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鳴かない兎は銀の公子に溺愛される【シルヴァ×プルプァ編】
【18】ほんとうの言葉は花のように美しく
しおりを挟む話したい……とプルプァは思った。
プルプァの大好きなみんなが、プルプァを守るための“言葉”を口にしている。
グラン・マにマーマとその大切な黒い狼のパーパ。お友達だよといってくれたプルプァと同じに耳が長い、マーマ子供達と、その大切な人達。
それからシルヴァ。
いつだって真っ直ぐで優しいプルプァの王子様も、自分を守るって怖い女王様にいってくれている。
だから話さなければ……と思った。喉はなにかに塞がれているようだけど。
頭には『静かにしていてね。怖くてもけして声を出してダメよ』とあの優しい声が聞こえるけれど。
だからプルプァはいままでずっと声を出していけないと思っていた。それだけじゃなくて、喉になにか詰まったようにしゃべりたくても、しゃべれなかったけれど。
でも、いまは怖くても、声を出すときだ。
大好きな人達のために。
「グラン・マを悪くいうのはやめて」
プルプァは菫色の大きな瞳で真っ直ぐに、カリナを見る。
「グラン・マはプルプァの大切なお婆様なの」
「……なによ、娼婦の祖母と孫のクセに」
「カリナ姫、その言葉は取り消していただきたい」
シルヴァが鋭い声をあげ、カリナ姫がぴくりと肩を震わせる。
「本当のことです。シルヴァ公子こそ目をお覚ましになられて! あなたはその魔性に騙されているのです! 兎族なんてたくさんの男に身体を売ることでしか、生きていけない魔性に!」
彼女はなおもいいつのり、周囲には呆れた空気が流れる。彼女の言動は王侯の姫君とはありえない、公の場で口に出すものとして、あまりに不適切なものだった。
「あなたのいうことはわからない」
プルプァが告げる。その口調には怯えも怒りもない。ただ純粋で真っ直ぐな。
「そのお口から出てくるのは、みんなを傷つける酷い言葉ばかり。もっと素敵な楽しいお話はできないの?
まるでおとぎ話に出てくる、お口からカエルや怖い虫が出てくるお姫様のよう」
プルプァのひと言にカリナのとんでもない言動に凍りついていた空気が一瞬でなごんで、王侯達のなかにはぷっと吹き出すものや、思わず微笑ましいと微笑を浮かべる者達もいた。
「プルプァ」とシルヴァがその名を呼び、見つめ合う二人は微笑みを交わしあう。
「お、お祖母様……」
目の前で恋するシルヴァが憎い恋敵と見つめ合い、さらに周囲は自分にはあきれ果てた軽蔑の視線を向け、プルプァには味方する。そんな空気を感じとったカリナが、横にいる祖母のテレーザに助けを求める。
「あ、あなたがたは間違っています」
テレーザが声をあげる。それは先ほどこの潔癖女王が最初に王侯を見渡して告げた、不貞を糾弾する強い響きなどなくなっていた。あきらかに無理をして、彼女は声を張り上げる。
「どのように虚言を巡らせようとも、天にいる神々は真実を見られています。一度穢された純潔は元に戻ることなく、女神ユウノが祝福するは純潔の乙女との結婚のみ。
それ以外の不当なつながりを一切認めるわけにはいきません!」
女王の言葉は空回りして茶会の席に空しく響く。王侯達はまだ意地を張るのか? と彼女を冷ややかな目で眺める。
「プルプァに鉛の指輪をください」
テレーザを見てプルプァがいった。向けるのは無垢な瞳だ。
「プルプァはシルヴァとずっと一緒にいると約束しました。
天の神様達がすべてをご存じならば、二人の気持ちも“ほんとう”だってわかるはず。きっと“鉛の指輪”でお祝いしてくださるでしょう」
それは本当に純粋で真っ直ぐな気持ちをそのままの言葉だった。この前にはカリナ姫の言葉はますます醜悪に思えたし、テレーザの言葉は表面上のみの清らかさをうたった、中身のない上滑りの文言に思えた。
「なによ! なによ! なによ! 綺麗ごとばかりの良い子のフリをしたって、あなたが娼館にいたのは事実なんでしょう?」
それなのにまたカリナ姫がわめいた。
「それに本当にあなたはエ・ロワールの血筋なの? 双角のツィーゲが父親なんて大層な名前を出して。あなたのお母様のデルフィーヌ姫って本当にいたのかしら? そちらの奔放なお婆様が、あなたのお母様のお母様として、では、お父様のお父様は?」
それに関してはたしかにヴィヴィアーヌは公表していなかった。ツィーゲと自分の娘デルフィーヌの子としても、では彼女の父親は?
「遅参失礼!」
茶会の庭にいきなり響く声。その声がした方向の蔓薔薇のアーチをみんなが見た。そこには古式ゆかしい白銀の甲冑をまとった騎士二人が、儀礼用の杖を交差させて、その杖の先に細長い旗がたなびいていた。
赤地に金色の二匹の獅子が盾を支えるその紋章に王侯達は「まさか」とざわめく。
薔薇のアーチから現れたのは、古式ゆかしい赤地に金のロープをまとった、白い髭と髪が獅子のたてがみのような、重厚な威厳をまとった老人であった。
その彼の頭には獅子の耳が、ローブにはいった後ろのスリットからは獅子の尻尾が揺れていた。誰かが「金獅子の大帝」とつぶやく。
そう、彼こそが大陸の西の最果ての国にして最古の国、ノーマン大帝国のデイサイン大帝であった。金獅子の大帝と呼ばれていたとおり、今はまっ白なその髪も髭も金色に輝いていた。
しかし、老齢のために長らく人前に現れこともなく、実はもうお亡くなりになっているのでは? とまことしやかな死亡説が流れてさえいた。その大帝がこのような茶会に姿を現すなど、王侯達にとっては大きな驚きであった。
彼の登場はまったく意外でノクトにスノゥも目を見張り、茶会の主催であるヴィヴィアーヌさえ驚きに歓迎の出迎えも忘れて立ち尽くすほどだった。
それほどこの大帝の出現は唐突で。
しかし、大陸でもっとも威厳あるとうたわれる金獅子の大帝は、そんな王侯達のあいだを堂々と進み、そして、シルヴァとプルプァの前にきた。
「…………」
大帝のたてがみのような白い髪に白い髭、そして太くこれも白い眉毛の下の目尻に深い皺が刻まれた金色の瞳。それとプルプアの菫色の大きな瞳がじっと見つめあう。
プルプァがくん……とちんまりしたお鼻を動かしてから、口を開いた。
「……グラン・パ?」
それは疑問形であったがつどった王侯達に衝撃を与えるに十分だった。
「そうだ。プルプァ、ワシがお前のお爺さまじゃよ」
デイサインがその巌のような顔をかすかにほころばせてうなずく。大帝が認めたと、それに王侯達はざわめくことも忘れてぽっかり口を開いている者さえいる。
大帝はそんな人々をゆっくりと見渡し。
「さて王侯が集う茶会に相応しくもない、まだ卵の殻が尻にくっついたような雌鶏の醜い鳴き声が聞こえたがな」
ギロリと獅子の金色の瞳で見据えられて「ひっ」とカリナ姫が引きつった声を小さくあげる。
「誰が誰の子じゃと? プルプァは、ワシとヴィヴィアーヌの愛しい姫であるデルフィーヌ。そして、自由なる双角のツィーゲ。そのあいだに生まれた子だ」
そして、デイサインは呆然としているシルヴァに向かい、瞳を細める。
「勇者ノクトと名高き四英傑の一人たるスノゥの息子であるシルヴァ公子よ。高潔な騎士であるそなたと、我が愛しい孫との婚姻。まこと喜ばしく思うぞ」
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作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
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