ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
190 / 213
末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【40】永遠の一瞬※

しおりを挟む



 愛しい小さな姿に矢が射かけられたと思った瞬間、無意識にアルパの身体は動いていた。
 白鳥の羽の……あれは英雄殺しの矢。それが自分の胸を貫いた感触は確かにあったはず。
 だが、庇ったはずのモモが目の前に現れて、己の胸に突き刺さろうとした矢を抜き去った。そんな幻影を見たような気がした。
 そして閃光に包まれて、気がつけば黒の大森の中。

「モモ……?」
「アルパ、よかった……間に合った」
「モモっ!?」

 がくりと崩れる身体を抱きしめる。その手にはしっかりと白鳥の羽の矢が握りしめられていた。

「モモっ! モモっ……うっ!」

 乱暴に揺り動かすことはせずに、賢明に呼びかけ抱きしめる。その頬に手で触れて氷のような冷たさにゾッとする。
 魔力枯渇だ。それも以前よりも酷い。これは命に関わるほどの事態だ。

「俺を救うために、君は命を……」

 互いに生きるのだと、あんなに約束したのに……とその献身に切なさとかすかな怒りがない交ぜとなる。が、そんな感傷に今は浸っている場合ではなかった。

「許せよ、モモ」

 彼から贈られたマントをアルパは枯れ葉の積もる地面へと敷いて、モモの身体を横たえる。小さく呪文唱えて、周りに結界を張る。今、瞳を閉じている小さくて、とても強い賢者に比べたら、些細なものだが、それでも見えない壁となって気温を保つぐらいは出来る。
 命が危ういほどの魔力枯渇だ。以前のように手を握りしめて魔力を送り続けるだけでは追いつかない。なにより、この冷えた身体も温めてやらなくては。
 自分の贈った緑葉の色ローブの前を開いて、その下に着ているチュニックをめくりあげる。同時にアルパは自分のはだけたシャツの胸を合わせる。
 己の鍛えたたくましい胸と少年の薄い胸が重なる。頬同様にヒヤリとした感触にぞくりと肌が粟立つ。
 さらに熱と魔力を与えようと覆うように抱きしめる。白い肌のどこもかしこも冷たいのに、切なさが余計募る。
 なのにその肌の滑らかな感触に、思わず吸い寄せられるように、細い首筋に口づけて、下腹がカッと熱くなる自分の節操のなさに苦笑した。
 だが、今はこれが必要だった。
 手を握りしめるだけで足りないならば、直接体内へと体液そのものを注ぐ。
 だが、これは治療だけのためではない。この行為がたとえ一方的なものだとしても……自分は彼を……。

「モモ……してる」

 その長く垂れた耳にいくども口づけて、ささやいた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ふわふわふわふわ温かくて……安心出来る。
 いや、温かいというより、熱い? 
 お腹の中? いや、胸もぽかぽかくるくるしていて、この魔力は……。

「アルパ……?」
「モモ、気がついたのか?」
「うん……」
「約束したのに、また命を顧みないような行為をしたな?」
「謝らないよ、アルパを助けたかったんだもん」
「まったく、君は……」

 ふわふわ夢見心地のまま答える。だけど、アルパの顔がものすごく近いというか、真上にある。それにアルパは上半身裸でなんにも着てない。
 庭で鍛錬して汗をかいてすぐに上半身をあらわにする兄様達の裸なんて見慣れているけど、アルパだとドキドキする。

「え? 僕も裸? え? え? ひあっ!」

 自分も裸なのもびっくりする。というか、素足が絡み合っている。上半身どころか自分達は生まれたままの姿で抱き合っていて、しかも、下半身に疼痛が。
 その瞬間、間近にあるアルパの顔も「う……」とうめき声をあげて、眉間にしわを寄せる。その顔もかっこいいなぁ……なんて頬染めている場合ではなくて。

「ア、アルパ……ぼ、僕達! ……ひっ…ぅ……」

 思わず大きな声をあげて、下腹に力を入れてしまい、その瞬間に走った疼痛に、ぴくんと身体が跳ねる。アルパもまた耐えるように「はぁ……」息をついて。

「君の魔力枯渇が酷くて、こうするしかなかった……すまない」
「……そ、う、だよね……」

 頬を染めうなずきながらも、モモの心にじわじわとした痛みが広がっていく。
 魔力枯渇の応急措置として、その方法があることは、モモも魔法使いなのだからわかっている。人の命を助けるためなら、アルパがその方法を迷わずとるだろうことも。
 だけど“治療”だと、そのことが悲しい。なんて、欲張りだと思うけど。

「違う、モモ、治療だけじゃない」
「……アルパ?」
「モモ、君を愛しているから、抱いたんだ」
「っ……」
「モモ、モモ、嫌だったのか?」

 ぽろぽろと泣き出したモモに、アルパが慌てて身を引こうとするが、モモはぎゅっと全身でしがみついて留めた。足までからめてはしたないと思うけど、でも……。

「モモも……モモも、アルパが好き!」

 アルパの金色の瞳が大きく見開かれる。モモは涙に濡れた頬をその精悍な頬に、すりっとすりよせながら、ぐしぐしと続ける。

「大好きだから、アルパを助けたかったの。こうして抱き合っているのも……うれし……あ……」
「モモ、モモ……っ……俺もだ。愛してる」
「うん、アルパ、アルパ……」

 二人は固く抱き合い、いつまでも一つになっていた。




しおりを挟む
感想 1,097

あなたにおすすめの小説

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。