ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
26 / 213
狼勇者とウサ耳剣士と可愛い子供達は最強家族!【ノクト×スノゥ+子供達編】

【10】思いもかけぬ知らせ

しおりを挟む
   



 カルマンとジョーヌが産まれて三か月後に、差出人不明の贈り物が大公邸に届いた。どこから贈られたのかは、丸分かりであるのだが。

 例のごとく、それは芸術品のような七宝と彫金の細工の卵型の宝石箱にいれられて贈られてきた。これは先のシルヴァとアーテルのときと同じ。
 シルヴァとアーテルのものは、銀色に雪の結晶の細工がほどこされたものと、漆黒に金色の星がちりばめられたもの。
 今回は燃えあがる炎のような赤い渦を巻く卵に、金色に花畑が描かれた卵だった。
 卵の中身は、星を抱いた大粒のルビーに、金色に見える色鮮やかなダイヤモンド。

 なぜ卵の宝石箱なのか、スノゥは今さらになって思い出した。
 卵型の宝石箱はルース国では、代々の王が“愛する妃や子供達”へと贈るものだ。
 スノゥの母の誕生日にもそれは届いていたが、母はいつも少し悲しそうだったのは、スノゥの誕生日には一度も、それが届いたことが無かったからだろう。

 ノクトに話せば彼は少し黙りこんだあと「不器用な方だな」とつぶやいた。
 スノゥもそう思った。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 さて、双子の誕生直後から、というか前回もそうだったのだが、王都ではちょっとした熱狂が沸き起こった。
 もとより王都の土産の主力は現カール王や勇者ノクトに四英傑のお高い物なら肖像画、少しお金が出せるならば絵皿、ちょっとした土産ならば小さな絵はがきなのだったのだが。
 双子の誕生とともにそれは、大公一家の肖像画にと変わった。

 王太子ヨファンも妃を迎え、すでに王子も生まれているのに、いつまでもそれはどうなんだ? とスノゥは思った。しかし王宮で挨拶した皇太子妃は、おっとりとした笑顔で、災厄を倒した勇者様と四英傑様、それにその可愛い御子がたが人気なのは当然のこと……と、イヤミでもなんでもなくいわれた。この控えめで賢い王太子妃をヨファンに勧めたのはカール王だというから、やはり王の人を見る目は確かだ。
 さらには抜け目のない菓子屋が、この大公一家の肖像画や双子の絵が版画された箱のチョコレートやクッキーを売り出したところ、これまたとんでもなく売れたという。それにならと菓子だけでなく、紅茶缶や石けんの箱にまで、大公家家族の肖像画が描かれて、それがまた売れたというから、話を聞いたときに何でもいいのか? とスノゥは思ったものだ。
 なにやら、それが王都土産だという価値があるのだという。

 しかし、そんな肖像画を安易に使わせていいのか? と思ったが、なんとカール王自らが許可したのだという。それが王都の商売が繁盛するならばと使用料は取らずにだ。貴族達が少しはとられれば国庫が潤うのでは? と意見したらしいが、カール王は「目先の欲に囚われた者達よのぉ」と人が悪い笑みをみせたらしい。

「使用料なんぞとれば、それを払えない小さな店が商売の機会を逃すじゃろうが。売上げがあがれば小さな店も大きくなり王都も発展する。
 国庫にもやがては税としてもどってくる。そういうこことがわからんか?」

 もちろん、無料とはいえ王族の肖像権は国の許可制でしっかり管理されており、酒やタバコやその他相応しくない物品に関しては許可されない。もっとも王家直営の鋳造所の新酒のワインには、しっかりラベルが貼られているのだが、これは王家のワインということで、まあ特例だ。

 王宮に二組の双子共々泊まった朝食の席で、カール王に「ほれ、このブラッドオレンジのマーマレードは美味いぞ」とすすめられた。瓶に、人型ではなく、獣そのままの黒い狼に白い兎、それに銀と赤の子狼に、黒と金の子兎が描かれたラベルが貼られていた。たしかにそのマーマレードは美味しく大きな双子達のお気に入りとなって、大公邸の食卓に出るようになった。
 そのラベルの白兎のお耳になぜかお花が飾られているのに、スノゥはちょっと複雑な気持ちになるのだったが。
 さて、そんな熱も三か月後には穏やかになった時に、届いた卵型の贈り物。

 しかし、その数日後に、さらに驚愕の知らせが大公邸に届いた。



 ルース国王リューリクが亡くなったというのだ。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 スノゥがその知らせをうけたのは、ノクトからだった。王宮から帰宅した彼が出迎えた大きな双子達の頭を撫でて、ゆりかごのなかの小さな双子達が眠っているを見る。毎日の習慣のあとで、スノゥに「話がある」と切り出したのだ。
 彼の書斎に通されて時点でそれが大切な話であるとわかった。子供達も父と母の書斎には無断で入らないように、厳しく躾けられている。

「それで、その顔だと善くない知らせか?」
「リューリク王が崩御された」

 返事をする前にスノゥは一呼吸おいた。

「それは確実なのか?」
「半分半分といいたいが、七割確実というところだろう。なにしろあの国は閉ざされている」

 ルース国は虎族以外の王族貴族は認めない純血主義国家で、諸外国との婚姻関係はもちろん交流もあまりない。なにしろサンドリゥムに災厄が降り注ぎ、勇者が討伐に成功したそのときも、知らぬ存ぜずを通した国柄だ。大陸の最北に位置し、冬は長く雪と氷に閉ざされるという自然環境もあるのかもしれないが。
 諸外国とのわずかに開かれた窓口といえば、鉱物や宝石の取引。それも王家に選ばれたいくつかの商会のみの独占だ。
 情報はその商会からもたらされたものゆえに、ノクトも“七割”といっているのだ。

「謀殺の可能性は?」
「それもわからん」

 スノゥの質問にノクトは即答した。
 リューリク王は白虎の純血種だ。平民の長く生きて八十年、貴族の百五十年に対して、純血種は三百年の寿命を誇る。彼が王となって、その治世は百年以上で二百歳は過ぎてはいるとはいえ、亡くなるのには早すぎる年齢だ。
 とはいえ、いきなり病を得て亡くなるということもなくはない。
 それに。

「あの卵の宝石箱が届いたときには、すでに……ということか」

 スノゥはつぶやきノクトに「俺は冷たいな」と苦笑した。

「縁は切ったとはいえ、実の父親が亡くなったのを悲しむではなく、それが嘘か本当か考えている」
「私は母を早くに亡くし、父上は政務にお忙しかったが、それでも私や兄となるべく食事を共にするようにしてくれた。遠方の視察なども、私達兄弟を伴われことも多かった」
「王様がよい父親だっていうのはわかる」

 ノクトがいいたいのは、親子というのは血のつながりだけでなく、そのような様々な関わりやふれあいがあってこそ……ということだろう。
 それから考えれば、父であるリューリクとスノゥがまともに話したのは、あの九年前ルース国の玉座の間での一度きりだ。

「お前が愛情深いことは私や子供達がよく知っている」
「ん……」

 ぎゅっと手を握られてうなずいた。

「明日は共に王宮に向かう。父上も話があるそうだ」
「わかった」



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 翌日の王宮。

 王の執務室にいたのはカール王に宰相である賢者モース。それに皇太子ヨファンだ。どっちつかずの殿下なのは相変わらずだが、彼が次の国王である以上、カール王は重大な局面には必ず彼を伴った。
 たとえ彼が最終的な決定を下さず、次の宰相となるノクトや他の大臣達が決めることにしても、そこにあることが王の役目であると伝えるように。
 そして、ヨファンもまた無言で父王の横に立つのだった。

「やっかいなのはリューリク王の崩御が“正式”に発表されていないことじゃ」

 カール王のため息はまったくややこしいことになったと物語っている。

「いくらルース国が排他的な秘密主義とはいえ、国王の崩御を内外に知らせんというのはありえん。これが単なる噂の誤報ならばよいが、本当ならば国王の死を隠しているということになる。その意味は……」
「リューリク王は王太子を定めないままに亡くなられた」

 ノクトの言葉にカールは「そうじゃ」とうなずく。

「次の王も定まらないまま、王の死だけを発表出来ず……というところじゃろう。今頃、誰が玉座に座るのか、あの北の王宮は揉めに揉めているじゃろうて」

 そしてカール王はスノゥに目をやる。

「そして、ここにリューリク王の“直系の男子”がいる」
「俺はあの国とはもう無関係ですよ」
「こちらはそうじゃが、あちらはそう考えておらんじゃろう。リューリク王が亡くなった今、お前さんの価値はあちらにとっては希少な宝石に等しい存在となったわけだ」
「大げさですね」
「ワシにとっても大げさではない。そなたは可愛い孫を四人も授けてくれたわけだからな」

 ふう……とカール王がさらにため息をつく。その表情は憂いに満ちていた。ノクトも同様であることにスノゥはなんだ? と首をかしげる。

「なんですか? また九年前のような誘拐騒ぎが起こると? 俺は二度とひっかかるつもりはありませんけどね」

 不意打ちでルース国に連れ去られたが、しかし、今の自分にそんな価値があるとはスノゥにはとうてい思えなかった。

「四人も子供を産んだコブ付きですよ?」

 「だからじゃよ」とカール王が続ける。「カルマンとジョーヌの誕生は喜ばしいことだ。まことにな」そういったきりに沈黙する。ノクトも同様のなんとも言えない表情だ。スノゥはさらに怪訝な顔となるが。

「一組目の双子の誕生は“偶然”といえるだろう。

 しかし、二組目も双子となればもう、これは“偶然”とはいえない」
 口を開いたのはモースだ。それがどうした? という顔のスノゥに賢者は告げた。

「その四人ともが“純血種”だった。つまりスノゥ、そなたのような純血種の兎から生まれる子は、かなりの確率で純血種となると、世に知られてしまったわけだ」





しおりを挟む
感想 1,097

あなたにおすすめの小説

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。