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【25】悪魔の味と襲撃者

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 タルテリオの壁の要塞のすぐ隣にヤトの村はある。村人のすべてがタルテルオ鉱山での採掘に従事している者とその家族だ。

「チンチラおじさんこっち!」
「アルおじさん、早く」
「アルちゃん、遅いとベリー食べちゃうよ!」

 子供というのはすばしっこい。チンチラもすばしっこいが中身はおじさんだ。いたわって欲しい。
 だいたい、こちらの足は子供の足より短いのだ。チンチラだから短いのは仕方が無いが! 

「まったく!」
「うわっ!」

 アルファードは着ているポンチョをふわんと風に膨らませ、少年の背中に駆け上がり、その垂れた犬耳の間の頭の上に、ぽんと乗った。肩と思ったが、子供の肩はダンダレイスのようにどっしりとした安定感はない。頭のほうがいい。
 ちなみに本日の装いは、神ZONご推薦の“チンチラちゃん秋の行楽セット”だ。ポンチョに膨らんだズボンにブーツ。腰には銀の剣。
 少年の頭に乗るときに、靴底にはしっかり浄化魔法をかけたから問題はないだろう。

「ほら、走れ」
「僕は馬じゃないぞ」
「あ~アルちゃんを頭の上にのっけてる。いいなぁ~ずるい!」

 そういって、唇を尖らせた少女の頭に今度はピョンと跳んで乗ってやる。黒い猫の耳の間に立つ。少女は「きゃっ!」と悲鳴をあげたあと「あたしにものってくれた~」と喜んだ。

「さて、子供達よ。遊んでいる場合ではないぞ。我らの本日の作戦はベリー採りだ」

 「はぁい~」と三人の子供達は、ベリーが生る草原へと向かう。
 子供達の目的はベリー採りだが、アルファードの役目はその護衛だ。村の近くには危険な魔獣は出ないが、それでも今は時期が時期だ。魔王の気配は魔獣をも刺激しさらに凶暴化させるということで、念のためにアルファードが子供達についていくことにした。
 こんなちんまりしたナリでも、たいがいの魔獣なら魔法で撃退することが可能だ。

 とはいえ、到着した草原はのどかなもので、子供達はベリーを摘んで籠にいれていく。時々、いや、かなりつまみ食いをしながらだ。
 アルフォードもつやつやと美味しそうに赤く生るベリーを一つ両手で摘んで、しゃくしゃくとかじる。うん、甘酸っぱく美味しい。
 「アルちゃん美味しい?」と黒ネコの少女にきかれてうなずく。

「そのまま食べても美味しいけど、ジャムにすると美味しいの。ビスケットにつけるマーマレードとベリーのジャムとどっちも好き」

 王都ではスコーンと呼ばれるが、北の人間はビスケットと呼ぶ。その呼び方で王都の者達は、北の者達を“田舎者”と馬鹿にするらしいが、スコーンでもビスケットでもうまいものはうまい。どっちだっていいだろう。

「ビスケットにつけるクリームはぜったい外せないわね」
「もちろん、クリームはたっぷりとだな。それに悪魔の食べ方を伝授してやろう」
「え? 悪魔? なに? なに?」
「ビスケットの上にクリームをたっぷりと、なおかつ、マーマレードとベリーのジャムを半分半分のせるのだ」
「それは禁断の味だわ! たしかに悪魔!」

 きゃっきゃと笑う黒ネコの少女にアルファードもにんまりと口の端をあげるが、ふいに顔をあげて草原の向こうを見る。子供達に危ないから、あまり近寄るなと言ったところだ。そこで草原が途絶えて、急に切り立った崖になっているのだ。

「みんなこちらへ、私のそばへ!」

 ベリー採りに散らばった子供達へと声をかけながら、アルファードは魔力で作った伝令蝶を飛ばす。これですぐに“救援”は駆けつけてくれるはずだ。
 子供達は「おじさん?」「なんだよ?」と疑問を口にしながら、素直にこちらに駆け寄ってくる。
 同時に崖下から身軽に昇ってきたのは五つの影。子供のように小柄ではあるが、人の子供ではない。尖った大きな耳に頭部には二つの角の赤や青の皮膚の色をしたゴブリン小鬼だ。

「なんだ? 人間もどきの子供か?」

 魔族達は獣人達のことを“人間もどき”と蔑称で呼ぶ。ゴブリン共は怯えて身を寄せる子供達に、ケラケラと笑い。

「残念だな。余裕がありゃとっ捕まえて奴隷市場に売るんだが」
「今は魔王様の密命を受けた知られちゃならねぇ斥候のお仕事中だ」
「尊い魔族の俺達の姿を見たお前達には死んでもらわなきゃならねぇ」

 口々にそんなことを言うゴブリン達に子供達は怯えてますます身を寄せ合うが、そんな中から男性の低い美声が響く。

「なにが魔王様の密命だ! お前らごとき、最下層魔族のゴブリンの下っ端に魔王が直接指令など下すか!」

 「なんだと!」と叫んだゴブリンの顔に、子供達のあいだから飛んだファイアーボールが命中する。





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