ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【53】父対勇者

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「おはようございます、義父上ちちうえ
「お前……いや、建国の勇者様に父と呼ばれるいわれはありませんな!」

 にこやかなアルパに呼びかけられた、カルマンは真逆にくわっと目をつり上げた。しかし、相手があの建国の勇者であることを思いだして、言い方が丁寧なのか乱暴なのか、妙なものとなる。

「分かりました、義父上」
「だから、お前!……いや、あなたに父と呼ばれるいわれはない!」
「お前で結構ですよ、義父上!」
「だから、俺はお前の父ではないと!」
「モモのお父上ならば、私の義父上であると、勝手にお呼びしているのです。気にしないでください」
「気にするわ!」

 からからと笑うアルパに完全に手玉にとられているカルマンだ。こりゃ、器が違うな……とスノゥが苦笑する。

『あのね、アルパってああ見えて、ちょっと意地悪なの』

 可愛い孫息子が、スノゥにこっそりと教えてくれた秘密だ。

『あと、僕と一緒に時間の迷子になって、なんか吹っ切れちゃったみたいで……』

 勇者の責務を背負っていたときは、無理して微笑んでいることが多かったけれど、自分とのあてどのない旅のときは、本当に心から笑っていたし、現代に帰ってきたいまもそうだと、嬉しそうにモモは笑っていた。

『あとね、アルパってみんなの前だと“私”って言うけど、僕の前では“俺”っていうんだ』

 と秘密を教えるように、声をひそめて教えてくれた。

「父上!なぜ、こいつがいるんです!」

 口では敵わないと思ったのだろう。カルマンがノクトに助け?を求める。伝説の勇者をこいつよばわりとは……まあ、本人が『お前でいいですよ』と言っているのだから、いいのだろう。

「今日は、私が鍛錬場に出向く日だ。ならば共に行こうという話になった」

 月に数度であるが、ノクトが騎士団の鍛錬場に顔を出す日がある。本人は机仕事ばかりで身体が鈍らないためと言っているが、騎士達にとっては伝説の勇者と手合わせできる格好の機会である。……たとえコテンパンにやられても。
 ちなみに、スノゥやアーテルたちがやってきて、鞭を振りまわす、女王様の日……もとい、兎族特有の双舞剣や鞭の特殊攻撃?特訓の日も人気である。こちらも恍惚の表情で吹っ飛ばされる男達が、名物?だ。

「え?そいつが鍛錬場に来るんですか?」

 クロウが目を輝かせて身を乗り出すのに、カルマンの拳がその脳天へと振り下ろされる。ゴン!とすごい音がして、クロウの赤い耳がへにょんと倒れて、うなりながら頭を押さえる。

「建国の勇者殿だぞ。アルパ殿と呼べ!」
「親父は『そいつ』呼ばわりしていたじゃないか!」

 クロウの反論に「俺は許可をいただいた」とカルマンがぶ厚い胸を張る。微笑を浮かべてこちらを見ている、アルパをクロウは涙目でキッとにらみつけて。

「ア、アルパ殿も本日は我が騎士団で鍛錬を、な、なさるのですか?」

 普段は使わない馬鹿丁寧な言葉に「イテッ!」なんて舌を噛みながらクロウが言えば、アルパがより爽やかに微笑み頷く。

「ええ、みなさんと手合わせ出来るのが楽しみです」
「私も楽しみですな。腕が鳴ります」

 そう返したのは、九人の赤狼たちの長兄タロウだ。ジロウもまた「ええ、我ら九人もまたしごいていただきましょう」とタロウに負けない、いい笑顔を浮かべていた。どう考えてもその顔は、しごいてもらう……というより、しごきまくってやるという表情だ。
 「もちろん、ぜひぜひ」とうなずく他の兄弟達や、「俺も俺も」と父のげんこつの衝撃から立ち直ったクロウもまた手をあげている。

「では、行くぞ」

 と九人の孫達の張り切りなど、まったく意に介さず、ノクトが駆け出す。一応この国の宰相様だからして、普段は騎馬か馬車なのだが、どうやらこのまま駆けて行くらしい。鍛錬のために……。

「はい、ノクト殿!」

 それにアルパが応えて、あとに続く。長い黒髪に尻尾をなびかせて走る黒狼達の姿は、軽快にみるみると小さくなっていく。
 それを呆然とみていたカルマンが「はっ!」と目を見開く。

「者共いくぞ!」
「おう!」

 九人の息子達も応えて、彼らもドドドと駆けていった。

「やれやれ……」

 スノゥはそうつぶやいて、門の中にはいったのだった。
 



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