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狼勇者とウサ耳剣士と可愛い子供達は最強家族!【ノクト×スノゥ+子供達編】
【11】血の統治の意味※
しおりを挟む「それは半分はノクトの血もあるでしょう?」
スノゥは不機嫌にモースに言い放った。この賢者に対して腹を立てているわけではない。相変わらず兎族を“胎”と考えている世間に対してだ。
ノクトもカール王でさえ、いいにくそうにしていたわけだ。彼らにとってはスノゥにアーテル、生まれたばかりのジョーヌは“家族”だ。それが子供を産む道具として見られているなど、口にしたくもないだろう。とくに子供達に関しては。
そこでスノゥは気付く。
「アーテルやジョーヌの身柄も危ういということか? まだ子供なのに……」
「もちろん、純血種の兎である二人の身辺も気をつけねばならんが、一番やはりスノゥ、お前だ。
純血種たるルース王リューリクの唯一の直系にして、お前もまた純血種だからな」
「また、純血種ですか? 俺には王侯貴族がどうして、そんなに目の色を変えるかわかりませんけどね」
たしかに純血種は強力な魔力に身体能力、三百年の寿命を誇る。
だけど、それだけだ……とスノゥは思っている。
王侯貴族にしたって百五十年の寿命があり、彼らは魔力も身体能力も高いものが多い。だからこそ、国を守る者達なのだから。もっとも、昔からその地位に寄りかかって、傲慢と贅沢におぼれ堕落する貴族というのも絶えないが。先日、無くなった四大伯爵家のように。
「スノゥや。純血種と王侯貴族達の間には百五十年あまりもの寿命の差がある。平民となれば二百年以上じゃ」
「そうですね」
なにを当たり前のことを……とスノゥはカール王の言葉にうなずく。
「それはそれだけ“安定した治世”を築けるということだ。かのリューリク王の御代が百年以上にわたり、絶大な支配力を継続したようにな」
スノゥは大きく目を見開く。やはり十三まで離宮に閉じこめられて世を知らず、そのあとは放浪の旅を続けた自分には、王侯貴族の思考というものが、決定的に欠落している。
家門を途絶えさせることなく存続させること。王家ならばこれが国そのものとなる。
「家督争いに血眼になっている愚か者どもはともかく、頻繁な代替わりなどよくないのはわかりきっている。最良は絶対的な力を持つ者による長期の治世じゃよ。そして、純血種ならばそれは可能だ。
ワシがな。ノクトが生まれて貴族共にたいして強気に出られるようになったのも、そのせいじゃ」
カール王は本来、王位に就く予定はなかった人だ。彼は病弱な兄王を支え、その弟として長く摂政を務めてきたという。兄が亡くなり子がなかったために、彼が玉座についた。
それまで未婚だったカール王は王となって初めて妻を迎えた。自分が子を作ることで、兄王の立場を弱くしない配慮だったと知られている。
ヨファンやノクトの年齢に対して、カール王が八十歳近くとかなりの老齢なのは、そのせいだ。
そのカール王の治世は摂政時代も含めれば、貴族達との合議制の穏やかなものだった。それが純血種であり勇者たるノクトが生まれて“多少”強引なものに変わったとはいわれているが。
「腑抜けになったとはいえ、建国の頃より続く四大伯爵家の一斉取り潰しなんてことが出来たのも、ノクトがスノゥ……お前さんという強くて可愛い番を迎えて、“純血種”の可愛い孫達が生まれたからこそだ。
そんな“大公家”を後ろ盾にした“我が王家”は他国から見れば、さぞ、うらやましかろうて」
どちらが王家なのか? とグロースター大公家と、ヨファンの皇太子一家を比べて、貴族達がささやく陰口だ。しかし、もう“どっちつかずの殿下”と呼ばれたヨファンは揺らぐことはなく、ノクトもそしてスノゥとの間に生まれた子供達も、王家を支え続けるだろう。
純血種であるノクトの寿命は三百年、彼はおそらくヨファンの次の王、ひょっとすると次の次の王の代も支えるかもしれない。その傍らには当然スノゥと子供達もいる。
そして、子供達の代も含めれば考えなくても三百年どころか、さらにその先の安定さえ望めるのだ。
スノゥは今さらに純血種の価値を知る。なぜ王侯貴族がそれを求めるのかも。
「それにしてもな、スノゥ。不思議なのはお前さんたち兎族の血の強さよ」
「“強さ”?」
賢者モースの言葉にスノゥはその長く白いまつげを二度三度としばたかせる。最弱の種族と言われる兎が“強い”なんてだ。まあ、最近は自分や子供達という“例外”はあるにせよ。
「兎族の特性としてどの種族とも交配でき、さらには“夫”側の種族が優先して生まれるというものがある。
しかし、これでは本来兎族は滅んでしまう。が、あらゆる種族と混じったがゆえに、ふいにその混ざった血が覚醒するように、兎達はうまれてくる。
最弱といわれながら、その数は少なくともけして消えぬ。これが兎族の不思議よの」
そういわれると、兎族の血は“強い”のかもしれない。すべての血に混じりながら消えることなく蘇る。けして途絶えることなく種族を残してきた。
「そしてな。純血種の兎は純血種を産むとわかったわけだ。だが、その純血種の兎が望めないとなれば、同じ兎族なら……と考える者がいてもおかしくあるまい?」
「まさか……」とスノゥが息を呑めば「そのまさかだ」と口を開いたのはノクトだ。
「我が国では兎達は保護されているが、それは子供までだ。娼館や歌劇団にいる成人した兎達はその保護下にはない。とはいえ、本人の意思に反しての拉致など犯罪だ」
「もういくつか取り締まっている」と続く言葉にスノゥは止めていた息を吐いた。
また、頭の痛い問題が一つ増えたようだ。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「ノクト……あんた、俺にこのこと黙っていただろう?」
大公邸。灯りを落とした夫婦の寝室。スノゥは寝酒の入ったグラスを傾ける。普段は呑まないが、今日は呑まずにはやってられない気分だ。
「……すまない」
「謝らなくていい。俺のことを考えてだろう?」
カルマンとジョーヌを産んで三か月だ。自分と子供達のことをなによりも大切にしてくれるこの夫が、産後の妻に同族の拉致誘拐が多発してるなど話せるわけがない。
「サンドリゥムでは人身売買はすでに禁止されている。娼館や歌劇団にいる兎達も“契約”によって働いている」
「それが“建前”だけどな」
多くは幼少時に親に売られたものだから、その“借金”を返すまでは自由の身とはなれない。
「すべての娼館と歌劇団には人員の名簿を差し出させ、月に一度は各地の役人によって人数の確認がされている。最近は十日に一度にした」
「さすがあんただな。それじゃ、娼館と歌劇団のほうも、勝手に〝商品〟を売り飛ばすわけにはいかないわけだ。誘拐なんかがありゃ、すぐに役所に届け出るしかないしな」
とはいえそれはサンドリゥム国内のみの話だ。
国外まではいくら勇者ノクトとはいえ、その手は伸ばせない。
「馬鹿な奴らだ。兎達をいくらさらったって、孕むことはないのにな」
兎族の妊娠率が低いことはよく知られている。オピウムの蜜という秘薬を使えば孕むなんていわれ
ているが、それは真っ赤な嘘だ。
兎族がその子を宿すのは愛し愛された時のみだ。それも己の意思で。いくら強要されようとも、そこに愛がなければ子供は産まれない。
そして、いつまでたっても子供が産まれない兎達の末路は……。
口にしている酒がひどく苦く感じて、スノゥはそれを一気にあおる。二杯目を……とボトルに手をかけたところで、その手を止められた。
「無理をしてまずい酒を呑むことはない」
大きな手が長い耳ごと頭を撫でてくれるのに、スノゥは反射的に石榴色の目を細める。こうされるとどんなささくれだった気分も、すうっと穏やかになるから不思議だ。
自分よりも十歳以上も年下の癖に、しっかり頼れる旦那になりやがってと、白シャツの寝間着の胸にぐりぐりとひたいを押し当ててやる。
「じゃあ、あんたが寝酒代わりになってくれよ」
「いつでもなるが」
「よく考えればほとんど毎日だもんなあ」
頼むまでもなかったか……という言葉は、相手の唇に吸い込まれた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「ん…ぁ……」
今夜は優しく抱くと決めたのか、本当に少しも激しいところがなく丁寧に、それがもどかしくて「もっと」とねだれば、しつこいぐらいに愛撫されて「早くいれろ」と音をあげた。
そしたら、腹の上にのせられて「お前の好きなように」ときたもんだ。ここまで焦らすのか? と潤んだ石榴の瞳でにらみつけて「ぷぅ」とやってやれば「手伝うから」と苦笑された。
実際、降ろす腰を両手で支えてくれて、いれるのも協力的だった。まあ、なかに入ってきたものは、いつも通りに大きくて、これも我慢していたんだな……と思う。
ゆらゆらと身体を揺らす、足りないと思ったところで、ゆるゆると突き上げる動きが加わった、ふぅ……と満足の吐息をこぼす。
「なんか…ゆりかごにゆられて…いる……みたい…だな……」
「毎晩でもなるが?」
「ん、いや……こんな邪な乗り物は…やっぱりゆりかごってより……暴れ馬…あ、うん…っ……はあっ!」
結局、最後には乗るより乗られていたスノゥだ。
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作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
次回作→『落ちこぼれが王子様の運命のガイドになりました~おとぎの国のセンチネルバース~』
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