189 / 213
末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【39】静止した時のなかで
しおりを挟む「どうしても、部屋から出て行ってくれないの?」
「モモ、いくらお前の頼みでも、それは聞くことは出来ない」
長兄のタロウが苦笑しながらいう。モモはお星様の寝台に横たわりふくれっ面になる。
クロウが大騒ぎで父や兄達に報告したせいで、モモが眠りにつくときは、兄達が交替で不寝の番につくことになってしまった。
それでもモモは眠ってしまえば向こうにいけると思ったのだが、人がそばにいるせいなのか、この十日間、まったくあちらに行くことが出来なかった。
一刻も早くアルパを助けたいのに……。
モモはこうなったら『いつも』の強行手段に出ることにした。
「タロウ兄様、約束破って、ごめんなさい」
「モモ!」
けして、転移して家を飛び出さないとと、兄達の不寝の番以外に、モモは父のカルマンに、心配する母のブリー、兄達に約束させられていた。実際、モモがその気になってしまったら、抜け出すなんてたやすいことなのだ。
家族みんなの心配そうな顔に、そのときのモモは無言だった。約束なんて出来ない。だって、それでもアルパを絶対に助けなきゃ!
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「それでワシの寝所に寝間着で飛びこんで来た訳か?」
「……ごめんなさい」
天蓋もない木造の大きな寝台にて、同じく寝間着の大賢者と対峙して、モモは肩をすくめた。
そう、モモの跳んだ先は当然モースの隠居所だった。それも読みかけの本を脇の卓に置いて、今にも眠ろうとしていた、彼の寝台に現れたのだ。
「絶対にアルパを助けます!」
「お前さんの話では、勇者の胸を矢が貫いたというな。勇者に与えられた神々の守護と賢者の強力な結界を破った。それはおそらく英雄殺しの矢だ」
「…………」
サンドリゥムに伝わっていたという消えた秘宝。その名をモースだけでなく、モモも思いだしていた。
「お前さんの目はたしかに勇者の胸を矢が貫いたのを見たのだな?死者を蘇らせることは神々にしか出来ん」
たしかに死を覆すことは、現代おいてもどの魔法使いもなし得ていない。「でも!」とモモは決意を持って、口を開く。
「大先生。僕はアルパを生き返らせることは出来ません。だけど……」
「時を巻き戻し、運命を覆すか?お前さんには確かに出来よう。しかし、それには膨大な魔力がいる。ヘタをすればお前さんの命と引き替えになるぞ」
「かまいません!」
「安っぽい正義感で安易に己の命をかけるではない!」
それはモモが初めて聞く、モースの厳しい口調であった。普段ならば、いつだって「モモよ」と諭すように言ってくれた。
「いいえ、違います!」
それでもモモはひるむことはなかった。大賢者の生きた歳月を物語るように皺の刻まれた、その奥にある慧眼を、パパラチアの澄んだ瞳でじっと見る。
「僕は死ぬつもりなんかありません。アルパと一緒に生きて笑いあいたいんです」
大好きな人だから生きて欲しい。だから自分が身代わりなんて……モモは思わない。自分だって生きて、笑いあって、じゃないと彼が悲しむ。
「……運命をねじ曲げ、共に生きて笑うとは、ずいぶんと欲張りさんだな」
「そうです。僕は欲張りなんです!」
「行っておいで、ワシの一番弟子にして、最後の愛しい我が儘っ子よ」
「大先生……」
「そして、約束しておくれ。必ず戻ってくるとな」
「はい!」
モモはモースの寝台に横たわった。モースが低く眠りの呪文を唱えたとたん、そのパパラチアの大きな瞳は閉じられて、そして、ふわりとその姿が消えた。
「……長い旅になりそうじゃな」
愛しい弟子が消えた寝台を見つめて、モースがぽつりとつぶやいた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
時間を跳ぶのはいつだって、無意識だった。それはアルパという道標に向かって跳んでいたのだ。
モモは初めて意識的に、その彼の時間軸のある一点に向かい集中して、時を遡る。彼の運命が途切れようとしている、その直前に。
そして初めて、時の流れを見た。無数の星々が光速でながれる空間。浮かんでは消えていく、いくつもの悲喜こもごもの人々の営み。それが積み重なって、歴史は作られていくのだろう。その多数は伝えられることもなく、ただ消え去るのみ。でも、たしかに彼らはそこにいて、今という時の礎となってきたのだ。
その歴史を変えていいのだろうか?アルパの運命は……。
モモの額にじわりと汗が浮かぶ。魔力の消費が激しい。無意識ではない時間跳躍は初めてなのだ。それも針の穴のような一点を目指して。
己の命をかけてもか?とモースは問うた。「かまいません」とモモは答えた。けれど、己の正義に酔うな!と一喝された。
それで生きると思った。アルパも助ける。自分も一緒に。希望は捨てない。絶対に。どちらか一方を選ぶなんてことはしない。
たしかに欲張りさんだ……とモモはくすりと笑った。
そして、光の出口が見えた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
そこは時の止まった空間。
自分をかばうアルパの広い背中。翻るマント、そのしわさえくっきりと見える。まるで彫像のように彼は固まっていた。
そして、彼の胸にいましも突き刺さろうとしている矢も。
「…………」
モモはその矢を握りしめて引き抜いた。そして、蒼白い顔のまま、天に昇る旋律のような呪文を唱える。アルパ共々、その姿は光に包まれて転移しした。
40
作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
【同一作者の作品】
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。
『みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される』
銀獅子と呼ばれる美しい帝王×ハレムに閉じこめられた醜いあひるの子の凶王
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】どうも魔法少女(おじさん)です。
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
【同一作者の作品】
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。
『みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される』
銀獅子と呼ばれる美しい帝王×ハレムに閉じこめられた醜いあひるの子の凶王
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】どうも魔法少女(おじさん)です。
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
お気に入りに追加
2,818
あなたにおすすめの小説
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
子を成せ
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。
「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」
リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。