっての場でやらかすとは。
 ケンカを売ったのは灰色の軍服の第二騎士団だろうが、その団長であるゴドフリーはといえば、口の片端をあげて愉快そうな顔をしている。部下を諫める気配もない。

 双方、胸ぐらを掴み拳を振り上げたが、その拳が宙で不自然な形にぴたりと止まった。
 第三騎兵隊の若者の動きを止めたのはダンダレイスだ。彼からすさまじい魔力の圧が出ている。それを感じてだろう。ヒマリが息を飲むほどだ。
 同時にその隣のレジナルドからも同じく魔力が出ている。こちらは灰色の軍服の男に圧をくわえていた。ゴドフリーが抑えられないのなら代わりに……というか、この風見鶏にそんな魔力があるかどうか、疑問であるが。

「イナー、自室での謹慎を申しつける」

 ダンダレイスが告げ、犬族の青年の魔力の拘束を解く。イナーと呼ばれた青年はダンダレイスに向かい「申し訳ありませんでした」と胸に拳をあてて最敬礼をとって、駆けつけた憲兵に両わきを固められて食堂を出て行った。

「やれやれ、ケモノ部隊……おっと、第三騎兵団らしい荒々しい気風ですな。頭に血が昇りやすいものが多い」

 ゴドフリーがまるで人ごとのように言うのに、相手の第二騎士団の男をいまだ魔力で固めたままの、レジナルドが微笑を浮かべて、彼に告げる。

「ゴドフリー団長、これは“よくない”ね」





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