113 / 120
番外編
月光1
しおりを挟む「……一度、死にかけたことがある」
大公邸、主の寝室。天蓋付きのベッドにも、しっかり筋肉がついた胸板を枕にするのもコウジはすっかり馴染んだ。くせ毛だらけの後頭部を長い指で撫でられるのも。
一戦終えてのピロートークなんて、甘ったるいものとは思いたくないが、自分を片腕に抱く青年を恋人と認めた以上、そういう雰囲気なのだろう。
まあ、一戦どころか、二戦、三戦されて、こっちは半分まぶたが閉じていたのだが。
しかし、『死』という言葉にさすがに覚醒した。コウジは頭を動かして、男の顔を見上げる。
「一度、二度どころの話じゃないだろう?」
公式愛妾として権勢を振るった亡き母のせいで、ジークが政敵から命を狙われていたことは、話を聞いていた。
だが、同時に彼の魔法騎士としての強さもよく知っている。その彼をして『死にかけた』と言わしめた出来事とは?
「慢心していた……」
明かりを落とした寝室。彫りの深い横顔、形の良い唇が動くのをコウジは見つめる。
「三年目の三回目の選定で私はグラフマンデに選ばれた。私はそのとき十八でな。若かった」
「今でも十分若いだろうが」
今のジークは二十歳だ。その歳で二年前を振り返り若かったもない。
「ん? あ? お前が十八で、三回目?」
そこで話がおかしいことに気付く。災厄の脅威はジークが子供の頃からささやかれていたと聞いている。それで彼が聖剣を授けられたのが二年前とはずいぶん遅い。それに神聖なる選定が三年目で三回目という言い方もおかしい。
「一年目の一度目も、二年目の二度目も私が握りしめたとたんグラフマンデは輝き、かの剣に選ばれたことを示した。三年目も、第一王子が何度握りしめようと、グラフマンデに光が宿ることはなかった」
「ああ、そういうことか」
今は、その母である正妃ともに、罪人として名前も正史から抹消された第一王子。
しかし、当時は彼こそが正当なる第一王子として、聖剣に選ばれることを周りが期待していたのだろう。
逆にジークは世の恨みを買った愛妾の子として、聖剣には相応しくないと思われていたのは、確実だ。
だから、選定の儀は行われたが、その裁定を三度も延期した末に、それでも聖剣の輝きをごまかせないと、ジークをしぶしぶ選んだというところか。
グラムマンデには意思が宿っている。剣が相応しいと選んだ相手でなければ、その鞘からも抜くことは出来ないと言われている。
「……らしくもなく浮かれていたのだ。その慢心を突かれたと言えばそれまでだ。……ちょうど、今夜のように小雨が降っていた」
コウジの耳にも、さあ……っと細い雨の音が聞こえていた。
291
お気に入りに追加
1,067
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて、やさしくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。