ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【58】最終兵器御隠居!

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 カルマンの隠し子? 疑惑であるが、それはたった三日ほどで払拭された。
 それは王都に流れた妙な噂? からだ。
 アルパはカルマンの隠し子ではなく、実は今は隠居している前王カールの隠し孫? であること。
 実は神殿より神子の新たな予言がくだされ、そのアルパこそが新たに現れた勇者であり、星の賢者の再来? であるモモを盟友として、今回の国難。星の湖ヴォラクテを鎮めるために選ばれたと。
 まことしやかにこの『噂』は人々の口から口へと伝わったのだった。



「あくまで噂じゃ。ワシ一人が恥を被ればよいことじゃろうて」

 茶色の狼の大きなぬいぐるみ。もとい、椅子にまたがって、死ぬことを忘れたと言われている……もとい、いつまでもかくしゃくと元気な、カール御隠居はからからと笑った。
 場所は王宮。カールの隠居所。そこには、兎さん大好き! な、じぃじが作った、じぃじの夢が詰まったサロンがある。
 兎さん達の為の夢かわサロンが。
 青空に白い羽が飛び散る天井画に、お花畑が広がる壁絵。白に金泥、可愛らしい蔦薔薇がからまる調度。
 そして、椅子はそれぞれの毛色のぬいぐるみ。

「やっぱり噂の出所は爺さんだと思ったぜ」

 白兎のぬいに『漢らしく』またがったスノゥがいう。足をかっと広げて、腕組みする姿は大変勇ましい。その隣の黒狼のぬいに同じく腕を組んで座るノクトは諦観の表情だ。
 いや、内心で『今日も膝に座ってもらえなかった……』と落ち込んでいるのかもしれない。
 なにしろ、御隠居の右にはノクトと同じ黒狼の背に座ったアルパが、モモを膝に。左には、赤狼の背にまたがったカルマンが、ブリーを膝にのせていた。

 カールは「ブリーちゃんも、モモちゃんもいつもながら可愛いねぇ」とデレデレだ。十人の子持ちのブリーでも、カールじぃじにとっては可愛い兎さんだ。いや、ブリーなら、ちゃん付けでいいのだろうと、本人は天然だし、周りも受け入れている。
 流石にスノゥはちゃん付けで呼ばれたことはない。いや、カールが「スノゥち……」と言いかけたら、ギロリとそのガーネットの瞳でにらみつけて黙らせたのだ。じぃじの茶色の尻尾はしおしおと垂れた。

「ワシが酒にしたたかに酔っぱらって、若いメイドに手をつけた。メイドには十分な退職金と慰謝料を払ったが、のちに女子が生まれたと知らせを受けた」

 カールが良く出来た作り話をすらすらと、その口から語る。
 知らせを受けたカールは母子共々、王家に迎え入れようとしたが、身分をわきまえていたメイドはそれを辞退。子供も手放したくないというので、密かに人をやり様子を見させていた。また養育の援助もしていた。

「娘は成長し、街を守る騎士と結婚した。孫が生まれたと聞いて喜んだが、その子が三歳になったとき『この先隠しきれるかどうか……』と元メイドから手紙がきて、密かに孫に会いに行き驚いた。なんと、その子は金目黒い毛並みの狼の純血種のうえに、ノクトが幼い頃にそっくりだったのだからな」

 カールは本当に驚いたとばかりに、目を見開いた表情となる。しかし、この話はあくまで彼が流した噂。作り話である。

「ワシは改めて、孫だけでなく祖母や両親も含めて家族共々王家に迎え入れようとしたが、彼らは身分不相応な暮らしには耐えられないだろうと、あくまで固辞した。そこでワシは友好国であるワの国に彼らを受け入れてもらった。遠い国で心安らかに暮らせるようにな」

 「ワの国の王には口裏を合わせてくれるように、もう根回しはしてある」とカールは続ける。

「しかし、そこに国の大事と神子の予言じゃ。新たな勇者が我が孫であることに気付いたワシは、急ぎアルパを呼び寄せた。そこで、モモちゃんと出会い。盟友であり、星の賢者の血を遠く引く者であり、そして運命の番でもあると、ひと目で互いに恋に落ちた」

 「ほれ、人々が涙するような良い話じゃろう?」とカール王自身が目元に涙を浮かべて、取り出したハンカチでぬぐっている。嘘泣きではなく、本物の涙というところが、まったく狸親父だ。いや、狼親父。狼爺さんか? 

「でも、神子の神託までいいのでしょうか? 僕はお爺さまが神々からの天罰を受けないか心配です」

 神託のねつ造は確かに大罪である。表情を曇らせるモモと「たしかに大変です」と同じような顔をするブリーに「モモちゃんとブリーは優しいなぁ」とカールは目を細める。
「大丈夫、これは『嘘』ではない。ただの『噂』じゃ、出所不明のまことしやかな……な。神託が出たと公に王家も神殿も認めたわけではない」
 「あくまで噂は噂じゃ」とカールはからからと笑った。





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