ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~

【3】二度目の邂逅

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 二度目ともなれば慣れる……なんてことはなかった。
 まして二日連続。お星様のベッドで眠りについたのに、別の人に寝台の中にいたなんて。
 それも目の前に超絶美形の黒髪の狼の寝顔。

「君は本当にいきなり現れるな」
「ごめんなさい」

 なぜか横たわっていたアルパの上に現れて、今は彼の膝に横抱きにされる形で、モモはうなだれる。

「謝ることはない。それより君が無事でよかった」

 迷惑をかけた……と思ったのに、優しい言葉にモモは「え?」と顔を上げる。

「急に消えたから心配したんだ」
「あれからどのぐらいたっているんです?」
「ちょうど一日だ。私は父上と共に城へ戻ってきたんだ」

 父上……とその言葉にモモの肩がびくりと跳ねる。それに「すまない」とアルパがモモの頭を撫でる。

「世界に災厄の兆候が現れているというのに、部族間の争いは止まず、それで父上はピリピリされているんだ」

 モモはサンドリゥムの歴史を思い出す。たしかに勇者アルパが初代王として即位するまでは、狼族達は、大小様々な部族に分かれて争っていたと。
 勇者アルパの父もまた、有力な一族の族長であったとも。
 ただなぜか……建国の歴史に勇者の父の名が伝わっていない。

「君は?どこから来たんだい?」
「…………」

 その問いには答えられない。まさか、未来から来たなんて。
 これが夢ではなく……いや、あの裾がすり切れたマントからして、本当に時を遡っているとしたら。

「あの、マント……」
「ん?」
「貸して頂いたのに、持ってこれなくて……」
「ああ、あんなボロボロのマントですまないと思ったぐらいだ。気にしなくていい」
「……謝らなくていいです」
「ん?」
「すまないって。僕のほうこそ迷惑かけて、ごめんなさい」
「だから、謝らなくていいと……」

 二人は顔を見合わせて思わず吹き出し、笑い出す。『ごめんなさい』『すまない』とさっきからお互いに謝ってばかりだと気付いたからだ。
 そしてひとしきり二人で笑いあったあと。

「うまくごまかしたね」
「え?」
「君がどこから来たか?ということ」
「そんな……ごまかすつもりは……」

 微笑むアルパにモモは垂れた耳がぷるぷると揺れるほど首をふった。

「ごめんなさい。でも話せません」
「だから、謝るのはもうやめよう。俺も君が遠い遠いところから来たと分かっているから」
「……俺っていうんですね」
「ああ、改まった場では私というようにしてるんだが、身内には、ああ、君とは初対面に近いのになぜか出てしまったな」

 はははと笑う彼の笑顔は抜ける青空みたいで、俺という一人称もあいまって、やっぱり顔はそっくりだけど彼は、祖父ノクトとは違うんだ……とモモは思う。
 それはなぜかくすぐったいほど嬉しくて。

「それで誰と比べていたのかな?」
「え?」
「最初に君は俺のことをお爺さまと言ったね。そんなに似てるかな?」
「……少し似てます」

 モモは嘘をついた。少しどころかそっくりだけど。

「そうか。俺は君のお爺様にそっくりなのか?しわしわのよぼよぼの……」
「違います!お爺様はしわしわでもよぼよぼでもないし、あなたと同じぐらいカッコイイです!」

 ムキになって答えて、モモは『しまった!』と口を両手で押さえる。ははは!と彼は笑い続けてる。

「そんなに笑わないでください!」
「すまな……いいや、もう謝るのよそう。むしろ、ありがとうだな」

 「俺は君のお爺様と同じぐらいカッコイイのだろう?」と言われてモモはむくれた頬を赤く染める。
 同時に、この人はすごくカンのいい人だとも思う。まさか、自分が未来から来たなんて思っていないだろうけど、気をつけないと。

「兄上」

 部屋の外から若い男の声がかかり、モモは身を固くした。アルパが小さな声で「ここにいて」と敷布でモモを隠して、寝台を離れる。

「ナハトか?どうした?」
「朝議の時間が間近にまっても、お姿を現さないので皆がどうされたのか?と」
「ああ、少し疲れが出て寝過ごしてしまったようだ。すぐに向かいますと父上にお伝えしてくれ」
「わかりました」

 会話を終えるとアルパが戻って来て、モモを隠していた敷布をとる。

「この部屋にいて、俺は朝議に行ってくる」

 「ここにいれば大丈夫だから」と言い残して、彼は部屋を出て行った。
 大きな寝台に一人モモは残された。天蓋のカーテンは寒さを防ぐ厚い無地の羊毛で、飾りもなにもないところから、質実な暮らしがうかがえる。
 アルパの言葉通り、ここで大人しくしているのがいいのだろうけど。

 モモはぴょんと寝台から降りると、きょろきょろと部屋を見渡して、壁際に置かれた黒樫のチェストに近づく。重い蓋を開くと、中にはアルパの服がはいっていた。チュニックにマントと、これも実用的な簡素なものだ。
 いくつかマントを手にとって、どれも自分がまとえば床を引き摺りそうな長さに「うーん」とうなる。
 その中で一つ短いものがあった。アルパがまとえば腰ぐらいの長さのものだろう。自分だと膝丈ぐらいなのが複雑だ。

 でも、これなら調度いい……とその深緑色のマントのフードを目深に被る。
 そして部屋の外へと出た。




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