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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【44】最後の戦い
しおりを挟む「はは! 今さら気付いたのか!」
祭壇の前、アルパに「真の災厄!」と呼ばれた族長は、高い天井に響く笑い声ともに、ぐにゃりとその形をぐにゃりと変える。
そのとき神殿の外、遠くから石の城館を見ていた人々は見た。空を覆っていた巨大な暗雲が、城の奥、神殿の方向へと向かい降りていくのを。
そして、暗雲をまとった巨大な影が出来上がった。それは目も鼻も口もない、ただただ暗黒の固まりだった。
「父上……」
その豹変にナハトが呆然とつぶやく。ケレスは言葉もなく、恐怖に青ざめている。
「そこのあさはかな勇者と賢者が余計なことをしなければ、お前達ももう少し生きられたものを……!」
族長だったもの。いや、災厄はひび割れた耳障りな声をあげて、いったん自分の身体にまとった暗黒の雲を、再びぶわりと広げて部屋全体を黒く塗り潰す。
瘴気をまとったそれは、人が吸い込めばたちまち内側から腐って死んでしまうだろう。それが分からずとも、迫る闇に危険を感じナハトが硬直したままのケレスをとっさに抱きしめる。
「危ない!」
そんな二人の前に立ったのはモモだった。星のロッドを構え、詠唱の旋律が天に立ち上れば足下に光る巨大な魔法陣と、球体の魔法陣が宙にくるくると浮かぶ。
結界に闇ははじかれるが、それ以外の祭壇の大きな部屋が暗黒に包まれているのに、ナハトが「兄上!?」と叫ぶ。
「大丈夫です」
モモは冷静に答えた。そのとき閃光がはしって「ぎゃあ」というひび割れた嫌な叫びが響く。それは部屋全体を覆う暗黒が発したものだ。
闇はたちまちしゅるしゅるとすぼみ、人の形が崩れたような巨大な影の姿へと戻る。
少し離れて対峙するのは光輝く聖剣を構えるアルパだ。聖剣だけでなく、彼の身体全体が光輝いているのは、モモが『おまじない』をしたマントが、自動的に結界を張り彼を守ったからだ。どのような魔術も魔物のブレスも、災厄の瘴気も防ぐ。
「まったく、忌々しい賢者め!」
闇そのものの災厄は、モモをにらみつけた。暗黒に覆われたその姿には、目も鼻も口もなかったが、それでも嫌な視線を向けられたことはわかった。
「えたいの知れぬ耳長さえ現れなければ、そこの勇者などとっくの昔に死んで、この大陸など暗黒に染まっていたというのに!」
たしかにアルパは一人で戦っていた。そこにモモが来たのは、この災厄にとっては誤算だったのだろう。族長の姿を使い、彼をすみやかに葬りさり、大地に己の瘴気だけでなく、戦乱で生じた人々の怨嗟をまき散らす。
「死ねぇ! 耳長!」
こちらに向かい、闇が触手のような無数の腕を伸ばす。その先は槍のように尖っていた。モモの結界は強固だが、さすがに災厄そのものの直接攻撃は防ぎ切れない。
「させるか!」
しかし、アルパがその槍がモモの結界に触れる前に、聖剣ですべて切り伏せる。災厄は再び耳をつんざくような、叫び声をあげる。
「おのれ! おのれ! おのれ!」
災厄がくるったかのように、今度はアルパを攻撃する。しかし、その瘴気をまとった暗黒の攻撃は、ことごとくアルパの光の聖剣によって切り裂かれ、消滅していく。それにともない天井をつくほどだった影の姿もみるみる小さくなっていく。
災厄があっけない……と思うべきかもしれない。
だが、モモは違うと考えた。
アルパが倒した三体の魔物。あれもまた災厄の分身であり力だったのだ。勇者を殺すための罠。
だが、その力を削がれたうえに、光の聖剣は完成してした。すでに災厄の力はその時点で弱まっていたのだ。
それは族長の姿をした災厄が、一族を破滅させようと兵を率いて他族に侵略しようとしたとき、アルパとモモがそこに立ちふさがった。
そして勇者が天へと剣をかかげたときに、この石の城館ととりまく市街の上空をおおう、暗黒の雲に穴が開いた。
そのとき族長の身体がアルパとモモしか気付かなかったが、軽くぐらついたことからもわかる。
災厄の力が弱まってなければ、あの場でこれは正体を現しただろう。周りにいる兵士達に観衆である民も巻き込める、絶好の機会だ。
それを神子に偽りの神託をさせて、こんな神殿の奥に誘いこんで、聖剣を奪って謀殺しようとした。そんな人間がするような策略を巡らせたことこそ、災厄がすでに力を失っている証拠だった。
ただ……まだ、なにかあるとモモのカンが告げていた。モースなら、それが賢者の英智よ……とでもからかっただろうが。
「くそっ! どいつもこいつも思い通りにならぬ。最後には己の欲におちて従った、そこの男と女も!」
アルパと戦いながら災厄が叫ぶ。それが誰をさしているのか。モモの結界に守られた中で、ナハトとケレスが顔を伏せる。
「我が中にいる者もだ! 虫けら同然の力しかないクセに、最後まで抵抗を……」
災厄の中にいる……それは? とモモはパパラチアの目を見開く。そのあいだにもアルパは闇を削ぎ続けて、その大きさは普通の人間ほどの大きさとなった。
最後だとアルパが聖剣を構える。「ま、まて!」と災厄が叫ぶ。
「勇者……いや、アルパ、アルパよ! この父を殺せるのか!」
ひび割れた響きではあったが、アルパの父たる族長の声であった。必死の懇願がよけい憐憫を誘うが、しかし、勇者たるアルパは迷うことなく、その影を真っ二つに切り捨てた。
聖剣の放つ閃光の中、叫び声さえその輝きに呑まれて、闇は消えた。
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作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
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