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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【24】これからもずっと……※
しおりを挟む大礼服は白と決まっているという。
いつもは黒の軍服のジークだが、白も大変よく似合っていた。王子様なのだ。白が似合わないわけがない。あ、今日から王様か。
黒にも銀髪は映えるが、白にも良く似合う。いつものように後ろに流し、秀でた額に一筋かかる前髪が相変わらず色っぽい。ちょっと影のある雰囲気がまた、ご婦人受けがいいんだよな~と思う。
秀でた額に完璧な形の男らしい眉、剃刀色の切れ長の瞳。通った鼻筋、酷薄そうな薄い唇。これ以上ない完璧なラインの精悍な頬から顎にかけての輪郭。
そのパーフェクトな顔の下の首だって、男らしくがっちりとしつつすっと長く、肩幅も胸板もあるから白に金の飾りの大礼服が似合うったらありゃしない。長い手に、腰の位置が高く当然足も長い。歩みにつれてなびくマントが翻る角度さえ、計算されたように美しい。
ようするに今日も俺の王子様……いや、今日から王様はカッコいい。
なのに、その王様はこちらを見てかすかに口許をほころばせて言った。
「今日も美しいな。あなたは」
「いや、それお前のことだから」
おじさんの場合、馬子にも衣装というべきか。正直、この王様と同じまっ白の衣装で隣に並ぶのはどうか? と思う。
が、いつものごとく逃さないとばかりに、ジークの手ががっしりとコウジの腰の横をつかんでいた。これ今日一日終わったら、指の形ついてないか? いや、さすがに今さら逃げねぇって……。
結婚式は大神殿にて行われた。フィルナンドにロジェスティラ、コンラッドとシオン、ピートにマイア。他の王侯貴族が見守る中、アルタナ女神の名の下に大神官長の祝福を受けて、結婚を認められる。
「では、誓いの口づけを」
その大神官長の言葉に、それまで神妙にジークと並んで祭壇の前に立っていたコウジは、ピキンと固まった。
え? この世界でもそれあるの? つうかまっ白の衣装着たジークはともかくおじさんと誓いのキス? 皆さんの見てる前で?
しかし、コウジだって今さらに逃げる気はない。ないが……固まる彼をジークは当然のように抱きよせて、完璧な顔が間近に迫る。
目を閉じたのはもう反射的だ。見開いたままなら、もっとサマにならなかったから、まあ良かったんじゃないか?
固まっていたコウジも、えらくちゅーちゅー吸い付いているな~とは感じていた。さすがに舌はいれてこなかったが、ゴホンゴホンと大神官長の咳払いにコウジは我に返った。『おいおい、もう離れろ』とトントン、白い大礼服の胸を軽く叩いたらようやくジークが離れた。
王子様……もとい王様の結婚式での情熱的なキスは写し絵の魔道具で撮られて、その日の新聞の第一弾の号外にでかでかと載ることになる。
式の様子は王都の中央広場の映し鏡にて中継されて黒山の人だかりだったという。当然、この魔石の写しも、あの勇者ジークと魔王との決戦と同じく、各都市や街や村々にまで転送された。
おじさんの黒歴史がまた増えた。これから幾つ、増産されるやらと、王宮までのパレードの馬車の中、遠い目をして歓声をあげる国民の皆様に手を振った。
時々「御使い様!」という声や、黒い羽背負った黒い服着たへんな人形を振る子供達が見えたが、あれは幻覚だ。幻覚。近頃、王都で流行のお守り人形らしい。ふぅん、へえ。
戴冠式は、王宮中央の最も高い尖塔の上にある、聖王の間にて。フィルナンドが玉座から立ち上がり、ひざまずくジークの頭に冠を被せるはず……だったが……。
フィルナンドは王配として、間近に立っていたコウジに王冠を手渡したのだ。宝石の固まりみたいなそれを落っことす訳にもいかず、とっさに受け取ってしまったコウジに、王はささやいた。
「御使い殿、見せ場であるぞ」
「…………」
彼の予定外の行動に、聖王の間はすこしざわついている。大切な儀式。ここで揉めている場合ではないし、なにより愛しい王子様もとい今日から王様だったか……の晴れ舞台だ。
目の前で鮮やかな笑みを浮かべるフィルナンドを、よくも予想外にお茶目なことをしてくれたな! と一瞬ギロリとにらみつけて、コウジは片膝をついたまま、自分を見上げるジークへと歩み寄った。
同時に、その背にある普段は見えない翼を、ばさりと広げた。この翼、触れば実体はあるのに着ている服は関係ないのだ。いちいち着ている服を脱いだり穴を開けなくいいから助かる……とは思っちゃいないぞ! こんなもの背中につけた神様よ!
いや、それ君が自分で進化したんだからね……とあの軽い神の声が聞こえたような気がしたが、代わりに聖王の間に「おお……!」というどよめきが起こる。「あれが御使いの……」「漆黒に金色の輝き、なんと美しい……」なんて声が聞こえるが無視だ。無視。
今は目の前の形の良い頭に王冠を載っける作業に集中しなければ。
冠がジークの頭に載ったとたんに、歓声と祝福の声があがる。立ち上がったジークはこのあと玉座に腰掛けるはずなのだが、なぜか、そのままぐいっとコウジの腰を抱き寄せて、片手をあげてみんなに挨拶した。「あなたも皆に応えて」とささやかれて、仕方なく手をあげたら「御使い様、万歳!」の声が響き渡って、コウジの作り笑いがさらに引きつった。
当然これも、第二弾の号外となって王都にまかれた。もちろん、戴冠式の様子は広場の映し鏡にも流された。
さらにいうなら、英雄王とのちに呼ばれることになるジーク・ロゥ王に、冠を授ける黒い翼の御使いの絵は、当代の巨匠の筆にて描かれた。
おじさんの黒歴史は永遠に残ることになった。
ちなみにぜってー俺の目のつくところに飾るんじゃねぇ! という王配のワガママを王は聞き入れて、この絵は人が往来することがない宝物庫へと向かう回廊に飾られることになった。
ときおり、王がそこに行ってしみじみ、ご自分の戴冠式の絵を……というより、翼を広げた御使い姿の王配殿を眺めている所が見られたとか。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「初夜ってことになるのか?」
戴冠式に続く、晩餐会からの夜会が終わり、ようやく窮屈な大礼服を脱ぐことが出来たコウジは、寝台にたどり着いて呆然とつぶやいた。
寝台の天蓋のカーテンはまっ白なレースに縁取られ、寝具もまた純白レース。さらには赤い薔薇の花びらまで散らしてあった。
「いや、初夜はねえよなあ。俺達散々ヤッてるし」
「しかし、今夜が結婚して初めて迎える夜だ」
生真面目に答えるジークにコウジはクスリと笑い、そして、彼の腕を引いて自分もベッドにたおれこんだ。
ぶわりと赤い花びらが舞い上がる。ジークは絵になるけど、純白の寝台におじさんってどうなんだ? とおかしくクスクス笑い続けて、コウジはジークの頭をその胸に抱きしめる。
「ま、ベッドでヤルことは変わんねぇな。ふつつか者ですが、これからもよろしくな、相棒」
くしゃりと銀の髪をかきまぜて、前髪を下ろしてやれば年相応の青年の顔となる。その高くて形の良い鼻先に、ちょんと口づけてやる。
「あなたはふつつかだと思わないが?」
「ま、俺の世界の結婚するときの伝統的な挨拶だよ」
「私も言ったほうがいいのか?」という生真面目な言葉にコウジはまた笑って「いい、いい、それより仲良くしようぜ」と自分のガウンの合わせを開いて誘った。
「初めてのときのように丁寧に」なんてジークは言った。初めての時って、そんな丁寧だったか? なんか混乱のうちに合体してなかったか? なんて考えていられたのは初めのうちだった。
いつかの時のようにしつこく舐めまくられて、いい加減焦れて「早くツッコメよ!」と誘って、それからはまあ、いつものとおり何回ヤッたやら、王子様じゃねぇ、今日から王様は元気だった。
朝、その腕のなかで目が覚めて、おはようと言い合って「これからもよろしくな」とコウジは笑った。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「……あれから、二十年たったんだよな」
王の執務室。その机の片端に腰掛けるなんて傍若無人なことを出来るのは、御使いで王配殿と呼ばれるコウジの特権だ。
開いた窓の向こう、王宮の緑の芝生の庭に面した。そこから姿は見えないが子供達の元気な声が聞こえる。シオンとマイアの王子に王女達だ。
あれから、まったく何事もなかったとは言えないが、英雄王の治世はおおむね安定している。内政のコンラッドと外交、諜報のピートと、彼らが両輪となってジーク・ロゥ王を支える。
「あなたは変わらないな?」
「そりゃ、これは神様の設定だからな」
机に座るコウジを、ジークが見上げる。出会ったときに二十歳だった若者は、年相応の年輪を刻みつけた顔となった。歳よりも若々しいが、それでも青年とはもう言われない。それだけの重みがある風格がついた。
「でも、これからはお前に合わせて歳を食っていくんだろうな」
おじさんとしてこの世界にやってきたコウジだが、その魂は二十二歳のしがないコンビニの店員の若造だった。神様サービス? とやらで肉体の年齢は、ジークに合わせて止まったまま。
ジークが追いついたら二人とも一緒に歳をとっていくと。
「でも、俺の王様は相変わらずカッコいいぜ」
「私のあなたも愛らしい」
「そりゃ、お前の目がどう考えても節穴……」
言いかけた唇は、端正な唇に塞がれた。
END
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