ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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小休止のご挨拶

増える幸せ

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 大公家の中庭。
 狼や兎、虎に犬族の小さな子達が追いかけっこをし、その傍らでは青年となった者達がわいわいと話している。赤毛の狼達が妙に多いのはまあご愛敬だ。
 カールは隠居してもなお元気で、その傍らにデイサインと、ヴィヴィアーヌが加わった。
 アーテルにザリアがかしましくおしゃべりをし、ジョーヌが涼しい表情で、兄弟に冷静な突っ込みを入れている。そしてブリーとプルプァはそれをにこにこと聞く。
 黒虎の大王ことエドゥアルドとカルマンが飲み比べをし、早くもカルマンの顔はその紅い髪の色のように真っ赤だ。底なしの大王に敵う訳もないのに、毎度勝負を挑んでいる兄をダスクは呆れた顔で見ていた。そして、その二人の傍らの黒犬の首領ドゥーチェことロッシがシルヴァに語りかける。
「聖騎士殿、ここは一つどちらが勝つが賭けませんか?」
「勝負の行方などわかりきっているでしょう? 互いに黒虎の大王に賭けるのでは賭けにならない」
「たしかに」
 二人は笑いあう。



「増えたなぁ」
 コロコロと遊ぶ小さな仔達に目を細め、立派な青年となった者達がわいわいと笑いあう様子。それから息子達と、その配偶者達の幸せな様子に、スノゥは目を細める。
「初めは俺とあんたとシルヴァとアーテルの四人だったんだ」
「ああ」
「それが“うっかり”カルマンとジョーヌが増えて、そのあとにこれまた“うっかり”でダスクとザリアだ」
「ああ」
「まさか真っ先にカルマンの奴がブリーを引っぱってくるなんて思わなかったな」
「ああ」
「そのあとに意地っ張りのアーテルがあの黒虎の大王のエドゥアルドに捕まった」
 「まさか、あいつらも“うっかり”で出来ちまうとは思わなかったな」と続けたスノゥにノクトが「ああ」とうなずく。「眉間にしわ寄ってるぞ」とスノゥはくすくす笑い。
「ジョーヌの奴はあれは自分が捕まったんじゃなくて、完全にエリック殿下を捕まえたっていったほうがいいんじゃないか? こっちもいつのまにやらだったが」
「ああ」
「それからザリアだ。あの黒犬相手にどうなることやら? と思ったが、今やしっかり小さな尻の下に敷かれているからなあ」
 「『うっかり浮気なんて絶対しませんよ。あの地獄のお歌を聴きたくはない』って黒犬がいっていたぞ」とのスノゥの言葉にノクトは無言。
「また、眉間にしわ寄ってるぞ」
「…………」
 スノゥがその形のよい額に指をあててちょいちょいと伸ばす。
「ま、ダスクは穏やかな相手を選んだな。別に大騒動なんて起きなくていいんだ。家内安全が一番だろう?」
「ああ」
「まさかシルヴァの奴が最後の最後になるとはな。別に焦っちゃいなかったし、あいつは本当に好きな奴を選べばいいと思えたが……出会えてよかった」
「ああ」
「……あのな、さっきから“ああ”ばっか。なにか言えよ!」
「私もお前に出会えてよかった。愛している」
「……馬鹿」
 スノゥはその白く立った耳の内側をほんのり紅くする。「真顔でそういうこというな」と周囲に聞こえない声でつぶやき。
「俺もあんたに会えてよかった、あ、あい……」
 いいかけたスノゥだったが、そのとき庭でこんがり焼かれていたボアの肉の匂いが鼻先をかすめて、口許を押さえた。
「スノゥ?」
 そういえばシルヴァとプルプァの仔も大きくなってきたし、そろそろなんて盛り上がった夜を思い出したのだった。




────────────────────
シルヴァ×プルプァ編完結を一区切りとして、ここで毎日更新をいったん止めて、次の新作に取りかかりたいと思います。ENDマークはつけないので小休止ということで。
区切りということでよかったら感想やあの二人はどうなったの?あの子供達は?というリクエストなんかもしていただけるとうれしいです。

ここまで更新出来たのは、みなさんが読んでくださったおかげです。たくさんの感想も嬉しかったです。

またお会いしましょう!
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