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【16】中ボス登場にはまだ早い!

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「ダンダレイス殿下。レジナルド殿下とともに勇者“候補”に選ばれながら、勇者になれなかったことはまこと残念でした」

 まったく残念に思っていないそぶりで、キャスリーンが冷ややかに告げる。先に横の旦那の宰相のメイス公爵が同じことを言っていたのに、また繰り返すとは、それだけダンダレイスが勇者に選ばれなかったことを、強調したいらしい。

「無事に聖女召喚され、ここにいる聖女ヒマリは我が子であるレジナルド殿下を選びました」

 これまた先にとなりの宰相が言っていた“我が子”をことさらキャスリーンは強調する。「あなたが勇者に選ばれなかったことは、まことに残念ですが」としつこく繰り返し。

「ですが、神々の選定は選定、これからはレスダビア王国の“一臣民”として、選ばれし勇者と聖女に“忠誠”を誓ってくださいますね?」

 ダンダレイスはキャスリーンの言葉に無言だ。それにメイス公爵が「おやおや」と声をあげる。

「ダンダレイス殿下におかれては、レスダビア神に選ばれし聖女様がレジナルド殿下を選ばれたことがご不満で、お二方に“膝を折り”“忠誠”を誓えないと?」

 その言い方が問題だろうがと、アルファードは無言のダンダレイスの肩の上で、声に出さずに『姑息な狐と狸め!』と毒づいた。
 たとえ勇者に選ばれなくともダンダレイスはレジナルドと同格の“王子”だ。その王子が“一臣民”として同じ王子に“膝を折って”“忠誠”を誓うことなど出来ない。
 ダンダレイスが唯一膝を折らねばならないのは、この場にいないレスダビア王国国王アルガーノン・リー・ヒートン ・レスダビアのみだ。

 老齢の国王はこの場にはない。最近は重要な儀式以外公的な場に出ることが、めっきりと少なくなっていた。
 無言のダンダレイスに「どうされましたか?ダンダレイス殿下?」とメイス公爵がしたり顔で話しかけ、周囲の貴族達がざわめき出す。

「殿下は聖女の“神託”に不満なのか?」
「勇者レジナルド殿下に従わぬと?」
「まさか叛乱?」

 こんなことで叛乱の嫌疑をかけるなど……と思うが話はさらにエスカレートして、「先ほど人が変わったように我らに“乱暴”されたのも、その前触れ?」なんて言っている。好き放題鳴いていたニワトリを黙らせるために、ちょっと威圧の魔力を出しただけで“乱暴”か?
 ダンダレイスの肩でそのモップ頭に半分隠れた高い鼻を眺めながら、実のところアルファードは感心していた。そのまま無言でただ立つ彼をだ。
 貴族共の放言を放置していた彼の“度量”からすれば、ここで膝を折ることに、本人は少しの屈辱も感じないだろう。この男にはみみっちいプライドなんてものはない。
 だが、それでも彼が膝を折らないのは、この国の王子だからだ。たとえ相手が勇者と聖女であろうと“順番”は違えない。

「ダンダレイス殿下!勇者レジナルド殿下と聖女ヒマリに膝を折って頭を垂れ“忠誠の誓い”を出来ないというのですか!」

 キャスリーンがただ立つダンダレイスに苛立った声をあげる。おいおい、王族ともあろうお方がこんな公の場で、そんなに感情を露わにしてもいいものかね?さらには“罪人”のように頭を垂れろときたか。騎士たるもの、挨拶に胸に手をあて、主君に最敬礼の膝を折れど、相手の顔を真っ直ぐ見据えるのが、誇りであり矜持であるのに。。
 しかし、この場をどう納めるんだ?と思ったところで「その必要はありません」という声が響いた。遅いぜ“勇者様”。

「タンダレイスは同じ勇者候補として正々堂々、私と競い合った者。私と同格の王子である彼が、私や聖女に“忠誠”を誓う必要はない。
 王子としての彼が担う“責任”は王国を民を守ること」

 レジナルド王子の朗々とした声が広間に響く。彼は突っ立ったままのダンダレイスに笑顔を向け。

「ダンダレイス、同じ勇者候補だった者同士、そしてレスダビア王国の王子として、聖女ヒマリとともに魔王討伐に向かう、私を助けてくれるか?」
「もちろんだ。私は王国の王子として、また国を守る軍人として、勇者と聖女を助けよう」

 今度はダンダレイスもうなずく。
 周囲からは「さすがレジナルド殿下」「勇者に選ばれただけあってお心が広い」「それに比べてダンダレイス殿下は……勇者と聖女に忠誠を誓うだけなのに」と。

 気に入らないな……とアルファードは胸の中で毒づく。狐と狸の夫妻の顔は不満げであるが、結局良い子の勇者様が場を納めて、すべてをかっ攫ったこの状況がだ。
 レジナルドの言うことはたしかに正しい。あの聖女召喚の場においても、巻き込まれたアルファードを国で保護するべきだと“口添え”してくれた。
 この場においても、ダンダレイスは自分と同格の勇者候補であった者であり、王子であり、同じ国の危機を憂い、守るものだと“忠誠”ではなく“協力”して欲しいと言った。



 そう、彼の言うことは正しい。
 ただ“綺麗な言葉”を並べた“それだけ”であるが。



 そのとき、キャーやうわぁという男女の悲鳴が唐突に響いて、皆はそちらを見る。
 給仕として働いていた男が全身から血を吹いてぱったりと倒れたのだ。そのこぼれた血が、闇色の邪悪な光を放ち床に魔法陣を描く。
 「「来るぞ!」」とダンダレイスとレジナルドの声が重なる。その瞬間魔法陣からずっ……と紫のローブをまとった梟の頭の巨大な魔族が現れる。
 逃げ惑う貴族達の悲鳴が響く中、ほうほうほう……とその梟頭に相応しい笑い声をあげ。

「勇者と聖女のお披露目の宴と聞きましてな。まこと喜ばしいことですが、残念ながら、ここで我が魔王様の人間界侵攻の憂いの目は摘んでおくことにしましよう。
 わたくしの名は三魔将軍の一人、虚栄のネメオベル」



 ここで中ボス登場ですか?





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