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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【40】永遠の一瞬※

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 愛しい小さな姿に矢が射かけられたと思った瞬間、無意識にアルパの身体は動いていた。
 白鳥の羽の……あれは英雄殺しの矢。それが自分の胸を貫いた感触は確かにあったはず。
 だが、庇ったはずのモモが目の前に現れて、己の胸に突き刺さろうとした矢を抜き去った。そんな幻影を見たような気がした。
 そして閃光に包まれて、気がつけば黒の大森の中。

「モモ……?」
「アルパ、よかった……間に合った」
「モモっ!?」

 がくりと崩れる身体を抱きしめる。その手にはしっかりと白鳥の羽の矢が握りしめられていた。

「モモっ! モモっ……うっ!」

 乱暴に揺り動かすことはせずに、賢明に呼びかけ抱きしめる。その頬に手で触れて氷のような冷たさにゾッとする。
 魔力枯渇だ。それも以前よりも酷い。これは命に関わるほどの事態だ。

「俺を救うために、君は命を……」

 互いに生きるのだと、あんなに約束したのに……とその献身に切なさとかすかな怒りがない交ぜとなる。が、そんな感傷に今は浸っている場合ではなかった。

「許せよ、モモ」

 彼から贈られたマントをアルパは枯れ葉の積もる地面へと敷いて、モモの身体を横たえる。小さく呪文唱えて、周りに結界を張る。今、瞳を閉じている小さくて、とても強い賢者に比べたら、些細なものだが、それでも見えない壁となって気温を保つぐらいは出来る。
 命が危ういほどの魔力枯渇だ。以前のように手を握りしめて魔力を送り続けるだけでは追いつかない。なにより、この冷えた身体も温めてやらなくては。
 自分の贈った緑葉の色ローブの前を開いて、その下に着ているチュニックをめくりあげる。同時にアルパは自分のはだけたシャツの胸を合わせる。
 己の鍛えたたくましい胸と少年の薄い胸が重なる。頬同様にヒヤリとした感触にぞくりと肌が粟立つ。
 さらに熱と魔力を与えようと覆うように抱きしめる。白い肌のどこもかしこも冷たいのに、切なさが余計募る。
 なのにその肌の滑らかな感触に、思わず吸い寄せられるように、細い首筋に口づけて、下腹がカッと熱くなる自分の節操のなさに苦笑した。
 だが、今はこれが必要だった。
 手を握りしめるだけで足りないならば、直接体内へと体液そのものを注ぐ。
 だが、これは治療だけのためではない。この行為がたとえ一方的なものだとしても……自分は彼を……。

「モモ……してる」

 その長く垂れた耳にいくども口づけて、ささやいた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ふわふわふわふわ温かくて……安心出来る。
 いや、温かいというより、熱い? 
 お腹の中? いや、胸もぽかぽかくるくるしていて、この魔力は……。

「アルパ……?」
「モモ、気がついたのか?」
「うん……」
「約束したのに、また命を顧みないような行為をしたな?」
「謝らないよ、アルパを助けたかったんだもん」
「まったく、君は……」

 ふわふわ夢見心地のまま答える。だけど、アルパの顔がものすごく近いというか、真上にある。それにアルパは上半身裸でなんにも着てない。
 庭で鍛錬して汗をかいてすぐに上半身をあらわにする兄様達の裸なんて見慣れているけど、アルパだとドキドキする。

「え? 僕も裸? え? え? ひあっ!」

 自分も裸なのもびっくりする。というか、素足が絡み合っている。上半身どころか自分達は生まれたままの姿で抱き合っていて、しかも、下半身に疼痛が。
 その瞬間、間近にあるアルパの顔も「う……」とうめき声をあげて、眉間にしわを寄せる。その顔もかっこいいなぁ……なんて頬染めている場合ではなくて。

「ア、アルパ……ぼ、僕達! ……ひっ…ぅ……」

 思わず大きな声をあげて、下腹に力を入れてしまい、その瞬間に走った疼痛に、ぴくんと身体が跳ねる。アルパもまた耐えるように「はぁ……」息をついて。

「君の魔力枯渇が酷くて、こうするしかなかった……すまない」
「……そ、う、だよね……」

 頬を染めうなずきながらも、モモの心にじわじわとした痛みが広がっていく。
 魔力枯渇の応急措置として、その方法があることは、モモも魔法使いなのだからわかっている。人の命を助けるためなら、アルパがその方法を迷わずとるだろうことも。
 だけど“治療”だと、そのことが悲しい。なんて、欲張りだと思うけど。

「違う、モモ、治療だけじゃない」
「……アルパ?」
「モモ、君を愛しているから、抱いたんだ」
「っ……」
「モモ、モモ、嫌だったのか?」

 ぽろぽろと泣き出したモモに、アルパが慌てて身を引こうとするが、モモはぎゅっと全身でしがみついて留めた。足までからめてはしたないと思うけど、でも……。

「モモも……モモも、アルパが好き!」

 アルパの金色の瞳が大きく見開かれる。モモは涙に濡れた頬をその精悍な頬に、すりっとすりよせながら、ぐしぐしと続ける。

「大好きだから、アルパを助けたかったの。こうして抱き合っているのも……うれし……あ……」
「モモ、モモ……っ……俺もだ。愛してる」
「うん、アルパ、アルパ……」

 二人は固く抱き合い、いつまでも一つになっていた。




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