185 / 213
末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【35】違えた予言
しおりを挟む「なんだと!? アルパが王になるというのか!?」
族長が大きな声をあげかけて、声をひそめる。本日の彼は広間の大仰な木の椅子には腰掛けておらず、私室の簡素な椅子に座していた。他の者達、アルパにケレス、ナハトは変わらず立ったままであるが。
モモの姿はない。ちょうどこのとき、現世に戻っていたのだ。『本来ならば、賢者様も同席していただきたいところですが』とケレスは断った上で、族長とアルパ、ナハトと自分のみで、今朝受け取ったという神託を継げたのだ。
これまでの災厄退治の数々の功績により、宿命の星の動きが変わり、アルパこそが王に相応しいと認められたと。
「では、このワシが王にならず、直接アルパが新しく誕生する、狼族の国の王になるというのか!?」
不機嫌なうなるような声をあげる族長に、ケレスは「そうではありません」と答える。
「予言には王冠は父から子へと継承すべしとありました。まず、族長が王冠を被り、時期を見てアルパ様を王とされるのがよろしいかと」
「う、うむ、そうだな。アルパはまだ若い。まして勇者としてあちこち、旅ばかりしていたのだ。王となるのに学ぶべきことも多かろう」
族長はあきらかに安心したようにうなずき、それまでの眉間に皺を寄せていた不機嫌から一転して「めでたい」といった。
「アルパがけして王になれぬという予言を受けたときは、絶望したものだが、今日はまことに喜ばしい知らせを受けた。ワシが王になった次は、勇者たるアルパならば、心強いことだ」
「しかし、前の予言のこともある。このことはワシら以外には秘密とし、知らせぬように」と族長は告げて、彼以外のものは退出となった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「アルパ様」
声をかけられてアルパが振り返る。普段は常に神託の神子として落ち着いていてるケレスが、珍しくも小走りに彼に寄る。
「神託がくつがえりました。あなた様が王に……わたくし……わたくし……」
「ケレス、それはまだ決まったことではない。私が王になるかどうかはわからないよ」
年相応に頬をほんのりと高揚させていたケレスは、アルパの言葉にとたん表情を曇らせる。
「なぜですか? 神託の予言は絶対です。あなたが王になることはすでに決まったも同然でしょう!?」
「神子ケレスよ。あなたの神託が変わったように、未来もまた変わるかもしれない」
「それは……」
ケレスが言葉詰まる。確かに一度出した神託を先ほど翻したのは、彼女だ。アルパはそんな彼女に安心させるように柔らかく微笑む。
「もちろん、あなたの言葉は信じている。神々が神託を違えることがないのも……ただ、星の賢者と共に災厄を倒したあとのことは、そこで考える」
星の賢者……とアルパが口にしたときに、ケレスが密かにその赤い唇を噛んだことを彼は気付かなかった。
「ですが、災厄を倒したそのあとは、あなたは王になられるのでしょう!?」
「…………」
すがるように見上げたケレスに、アルパは無言だった。それに彼女はなにかを感じ取ったように口を開く。
「まさか、王になられないおつもりですか!?」
「未来はわからないよ、ケレス」
「神託は絶対です!」
「もちろん、災厄は必ず倒す。みなの平安の為に」
「そうではありません。あなたは王になる方です! 神々の絶対の神託を違えるつもりですか!」
ケレスが強い口調で告げる。いつも冷静な彼女に強い語気に、アルパが驚いたように目を見開く。そして口許から笑みを消して告げる。
「災厄を倒すのは勇者の使命だ。いや、私は皆の暮らしを守りたい。それだけなんだ。だが、王になりたいと思ったことはない」
「勇者アルパ。神子として告げます。あなたは王になる。この神託は絶対です!」
「神々が王道を強要するとは思えない。王になりたい者がなればよい」
「アルパ! あなたの言葉とは思えません! 神々だけではなく、一族ものすべてがあなたが王になることを望んでいるのに!」
「王になるか……私はずつと勇者であることを望まれてきた。そして今度は王に……と言うのかい!?」
「あなたにはその資格があります。族長の長子であり、勇者なのです」
「資格か……そんなものは私にはないよ。勇者としての務めを終えたら自由になりたいと、そう思っているのだから。そんな未来があると、教えてくれた人がいるんだ」
「王になりたくないと、そう思ってるだけで、十分に王様になんかなれないよ」と再び口許に微笑を浮かべるアルパに、ケレスが片手を胸に当てて、キッとした瞳で彼を見つめて口を開く。
「それはあの星の賢者様のことですか!?」
「王にならなくてもいいと、彼は言ってくれたよ」
ただ生きていてくれるだけでいいのだとは……アルパはケレスに告げなかった。自分が王となる未来を望む彼女に。
「たしかにあの方は予言の賢者です。しかし、あの方はけして、あなたの妃にはなれないのですよ」
「ケレス!?」
「いくら兎族が男女問わず身籠もる力を持っているとはいえ、それだけの種族です。いいえ、あの方はそれだけではありまれせんけれど、世間一般では、最弱の最下層の種族だと……」
「ケレス!」
アルパの強い言葉に、彼女は我に返ったように目を見開き頬を染めた。兎族に対する偏見があるにせよ、神々の神子が口にしてよい言葉ではないと彼女にもわかったのだ。首を振り「失礼しました」とか細い声でいい、去っていった。
それをアルパは呆然と見送る。
そして、彼らが話していた回廊の角から、それをナハトがじつと見つめていた。
また、同じ時。本来ならば二人の会話などみえるはずも聞こえるはずもない、薄暗い部屋で椅子にうずくまる男がつぶやく。
「誰もが王に望んでいると? このワシこそが王だ。王座は誰にもゆずらん……」
40
作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
【同一作者の作品】
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。
『みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される』
銀獅子と呼ばれる美しい帝王×ハレムに閉じこめられた醜いあひるの子の凶王
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】どうも魔法少女(おじさん)です。
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
【同一作者の作品】
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。
『みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される』
銀獅子と呼ばれる美しい帝王×ハレムに閉じこめられた醜いあひるの子の凶王
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】どうも魔法少女(おじさん)です。
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
お気に入りに追加
2,818
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
子を成せ
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。
「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」
リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。