ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【24】けして……ならない

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 朝、二日酔いでガンガン痛む頭をモモが抱えて目覚めると、治癒の呪文を唱えてくれながらアルパが言った。

「モモ、これからは私の許可なく、見知らぬ飲み物を口にしてはならない。それがどんなに善良な人物から勧められてもだ」
「はい……」

 アルパの一人称が『私』となっていて、自分の肩を両手でしっかり握りしめて、こちらを見ている。その真剣な顔から、モモは素直にうなずいた。
 蜂蜜酒を勧めたあの婦人には確かに他意はなく、賢者様も『この程度の“軽い”お酒』なら……と思ったらしい。
 ちなみに麦が特産のこの村々は酒豪の人々としても有名で、他の地域では普通にお酒の蜂蜜酒でも子供の頃から親しんでいるとか。

「あの、僕……一体なにをしたんです?」

 恐る恐る聞けば、真顔だったアルパは一転、吹き出して。

「いや、ただ空に特大の花火を何発も魔法であげたんだ。みんな大喜びだったけどね」

 いつもの彼の青空のような笑顔にモモはみんなが喜んでよかった……とホッとする。が、アルパは次にまた真剣な顔になって。

「宴が野外でよかった。屋根のある場所だったら、天井の穴から、綺麗な花火が見えるところだったね」
「……もう、二度とお酒は呑みません」

 モモは思いだした。自分と母がリンゴ酒を呑んだ翌日『なぜか』大公邸の屋根に大穴が空いていたことを。祖母のスノゥは大笑いをしていて「あんな穴、板で塞いでおきゃいい」とその身軽さで、ひょいひょいと高い大公邸の屋根に登って、自らトンカチ片手に板で穴を塞いでいたけれど。
 この祖母の大味なバッテン印の応急措置は、それを見て眉間にしわを寄せた祖父ノクトの命によって、すみやかに大工が手配されて元通りにされた。祖母は「別に雨漏りしなけりゃいいだろう」と言っていたけど。
 ノクトの「お前の貼り付けた板を見て、いつまでもカルマンが頭を抱える姿を見たいのか?」の言葉にスノゥは「あ、そりゃ可哀想だな」とあっさりと納得した。

「雨漏りしたら大変です」

 あれは自分の仕業だったのかと、モモは真顔でいった。それにアルパは「うん、そのまえに屋根に大穴が空くのが大変だと思うんだ」となんとも言えない顔で言い。

「それに屋根以上に問題なのが……」
「ま、まだなにかあるんですか?」

 モモはドキドキしながら聞く。するとアルパは言いにくそうに。

「君は酔うと大変可愛らしくなる」
「はい?」
「だから、酔った姿を不用意に見せてはいけない。いいね」
「はい……」

 アルパの顔は天井に大穴のときよりも、さらにすごく真剣で、モモは首をかしげながらうなずいた。モモは男の子なので、可愛いとは言われたくない。むしろ、お婆様みたいにかっこいいと言われたいと思う。
 でも、アルパに言われると彼の真剣な顔には悪いけど、なにか気恥ずかしくも嬉しい。これって、お婆様がお爺様に「お前は美しい」と言われて照れて怒ったふりをしているのと一緒かな?と思った。
 ずっとあとになって、モモは母ブリーの野いちご酒事件で「カルマンちゃまぁ~だっこ~」と強請る姿を見て、真実を知ることになる。
 そして、自分はあんな赤ちゃんみたいには、絶対になりません!と誓うのだったが……美味しくて甘いお花の飲み物を口にして、翌日二日酔いではなく自分が屋根に空けた大穴に頭を抱えることになる。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「森を焼き払い、ボア狩りをする?」

 二人が滞在する村の長の館に、他の村の長達がやってきたのは、ボア退治の翌々日のことだった。
 彼らは口々に、この際、畑を荒らす害獣であるボアを幼獣であろうとすべて駆除するべきだといった。
 そのために彼らのやって来る森を燃やし、一頭残らず逃さないと。また燃やした森は広大な畑にもなるとも。

「ボアの奴らがいたから、今まで森に手出し出来なかったんだ」
「少しでも森の奥に踏み込もうものなら、大きな雄が突っかかってきやがって。猟犬も尻尾を巻いて逃げちまう」

 「そのやっかいな雄共が居なくなった今なら……」と彼らは言うのだ。森を焼いて、ボアをすべて狩り、広大な麦畑を手に入れる機会でもあると。

「村々の若い者達は張り切っています。勇者様、賢者様、お二人共、お力をお貸し下さい」

 最後に滞在している村の長が代表するようにアルパに言う。アルパはみなの言い分をそれまで口を開くことなく、静かに聞いていた。モモもアルパにならい、マントのフードを目深に被りうつむき静かにしていた。
 アルパは静かに口を開いた。

「雌や幼獣のボアを狩ることも、森を焼き払うこともけしてしてはならない」





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