ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【52】門前の白い壁

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「だいたいなあ、お前ら毎朝、ここに通っている場合か?」

 大公邸の門前、腕を組んで仁王立ちのいつまでも美しい白兎の母を前に、カルマンはしおしおと尻尾をたらしたまま。

「もちろん、こちらに参ったあとに、騎士団の屯所に直行し、俺も息子達も『準備』を勧めております」

 『準備』とは、例の星の湖ヴィオラクテの湖底に沈む火山の噴火に向けての対策のことだ。
 モモの『帰還』で、湖の周辺の住民の全員避難と、建国以来続く伝統の葡萄畑の放棄という方針は変更となった。
 あの伝説の星堕としを再現するのだ。「出来るか?」というノクトの確認にモモは「出来ます」とうなずいた。
 それに注文をつけたのはアルパだった。

「人々を救い、今の者達の営みを守ることに反対はしません。ですが、モモが無茶をしないように十分な準備と仕度をしていただきたい」

 そこでアルパはモモが、氷の星を堕として今にも噴火しようとする火山を封じ、湖を作った。そのあとに魔力を使い果たして倒れたことを語ったのだ。

「なんて無茶を……」

 話を聞いたブリーが真っ青になって、涙目となる。二度目の『家出』をして、大公邸の居間に落ち着いたあと、ブリーも同席していたのだ。
 瞳を潤ませた母に慌てたのはモモだ。赤狼達はもちろんだが、モモもこの母には弱い。なにしろ星と数式の大師匠だからして。いや、そのまえに母なのになぜか守らねばならないという、庇護欲をそそるのだが。

「だ、大丈夫だよ、母様。アルパが助けてくれたし、僕はこうして生きているんだし」
「たしかに私が三日間付きっきりで、魔力を注いでようやく目を覚ましてくれたな」
「アルパ!」

 モモが慌てて「なんで言うの!」とアルパに食ってかかる。それさえも楽しいとばかり、古の勇者は「ははは!」と声をあげて笑うのに、スノゥは隣に座るブリーと思わず視線を交わした。
 ノクトとそっくり同じ顔。これが大笑いするとこんな顔になるのか?と初めて見た表情をマジマジと見たら、隣から不機嫌な空気が漂ってきた。
 長椅子に座るモモとアルパの反対側。同じく長椅子に座るスノゥとブリー。そのスノゥの横の一人がけの椅子にノクトが腰掛けていた。
 愛も変わらず無表情な強面であるが、スノゥにはわかる。番が別の男を見つめた。それだけで妬いているのだ。この馬鹿狼は。

 『まったく……』と思いながら、スノゥがちょんちょんとその手の甲を突いてやれば、ぐいっとその手を握りしめられた。おいおい、嫁と孫の前だぞとギロリと一瞬にらみつけつつ、低い卓を挟んで反対側に座る、モモ達を見れば。
 なんとこちらも、頬を染めてむくれるモモを相変わらずニコニコ眺めながら、アルパがそのお手々をにぎにぎしていた。
 ここに、そのカワイイ子の祖父と祖母と母親がいるんだが、目の前でどうどうといちゃつくとは、やっぱり勇者って奴は一癖あるぜ……とスノゥは内心でつぶやいたのだった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 とにかく、モモに負担をかけず安全が一番と、ブリーは猛然と計算し始めた。もちろん、モモも一緒である。
 そこに面白がり?のアーテルとザリアが転送でほいほいと茶の時間に毎日押しかけてくるようになった。まあ、計算に夢中のブリーとモモの一休みになるから良いが。
 ノクトも全力で手合わせ出来る相手が出来てどこか楽しげだ。
 哀れなのは毎日大公邸に通ってくる。赤狼の父と九人の息子達というべきか。しかし、彼らもまた、モモが安全に?大魔法を発動させられるように、昼間は駆けずり回っているらしい。

「やはり、ブリーとモモに会わせていただけないのですか?」
「ダメだ」

 カルマンの言葉にスノゥはすぐさま返す。

「ひと目だけ、遠くからでいいです」
「余計ダメだ。お前達、モモの姿を見たとたん、突進するだろうが」

 その言葉に赤狼たちは、びくびくと耳と尻尾をはねさせる、どうやら図星だったようだ。

「今日も来ているのか?」
「ノクト……って!?」

 スノゥが振り返って思わず妙な声をあげそうになったのは、その後ろにそっくり……ちょっと若い顔があったからだ。

「おはようございます、お婆様」

 アルパだ。とたん、背後の赤狼達から剣呑な殺気が立ち上る。




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