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【34】王都新聞よりモーレイ公爵家広報
しおりを挟む北からは、その後も次々と勝利の知らせが届いた。
最初のゴブリン部隊の勝利に初まり、次にリザードマン部隊撃破、大将のサラマンダー討ち取る! との広報のビラにはサラマンダーの炎を、光の盾を展開して防ぐアルファードに、剣を勇ましくふりおろし、紅く巨大なトカゲの身体を真っ二つにするダンダレイスの姿が。
その後も頭が狼のコボルト部隊に勝利。巨大な氷の狼となった魔将も討伐。邪術使い達が召喚したおぞましき暗黒スライムもみごと打ち倒す! と見出しが踊る。
モーレイ公爵家はその創立時より篤志家として知られていた。領地でも平民の子らに読み書きや簡単な計算まで教える私塾を無料で開き、王都においても下町にそのような施設が作られていた。病の人々を無料で診る治療院に、明日のパンにも困るような者達に配給所も作っていた。ただ施すだけではなく、公爵家が身元を保証しての優良な職場への仕事の斡旋などもだ。
人造魔石の革新によって、北の領地が豊かになれば、その富を民に分け与えるように、王都の施設は増え大きくなっていった。
モーレイ公爵家の広報は、その公爵家の下町の施設の壁に張り出されており、また誰でも自由にもっていけるように受付のカウンターに置かれてもいた。
日頃から施設の世話になっている者達は、我らが当主様の活躍を喜び、人々に話し手にした紙を見せて配った。
「勇者様に選ばれなかったっていうけど、たいしたご活躍じゃないか」
「王都新聞じゃ、このあいだ聖女様のお披露目の会場から逃げ出したなんて書かれていたらしいけど、そんなことあるもんか! って、あたしは信じていたよ!」
井戸端で女達がそんな会話をしている。
「王都新聞なんて貴族と金持ちどものものだ。信用なるものか」とそこに野菜売りの天秤を担いだ男が加わる。
「だいたい、一部大銅貨三枚なんて馬鹿にしている。はなから貧乏人なんて相手にしてねえんだよ」
大銅貨一枚あれば食堂で結構よい定食にエールを一杯つけられるのだ。食えもしない紙に定食三食分払う庶民などいない。王都新聞は完全に貴族とブルジョアのものだった。
「お偉い人達の王都新聞より、俺達にはモーレイ公爵家広報だよ。今日も“チンチラ卿”のかわいいお姿が載ってるぜ」
これは売りもんじゃねぇよと野菜売りの男が、施設でもらってきた広報を女達に配る。こうやって広報は広まっていっているのだ。
「あれまあ、赤毛の王子様の長い足の間に座って、大きなお姿でシードケーキを食べてらっしゃる」
「このお姿できちんと紳士の姿をされているのが、また可愛らしくてね。ほら、ちゃんとシャツ着て胸元に幅広のタイに裾の長い上着。大きなお耳のあいだにちょこんとシルクハット」
「私達を平民と馬鹿にしくさって、威張るだけしか能の無い貴族様より、よっぽど紳士でらっしゃるにちがいないよ。なにしろ、神様から伝説の魔法剣士ユキノジョウ卿の力を受け継いでいるんだろう?」
「そうそう、それなのにこんなに愛らしくてらっしゃるなんてね~」
戦況の報告のあいだの普段の広報の話題は、もっぱらアルファードの写真で埋められていた。ダンダレイスと共にいる寛いだ表情に、騎兵団の獣人達とふざけ合ったりする愛らしい姿に、王都の民達はメロメロになっていた。戦闘のときの勇ましい様子からの一転して、のんびりと小さな姿でお昼寝したり、好物の甘い物をほおばる姿は癒しにもなると。
彼らが密かにつけたあだ名はチンチラ卿。
そんなことなど知らないアルファードは「鼻がちょっとムズムズする」とくしゅと小さなくしゃみを連発していた。
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