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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【29】賢者の森

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 モモは滞在している村の長老に、放棄した畑に案内するように言った。それに蓄えている森の木の実を持ってくるようにと。

「賢者様、これでいい?」
「いいよ、よく出来たね」

 モモは自分に駆け寄ってきた、元気な村の子供にこくりとうなずく。土が硬くなり、今はあちこちにそれを突き破ることが出来た雑草が生えるのみとなった、荒れた畑のあと。
 もってきてもらった木の実をモモは、子供達に好きな場所へ植えるようにと言った。

「お願いがあります」

 子供達が木の実を植えたのを確認して、モモは横に立つアルパを見上げた。

「なんだい?」
「これから大地を祝福するのに、あなたの魔力も貸してもらいたいのです。勇者の力はこの地にきっと力を与えますから」

 建国の勇者の力はサンドリゥムとなる国の大地を永遠に守護し続けることになるだろう。それはモモの知る森の緑の力強さに通じる。森のうえに広がる青空のような、彼の笑顔とともに。

「わかった」

 うなずいたアルパがモモを後ろからふわりと包みこむように抱きしめる。その体勢に『え? 』と深く被ったフードの内側でモモは頬を染めたが、今は目の前の荒れた畑跡に集中するのが大事と、銀のロッドを構える。
 モモの美しい旋律の詠唱が空へと響く。同時にふわりと足下に浮かんだ魔法陣と、その周りに浮かんだ球体の輝く魔法陣に、村人達の「おお!」という声があがる。
 そして、光は水の青となって、ひび割れた大地を潤す。子供達があちこちに植えた木の実が、しめって柔らかくなった土を突き破って、可愛い緑の双葉をぴょこんぴょこんと覗かせる。
 「あれ、あたしが植えたのよ!」と、嬉しそうな女の子の声が響く。「奇跡だ……」と年寄り達はモモと、そのモモを後ろから抱きしめるアルパをまるで神像のごとく拝みはじめる。
 奇跡はそれだけではなかった。
 芽吹いた若葉達の中心。そこにある双葉がするすると伸びてたちまち若木へと成長する。そこで止まらず、それはさらに成長し、青々とした葉を茂らせる大樹へと。

「これで来年、森に入らずともこの樹が子供達が食べるには十分な、木の実を落としてくれるでしょう」

 大樹を見上げてモモは続けて言う。

「他の若葉達も成長し、ここは村を恵みをもたらしてくれる守護の森となるはずです。深い森に入らずともここで薪や木の実を得ることが出来る。ここは村とともに生きる森となる」

 モモは知っている。今でもサンドリゥムの村には必ず村の大長老と呼ばれる大樹と、その周りに小さな守護の森が広がっていることを。それが大きな島々である野生の森を繋ぐ小島の森ともなっている。
 人々はその守護の森から日々の薪や、秋の恵みである木の実やキノコ、野草を得ている。
 村とともに生きる森。それがあるから、いまでも初代王アルパの言葉どおり、村で人数が決まっている猟師以外は、野生の獣たちが暮らす、森の奥深くへは入ることはない。入る必要はない。
 その村の守護の森のいくつかが、賢者の森と呼ばれている……その理由が今になってわかって、モモはちょっと照れくさいけど。
 きっとその森達は、自分とアルパが祝福を与えたものだ。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 その後、アルパとモモは、あちこちの村を回り、荒れて捨てられた畑に、同じように祝福を与えた。

「勇者様と賢者様は恋人同士なの?」
「え? え? どうして?」

 ある日、とととと近寄ってきた、村の子供に尋ねられてモモは慌てた。どうしてそんな話になっているんだ!? と。

「だってお二人はとっても仲が良いって、大人達が言っていたよ。今日の大きく樹がそだったのだって、勇者様が大切そうに賢者様を抱きしめていたじゃない?」
「い、いや、あれは魔力供給の……というか、勇者の力で大地に祝福を与えるためであってね」

 そうだアルパにそれ以上の他意はないはずだ……とモモは思う。毎回ちょっとドキドキするけど。

「じゃあ、二人は仲が悪いの?」

 否定するモモに子供がぎゅっと眉を寄せて悲しそうな顔をするのに、モモは慌てて「いや、勇者様は僕の大切な方です」と答えにならない答えを返す。

「よかった、二人はとっても仲が良いんだね」

 子供はにっこりと笑って駆けて言った。
 モモはどっと疲れた。

「はは、子供にそんなことを言われたのかい?」
「笑い事ではありません」

 その夜、祝福を与えた村の村長むらおさの家に一泊することとなった。いつものように歓待されて、二人用意された部屋へと入ってすぐに、モモは昼間のことをアルパに話した。

「モモはフードですっぽり顔を隠しているし、小柄だからな。俺も『賢者様は美人なんですか? 』と村の若者に大真面目に訊ねられたことがある」
「美人って……」

 そりゃ、自分が父や兄達はアルパに比べて小さいのは自覚がある。他の兎族の従兄弟達に比べたら、ちょ、ちょっと小さいぐらいじゃないかな? えーと、ザリア様とは同じぐらいだ! 

「もちろんとっても美人だと答えておいたよ」
「アルパ!」

 「それにとびきり可愛いと付け加えるべきだったかな?」なんて彼はいつもの調子で、からからと笑っている。まったくお爺様と同じ顔をして、こういうところは正反対に冗談好きだ。

「もっと誤解されたら困るでしょう!? だいたい、アルパにはケレス様という、婚約者がいるのに!」
「ケレスが俺の婚約者?」

 意外そうに目を見開くアルパに、モモは逆に内心で驚く。

「誰かにそう聞いたのか?」
「いえ、はっきりとは……」

 たしかにアルパからも、誰からも聞いてない。でもモモは知っている。
 建国の勇者は神子ケレスを娶ったと……。

「ケレスとは婚約などしていないよ」

 また胸がちくちく痛んでうつむくモモにアルパが静かにいう。はじかれたようにモモが顔をあげると、アルパは横をむいて独り言のようにつぶやいた。

「俺は誰にも将来の約束などしてやることは出来ないんだ」
 





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