ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

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ワガママ王子はゴーケツ大王なんか絶対に好きになってやらないんだからね!【アーテル編】

【13】責任は一生とってもらうんだからね! ※

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「……よかった……」

 自分が腕に抱いていたエドゥアルドが目を覚まし、身を起こした瞬間。アーテルはふう……と息を吐いて、そして。
 今度は自分が後ろにぱったり倒れた。

「おい!」

 エドゥアルドだが、細い身体をその太い腕で抱きしめて地面に激突するのを防ぐ。横抱きにした、その白い顔を覗きこむ。頬にふれて「冷たいな……」とつぶやく。

「魔力切れだ。館の転送陣を使わせてくれ。急ぎサンドリゥムに飛んで、グルム大神官長に……」

 魔力とともに生命力までぎりぎりまで使い果たすような症状をエドゥアルドは見たことはない。この場合の治療は神官に任せるのが一番だ。サンドリゥムに飛べば、四英傑の一人である名高いグルム大神官長がいる。
 応急措置でもないが、自分の胸元に抱き寄せて、冷える身体を温めながら、肌を触れあわせることで魔力を分け与える。とはいえ、ここまで枯渇していると、それぐらいでは間に合わないが。

「それがだめなのです」
「なにがだめだ?」

 雪豹族の長であるオレシャの言葉にエドゥアルドは苛立ちを隠さずに聞き返す。この腕の中の冷たい身体を一刻もはやくサンドリゥムに運びたかった。

「館の転送陣は一時的に使えなくされています。陣を使った魔導通信も使えない状態です」

 それだけでエドゥアルドはアーテルを狙った相手の用意周到さに舌打ちする。転送陣によって助けを呼ばれないように、そこまでしたか。

「アーテル様のお使いになったのは命の歌です。このノアツンの森に住まう命の力を少しずつ借りて、死にかけた者に命を吹き込む。
 しかし、大王陛下のお身体にはいった毒まで消すために、アーテル様はご自分の魔力と生命力まで……」
「話してる時間もおしい。あとで状況は聞く。とにかく館に案内しろ」
「しかし、館の転送陣は……」
「俺が案内しろといってるのは」

 そこでエドゥアルドはらしくもなく声をひそめて、オレシャに耳打ちした。オレシャが大きく目を見開く。

「それは……」
「この方法しかない。ここにいる純血種は俺だけだ。同じ純血種のアーテルに膨大な魔力を分け与えてやれるのもな」

 エドゥアルドはカザーク族の戦士達に「国境の転送陣へ急いでいけ」と指示する。

「王宮に飛んで、ありったけのポーションをここまで持ってこい」

 カザーク族達は言葉を交わすことなく、ついてきた戦士二人が身をひるがえす。それにオレシャが「だれが彼らについていきなさい。この森の戻るときの案内を」と声をかければ、雪豹族の若い青年が彼らのあとを追う。
 オレシャの案内でエドゥアルドはノアツン大公邸の小さな館にはいる。まっすぐ向かったのはアーテルの部屋だ。「アーテル様のことをよろしくお願いします」というオレシャの言葉をうなずく。彼は部屋を出ていき、二人きりとなる。

 細い身体を抱きしめたまま、寝台へと乗り上げる。その身をそっと横たえてから、上着を素早く脱ぎ捨てる。シャツのボタンもはじけるのも構わずに乱暴に前をひらいて、上半身裸となった。
 アーテルのほうも、こちらは丁寧にノアツン族の服を脱がせて、ブラウスの前をひらいて裸の胸をあわせた。ヒンヤリした体温に息を呑む。

「まったくこんなになるほど、俺にくれすぎだ」

 おかげで毒を受けたとは思えないほど、身体は力に満ちあふれていると感じる。だからこそ助けられるとも。

「責任はとる……つうか、お姫さんの父上に叩っ切られる覚悟だな」

 そういって、そっと口づけた。


   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ほわほわ温かい。
 ここにいると安心出来るって感じる。
 でも、ちょっと……なんかお尻に違和感? 

「ん……」
「気がついたか?」

 目を開きぱちぱちと瞬きする。目の前にはこのところ見慣れた、ちょっと小憎らしい男の顔。
 それで自分が倒れる前のことを思い出す。青くなって目を閉じていた姿を。

「毒は?」
「姫さんのおかげですっかり抜けた。逆に俺に寄こしすぎだ。魔力切れどころか生命力までぎりぎり寄こしちまうなんて」
「だって、あれは初めてやったんだもん。もう一度目を開いて欲しいって、加減なんてわからなかったし」

 それもノアツンの森だからこそ起こせた奇跡だ。あれはこの森の中だからこそ出来たこと。

「えーと……それでどうして僕達、裸なの?」

 そこでようやく自分が裸の男に抱かれていることに気付くアーテルだ。それも自分も裸で触れあった肌は心地よく、ぽかぽかしていたのはこれか? と思う。

「あ~これは……」

 と男は照れくさげに頭をかく。

「魔力切れ起こしていたうえに、生命力まで低下だ。そのうえに陣は使えない。神官はいない。あそこにいた姫さんの膨大な魔力を補える純血種なんて、俺一人だ。
 しかし、俺は神官ではないから癒やしの聖魔術なんて使えない。となれぱ魔力を分け与える方法は、肌を触れあわすってことだが、それだけでは枯渇しかけてる姫さんの魔力は補えない」
「だからつまり?」
「抱いた。すまん」

 アーテルを抱きしめたまま、エドゥアールは器用に頭を下げた。
 ちらりと見たベッドサイドのテーブルにはポーションの瓶がいくつも転がっていた。これをがぶ飲みして自分の魔力と体力を補充しながらしてくれたのか。

「責任はとる」
「当然でしょ」
「ああ姫さんへの求婚は取り下げる。もう二度と迷惑はかけねぇ」
「は?」

 アーテルはそのルビーの瞳を見開く。エドゥアルドが続ける。

「まさか姫さんの命を狙うとは。この国に根付いた純血主義を甘く見ていた。きっと俺と結婚したあとも、そういう考えの奴らがあんたを狙うかもしれない。
 アーテル……あんたの身を危険にさらすぐらいなら、俺が身を引いて……っ!」

 ぺらぺらしゃべる虎の横っ面をぴたん! と平手打ちしてやった。まだ体力が戻っておらず反動で後ろにひっくり返りそうになるを太い腕が支えてくれた。目の前の腹立つぐらい分厚い胸板をぽかりとこぶしで叩いてやる。

「馬鹿にしないで! 僕は勇者ノクトと四英傑スノゥの息子アーテルだよ! 虎の一人や二人や百人だって、ムチでしばき倒して、躾なおしてやるんだから!」

 そして、思わず「ぷぅ!」と鼻を鳴らしていた。母が父を怒るときにやる仕草だ。というか、あれは怒っているというより甘えてもいるんだと思う。母があれをやると、父の耳と尻尾がしおしおと萎れるのがおかしい。
 目の前の虎の丸い耳と尻尾もなんだか同じだ。「はは、姫さんなら想像つくな」と男が笑う。アーテルは改めていう。

「だから、一生責任とって!」

 「いっておくけど、傷ものにされたとか思ってないからね!」と叫び。

「『惚れたから仕方ない』とかいい逃げも許さないし、一生そばにいて僕だけを好きで、僕だけをお姫様みたいに大切にしてくれないと、許さないんだから!」
「まいったな、先に姫さんにいわれちまった」

 エドゥアルドが苦笑し、そしてアーテルを片手で抱いたまま、その片手をとって指先にうやうやしく口づける。

「グロースター公子アーテルよ。ルースの大王であるこの俺、エドゥアルドと結婚してくださるか?」
「もちろん、僕は暗殺者になんて返り討ちにしてやるし、僕以外の番なんて認めないから、覚悟しておいてよね!」
「望むところだ。俺は一生、姫さんを愛すると誓う」

 なんだか、ケンカ腰の求婚のやりとりが終わったあと。

「まだクラクラする」
「ああ、魔力も体力ももどってないんだろう。こうしてしばらく抱き合っていれば」
「……なら、やり直しして!」
「やりなおし?」
「そう、だって僕初めてなのに全然覚えてないんだよ。だから初めからして! ただし痛くしたら承知しないからね!」
「まったく、わがままなお姫様だな」

 では、まずキスからと口づけあった。



 それから。



「あ、やっ、や……胸なんて吸っても、おっぱ…い……出ないよ」
「出なくたって、好きなら吸いたいんだよ。男は」
「へ、ヘンタイ!」
「こんなときの男なんてヘンタイそのものだ」



「ね、ねぇ? こ、これって入るの? 大きすぎない?」
「ちゃんと慣らしてはいったぞ。切れてもいなかったろう?」
「そ、そりゃなんかはさまってるな~って感じだったけど。え、あん……指いれない…で……!」
「いれなきゃ慣らせないぞ。一度ヤッちゃいるが、痛くしたら許さないって姫さんがいうからなあ」
「あ…あ……そこへんっ…だから……ダメ!」
「だから、ここがいいところの一つなんだ」



「あ……え? は、はいったの?」
「全部な」
「それは……わかる……なんかお腹いっぱ…い……きゃっ! やっ! う、動かないで!」
「動かなきゃ終わらねぇ……んだよ」
「ふぁ…あ……んぁ…へん……これ…きもち…いい……の?」
「あおらないでくれ、アーテル。まったく、こっちが止まらなくなりそうだ……」
「ひゃ……あ……ねぇ? なん…か…なかで…また、大きく……なっ…て……ない?」



 二人が部屋から出てきたのは、結局翌日の昼過ぎのことだった。







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