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鳴かない兎は銀の公子に溺愛される【シルヴァ×プルプァ編】
【14】お花ちゃん達のお茶会~ちょっと内緒のお話~
しおりを挟むシルヴァ達、大人? 組がお話している頃。
「ねぇ、プルプァ」
とアーテル。プルプァの“お婆様”がわかったと聞いて、この面白がりはさっそくすっ飛んできたのだ。これはザリアも同じく。「二人とも気楽に転送陣をほいほい使いすぎですよ」なんて出迎えたジョーヌは呆れていた。当然、兄弟兎達のなかで一番しっかりしている金兎は、黒の兄と小さな末っ子の“監視”のためにプルプァの部屋にいた。
兎さん大好きなカールお爺さまの愛と夢がいっぱいつまったプルプァのお部屋。お花の模様の壁画に白と金の猫足の家具。レースとリボンのカーテンにクッション。
うさぎさんとくまさんの大きなぬいぐるみの仲間? はさらに増えて、今度は蒼い子馬が加わった。この子馬、ただのぬいぐるみではなく、腰掛けることが出来た。プルプァがチョコンと鞍の部分に横座りしたら、思わずアーテルが吹き出して。
「プルプァはその子お気に入り?」
「…………」
プルプァはこくりとうなずいて、横にあった小卓の紙にさらさらと『ふわふわの子達は好き』と書く。
「うんうん、プルプァが気に入りならいいよ。お爺さまの夢もかなっているしさ」
「そうだね。なんか著てるブラウスもレースが一杯だね」
とザリア。たしかに、プルプァの著ている真珠色のブラウスにはレースとフリルがたっぷりだった。もちろん今日もプルプァの左耳には、シルヴァの付けた銀のリボンが輝く。飾りも始めの絹で出来たお花から、宝石のお花へと変わっていた。宝石のお花はもちろん、母スノゥの左耳に輝く宝石商と同じところのものだ。大公家御用達の。
「うわ~著てるジレの後ろ側もフリルとレースの段々が交互に重なってる。儀式や夜会のときならともかく、僕ならすぐに裾を破いちゃいそう」
「おてんばなザリアならそうかもね」
「その言葉、そっくりアーテル兄様に返すよ。これを普段から著られるのって、おしとやかなプルプァぐらいじゃない? ブリー義兄様とかは、あれで“うっかり”でスッ転びそうだしさぁ」
「ブリーはどんな服着ていたって、なにもないところで転びそうでしょ? だからカルマンが目を離せないんだし」
アーテルはそこで言葉をきって、まじまじプルプァを見て。
「プルプァもね。お爺さまがあれこれ押しつけてきても、嫌なとき嫌っていわないとダメだよ」
という。プルプァはきょとりとして、また傍らの紙に書く。
『お爺様は優しいから好き。綺麗なものや、ふわふわしたものや、キラキラしたものをくれる。プルプァはなにも返せないけど、いいの? 』
それを読んでアーテルとザリアは顔を見合わせる。「「いいの、いいの」」と二人は口をそろえていう。
「プルプァがここにいるだけで、お爺さまの夢は十分に叶っているから」
「そうそう、僕達のかわりに著たら破れそうな服を着てくれているんだし」
「プルプァはいいこだね」「プルプァはホント、ザリアのお歌がいらないぐらい心が綺麗!」と続ける二人に。
「だったらプルプァさんの“ご負担”を少しでも減らすために、二人も多少はお爺さまご希望の“おしとやかな服”を著られたらどうですか?」
そうジョーヌが冷静にツッコむ。それにアーテルがすかさず。
「じゃあ、王太子配のジョーヌが王宮暮らしで一番お爺さまのそばにいるんだからさ。かなえてあげたら?」
「わたくしは王太子配として、必要最低限の格式はともかく、あまり華美な服装は好ましくありませんから」
「結局自分だって嫌じゃないの!」
「ジョーヌお兄様、ずるい!」
そんなことをきゃっきゃっと話しながら、蜂蜜を垂らしたレモンミントティーを楽しみ、それぞれ持ち寄ったお菓子やケーキをつまむ。ザリアがもってきた商都ガトラムルで有名な薔薇色マカロンのケーキをプルプァは一口食べて、そのラベンダー色の長いお耳をピン! とさせた。ゆっくりと味わって、お茶を一口飲んでから、傍らの紙にさらさらと書く。
『天上のお国の味がします』
「そうだよね、天国の味がするよね」とザリア。それにアーテルが。
「でも、プルプァがその背中に羽を生やしてお空にいっちゃったら、お兄様は悲しむかもね」
軽い冗談だったが、プルプァは菫の瞳を丸くして、あわてて紙に書く。
「え? シルヴァを残してはいかない? ずっと一緒って約束した?」
「『プルプァはシルヴァから絶対離れない』って、シルヴァお兄様愛されている」とザリアが、自分のことでもないのに、頬に両手をあてて「きゃあ」なんて声をあげている。きゃっちゃっと騒ぐ兄弟の達の横で、あくまで冷静に優雅にお茶とケーキを楽しむジョーヌが、プルプァに「そういえば」と。
「プルプァ様はなぜエ・ロワール女侯爵が、あなた様の“お婆さま”だとお思いになったのですか?」
ヴィヴァアーヌはプルプァを赤子のときに見たきりだといっていた。それでも愛娘にうり二つの、さらには珍しいラベンダー色の毛並みの兎の少年なんて、この世界にただ一人しかいないから、彼女がプルプァを孫だとわかったのはわかる。
だがプルプァは赤ん坊の頃に祖母に会ったきり。さらに彼はあの秘密倶楽部の娼館に閉じこめられる以前の記憶を無くしている。
お婆様の顔を見て思い出したか? とプルプァに周りは問うたか、彼は首をふった。『やっぱりわからない』と紙に書いて寄こした。
だが、プルプァはヴィヴィアーヌを『グラン・マ』と声にはならない声で呼んだ。
スノゥを『マーマ』と呼んだように。
『グラン・マはグラン・マの匂いがしたの』
とプルプァは書いた。「グラン・マの匂いって?」とアーテルが問えば、プルプァは唇に羽ペンの羽をあてて少し考えて。
『マーマはマーマの匂いがする。みんなもマーマの匂いがする』
「なるほどね」といいながらアーテルは首をかしける。それにザリアが「わかったような。わからないような? 確かに僕達も子持ちだけど」と続ける。そうプルプァ以外の兎たちは、全員愛しい人と結ばれて、その愛し愛された人のあいだに愛の結晶がいる。
そして、スノゥは自分達全員を産んだ、偉大なるマザーではあるが。
「それは匂いで子供を産んだ母親とわかるということですか? では女侯爵も?」
ジョーヌが分かりやすく訊ねればプルプァは紙に『マーマはマーマなの』と書く。
「お母さんはお母さんって感覚でわかるってこと?」とアーテル。ジョーヌが。
「プルプァさんは匂いで様々なことをとらえているのでしょう。女侯爵のヴィヴィアーヌ様ともお互いのフェロモンで確認しあっていたようですし」
それにプルプァはこくこくとうなずく。そして紙に。
『グラン・マはグラン・マだってわかった。
だってグラン・マの匂いがしたもの』
それを読んだザリアがぽつりとつぶやく。
「それって“お婆様の匂い”ってこと?」
それに三人の兎が一瞬沈黙する。プルプァがこてんと首をかしげてそんな三人を見る。
「グラン・マの匂いっていうと、なんかいい言葉だけどさ。お婆さんの匂いっていうのは」とアーテル。それにザリアが「僕はお婆様の匂いっていったよ」と返す。「あんまり変わらないじゃない」とアーテルがまた反論するが、そこに「ともかく」とジョーヌの冷静な声。
「プルプァ様が『グラン・マの匂い』と無邪気におっしゃるならばともかく、わたくしたちがその話題を口にするのはやめましょう」
とくに「おばあ……」とジョーヌはいいかけて、珍しくも言いよどみ、こほんと咳払いして。
「“ご妙齢”のご婦人の年齢に関する話題は社交界の礼儀に反することです」
この場合の妙齢というのは、貫禄もついてきたお年頃というべきか。
「それいいだすと、うちのお母様だって結構な……ってことになっちゃうよね」
とアーテル。「でもお母様は僕達と同じ純血種だし」とザリア。
スノゥは三十八でシルヴァとアーテルを産んでいる。そしてシルヴァもアーテルも現在四十なのだから、子供達の年齢を足すと……ということになる。
「それをおっしゃるなら」とジョーヌ。
「かの女侯爵などお母様の倍は生きてらっしゃるだろうに、いまだあの美貌なのですから」
「「女は怖いね」」とアーテルとザリアは口を揃えたが。
「それをいうなら純血種怖いでしょう? そしてわたくし達だって、その純血種です」
ジョーヌがあくまで冷静にツッコんだ。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
さて、大人? 達の話し合いがすんで合流し、無邪気にシルヴァに飛びつくプルプァを、他の大人達は笑顔で見守る。とくに祖母、ヴィヴィアーヌは黒いベール越しの微笑は慈愛に満ちて美しく。
その顔を思わずまじまじと見てしまったアーテルとザリアは、ジョーヌに小声で「見過ぎですよ」と注意されたのだった。
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