ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
163 / 213
末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【12】青の怪鳥

しおりを挟む



 炎は普通、赤いものだ。
 だが、それがさらに高温となると青くなる。それは青い星がより強い輝きを放つのと一緒だ。
 モモは一瞬で青の怪鳥の炎が並のものではないと判断した。

「気をつけて!あの炎は触れなくとも、近づくだけですべての物を焼き尽くす」
「わかった。ならばこれがある!」

 アルパがブンと柄の頭に赤い石がはまった剣を一振りする。それだけで、幾つもの見えない風の刃がこちらに向かってくる、巨大な鳥に飛んだ。
 モモも祖父のノクトと祖母のスノウの手合わせで見た事がある。かまいたちだ。
 それもとても重い。おそらく威力は祖父のノクトと同格。やはり勇者と言うべきか。
 『俺のはあいつに比べるとどうしても軽いんだよな。威力半減させてあとは避けるので精一杯だ』とスノゥがぼやいていたのを思い出す。

 怪鳥は自分に向かうかまいたちを察して、急降下をぴたり停止して、その場で何回も大きな翼をはためかせた。その翼から幾つもの蒼い火の弾が飛んで、いくつかを相殺した。
 しかし、その蒼い炎を砕いて、さらに飛んだ“重い”かまいたちが巨大な鳥の羽を幾つもかすめるだけでなく、その一つが羽の真ん中をぶち抜いた。
 怪鳥が耳をつんざくような叫び声をあげながら、堕ちる。それを逃さずアルパは、その落下地点に駆けて跳ぶ。
 しかし、その瞬間、モモの背にぞくりと嫌な震えが走った。純血種の本能からくる予知に外れはない。

「回避を!」

 叫んだが、アルパは既に地を蹴って真っ直ぐ怪鳥に進んでいる。回避は間に合わない。
 彼もモモと同じように危機を本能で察したのだろう。剣を振りかぶった攻撃態勢から、剣を自分の身体の真正面に構える防御態勢を取っている。しかし、怪鳥との距離が近すぎる。
 落下しながら怪鳥はその勇者との距離を見計らったように、全身に青い炎を吹き出しまとった。空は天を貫き、炎の渦巻きとなって周囲の荒れた大地を赤く溶けるほどに焼き焦がす。

 モモは銀のロッドをかかげて歌う様に素早く詠唱する。蒼い炎の竜巻はその身にも襲い掛かってくる。その身はふわりと浮かび上がり、輝く魔方陣の上に立って、周囲には球体の魔法陣がくるくると展開して熱を完全に防ぐ。
 それはアルパの前にも盾となって現れた。が、彼と怪鳥の距離はあまりにも近く、その姿は一瞬業火に包まれて、モモの視界から消える。

「アルパ!」

 モモは思わず叫ぶ。同時に大丈夫だと、祈るように銀のロッドを両手で握りしめた。盾の結界は炎の直撃は防いだはずだ。あとの熱は『あれ』が守ってくれるはず。

「モモ!」

 炎が消えて、飛び出してきた黒髪をなびかせる彼の姿に安堵する。アルパはモモの作り出した盾の結界を蹴って、こちらへとくるりと着地した。

「怪我は?」
「ありがとう、君の展開してくれた盾の結界と、このマントに守られたよ」

 彼の身を包む濃紺の夜色のマントには、焼き焦げ一つ付いていなかった。モモはほうっと安堵の息を吐く。

「マントにかけたお守りが効いてよかったです」
「……それはすごいお守りだね」

 彼は銀月の瞳を見開いて破顔する。ここにナーニャがいたなら『だから、あなたのはお守りじゃなくて、守護よ!』とでもツッんだだろうが、モモは「はい!よかったです」と笑顔でうなずいた。
 モモがマダム・ヴァイオレットに提案した、マントの裏側にほどこされた星図は、それ自体が強力な魔法陣だった。物理的な衝撃や熱から守る。
 燃えあがる炎の竜巻から現れた怪鳥は、空中の魔法陣の上に立つモモ達に向かってきた。
 大きく翻る炎をまとった翼。アルパが空けた、大穴は塞がっていた。あの炎は怪鳥にとっては再生の力もあるようだ。

「でも、無限ではありません」
「いくら災厄の一つといえど、その力の限界はあるか」
「はい」

 二人かわした言葉はそれだけだが、それで通じた。再生の力には限りがあると。いかに巨大な力を蓄えていようとも。

「ならば、削りきるまでだ!」

 アルパが聖剣を振り下ろせば、怪鳥に向かいかまいたちを無数に飛ばす。怪鳥もまた蒼い火の弾をこちらにぶつけてくるが、モモの強力な結界にその表層で阻まれる。
 しかし、一度目に羽に穴を開けられたことで、警戒したのか、怪鳥は大きく旋回してその場を離れる。強力なアルパのかまいたちも避けられては意味がない。
 その後も怪鳥はこちらの隙をうかがうように近づき、火の弾を飛ばし、アルパもまたそれに対応してかまいたちを再び作り出す。
 しかし、怪鳥はそのたびに大きく離れて周りを旋回する。モモの魔法で魔法陣は拡大出来るし、移動も出来るが、空を自在に跳ぶ怪鳥までとはいかない。
 それに近づき過ぎれば怪鳥の熱にさすがモモの強固な結界も耐えきれず、こちらもある程度は距離を取る必要がある。

「……僕には強力な攻撃魔法がなくて、ごめん、な……」

 こんなとき遠隔で攻撃するのは魔法使いの役目なのに……とモモがぎゅっと銀のロッドを握りしめて、言いかければ。

「私達のあいだで、ごめんは無しだと言っただろう?それに君は私を十分に守ってくれている」

 こんな戦いのときでも笑みを忘れない。そのアルパの姿が心強い。モモは彼の剣を見つめて、思いついた。
 かまいたちよりも、もっと物理的な彼の攻撃を届ける方法。

「弓は使えますか?」

 勇者に対して愚問だと思った。祖父のノクトも剛弓の使い手の上に、的の真ん中しか貫いたことのないという伝説の持ち主なのだから。

 「それなりにね」とアルパは彼らしい返事をした。モモはその答えにうなずき、彼の剣に向かいロッドをかざし、美しい旋律の詠唱をする。
 とたん球体の魔法陣に囲まれた剣は、彼の中で形を変えて、剛弓となった。




しおりを挟む
感想 1,097

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。