ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【31】勇者の運命

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「少しお話よろしいでしょうか? 」

 美しい金髪の神子に声をかけられて、モモはドキリとした。
 嫌な族長から解放されて、城館に戻ったアルパは早速忙しく、弟のナハトに声をかけられて、モモと離れた。
 『気鬱の病』とされている族長は、この頃はまつりごとの細かいあれこれは、すべて息子達に任せているという。とはいえ、アルパは勇者として城館を空けることが多く、弟のナハトが取り仕切っていると。
 そう、アルパから聞いていた。弟はとても優秀なのだと彼は、自分のことのように嬉しそうに語っていた。

「ナハトがいるから俺は安心して、城を開けられる」

 と。
 そして、モモの前には神託の神子ケレスがいる。
 ケレスがモモを導いたのは、城館の中庭だ。あのアルパと抱き合っていた……と思い出すと、モモの胸はずきんと痛んだ。

「アルパ様と共に村人を困らせていた、ボアの討伐、改めてお礼申し上げます」
「いえ、ボアの討伐はアルパ……勇者がなされたこと。今回、僕は見ていただけですから」
「いいえ、賢者様は村人達に森の大切さを教えられ、さらには疲弊した地に祝福を与えてくださったと聞いています。再生した若葉達はきっと、これからも村々と共に生きていくでしょう」

 「それは森の大切さを常に訴えられていた、勇者アルパ様の御心にもそうものです」ケレスはそう続けた。彼女もまたアルパが森こそが命の水の源であると気付いた、そのことをすぐに理解したのだろう。聡明な少女だ。
 中庭にふわりとそよ風が吹いて、彼女の降ろしたままの金色の髪がなびく。希有な白い毛並みの耳に尻尾は、彼女が狼族の純血種であることを示している。そうそれは漆黒の毛並みのアルパと同じ。
 漆黒と純白の毛並みは、モモに祖父ノクトと祖母スノゥの寄り添う姿を思い起こさせて、小さな胸がチクチクと痛む。やがて王となる建国の勇者の隣には、やはり彼女のような美しい白が相応しいのだろうか? と、クヨクヨ考えている自分が嫌になる。
 歴史書は語っている。
 建国の勇者アルパは神子ケレスを王妃として娶った……と。

「アルパ様とずいぶんお親しくなられたようですね? 」
「い、一緒に旅をしていますから」

 焦って突っかかり気味になってしまって、なにか言い訳めいた響きになってしまったな……とモモは思う。この美しい神子に後ろめたい気持ちがあることは、確かだし。

「そうですわね。共にいる時間が長くなれば、それだけ親しくなるもの。ですが、アルパにはあまり心をお寄せになるのはお辞めになったほうがよろしいと存じます」
「それはどういう意味でしょうか? アルパは僕の大切な友人です」

 思わずムッとしてモモは反論した。ようはアルパとあまり親しくするなということではないか。

「……大切な友人、アルパ様のことをそうおっしゃってくださるのですか」

 ケレスはモモの反論に、憂い顔で目を伏せて少し考える風にしてから、口を開いた。

「勇者アルパの唯一の盟友たる貴方に、このことを伏せておくことは出来ませんわね。ただしこれは秘中の秘、このことを知っているのは神々予言を受けた神子のわたくしと、それを受けた勇者アルパ様、そして、神殿の奥の院のその場にいた族長と弟君のナハト様のみ」

 モモはごくりと息を呑んだ。神々から受けた神子の予言は絶対だ。それを秘密にするとはどんな内容だったのか? 

「勇者は災厄を打ち倒すであろう。だが、彼は王になることはない」

 ケレスの唇が動き、そのときの予言そのままだろう文句をそらんじる。それにモモは大きくそのパパラチアの目を見開く。

「それはどういう意味ですか? 」
「そのままにとられて構いません。アルパ様は勇者としての役目を果たされる。しかし、彼は父たる族長のあとを継いで王位につくことはない」
「そんな……」

 これは単に彼が王にならないという意味ではないと、モモは悟る。それは同時になされた予言の意味するところからだ。
 勇者は災厄を倒す。
 ただし、彼は王にはならない。
 族長の息子である彼がどうして王にならないのか? それも見事に災厄を倒した……そのあとに……だ。

 そこから導かれる答えは一つ。
 災厄を倒したあとのそこから先のアルパの未来はない。
 アルパは災厄を倒して同時に死ぬ。
 




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