ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【59】星の湖

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 星の湖ヴィオラクテ
 星の賢者が奇跡を起こした湖。元は茨野と呼ばれていた不毛の地は、輝く大きな湖とそれを囲む緑の森、さらにその周囲に広大な葡萄畑が広がる。

「綺麗です」

 高台から見た美しい光景に、モモはため息を吐く。時の迷子になっているときも、なぜかこの星の湖の近くに跳ぶことはなく、あの荒野がこんな緑の美しい光景に変わったのは初めて見たのだ。

「モモがこの光景を作ったんだ」
「僕だけじゃありません。アルパもです」
「そうだな。二人だけじゃない。のちの人々も森を守り育て、固い大地を耕してこの葡萄畑を築いた。それはみんなの力だ」

 アルパの言葉にモモは嬉しくなって、抱き寄せられた彼の胸に甘えるように、その垂れたお耳をすりっとすりつける。自分達だけじゃない。本当にこの光景はみんなの力だ。
 後ろから「ごっほん!」という大きなわざとらしい咳払いがした。振り返ればそこに腕組みしたカルマンと、その背後にずらりと似たような顔の赤毛の狼の兄達がずらりと並んでいた。

「雄大な景色に感激しているのはよろしいが、そろそろ始めませんかな?」

 要約すれば、目の前でイチャコラしておらんで、さっさと作業に移れということになる。ナーニャが呆れて「頑固親父の嫉妬?は見苦しいわよ」とツッコまれて、赤銅色の瞳をうろうろとさせている。父ノクトと共に災厄退治をした英傑であり、魔法の先生でもあった彼女には、心身共に大きく成長した今となっても、カルマンは弱い。

「でもまあ、目の前で見せつけられるのは独り者には、厳しいものは確かにあるから、はじめましょうか?」

 とナーニャに続けて言われて、モモはほんのり頬を赤くする。
 魔法研究所所長であり、今や大魔法使いの称号で呼ばれるナーニャは当然、今回の『作戦』の計画者の一人だ。もちろんそこには、伝説の勇者ノクト、四英傑である、初まりのスノゥに大魔法使いナーニャ、大神官グルム、大賢者モースの姿もある。もちろん、新たな勇者と呼ばれるアルパの姿も。
 星堕としという大魔法には、いくら膨大なモモの魔力でも魔力枯渇で倒れ、命の危険がある。それならばどうするか。
 それを「あら、簡単じゃない」といったのは、ナーニャだ。

「今は、この時代の勇者に四英傑。そこに建国の勇者様までいるのよ。魔力供給源はたっぷりあるわ」

 つまり、昔と今の勇者それに四英傑の魔力をモモに貸し与えれば、問題はないという話だ。
 自分達の魔力も供給したいとカルマンと兄達が申し出たが、それはナーニャだけでなく、なんとブリーにも却下された。

「魔力供給の魔法陣の数式を今、頭の中でざっと計算してみましたが、人数が増えれば増えるほどそれは複雑になります。魔法陣を効率的に稼働させるには、魔力供給源となる方々の魔力が膨大であり、さらに少ない方がいいです」

 ブリーが数式的に無理といったら、無理なのだと知ってるカルマンと子供達は、しおしおと尻尾とお耳を垂れさせるしかなかった。
 そして、それぞれが配置につく。真ん中にモモ、そのすぐ後ろにアルパ。そして大きく描かれた魔法陣の要にノクト、スノゥ以下の四英傑。
 その光景をブリーが胸の前に手を組んで、祈るように見ている。普段ならばこのような荒事の作戦に同行を許さないカルマンだが、ブリーが「足手まといならばあきらめます」と瞳を潤ませるのに連れてきたのだ。「万が一のときは、俺がブリーを守る」と。もちろん、赤狼の息子や、モモまで「俺達も」「僕もです」といったのだが。
 その祈りを捧げるブリーの肩を抱き寄せてカルマンが「大丈夫だ」と、そのひたいに一つ口づける。

「俺達の強い子だ。それに、今は俺達でさえ敵わない、番もいる。父上と同じ伝説の勇者だ」
「あなた……」
「……勇者とはいえ、それでも可愛い末っ子をとられるのは悔しいがな」

 カルマンが空に昇るような旋律の呪文を唱え出すモモを後ろから抱きしめるように支えるアルバ。その姿を見つめて苦笑した。
 





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