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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【60】嬉しくない再会も速攻で!
しおりを挟む魔法陣の発動と共に流れこんでくる魔力をモモは感じていた。自分の中へ無理なくさらさらと水のように流れこんでくる力。
これはモモの身体に負担がないようにと、ブリーが数式の魔法陣を何回も見直しして修正を加えてくれた結果だ。モモもそれを手伝っていたけど、数式を見つめる母の茶色の瞳は、いつになく真剣だった。それだけ自分のことを思ってくれているのだと、胸が熱くなった。
そして、力を貸してくれているお爺様にお婆様、大先生モースを含む四英傑の方々。そして。
アルパ。
自分を背中から支え続けてくれている。その温かさに安心する。災厄退治の冒険のときも、そして時の迷子でさまよっていたときも、いつも自分の傍らにあったぬくもり。
そして、星を引き寄せる。これも一度目よりも困難ではなかった。これもブリーとともに何回も星の軌道を確認したものだ。一番引き寄せやすく、効果が出るものを。
モモの詠唱が天高い空に吸い込まれていく。地上に描かれた魔法陣がまばゆい光を放ち、その周りにも球体の魔法陣が幾つも、星の軌道のように回転する。
そして、雲間から……静かに巨大な氷の塊が姿を現す。引き寄せた小惑星の姿に、この魔法陣の準備のためにやってきていた魔法研究所の魔法使いや、王宮騎士団の騎士、兵士達がおおお……と声をあげる。
氷の星はゆっくりと湖面へと沈み堕ちていく。やはりそれも静かだった。一度目の時はただ堕とすことだけを考えていて、噴火口に激突させた。しかし、今は湖となっている。そんなことをすれば水面が大きく揺らぎ、周囲の森や葡萄畑を水で飲み込みかねない。
なるべく静かに、湖面に眠る火山の口を塞ぐ。モモはブリーとともにこちらの軌道計算も入念に重ねて、詠唱を練り、そして巨大な氷の星を静かに湖面へと誘導した。
そして、星がめり込んだことで、今にも噴火しようとしていた火山が急速に活性化して、噴火が始まる。が、出口は巨大な氷に塞がれている。湖面に盛大な泡がぶくぶくと立ったが、それだけだった。
「成功です!」
湖面を魔道具によって計測していた魔法研究所の職員の言葉に、みんなが「わっ!」と声をあげる。が、詠唱し終わり目を開いたモモは、星のロッドを構えたまま、アルパは後ろから抱きしめていたモモから手を離し、今度はかばう様にその前へと出た。
そして、魔法陣の要に立っていたノクトとスノゥ、他の四英傑もまた、湖面を静かに見つめている。
「まだだ。油断はするな!」
スノゥの声に喜んでいた人々は「え?」という顔になる。アルパもモモも、そしてスノゥ達も感じていたのだ。
湖底の火山口に氷の小惑星が激突する瞬間、その中に『眠っていた』なにものかが、目覚めて飛び出したことを。
そして、アルパとモモがそれを一番良く知っている。
災厄の中で魔石は落としたものの、唯一、その死骸を見ていない青の怪鳥。あれは火山口におちたことで、骨まで溶けたと思ったが、そうではなかったのだ。
青い炎は赤い炎より温度が高い。赤い溶岩の中はあの鳥にとっては、受けた傷を長い時をかけて癒す、ゆりかごの役目を果たしていたのだ。そして、今回の火山の噴火もまた、あの怪鳥が起こそうとしたことだろう。噴火とともに飛び出し、周囲を赤の溶岩と、青の自分の炎で焼き尽くそうと。
しかし、噴火は防がれた。
だが、怪鳥は蘇った。
泡立つ湖面から飛び出した青い炎をまとった災厄の『名残』は、翼を羽ばたかせながら、耳をつんざくような咆哮を放った。
同時に青い火の弾を無数にこちらに向かい繰り出す。それはモモにモース、ナーニャが張った広範囲の結界によって、この怪異に呆然としている人々にかすりもしなかったが。
「任せる」
「はい」
ノクトのそのひと言に、アルパが頷き、同時に腰の聖剣を引き抜く。モモが同時星のロッドをかかげて詠唱し、それを剣の形から剛弓へと変える。
アルパはぎりりとその弦を引き絞り、怪鳥に向かい放った。聖なる光を帯びた矢は、怪鳥の羽を貫く。
怪鳥は以前のごとくまとった炎で、その傷を修復するが、しかし、聖なる光の矢は以前よりもさらに威力を増しており、その穴が完全に塞がらないうちに、次なる矢に貫かれる。
翼に大穴があいた鳥は湖面へと堕ちてもがく。モモは詠唱し、アルパの弓を元の聖剣へと変える。
「行ってください!」
「ああ!」
モモの言葉にアルパはうなずき、躊躇うことなく湖面へと駆け出す。モモの詠唱により張られた結界で一直線に水面でもがく怪鳥へと道が出来る。
そして、怪鳥に向かいアルパが聖剣を一閃すると、その長首が宙に飛んだ。怪鳥の首も身体も、その瞬間に青い炎となって天高く燃えあがり、消滅する。
見ていた者達の歓声が一斉にあがる。とくにカルマン達、赤狼の咆哮は雷のようだった。我が事のように喜び抱き合う彼らを、ナーニャが呆れて、横目で見て、そしてモモに。
「聖剣を錬金して弓に変えるなんて、私達よりすごくない?」
と話しかける。
「え?ナーニャ先生と大先生にも出来るんじゃ?」
「出来る訳ないじゃない。この星の賢者様が!」
母親のブリー同じくの天然ぷりにナーニャが声をあげて、他の四英傑は思わず笑い声をあげる。ノクトでさえ微笑んでいた。
新たな勇者と星の賢者の再来が、見事災厄を退けたと、王都にもすぐに知らせが届き、王宮も市民も沸き立ったのだった。
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作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
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