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【8】伝説の魔法剣士
しおりを挟むユキノジョウなんて名前なのだから、その魔法剣士は、昔の日本の人物なのかもしれない。もっとも、ユキノジョウという現代日本人もいないことはないが。
そのユキノジョウであるが、最初の勇者が現れたとき、聖女とともにこの世界に召喚されたという。勇者と共に旅をし、見事に魔王を討ち果たしたと。
その魔王討伐において受けた“恩恵”が不老だったのだという。
さらに次の勇者が現れるまで、彼は霊廟の石の棺で眠りについているのだと。
「不老の身体はともかく、なんで棺で寝ているんだ?」
まるで吸血鬼だ……とアルファード思う。いくら不老の身とはいえ、ストイック過ぎないか? と。
理由はわからないとダンダレイスは答える。
「神託によって勇者が現れたときに、ユキノジョウもまた目覚めて、勇者の元へとやって来る。が、今回は来なかった」
「勇者“候補”が二人現れたからだろうって、レジナルド殿下がわざわざ北の辺境にある霊廟まで“起こしに”いったのさ」
ところが石の棺の中は空っぽだったという。
「空の棺も気になるが、なんでレジナルド王子“だけ”が、伝説の魔法剣士様とやらを迎えに行ったんだ?」
「そのとき私は西の魔獣討伐をしていた」とダンダレイスは答える。ツイロも「俺も副団長として同行していた」と言い「いつもの妨害だよ」と続けた。
すべての勇者の魔王討伐に同行した伝説の魔法剣士ユキノジョウ。その彼をより早く“取り込む”ためにレジナルド王子のみを迎えに行かせたというわけだ。
「しかし、魔王がいて、神託により勇者が選ばれ、異世界より聖女が召喚されるって、いわば世界の危機だっていうのに、派閥争いなんて愚かしいことだ。
勇者候補が二人いるなら、二人協力してってことにはならないのか?」
たぶん、ならないんだろうなと思いながらアルファードは問いかける。それにダンダレイスが「そのとおりだ」とうなずく。
「私はレジナルドと争うつもりはないと十五で勇者の神託を受けたときに皆に告げた。次の王は彼だとも」
「王?」とアルファードは首をかしげる。ツイロがすかさず口を開いた。
「歴代の勇者は魔王に勝利したあと、必ずこのレスダビアの王になってる」
なるほど勇者となることイコール王位となれば、レジナルド王子の背後にいる者達は、どうしてもダンダレイスを蹴落としたいだろう。
「レジナルド王子はなんて言ったんだ?」
アルファードはふと気になり訊ねた。
「勇者に選ばれるのただ一人。どちらが選ばれようとも遺恨はもたぬようにしよう。私が勇者に選ばれたときは、喜んで協力すると言った」
「ふうん。優等生の答えだな」
脳裏に浮かぶのは昨日見た、完璧な王子様の完璧すぎる微笑だった。
そして“爆弾”を落とすことにする。
「ユキノジョウという魔法剣士の棺は空っぽで当然だな。彼は不老を捨てて、次の転生に入ったんだから」
「どうして、それを知っている?」
ダンダレイスが固い声で訊ねる。モップの前髪で表情は見えないが、緊張しているのはわかる。
「そりゃ、ユキノジョウは俺が来た世界の住人で、あっちの世界の神様が転生させたって言っていたからだ。
そして、その魔法剣士の知識と魔力と経験を俺はこんな姿になった“代償”としてもらった」
「この部屋にいる者達に告ぐ」
がたりと椅子から立ち上がり、ダンダレイスが口を開いたとたん。部屋が重苦しい空気に包まれた。これは魔力による圧だ。彼の長身からすさまじい気が発せられている。
「ただいま、この部屋で見聞きしたことは、私、ダンダレイス・ クライゲラヒー・モーレイの名によって禁じる」
「おい、魔法禁約なんて、大げさな」とツイロは口を開くが、そのとたんダンダレイスが彼に向けた圧が大きくなった。ツイロが「誓う」と苦しそうに告げたとたん、その圧は消えて、彼はホッと息をつく。スティーブンも、給仕のために壁際に立ってたフットマンやメイドも「誓います」と口にした。
魔法禁約は魔力よって相手の行動に制限をかけるものと、これもアルファードは受け継いだ知識で知っていた。ただし、相手の自由を奪う禁呪でもあるので。それを使えるのは国王にそれを許された王族に、国の機密にかかわる宰相や大臣だ。ダンダレイスは王族であり、第三騎兵隊長という役職から使えるということか。
ただし、この禁呪を使用するにはかける相手に対して、絶対的な魔力上位者で無ければならない。それからしてダンダレイスの魔法の技量はそうとうなものだとわかる。
「あなたもこの事は他の者達に話してはいけない」
ダンダレイスの差し出した大きな手に、アルファードは素直にちょこんと乗った。彼の目線の高さまで持ち上げられて告げられる。
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