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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【42】光の聖剣
しおりを挟む「族長、これは一体どういうことですか? 今は災厄が現れ、神々が戦いを禁じた凪の時。それを軍勢を率いて、どちらに向かうおつもりだったのですか?」
「勇者よ。そなたが亡くなったという『謝った知らせ』が流れ、さらには我が一族の居城と街の上空に暗雲が立ちこめた。そこに『あらたな地をもとめよ』との神子の神託があった」
こちらを鋭い目で見るアルパに、騎乗のまま族長は彼を見おろし答える。そのすぐ後ろ、ナハトの横で馬に横座りするケレスは、ちらりと向けられたアルパの視線に、気まずげに顔を伏せた。
「では、その必要は無くなりました。聖剣は『完成』し、その光でこの暗雲を見事払って見せましょう」
アルパが腰の聖剣を抜き放ち、その切っ先を天に向けてかかげる。柄には言葉通り、最初の巨獣の赤の魔石、次の青い怪鳥をはらった青の魔石、そして、最後の邪竜を払った黄金の魔石がはまっていた。
そして、そこから伸びた聖剣の光は真っ直ぐに、暗黒雲を貫き、そこにぽっかりと穴を開ける。一筋の光がアルパに降り注ぎ、人々は「おお……」と声をあげる。
そのとき鉄騎の馬にまたがった族長の身体が、かすかに揺らいだが、それにすぐ隣にいたナハトもケレスも気付くことなかった。アルパがちらりとそれを見、そして、その隣に無言で立つ、緑葉のローブの星の賢者、モモもそれを深く被ったフードの奥から、じっと見ていたが。
「勇者の無事の帰還、まことめでたい!」
己の身体が揺らいだのを隠すかのように、族長が腹の底から大きく声を張り上げた。
「様々な『誤解』があったようだが、皆、城へと戻るぞ」
そして、自ら乗っている馬首を返して、城へと戻る。徒歩のままのアルパと緑葉のマントに身を包んだ星の賢者が続く。そして、馬を下りたナハトとケレスも。
他の騎士や兵士達も、あとに続く。ぽかんとした顔で並ぶ沿道の民衆に向かい、族長が「パンと振る舞い酒は、勇者帰還の祝いよ!」と手を彼らに向かいあげて、朗らかな笑顔さえ浮かべる。
それに「勇者様万歳!」と「賢者様万歳!」と歓声をあげる民衆。アルパもまた片手をあげて彼らに微笑み応える。フードを目深に被ったモモは、顔を見せることは出来ないが、星のロッドをかかげて、彼らに祝福を与える。
「今のうちの栄光に酔っているがいい……」
背後で大きくあがる歓声に、先を行く族長が低くつぶやいた言葉は、誰にも聞こえることはなかった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
疲れを取るようにと、アルパとモモはそれぞれの部屋で一晩休んだ。
その翌日、いつもの固いパンと温かなお茶の朝食のあとすぐに、族長の私室に呼ばれた。そこにはナハトとケレスの姿があった。
「今朝、神託があり暗雲を晴らすには、神殿の祭壇にて完成した聖剣を捧げよとのことであった」
族長が言う。それに神託の神子であるケレスは「さようでございます」と答えるのみ。伏し目がちでこちらと視線を合わせることはなかった。
「早速神殿に我らだけで向かうぞ」という族長の言葉にアルパは「はい」とうなずく。このような重要な儀式ともいえる行為に、護衛の騎士も兵士も伴わないことに、彼は疑問の言葉を発することはなかった。
先に立つ族長の後ろにケレスが続く。そして、その次にアルパとその横に緑葉のマント、いつものようにフードを深く被ったモモが続く。
そして、その後ろにナハトが。
「兄上、お気をつけを」
アルパに近づき、ナハトがそっと耳打ちする。続けて「ケレスは族長に逆らうことが出来ません」と。
ちらりとアルパが振り返りナハトの顔を見る。その顔には苦渋に表情があった。彼は『わかっている』というように微笑む。
そして、モモはそんなアルパの黒のマントと、自分のマントの裾に隠れるようにして、彼の腰の聖剣に触れる。それぞれのマントの守護の結界に守られて、瞬間のその光は外部に漏れることはなかった。
が、アルパだけはその変化に気付ているだろうが、彼はモモのすることに絶対の信頼を置いていてくれている。その歩みは、惑うことなく真っ直ぐに歩み続けた。
「さあ、勇者よ! 祭壇に聖剣を!」
神殿は石の居城の奥にあり、祭壇は普段は神子のみが入れる聖域である。その祭壇の階の上までのぼり族長が、アルパを手招く。ケレスはその祭壇から離れた場所に立ち、近寄ることはしない。
アルパは祭壇の階の手前で神々に向かい深く一礼し、そして、祭壇の前まであがると供物を捧げるその石の台の上に、腰から抜いた聖剣を両手で捧げた。
その瞬間、供物台の横に立っていた族長の唇が大きく邪悪に歪んだ。彼は素早く手を伸ばし、聖剣をわしづかみにすると、その鞘を抜き放った。
「最期まで愚かな勇者よ! 己の剣で散るがよい!」
叫び、祭壇に向かい片膝をついていたアルパに向かい剣をふり下ろす。「アルパ!」とケレスの悲鳴が響く。
が。
族長の振り下ろした『モモの錬金した偽の聖剣』は、同じくモモが瞬時にしてアルパの手元に戻した『本物の聖剣』に受けとめられて砕け散る。
そう、先にモモがアルパの腰の聖剣に触れた瞬間にいれかえたのだ。祭壇に捧げる偽の聖剣を、そして予想通り族長が、アルパをその剣で襲った瞬間に、モモはアルパの手に本物の聖剣を戻した。
「とうとう正体をあらわしたな。真の災厄よ!」
アルパが族長に向かい叫ぶ。
そう、族長の形をしたなにか……こそが。
真の災厄だ。
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作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
【同一作者の作品】
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