ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【62】お前らが泣くのかよ! の華燭の典

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「新しき勇者と新たな星の賢者の結婚式であるぞ、盛大にやらなくてどうする?」

 とは、御隠居カールの言葉である。顔はとっても真剣であるが、夢かわサロンにて茶狼のぬいにまたがった姿では、どうにも様にならない。
 白兎に漢らしくまたがり腕を組んだスノゥは、あきらめのため息をつく。そしてモモは「大お爺様のお好きなように」と笑う。見つめ合ったアルパもまた、苦笑しながらうなずいた。
 最初にこの時代に着地? したモモの部屋のお星様のベッドに、現在暮らしている大公邸を見れば、カール御隠居の兎さん愛をわかるというものである。
 とくに、白亜の神殿と見まごう建物にアルパは首をかしげて「あれは?」とモモに訊ねた。それにモモはうっすら頬を染めて「なんだ?」という顔をするアルパに答えのだ。

「産屋です。僕もあそこで生まれました」

 神殿と見まごう建物のドーム型の屋根には、確かになぜか翼の生えた可愛らしい兎の彫像があった。
 さて、結婚式……の準備だ。

「まあまあまあ、モモちゃんもそうだけど、なんて逸材!」

 アルパを見るなりマダム・ヴァイオレットが声をあげる。

「いつも真顔の大公様も素敵だけど、こちらの柔らかな笑顔も最高の紳士という感じで素敵よね~」

 ときゃあ~とマダムの黄色い悲鳴にも、その迫力ある熟女? の紫ドレス姿にも、アルパは動じず。いつもの穏やかな微笑のまま。

「モモが最高に綺麗になるような衣をよろしくお願いします、マダム」

 とマダムの手の甲に触れるか触れないかのキスの礼をしたのは、流石だった。そこでマダムが。

「わあ~本物の騎士様だわぁ。まかせて、モモちゃんを最高に美人で可愛くするからね!」

 いや、僕は男の子だからかっこよくして欲しいんだけどな~と思うモモの心とは裏腹に「これはどうかしら?」とさらさらとマダムが描くドレス……じゃない盛装の図案に「綺麗だ」とアルパが瞳を輝かせるのに、なにも言えなくなった。だってアルパが本当に嬉しそうなんだもん。

 そして、結婚式当日。

 白の盛装に身を包んだモモの可憐さに、アルパは言葉を失い、それを見たカルマン以下の息子達は本当に「お嫁に行ってしまうのか!」と滂沱の涙を流した。
 モモは「お嫁にではなく、お婿です!」とぷんぷんしていたが、それを見ていたスノゥが「嫁も婿も変わんねぇだろう」とぼそりとつぶやいた。こちらも、純白の盛装姿だ。当然花嫁より派手ではないが迫力は満点だった。横には黒の盛装に身を包んだ黒狼が、白兎の腰を抱いて寄り添っていた。
 モモのドレス……ではない盛装は、生地の色は白であるが、光の加減で淡い桃色に輝く、その毛並みにぴったりのものだった。「魔法研究所と開発した新素材よ」とマダムが言っていた。

 垂れたお耳の両側には白と薄紅の花にリボンが揺れる。そして、左の耳にはアルパが贈ったパパラチアサファイアのピアスが。これは時の旅の途中で手に入れたものだった。
 ただ彼らは時の迷子になっていただけでなく、あちこちで人助けをして、そのお礼として様々なものを受け取っていた。多くは食べ物だったり、ささやかなものだったり。さすがに村の宝などは遠慮したのだが、それでもその『石ころ』をもらってくれと、押しつけられた瞬間に転移してしまっては、返せないし捨てるわけにもいかない。
 その数々の石……実は磨かれていない宝石の原石を見たナーニャは悲鳴をあげたものだ。

「なにこのダイヤにルビーにエメラルドにラピスラズリにオパール……って、これパパラチアじゃないの!」

 そんなわけで、結婚の証の宝石を番に贈ろうにも自分はなにも持っていない……ならば、聖剣の魔石を……なんて考えていたアルパだが、一気にその問題は片付いてしまった。これからも番の贈り物には苦労はしないだろう。
 そして、アルパから贈られたパパラチアのピアスを揺らし、モモは彼の待つ祭壇へとゆっくりと歩んでいく。裾を引く長いトレーンはスノゥやノクト達の小さな孫達。可愛らしい仔兎や仔狼たちが持って進む。

 祭壇の前で大神官グルムにうながされて、二人が誓いの口付けをしたときには、すでに涙を流してはいたが、カルマン以下、赤狼たちが大泣きしていた。
 が、彼らはけして声を出すことなく、歯を食いしばっていた。大神殿の控え室で、怖いお婆様、もといいつまでも若く美しいスノゥ様に言われたのだ。

「てめぇら、大声出して泣いて、可愛い末っ子の結婚式を台無しにするなよ! 聖堂の天井は高くて響くんだからな!」

 かくしてアルパとモモの結婚式は無事? に終わった。




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